腕のない男
嫌だなぁ、嫌だなぁ。寒気がする。絶対何かいる。何か出る。だってここ踏切だもん。
事故ならともかく飛び込みとかはやめてほしい。ううん、踏切だけじゃない。人間ってどこでも死ねるから嫌になる。
女子高生はずっと俯いていた。彼女の能力が霊感だというのなら、彼女はすごい能力の持ち主だ。どこでもすぐに死人と会う。だが、いつも死人と生きてる人間の区別がつかないのが、難点だった。
河川近くの踏切で男がふらふら歩いている。探し物だろうか。しきりに首を左右にふって、何か叫んでいる。
女子高生は、不審に思いつつも男が子供の名前を呼んでいるようなので慌てて男に近づいた。
「どうされましたか?」
男は目も合わせず振り返り、「子供がいないんです。子供が…手を繋いでいたのにいないんです」
男は早口に呟くとまた、探し始めた。二人は線路に立っていた。女子高生は次の電車がいつかと、気が気じゃなく慌てて男に告げた。
「ここは、線路ですよ。おじさん、危ないので警察に…」
女子高生が呟くと、それを無視して男が向きをかえる。夕日が逆光となり、女子高生は目を細めた。細める一瞬、異様な姿に気が付いた。男の首の近くの右肩から何もなかった。
絶叫。
娘は倒れたが運良く、線路から落ちてすぐそばの草の斜面を下の歩道まで転がり落ちた。
「貧血でも起こしたの?」
目がさめると、そこは病院だった。母親の不安げな視線とぶつかる。
「あなた、救急車で運ばれたのよ!犬の散歩をしていた人があなたを見つけたのよ!何で線路になんか…」
女子高生は医者や母親からいろいろ質問を受けたが、問題なしと言われて帰宅した。
娘は、母親に聞いた。あの線路で子供が亡くなったのか?父親と一緒に事故にでもあったのか?と聞いた。夕暮れの中、子供を探していた中年男性のことは言わずに訊ねた。あの男の腕は、きっと電車で弾かれたものだ。だって、あのとき、出血までしていた。あの出血量で歩けるわけがない。
「変なこと聞くのね」
母親はびっくりした。
「踏切事故は多いから、わからないわ。そういう人もいたかもしれないわね」
女子高生はまた日常に戻った。踏切を通らずに学校に通うのが難しく、友人を誘うことにした。すると、久しぶりにあった友人が言った。
「近所のおじさんがここで死んだのよね。電車で跳ねられて。お子さんは無事だったけど」
「なにそれ、詳しく教えて」
親子は手を繋いで歩いていた。男は子供と線路に入っていたのか、理由はをわからないが電車にひかれた。
子供は父親が思い切りひっぱり、身を交わしたので父親だけが電車にぶつかり、子供は生きていた。息子の方は、父親の体が吹っ飛ばされたので遺体を見ずに済んだ。泣いてるところをすぐ保護された。
女子高生はその話を聞いて、また夕暮れの中、ひとり踏切へ戻った。
男が子供を探している。
「おじさん、お子さん無事だよ!」
女子高生が声をかける。すると、探し続けていた男が女子高生をふりかえる。青白い顔に、変な話だが生気が戻った。
「やっぱり、俺は繋いだ手をもちかえて、あいつを横にひっぱったんだ!ひっぱったんだ!ああ、神様」
そう言った途端、男は消えた。安心したのだろうか。もう、それは問えない。
親は死んでも子供のことが心配なのね。女子高生は少しだけ足取りも軽く帰った。
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