第5話

 夏休みに入り、楽しい気分に浸りたいところだが、飯高には夏課外というものがある。さらに部活もある。結局、普段通りに嘉穂鉄道利用で学校に通う毎日を送っていた。課題は無茶苦茶多いうえに、平日は盆期間を除きほぼ課外か部活がある。はぁ、楽しい高校ライフはこんなにも無残だったのだろうか。肩を落としながら上山田駅へ向かう途中、山高に通う美南と遭遇した。

「あれ、美南じゃん。お前も課外か」

「誰かと思えば颯大じゃない。そうよ、この可愛いレディがわざわざ課外に行ってあげてるのよ」

「何お嬢様気取りしてんだよ」

「このテンションでいないと乗り越えられないのよ」

「アホかよ...あ、アホやけん山高なんやった」

「ちょっと、頭良いからってバカにしないでくれる」

「悪かったって。まあ、それにしてもこの炎天下の中教室で3コマも受けるのは正直しんどいよなあ」

「まあね。クーラー代わりの扇風機はあまりアテにならないし」

「俺は列車の中で涼んでおくわ」

「こっちは自転車降りても炎天下よ」

「そりゃあ、ご苦労さん。あ、もうすぐ列車来るから行くな」

「あ、こっちもそろそろ行くわ。まだ昨日の宿題終わってないのよね」

「何やってんだよ。あんだけ動き回っていたくせに宿題やってなかったのかよ」

「しょうがないじゃない。終わったつもりだったんだから」

「はいはい。弁解しないで良いからさっさと行ったら」

「そうね。颯大の相手している時間ないものね。じゃあ、今度ね」

そういって美南は再び自転車を漕ぎだした。俺も上山田駅へと自転車を漕いだ。


 上山田駅に着くと、普段乗っている7時36分発大隈経由新飯塚行きが停車していた。見たところ、7時31分発漆生経由新飯塚行きは既に発車したようだ。列車内に入ると、同じクラスの山本拓志が話しかけてきた。こいつとは小学校からの付き合いで、昔は美南を加えた三人でよく遊んだものだ。

「お前が発車ギリギリに来るなんて珍しいな」

「美南と無駄話してなければジュースの一本でも買う時間取れたのに」

「まあ、そう言うなって」

そういって拓志は缶ジュースを差し出した。

「お、サンキュー。この恩はどっかで返すぜ」

「じゃあ、部活の後にバイキング行こうぜ。お前のおごりで」

「いや、流石にバイキングは止めようぜ」

「なんでよ。恩は返す言ったやん」

「さすがに今バイキング行くほどの金は持ってねえわ」

「え、まじかよ...昼飯どうしよ」

「知らねぇよ、そんな事」

「じゃあ、ラーメンでもいいからさ」

「ちょい待て、今日奢らないけないのかよ」

「マジで今日昼飯代が無いんだって」

「そりゃゲーム課金しすぎだ。反省するんだな」

「酷いこと言うなよ。昔からの付き合いだろ」

「それとこれを一緒にするなよ」

「俺たち親友だろ?別にいいじゃん」

「いや、今関係なくね」

「あ、そうだ。部活帰りにイオンで涼もうぜ」

「おい、そのまま昼飯奢ってもらう算段だろ」

「おっと、頭の回転が速いことで」

「やっぱ、さっきの言葉撤回するわ」

「いや、マジでそれだけは勘弁して」


 他愛もない話をしながら学校へと向かう俺たちを乗せた満員の列車は、定刻通りに上山田駅を発車した。

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