第6話 探索
レベル10である。
なるほど。初心者ツアーをまとめて倒したからどかっと上がったんだろう。
けど、レベル10とか言ってた奴らを二十人以上倒したはずなのに、こんなもんなんだろうか?
うーん、基準がわからん。もっと上がっていいような気もするんだけど、こんなもんだと言われたらこんなもんな気もするし。
最初に盗賊が仲間を殺した時には、私のレベルは上がってなかったんだけど、あれは私が倒してないからってことなんだろうか。
そのあたりも、スラタロー先輩に聞いておけばよかったかと思ったけど、すぐに戻るのもなんなのでそれはまた後でいいだろう。
「んー、ちょっと気になるのは、いてててて、ぐらいですむもんなのかってことなんだけど」
天井を見上げてみる。やはりヒビが入っていた。
でだ、天井は石材で、こっちは木製なのだ。天井にヒビが入る勢いでぶつかって、ちょっと痛いですむってどういうことなのか。
やっぱり防御力が上がってて、ものすごく頑丈になってる?
「じゃ、実験してみるかな」
どかん!
軽く、跳び上がる。今度は覚悟を決めて。するとたいして痛くはなかったのだ。
段々勢いを強めていって、フルパワーで激突しても、それほどでもない。
ということで、今度は水平方向への移動練習。なーに、壊れることは気にしなくていいんだから、ガンガンぶつかってしまえばいい。
ガン! ガン! ガン!
最初のうちは身体が浮き上がっていたけど、なれてくるとそこそこの速度で走ることができるようになった。
前傾姿勢で、重心を下にもってくるのがコツみたい。
それに毎回全力を出す必要なんてないのだ。そこそこに、いい感じの速度で動けばいい。
状況に応じてゆっくりになったり、そこそこになったり、全力なったりすればいい。そう、緩急だよ。緩急が大事なんだよ!
と、まあ、なんとなくコツをつかんだところで、地下一階の探索を再開だ。
ダッシュ状態だと、周りがよく見えないし疲れるので、まずはてくてくと歩く。
てくてく。てくてく。
ダンジョンってのが全部同じなのかはわかんないけど、ここはけっこうきっちりと規格が決められているみたいだ。
私が最初にいた玄室の大きさが5メートル四方ぐらいで、それが最小サイズのブロックってことらしい。
通路もブロックごとに微妙にラインが入っているので、それとわかる。
距離とか場所はこの単位で把握できそうなので便利だ。
「つか、ブロックごとになんかあるね」
床をよく見てみれば、ブロックごとに小さな金属製のプレートが埋め込まれていた。
E9N12といった文字が彫り込まれている。一つブロックを移動すると、E9N13だ。
なるほど。座標らしい。素直に考えれば、北に一ブロック移動したってことなんだろう。
「ということは、基準点はE0N0かな? とりあえずそっち行ってみるかー」
てくてく。てくてく。
そう複雑な構造でもないので、プレートを見ながら南のほうへと移動すれば、E0N0のあたりまで辿りつくのは簡単だった。
近づくにつれて、がやがやとしたざわめきっていうか、騒音っていうかが大きくなっていく。
なんか、やばい気がしてきたので、角からそっと向こうを覗き見た。
こんな場合に視点位置の変更は便利なのだ。身体から三十センチ程度が限界だけど、視点は好きな場所に設定できるので、身体を晒さずに覗き見ができる。
うじゃうじゃぞろぞろ。
そこは4×4ブロックの広場で、冒険者が山のようにいた。
上に向かう階段が見えるので、そこがダンジョンの出入り口なんだろう。
ここでいろいろと準備してから、ダンジョンに挑むって感じなんだろうか。
つーか、屋台みたいなのまであって、お祭りみたいになってんだけど。
「んー、けど地下一階にはそんなに冒険者はいなかったような」
こんなにぞろぞろいるなら地下一階は大渋滞になりそうなもんだけど、スラタロー先輩の部屋を出てから、ここまでは冒険者に出くわしていないのだ。
どうやら、ほとんどのみなさんは、東方面に向かっているようだった。そちらに行って、そちらから帰ってくる冒険者がほとんどなのだ。あ、今私は北側の通路から覗いてるんだけど。
なんとなくだけど、そちらに行く人たちは、装備とか豪華っぽいし上級者って感じがする。なので、そっちは上級者コースということかもしれない。
「うーん。解析だっけ? それが使えたら、私も弱そうな奴を見極められるんだけどなぁ」
まあ、モンスターはダンジョンの外に出たら死ぬとか言ってたし、私がそっちに行く必要はないかな。
なので、私はこっそりと道を引き返した。
とりあえず南西方面には近づかないってことで、反対側に行ってみよう。まずは北へ行けるだけ行ってみようか。それで、このダンジョンの規模がわかるかもしれないし。
てくてく。
と、何度か角を曲がると、突然目の前に黒いもやがあらわれた。
「なんだこれ?」
おそるおそる手を伸ばす。特になんの感触もないし、手が汚れるなんてこともない。
うーん、これはこのまま進むべきだろうか。道は続いてると思うんだよね。
ま、ものは試しってことで踏み込んでみる。
うわ、まっくらだ。前後左右全てが闇。なんにも見えない。
ちょっとびびって引き返す。また見えるようになった。
よし、とりあえず前に進もう。
もう一度闇に突っ込む。まっくらの中をそのまま進むと、すぐに明るくなった。
今のは1ブロックぶんだと思うので、このくらやみゾーンもブロック単位で存在するらしい。
そして、1ブロック先にはまたくらやみゾーンが広がっていた。
まあ、こんな場所もあるってことで、ずんずんと突き進む。
明るい。暗い。明るい。暗い。
交互にあらわれる。なんだこれ、と思っていたら急に誰かがあらわれた。
「ぶひーっ!」
「ぎゃぁあああ!」
思わず叫んじゃったけど、よく見たらどこかで見た顔だ。
武装した豚人間っていうのかな。ピンク色の丸々とした感じでオークっていうんだよ。たしか説明会にいたと思う。それが五匹。
オークさんたちも、闇の中から私が出てくるとは思ってなかったみたいで無茶苦茶驚いている。 けど、すぐにモンスターだと気付いたようだ。
「こんにちは」
「ぶひぶひぶひ!」
うん、話通じねー。
これ、どうにかならんのだろうか。このダンジョンには仲間がいっぱいいるというのに、これはちょっと寂しい。
「ま、まあ、そっちもがんばってください!」
「ぶひ!」
手を上げてみる。向こうも同じように手を上げたので、激励の意図は伝わった気がする。うん。
あー、けど、くらやみゾーンの出入りは気を付けないとね。いきなり冒険者と鉢合わせってパターンもあるだろ、これ。
豚さんの横を通り過ぎてさらに北へ。
「ぷぎゃー!」
少し進んだところで、豚さんの叫び声が聞こえてきて、何事かと振り向いた。
冒険者がいた。
前衛に戦士が三人。後衛に盗賊、僧侶、魔法使いという構成のパーティ。
戦士三人の一斉攻撃で、豚さんは一気に三人倒されていた。
「ま、レベル5のオークなら楽勝だよな」
「気を抜くなよ。俺たちはまだまだ初心者ということを忘れるな」
「先制攻撃で、三匹倒してんだぜ、残り二匹、いや、三匹?」
あ、私も数に入ってるっぽい。
そして、豚さん残り二匹もさっくりとやられてしまった。
スラタロー先輩の言うとおりらしい。地下一階に配置されたモンスターでは、冒険者たちにはとてもかなわないのだ。
「で、あれなんだ? ミミック? ま、レベル10が一匹なら余裕だろ」
冒険者たちが一斉に私を見る。またもや解析されてしまったようだけど、さらっと解析するのが冒険者の常識なのかな。
さて。
逃げるのは簡単だ。
けど、さっきちょっとすれ違っただけの豚さんだけど、激励しあった仲なのだ。殺されたとあっては仇を討たねばなるまい!
と、いうのはいいかっこしすぎかな。要はちょっとばかり実験につきあえよ、おら! ってことだった。
戦士たちが盾を構えながら歩いてくる。
一匹相手に三人がかりとは慎重なことだ。
さて実験その1。
「うりゃあああ!」
全力で床を蹴る。
一瞬で天井にぶつかるけどこれは覚悟ずみ。
そして、天井を蹴って、戦士目がけて、急落下!
ぐちゃり!
まずは一人目を叩きつぶした。
ははは! 宝箱の角にぶつかって死ね!
そうだね、この技は、ミミックメテオとでも名付けようか。
「な!」
冒険者たちが目を見張っている。私は、ゆらりと立ち上がって、近くにいる戦士に近づいていった。
「この!」
戦士が剣を振り下ろす。
ガキン!
実験その2。
ちょっと危ないけど、どの程度攻撃に耐えられるのかを試したかったのだ。
そして、この初心者戦士程度の攻撃なら、まったく効かないことが判明した。
そらそうだよね。人間を叩きつぶしても傷一つ付かない宝箱なんだから。
「なんなんだよ、こいつ!」
おーおー、慌ててる、慌ててる。
そりゃ、ミミックごときと舐めまくってて、攻撃がまったく通用しなかったら焦るよね。
次に実験3。
爆裂脚を使いたいんだけど、ちょっと考えてることがあるので、前衛と後衛の間に割って入る。
そして軽く体当たり。盾を構えていようとかまわない。一人ばかり、他の奴らから引き離したいだけなのだ。
戦士の一人を突き放して、距離をとって、そして。
「爆裂脚!」
蹴りを食らわせた。
さて。前回と同じなら……。
どかん!
戦士が爆裂した。
爆裂までは五秒ぐらいってところかな。
なんとなくだけど、蹴ったところを中心に爆発してる気はする。まあ、ほとんど木っ端微塵なので、そのあたりはよくわかんないんだけど。
「う、うわああああああ!」
残り四人が逃げ出した。やってきたほう、くらやみゾーンへと駆け込んでいく。
まあ、そらね。仲間がいきなり爆発したら、なりふりかまわず逃げるよね。
ばひゅん!
私は、ダッシュでくらやみゾーンをいっきに駆け抜ける。
「な! なんで!」
冒険者が私を見て、驚愕に固まっていた。
逃げられたと思ったのに、くらやみゾーンを抜けた先に私がいたからだ。
そう。先回りしたのだ!
「はははははっ! 知らなかったの? ミミックからは、逃げられない!」
と、まあ。お遊びはこれぐらいにしておいて。
「爆裂脚!」
先頭にいた戦士に近づいて蹴る。
そして離れる。
で、五秒。
どかん!
戦士が爆発した。
近くにいた盗賊も、爆発した戦士の破片で大ダメージ。
そしてさらに五秒。
どかどかん!
残りの盗賊、僧侶、魔法使いも一気に爆裂した。
うん。爆裂は連鎖するっぽい。離れてる奴は一人で爆裂したから、連鎖が有効な距離があるのかな。
玄室を出てからずっとなんか変なテンションになってたけど、冷静になってみるとあれだ。
私、むちゃくちゃ強いんじゃない?
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