ニュートンとリンゴ

「ハァ・・・。こんなことならリンゴなんて見てなければよかった」


リンゴ農園を一望できる丘で体育座りをしたニュートンがため息を吐いていた。

そこへ村人がニコニコしながらやってきた。


「お~いニューロン。やっぱりここにいたか」


「ニュートンね。俺は神経細胞じゃないから」


「悪い言い間違えた。それよりもニュートン。発見、したんだってな。ほれ。リンゴだ。これ見て発見したんだろ? お祝いだ。やるよ」


「またリンゴっ!」


「ど、どうした? 親の仇みたいにリンゴを睨みつけて」


「もうリンゴは見たくもない!」


「な、なに言ってんだよニュートン。このリンゴのおかげで発見したんだろ? え~っと、なんだっけ? あの・・・『万有リンゴの法則』だっけ?」


「『万有引力の法則』!」


「そうそれそれ。発見したんだろ? リンゴのおかげでさあ。さっすが『知恵の実』って言われるだけあるよな~」


村人は感心していたがニュートンは嫌な顔を浮かべていた。


「ハア・・・。みんなそうやってリンゴのおかげ、リンゴのおかげって言うけどさ。俺が生まれる前からリンゴはあるよ。だけどまだ万有引力の法則はなかった。でも今はある。誰のおかげ? 俺。俺のおかげなんだよ。リンゴはあくまでキッカケ。リンゴのおかげになったら、リンゴ農家は全員とんでもない学者になっちゃうぞ」


「なんだよ。いやにリンゴを嫌がってるみたいだな」


「そらそうもなるよ。俺がリンゴでスゴイの発見したって噂を聞いた人たちから山のようにリンゴが贈られてきてさ、腐らすのももったいないからって頑張って食べてんだけど中々減らないんだよ。近所におすそ分けしようとしたら『せっかくのリンゴ。発見の邪魔になる』って受け取ってくんないし。挙句には近所のおばちゃんがアップルパイ焼いてきて『これ食べながらなにか発見してくれや』って。もうここずっとリンゴしか食べてない・・・1日3食全部リンゴだけ。おやつもリンゴだけ。俺の体の中もうリンゴでアップアップルだよ・・・ リンゴは医者を遠ざけるって言うけど今の俺なら医者にとって近寄りがたい存在だろうよ。こちとらリンゴの食べすぎでリンゴ病になりそうだっていうのに・・・。この前なんか坂道でリンゴを落とした人がいて 『ああっ! そこのニュートンの方~! リンゴ拾ってくださ~い!』って完璧俺指名じゃねえか! しかも『ついでに発見してくださ~い!』って。ついでに発見できるほど発見は甘くないよ! でも渋々拾って返したら『拾ってくださりありがとうございます。お礼と言ってはなんですが、これをどうぞ』って、リンゴじゃねえか! それも拾った数より多いし! 柄の悪い奴に絡まれたときなんて目の前でリンゴを落とされて『今すぐ発見しろ』だとよ! 絡みが雑だよもう! ハア・・・リンゴに罪はないけど、リンゴを嫌いになりそうだ・・・。リンゴにはある意味お世話になったけど、これ以上お世話になりたくない・・・」


「そ、そっか。お前、リンゴが好きで発見したんじゃなかったんだな。てっきり自分にリンゴを引き寄せたくて発見したのかと」


「もし好きでも限度ってものはあるだろ」


「それならジャムにしちゃえばいんじゃねえか? ジャムにしちまえば、その法則とやらも働かねえだろ」


「ジャムでも働く」


「まじ?」


「まじ」


「・・・よく分からねえけど、ジャムでも働くって、お前の発見したのスゲ~んだな」


「分かってくれたか」


「分からねえけどな。分かったのはお前がリンゴ嫌いになりそうってことだけだな。そういえば明日は万有引力を発見した記念としてフラワー・オブ・ケントをみんなで植木するイベントに招かれてるんだろ?」


「ああ」


「大丈夫なのか?」


「分からない。シャベル持ってみんなの前で植えてますアピールすることになってるけど、今の俺ならウィリアム・テルよろしくリンゴを矢で射貫きたい気分だよ」

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