「黄金姫の憂鬱」 第二話
”黄金の世界、銀の焔”・番外編「黄金姫の憂鬱」 第二話
「……」
俺はスマートフォンに保存してある資料に目を通し、溜息をつく。
そして
その馬鹿が何年も前に、自身の”
簡潔に解釈すれば、当主筋の子女を自らの后とするので差し出すようにという事である。
条件は当時十歳から二十五歳までの女子で、その当時二十歳未満の者は
この忌忌しい命令に、俺の
「……」
数十年前は……
現在は閑古鳥の鳴く絵に描いた寂れた商店街だが、それでも休日にはそれなりに人通りがある。
つまり人目はあると言うことだ。
「
声の人物はかなりの長身、そして金色の長い後髪を後ろで束ねた碧眼の端正な
――いや、外人にしても随分とデカいな……
「初めまして
道ばたに乱雑に設置された”大人の遊戯施設”の看板裏に身を潜めた俺は、
「……こんな所でナンパなんて、趣味が悪いわね……外人さん?」
相手の素性を聞き終えたサッパリとした雰囲気の若い女は少し考えた後そう返す。
――おいおい……状況解ってんのかよ……
女の周りには五人ほどの外国人……どう見ても堅気に見えない出で立ちの黒スーツ達だ。
そして声をかけた代表っぽい金髪の男は……多分ただ者ではないだろう。
俺はこの稼業を続けているからか、そういった感覚にはそれなりに敏感だ。
寂れた商店街、しかし休日は少しばかり賑わう場所。
その一本路地を入った”いかがわしい場所”……
お子様が近寄るには教育上よろしくない、大人の歓楽街でどう見ても堅気で無い外国人グループに囲まれた若い女。
状況的には完全アウトだが……
俺はそう思いながらも、もう少し様子を見ようと……
「ナンパなどでは無い、
長身で金髪の異国人は相手が従順で無いと分かると、一転して
バシッ!
――っ!?
「気安く触れないで下さるかしら?えと、ジャンジャン……金髪尻尾頭の異人さん?」
その一言に明らかにプライドの高そうな異国人の顔色が変わるのが解った。
ザザッ!
女を取り囲んでいた男達が一斉にスーツの胸辺りに手をツッコミ、何やら物騒な凶器を用意する光景が俺の目に映る。
「馬鹿……こんな所で始めるつもりかよ」
”いかがわしい”看板の物陰に潜んだ俺は頭が痛くなった。
「日本の十二士族の女……我が名を愚弄して生き伸びた人物はいない、直ぐに謝罪しろ!」
金髪の……ジャンジャック・ド・クーベルタンなる男が口調だけは冷静を装い、そう告げるが明らかに凄みを抑える気のない表情は……もう殺る気満々といった感じだ。
「謝罪?
「このっ!」
明らかに挑発する女の言葉に、金髪の男は右手を振り上げ……
「お相手するわよ、フィラシスの小悪党共!この……」
――馬鹿女!なに挑発してんだよ……相手はどう見てもただ者じゃ……
「この
「っ!?」
一瞬で場の殺気だった男たちの視線が……女の
「……」
「……」
「……え……は?」
いかがわしい看板の物陰に隠れた俺にスポットライトが当たり、俺は五人の柄の悪い異国人達の敵意を込めた鋭い視線に晒され……
「ってぇぇ!おいっ!
俺は勿論、即座にツッコむが……
「だって私は戦えないもの……女の子だもん」
「……」
テヘっと舌を出して自身の頭をコツンと軽く叩く巫山戯た女。
――このっ!お前は”アタック・ナンバーなんちゃら”かよっ!古っ!……ていうか大体”女の子”って歳じゃ……
「そこっ!今、ものすごぉぉく失礼なこと考えたでしょっ!」
そして続けて俺をビシリと指さす。
「お前……エスパーかよ」
俺はそうぼやきながらも、看板の裏から姿を見せる。
「……」
「……」
俺に集中する危険な男達の視線。
「あーえーと……俺は……」
「
俺の顔を凝視し、ボソリと呟く金髪男。
「?」
――なんだ?
「この男が……この”いかがわしい”看板の裏に潜んでいた男が”あの”
金髪の……ジャンジャック・ド・クーベルタンなる男が俺を指さす。
「
「日本最高の上級士族……いや、世界でも最強レベルと言われるあの
――おいおい……
俺は不審な男達に不本意な表現で指さされながら、要らぬ俺の紹介をした女を睨んでいた。
「そうよ……けど彼も十九歳、持て余す異常な性癖の一つや二つあっても攻められないわ、例え昼日中からそんな変態行為に身を任せる異常性欲者でも、彼が
俺は背を向けてその場を後にしていた。
「……」
「ちょっと、ちょっと!悪かったわ……少し調子に……」
慌てて俺を引き留める女……だが俺は立ち止まらない。
「みやび……そう、
「……」
俺は立ち止まる。
「……」
その名を出されては……立ち止まるしか無い。
「そうよ……
――泣かいでかっ!散々変態扱いされた……初対面のどう見てもいかがわしい世界の異国人達に”いかがわしい男”扱いされた俺の
「お前が……」
「
「
俺は本当に仕事だからと言ってこんな適当な女と組んで良いのだろうか?
俺はそんな疑問を心に抱えつつ……
「
ガァァーーンッ!!
路地に渇いた銃声が響く。
「
――っ!?
俺の手前に浮かび上がった白銀色の光のサークル。
突如空間に展開した半径が二メートルほどの銀円光に阻まれた銃弾は、光の雪壁にめり込むかのようにして空中で停止していた。
「なんだ……これは?」
金髪の異人……ジャンジャック・ド・クーベルタンが光りのサークル越しに俺を睨む!
「わぉっ!これが
「九五式装甲”
俺は二人の内どちらに言うともなく、左手に装着した白銀の武装兵器を前面に
”黄金の世界、銀の焔”・番外編「黄金姫の憂鬱」 第二話 END
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