第12話 美月の追及
授業を終えたあたしは昇降口の下駄箱で靴に履き替えて外に出る。
放課後の校舎の外はすっかり穏やかな日常の風景が広がっていて、朝ここにゴブリンが現れてみんなが騒いでいたのが夢のように思えた。
「夢じゃないよね。聖剣はここにあるんだし」
この剣を使ってゴブリンと戦った。それは確かな事である。またあのようなモンスターが現れるのだろうか。その時はまた戦うだけだ。
一番に選ばれた者として。
「あたしが任されたんだしね」
天馬でも美月でもなく自分が選ばれた。その事は誇っていいことだと思う。あたしは自分が選ばれた仕事を他人に譲るつもりはなかった。
神様と両親も期待してくれている。期待に応えるのが王者というものだ。
あたしはやる気を出して校門を目指して歩こうとする。すると、
「お姉ちゃーーーん」
いきなり背後から美月が飛びついてきた。あたしはもう倒されたりしない。威力も前ほどでは無かった。
「はいはい、お姉ちゃんですよ。あたしに何か用?」
あたしが気楽に応じると、背中に取りついた美月が肩越しに顔を出して話してきた。
「ここで立ち止まって何してたの?」
「ゴブリンの事を思い出してたのよ」
「朝に現れたあれ?」
「うん、そのゴブリンを……」
あたしは考えて、思いついた事を訊ねることにした。
「倒して良かったのかなって。あんたが探偵を目指してるなら犯人を捕まえたかったんじゃないの?」
「それは別にいいの」
「いいの?」
あたしが不思議そうに訊ねると、美月は背中から離れて前に回り込んで人懐っこく微笑んだ。
「だって原因のダンジョンは崩壊して学校の平和は戻ったんでしょ? だったら事件は解決よ」
「解決か」
「謎は解決するまでがミステリーだからね。後は探偵じゃなくて警察の仕事だよ」
どうやら美月は謎解き自体に興味はあっても解いた後の事までは関心が無いようだった。探偵は後の事を警察に任せて次の事件に向かうのだろう。
今回の事件では警察までは来なかったけど。
物思いにふけっていると、美月の目がふと鋭くなった。
「もしかしてお姉ちゃん、何か隠してる? この事件はまだ解決していないと言いたげだね」
「ううん、隠してないよ。ダンジョンは滅んで学校はもう大丈夫。これ以上の事は起きないわ。じゃあね」
あたしは神様からこの事件の原因を聞かされている。だが、話すとこの妹分にうるさく付きまとわれることになりそうなので言う気になれなかった。
あたしの任された仕事だ。余計な邪魔や横槍は遠慮したい。
なので、あたしは自白させられないうちに素早く美月と別れて学校を後にする事にしたのだった。
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