第4話
今日は日曜日。母から1万円を受け取り、雄大の同級生軍団を連れてイオン穂波へ遊びに行く。小学生を率いていると、先生のような気分になる。
「はい、みんな。今から列車に乗るからさっさと切符買うてな」
「買い方わかりませ~ん」
「嘘つかんでいいから早う買うてくれ」
「あの人、ホント冗談通じねぇよなぁ」
「つべこべ言わずにさっさとしてくれ。あと3分ないんだから」
「マジで、はよ買お」
ホント、ガキの相手をしていると先生になった気分だ。
ホームに着くと、駅員のアナウンスが流れていた。
「まもなく、1番線に、9時48分発、漆生、JR後藤寺線経由、新飯塚行きが到着します」
やってきたのは、嘉穂鉄道の車両ではなく、JR九州の単行気動車。キハ40という国鉄時代からの車両だ。後藤寺線と日田彦山線の間合い運用で3往復担当している。
「早く乗って。イオンに行けなくなるぞ」
「えっ、それはやばい。急げ」
列車は順調に進む。が、漆生駅で事件が起きた。
「お客様にご案内いたします。ただいま、JR後藤寺線で線路の安全確認を行っております。このため、列車は当駅に暫く停車いたします」
う~ん、と私は唸った。この列車だと、新飯塚駅から乗り換えなしでイオン穂波まで行けるバスに接続できたのだが、この調子だと到底間に合わない。一人考えていると、翔真が話しかけてきた。この子は雄大の同級生の中で、特に僕が気に入っている子だ。
「颯大兄ちゃん。バス間に合うの」
「バスターミナルでの乗り換えを回避したかったんだけど、無理そうだね」
「そっか。雄大くん、バスターミナルで乗り換えるんだって」
「はあ、面倒くさいな。アニキったらちゃんとしろよな」
ちゃんとしろと言われても、列車が止まっている以上どうにもできない。もどかしさだけが続く中、運転士の車内放送が流れた。
「大変お待たせいたしました。線路の安全確認が終了いたしましたので、運転を再開いたします」
運転再開と聞き、私はホッと胸を撫でおろした。
「間もなく終点の、新飯塚、新飯塚に着きます。福北ゆたか線はお乗り換えです。お忘れ物のないようご注意ください」
結局、列車は12分遅れで新飯塚駅に到着した。当然ながらイオン穂波へ乗り換え無しで行く事は出来ず、飯塚バスターミナルでの乗り換えを余儀なくされた。
イオン穂波に着くなり、小学生軍団は一斉にゲームセンター「楽市楽座」のドライブゲームコーナーへと駆けていった。僕は子どもたちを見張りつつ、一人クレーンゲームを楽しむ。と、ここで聞き覚えのある声が聞こえた。
「お前が来るなんて珍しいな」
「あ、吉岡先輩やないですか。こんなところでバイトするような人でしたかね」
「うちの親父がね、つい先日行橋に異動した社員と知り合いでさ。バイト探しているなら、人数足りないからぜひ来てほしいって勧誘されたんだよ」
「へえ、それでバイトしているんですね」
「そういうこと。まあ、せいぜい売り上げに貢献してくれ」
それは遠慮しておきます、と言って軽く会釈をしたのち、小学生軍団の方に向かった。吉岡先輩は部活の先輩で、今年大学に進学した。バイトしているという噂は聞いていたが、まさかゲーセンでバイトしていたとは思わなかった。
時刻は12時。そろそろお腹が空いてきた。
「おーい、お前ら。そろそろ昼食べに行こうぜ」
みんなは「やったー」と言いながらフードコートへと移動している。今日は賑やかな1日になりそうだ。
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