第3話
ある日のことだ。新飯塚で熊ヶ畑行き普通列車を待っていると、ある高齢男性に声を掛けられた。
「熊ヶ畑っていうのは、山田に行くんかね」
「はい、通りますよ」
「そうかい、ありがとう」といって、高齢男性は姿を消した。
結局、あの高齢男性は列車内で見かけなかったが、自宅に着くと、隣に住む美南のお祖母さんが高齢男性と談笑していた。その男性をよく見ていると、先ほど新飯塚駅で話しかけてきた男性だった。
「こんにちは、お祖母さん。ところで、あなたはさっき新飯塚の駅で会いましたよねえ?」
「おお、君。まさか、世津子さんの知り合いだったなんて驚いたよ」
世津子というのが、美南のお祖母さんの名前だ。
「で、お祖母さん。こちらの高齢男性はいったい何者ですか」
「祖父さんの高校時代の同輩じゃよ」
「じゃあ、お祖父さんの同級生やったんですか」
「そうじゃよ。さっき、新飯塚で君に行先聞いたけどさ、あの直後にアイツが電話かけてきてな、近くにいるから連れてくと。じゃあ、電車賃払うのもバカバカしいからと話に乗った訳よ」
なるほど。だから列車内で見かけなかったのか。一瞬、幽霊と勘違いしたことは言わないでおこう。
「では、私はここで失礼しますね」
「そうか、勉強頑張りなさいよ」
私は軽く会釈をして、自宅に入った。
「ただいま~」
「あ、颯大。丁度良いところに帰ってきたわね。雄大が7時の列車で帰ってくるから迎えに行ってちょうだい」
「はあ?今帰ってきたところなんですけど」
「小学生に人気の無い街一人で歩かせるつもりなの。つべこべ言わずに迎え行ってちょうだい」
私は反論するのを諦め、はいはい、と言って自宅を出た。
「あれ、もう出かけるのかい」と玄関を出た瞬間、老人三人衆に話しかけられた。先ほど居なかったお祖父さんも今度は話に加わっていた。
「今から雄大迎え行くんですよ」
「あら、雄ちゃんは小学生なのに遠出してるのかい」
「飯塚に遊びに行ってるみたいなので」
「なるほどのぉ。気ぃ付けんさいよ」
私は軽く会釈をしたのち、自転車で上山田駅へと向かった。
上山田駅に19時ジャストに着いたが、弟は着いていなかったようだ。上山田にこの時間帯に着くには、新飯塚18時33分発の漆生線経由豊前川崎行きを利用する必要があるが、どうやらそれには乗りそびれた様だ。と、いうことは、後続の新飯塚18時43分発に乗ったのだろう。この列車は上山田終点で19時7分に到着し、先ほどの新飯塚発豊前川崎行きに連絡する。つまり、上山田より先の区間利用する人からすれば、新飯塚で豊前川崎行きに乗り損ねても、後続の上山田行きに乗れば、終点で追いつく事が出来るようになっている。そのかわり、豊前川崎行きはここ上山田で約10分の無駄な長時間停車を余儀なくされるわけなのだが。
さて、私の読み通り、弟は新飯塚18時43分発上山田行きで帰ってきた。
「あれ、兄ちゃん、何で居るん」
「母さんに迎え行けって言われたんだよ」
「そりゃ失礼。トイレ行ってたら乗り損ねた」
「あっそ。で、飯塚で何しててん」
「イオン穂波でゲームしてた」
「イオンってことは楽市か。ってか、よく小学生のくせにゲームで遊ぶ金があったな」
「行くときにお母さんから5000円もらっててん」
「小学生に5000円は持たせすぎやろ」
「いやいや、クレーンゲームやドライブゲームやるにはそれくらいのお金必要だから。あと、カラオケにも行ったし」
「お前ら遊びすぎだろ。人の金やと思ってから」
「でもその通りじゃん」
コイツに何を言っても無駄だと察した私は話を切り上げ、弟を引き連れて自転車で寂れた山田市街を縦断しながら帰路に着いた。
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