第30話 エピローグ

 戦いは終わった。まだ厄介な人が一人残ってはいたが。

 そいつは京をつけ狙っていた。すぐに害を為そうとする態度では無かったので、あたしも態度を決めかねていたのだが。


「京様! 余をまた椅子にしてくれ! 強く罵って足蹴にしてくださいいい!」

「いやあ! 綾辻さん、助けて!」

「もう魔王は元の世界に帰ってよ」


 京を背後に庇い、あたしが聖剣でぐりぐりしてやっても魔王は下がってくれない。

 魔物の世界では強い者に従うのがステータスなのかもしれないが、京にはもうドラゴンの力は無い。魔王なのに気づいていないのだろうか。

 ラキュアが心配そうに自分の仕える主君を見ている。


「彩夏さん、魔王様はいったいどうされてしまったのでしょうか」

「ドラゴンの力に当てられて混乱しているだけだと思う。すぐ治ると思うから城に戻って養生してやって」

「はい、そうしますわ。ほら、魔王様。帰りますわよ」

「京様。余は必ずまた来るからな~!」

「もう来るな!」


 京の代わりにあたしが答えておく。厄介な人がいなくなってやっと学校に元の静けさが戻ってきた。

 あたし達は微笑み合う。


「ありがとう、庇ってくれて」

「友達だもん。当然よ」


 そこには小学校以来に再会した友達同士の姿があった。




 天馬が陰陽師の組合に顔を出してドラゴンの事を報告し、美月は事後処理に追われる理事長についていた。

 あたしは神様に感謝されて、父と母に褒められた。

 魔物を呼んでいたドラゴンがいなくなって、緩くなっていた神様の作ったゲートも安定し、しばらくは町に魔物は現れないだろうとの事だった。

 でも、あたしはまだ聖剣を持っていた。妖はまたいつ町に現れるか分からないからね。陰陽師になるつもりは無いけど。

 たまにセラを呼び出して一緒に遊んでやった。




 平穏な日々が続き、今日は中学校で初めてのテストの結果が帰ってくる日だ。

 あたしは緊張する。

 ここのテストは結構難しかったけど、80……いや、90点はきっと取れてるはずだ。

 いつも満点だったあたしにしては消極的だが期待する。


「一番、綾辻~」

「はい」


 出席番号一番のあたしは一番に呼ばれ、一番にテストを受け取った。点数を見てあたしは死にたくなった。

 何この点数、見た事ないよ。小学校ではずっと100点だったのに。


「二番、和泉~」

「はい。綾辻さん、後で見せあいっこしようね」


 京が笑顔で無情な事を告げてテストを受け取ってきた。自分の席で開いて彼女は血反吐を吐いた。


「ぐはっ!」

「京ちゃーーーん!」


 こっそり覗き見た彼女の点数はあたしよりは下だった。あたしはかろうじて自分の尊厳だけは守れたのだ。

 みんなにテストを返し終えて、先生は最後に伝えた。


「今回のテストの最高得点は90点だったぞ。次は満点を取れるようにみんな頑張るんだぞー」


 びっくりするあたし。隣の美月を見るが可愛く首を横に振られた。離れた天馬を見るが仏頂面のポーカーフェイスを決められて考えが読めなかった。

 いったい誰が……犯人はすぐに自分から名乗りを上げた。


「みんな三次元に現を抜かしてるから僕のように良い点数が取れないんだブヒー。リア充は爆発しろ」

「お前かーーー!」


 やれやれ、この学校にはまだまだ知らない事が多いものだ。

 あたしはまだまだここでの生活を楽しめそうだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

聖剣の勇者譚 AYATHUJI SAGA けろよん @keroyon

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

同じコレクションの次の小説