「黄金の世界、銀の焔」番外編
ひろすけほー
「黄金姫の憂鬱」 第一話
”黄金の世界、銀の焔”・番外編「黄金姫の憂鬱」 第一話
――銀色の……
いつの日か、少年が少女に語った夢……
銀の勇者……凡庸な少年が見た叶わぬ夢……
いつの日か……それは都合のいい作り話……
それでも……彼が守ると決めたもの……
それはまるで燃えさかる
いつの日か……二人で話した銀の勇者の
それを見つめる少女の黄金の瞳から、いつしか一筋の涙がこぼれていた。
ドゴォォォォォォーーーーーーーーーーーーーーン!
――
―
「
直ぐに幼なじみの少女が駆け寄り、その場に膝をついて倒れた俺を抱きしめた。
――ああ、いいにおいだ……甘くて……懐かしい
少女の腕の中で安堵の表情を浮かべる俺、傍目からも既に使い物にならない廃棄物だ。
「……終わったよ……
「うん、うん……ありがとう、
美しい濡れ羽色の瞳からポロポロと涙を溢れさせ、俺の途切れ途切れの言葉に少女は応える。
暫く動く気が起きない俺は、傍に座って俺を抱きしめる少女の胸に顔を預けていた。
自称、勇者としては非常に情けないが……
まぁ、今回に限りこれも役得だろう、うん、そうだ、そうに違いない。
――暫く経っても、夕日を浴びて黄金色に染まる世界で、二人は唯々そうしていた
これは、あの運命の出来事から暫く経った日の……
そう、少しだけ先へ進んだ少年と少女の物語、その後の小さくて大切なお話……。
――――
―――
――
―
「な?な?……俺の言った通りトンデモ無く綺麗な
「……」
「俺もこの冬休みにさ、親が住むこのマンションに帰省するまで知らなかったんだけどな……って、おいっ!聞いてるのかよ?」
「…………あ?……あぁ、わるい……なんだっけ?」
休日になると家族連れやカップルで賑わうアミューズメントパークで、その敷地内には遊園施設のみならず海産物の卸売市場や天然温泉施設まで揃った、他府県まで聞こえる人気施設だ。
また、オーシャンビューのリゾートホテルが並ぶ一角には、一流ホテルのそれに匹敵するリゾートマンションが
全室ぐるりと百三十度、海が見える事と高度なセキュリティを誇ることがセールスポイントの高級リゾートマンションの一階エントランスから奥にある居住者用のカフェで二人の男がヒソヒソと話をしていた。
「……お前、ガン見しすぎ、口も開いてるし……
「うっ!」
呆れ顔で指摘された男は、直ぐさまに口元を
「ま、マジかよ……お前に聞いた時は眉唾だと思っていたけど……め、メチャクチャ可愛い……てか綺麗すぎて俺、どうにかなりそうだ」
「だろ?ここは居住者専用のカフェだから思ったより噂は広まってないけどな……それでも日に何十人も……いやもっとか?とにかく、住民の知り合いが本人に頼み込んで同行までしてもらって彼女を盗み見に来るらしいぜ」
カフェの隅にあるテーブルで、学生らしき男二人が顔を寄せ合ってヒソヒソ話す姿はあまり気持ちの良いモノでは無いが、実際、彼らの言う通り、平日午前中のマンション居住者専用のカフェには、それでもチラリホラリと落ち着かない男性客の姿が見える。
――カチャ
冬でも緑が絶えず綺麗に整った芝の中庭が見える窓際の席に座った美しき少女。
そのテーブルに紅茶のセットが運ばれ、静かに置かれた。
「新しい
妙齢の落ち着いたウェイトレスが柔やかに微笑みをうかべ、話題の美少女に話しかけていた。
「ええ、ありがとう、頂きます」
テーブルで一冊の年季が入った文庫本に視線を落としていた少女は、そっと視線を上げてウェイトレスに微笑んだ。
――っ!!
刹那……
カフェ内に生息する数名の男達が息を飲んで硬直し、無音でありながら、場の空気が明らかにざわめいていた。
――か、可愛い……いや、可愛すぎる……
――て、天使だ……あぁ、目の保養……神様ありがとうございます!!
男達はそれぞれが隠れ見ていたのにも拘わらず、その瞬間は間抜けな表情で遠慮することを忘れて、一様に
「…………
ウェイトレスが呆れ顔で周囲を見渡し、そして小声でそう問いかけるが……
「ふふっ……構いません、ここは住民全員が利用できる場所ですもの」
衆目の視線を集める少女は微笑んだままそう答えたのだった。
艶のある美しく長い黒髪。
眉にかかる前髪がガーデン側のガラス越しに差し込むの朝日に輝き、優雅にティーカップを手に取る動きにサラサラと流れる。
「……」
透き通った透明感のある肌と整った輪郭、可憐で気品のある桜色の唇。
高貴さと清楚さを兼ね備えた比類ない容姿の少女。
そして、その少女の美貌の極めつけは……
「……うん、美味しいわ」
紅茶に口をつけた少女の瞳は……幸せそうに細められる。
――澄んだ濡れ羽色の瞳
その宝石の中で、波間に時折揺れるように顕現する黄金鏡の煌めき……
神々しいまでに神秘的で印象的な
彼女の名は――
この国を支配する十二の上級士族の
「
卒倒しそうなほど興奮しているのが見て取れる男性客達を眺めて、呆れた顔をしていたウェイトレスは”ふぅ”と溜息を
「ん……そうです、少しね……今は忙しいみたいだから」
美しい容姿を僅かに沈ませた少女は、それでも直ぐに微笑みを返す。
「そう、それは寂しいわね、まったく……
ウェイトレスが
――いや、良いっ!あの少し憂いを帯びた表情も……
――さ、さいこー!ぐぅぅっ!こんちくしょー!!
いや、気にする事が無いというよりも、その
「…………男って……馬鹿ばっかりね」
流石に呆れ果てたウェイトレスの女性は、そう呟くとサッサとカウンターの方へ戻って行くのだった。
ーー
ー
時間は一週間ほど遡り、場所も変わって……
「……」
俺は……
バサリとA4サイズの紙を束ねた資料を年季の入った木製テーブルの上に置き、あまり座り心地が良いとも言えない応接セットの椅子から天井を仰ぐ。
「……」
俺の視界には……
所々シミがある低い天井。
あと、部屋を照らす今時LEDでない蛍光灯の照明達。
――そろそろ替えを買い置きした方が良いな……
俺は時折、瞬く白い光りを”ぼぉっ”と眺めながらそんなどうでも良い思考を働かせていた。
「あの?
「……」
「
「……」
「あのねぇ……キミも面識があるはずだよ?それは……」
ババッ!
「きゃっ!」
俺は急に天井から視線を正面に戻し、勢いでズレた眼鏡をそっと直す。
そして何年か前に中古で買った激安応接セットの対面に座る女に向け口を開いた。
「知ってるよ……ああ、知ってる……」
一目で解るほど嫌そうに答える俺に、目の前の女は”あははっ”と軽薄に笑い、そしてテーブルに投げ出された資料を指さす。
「貴方にしか頼めないって……あの方直々のご指名なんだよね」
そう続ける相手に俺の顔は更に一段ギアを上げて歪む。
「よりによって……
古い木製テーブルに放置された資料の扉には依頼者の名が記述されていた。
――
”黄金の世界、銀の焔”・番外編「黄金姫の憂鬱」 第一話 END
==あとがき==
連載中の小説「黒×白@ChangeTheWorld」にて、
本格的に「黄金の世界、銀の焔」のキャラが登場するため、
今回、完結した「黄金の世界、銀の焔」の番外を書いていこうと思いました。
設定は前作終了時の少し後、でコンパクトな話にしようと思ってますが、
どうなるかは解りません(汗)
今回は前作で少し触れた彩香のお話にしようかとも考えたのですが、
「黒×白@ChangeTheWorld」には出てこないキャラなので止めました。
「黒×白@ChangeTheWorld」と「黄金の世界、銀の焔」は設定上で薄らと
繋がってたりしますが、基本的には別世界、パラレルワールド的な関係なので
実際には世界観が少し違います。
なんにしても少し前に書いた作品なので手探りの部分が多いですが、
今書いている2作品の合間に更新していけたらと思っております。
バトルは少なめで恋愛要素を多めにと考えておりますが、
読んで頂けたら嬉しいです。
以上、簡単な執筆動機と宣伝でした。
ひろすけほー
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