第13話 帰る人達
「ただいまー」
「お帰りなさいませ」
あたしが家に帰ると執事がいるだけで両親と神様とメイドさんがいなかった。家に人が少ないと部屋が広く感じるね。
別に気にする事では無かったかもしれないが気になったので、鞄を置いてから執事に訊ねた。
「パパとママと神様とメイドさんは?」
「観光に行かれました」
「観光?」
今日は平日ですよ。あたしが驚いた顔をすると、執事は礼儀正しく顔色を変えずに答えた。彼は大人で冷静だ。
「はい、神様に東京を案内すると言われまして」
「いいなあ、あたしも行きたかった」
その思いは執事も同じようだった。彼は顔色を変えて言った。大人でもやりたい事はある。彼も人の子だった。
「私も行きたかったのですが、留守を頼むと任されてしまったのです。およよ」
「それは残念だったね。あはは……」
「こうなったらせめてお嬢様と一緒に旅番組を鑑賞いたしたい! ともに旅の気分に浸りましょうぞ!」
「いいねえ、見る見る」
あたしも旅をしたい気分になっていたので、執事の誘いに乗って一緒に屋敷の一番でかいテレビを使って旅番組を鑑賞することにしたのだった。
見ているとおいしい物を食べて温泉に入りたい気分になってきた。
いくら我が家がお金持ちでも自宅に温泉までは無いのは残念なところだった。
一時間ほど経ってから出かけていた人達が帰ってきた。あたしは執事と一緒に玄関に向かった。
出かけていた人達はすっかり観光帰りといった感じで、荷物を持って少し日焼けしてニコニコしていた。
「帰ったぞ、彩夏」
「あなたの方が早かったのね」
「学校が終わってすぐ帰ってきたからね」
「この国は良い所だな。楽しませてもらったぞ」
神様の機嫌が良さそうで両親の接待は上手くいっているようだった。
これはただの旅行ではないな。仕事の付き合いという奴だ。
あたしは両親の事はそれなりに見てきているので、そういう事は分かる子供だった。
改めてみんなでリビングのテーブルの席についてから。神様があたしに話しかけてきた。
「セラから連絡を受けたぞ。学校に現れたゴブリンを倒してダンジョンを消滅させたとな。よくやってくれた」
「はい、聖剣とみんなのおかげです」
「役に立てて父さんも鼻が高いぞ」
「やるわね、彩夏」
「えへへ」
父と母に褒められてあたしも嬉しい。セラは無言でお土産のジュースをストローでチューチュー吸っていた。
神様が精悍な顔に優しい笑みを浮かべて言ってくる。
「これからもお前に任せておいて大丈夫そうじゃな」
「はい、一番のあたしにどんと任せておいてください」
頼られるのは嬉しいものだ。あたしは出来れば有能な自分が全部片付けたいと願っていた。だが、気になる事は訊ねておいた。
あたしは分からない事は先送りにしない主義だ。小学校でも先生に質問していた。一番を取る為には必要な事だった。
「でも、あたしの手の届かないところや学校の授業の時間にモンスターが現れたらどうしましょう。あたしにも出来ない事はあるんです」
あたしには学生として、またナンバー1を目指す者としてやる事がある。行動範囲も子供並しか無い。出来ない事まではやれないのだが。
パパやママはヘリでも車でも船でも出すと言っているが、神様はそれには及ばんから大丈夫だと請け負った。
「聖剣がお前を選んだという事は、モンスターを倒すのにお前が最も適していると判断されたということじゃ。おそらくそう遠出をすることにはならないじゃろう」
「そうなんですか」
「聖剣はこれからの事象も察知してお前を選んでいる。そうじゃろう、セラ」
「はい、聖剣がこの地に現れたという事は、この地にモンスターが現れる予兆を感じたということでもあります。事実彩夏様はこの短期間でスライムとゴブリンの二種の魔物を退治しています。おそらく異世界の門の開きやすい場所がこの地なのでしょう」
セラは自分の訊かれた事を答えるとまたジュースを飲む体勢に戻った。
「ここにモンスターが現れやすいんですね」
「そういうことじゃな」
神様が改めて真剣な目をして話しかけてくる。
「お前に任せて済まないと思っている。だが、お前になら任せられる。これからもやってくれるだろうか」
「もちろんです。任せておいてください」
「うむ、良き返事じゃ。良い目をしている。わしはそろそろ自分の世界に帰らねばならぬ。向こうの世界でもやる事があるからの。後の分からない事はセラに訊くといい」
「はい。よろしくね、セラちゃん」
あたしが軽く背中を叩いてやると、セラは飲んでいたジュースでごほごごと咽た。
「酷いです、彩夏様」
「ごめんごめん」
神様は微笑んで見ると、席を立ち、両親に礼を述べた。
「世話になった。わしはそろそろ帰ることにするよ」
「いえいえ、たいしたお構いも出来ませんで」
「道中の無事をお祈りしております」
そして、神様は帰っていった。セラと聖剣をこの世界に残して。
あたしはいよいよ使命が本格化するのを予感しながら、
「それじゃあ、セラちゃん。あたしの勉強に付き合ってくれる?」
「はいはい、何でもお手伝いしますよー」
今日の宿題をする事にしたのだった。
あたしの部屋に移動して宿題を始めることにする。
誰かと一緒に自分の部屋で勉強するなんて初めてだなと思いながら本や筆記用具を広げた。
「何ですか、この文字列は」
教科書を見るなりセラの目が点になっていた。
中学校の問題はセラには難しいようだった。
小学校でずっと一番だったあたしでも難しいと思うんだもの。無理も無かった。
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