第6.5話「さつまいもプリンとワイバーンと宿屋の少女」(後期公開ifルート版)

※すいませんこの第6.5話は作者のエゴで書いたifルートです。


********************



「なるほどね…」

 勇者は町の中心にある教会の尖塔せんとうにいた、その宿場町の教会には最近巨大な翼を持つ蜥蜴トカゲ[ワイバーン]が住み着き町の住人を困らせていたと聞いたからだ。



***



「おまちどーさまです♪さつまいもプリンですよー♪」

 小さな女の子がテーブルにマグカップに入ったさつまいものプリンを運んで来てくれた小さな木のスプーンが刺さっている。


「なんですの勇者様♪」

 女神[溺愛神できあいしんかほこ]は嬉しそうにそれを見つめていた。


「この前約束したでしょ、今度名物でも食べようって」

 勇者[伊勢いせカイ]は女の子との約束を決して破っはいけないと教えられていた。

 ↑

 これ伏線なので覚えておいて下さい。


「美味しそうですわ」

 マグカップからはさつまいもの甘い香りがほのかに漂い、表面はつるんとした感じてはなく芋の粒子が見てとれた。


「お家のお手伝いかい?ありがとうねお嬢さん」

 勇者は女の子の頭をクシュクシュって撫でお礼を言った。


「おじょうさんじゃないよ、リョウコちゃんだよ」

 宿屋の娘[宿場女しゅくばめリョウコ](5)は言った。


「あら~可愛いことですの、良い子だからわたくしの男に近付かないでくださいですの♪」

 優しい口調だったが女神の目は笑ってなかった。


「ママーこわいひといたー(激泣げきなき)」

 女の子は泣きながらキッチンに居る女将さんの所へと駆けて行った。


「幼女相手に何やってんだよ!」

 勇者はこの女神ぶれないなと思った。


「んーーーー♪鼻から甘いの香りが抜け、優しいさつまいもの甘さと粒が舌で伸びる感じがしますわ」

 女神はグルメリポーターとしてまずまずのところに収まった。


「この辺りはさつまいもが良く取れるからこちらが名物ですの?」

 当然女神はそう思った。


「イヤ、作中になんか名物出すって考えた時に作者が良く作ってたさつまいものプリンがあったなーって思い出したらしい」

 今となってはプリンそのものを作らなくなったうえ、さつまいもをどんな調理していたかすら忘れたと言う代物だった。


「作者様は良くそんなあやふやなメニューを小説にお書きになりましたね…」

 女神は作者の制作スタイルに呆れ返る。



***



 さて作者の勇気と制作スタイルは置いておいて勇者と女神は街道沿、高台にある小さな宿場町で宿をとり、そこの食堂で軽めの夕食のあとデザートを頼んでいた、どうやら石を運ぶのは大変らしく建物自体は多くあったがどれも小さな石を積み上げ造られた小さな物が殆どで、女将さんが娘を育てながらたった1人で切り盛りするこの宿屋[娘激ラブ]もご多分に漏れず小さな宿屋だった。


「[娘激ラブ]って…異世界の言葉や文字ってちゃんと僕に訳されてんのかな?」

 今更ながら異世界ファンタジーのご都合主義的言語設定に疑問を投げ掛けずにはいられず勇者は突っ込みをいれた。



***



「あんたら夫婦旅かい?悪い事は言わないから早めにここを出た方がいいよ…」

 宿屋の女将[宿場女しゅくばめショウコ](××)が話に割って入る、さっきの娘をだっこしてあやしながらも僕達の事を心配してくれている様だった、異世界フラグが立った瞬間である。


「あっ、かほこさん「夫婦だなんて~♪」とか言うデフォルトの反応要らないからね」

 僕の予言突っ込みが冴え渡る!


「勇者様、わたくしベタって大事だと思うのですわ!」

 女神は取りあえずイチャつきたい性分だ。


「それで女将さん何があったの?」

 僕は女将の話を聞き、説明台詞の為に話を整える。


「つまりこの町にワイバーンが住み着いて人が襲われると…」

 どうやら異世界ファンタジーらしく成ってきた、巨大なワイバーンが教会に住み着いたと言うのだ。


「でもよく避難もせず商売とかしてるね」

 勇者は回りを見てそう言った、そこには近所の男達が酒を飲みに来ていた。


「ああそうなんだよ、ワイバーンのやつ教会の尖塔に住み着いたもんだから鐘も突けないんだよ、まあ教会に近づかなけりゃ襲って来ないんだけどさ、でもそんなのが居ちゃあ商人も冒険者も迂回して来ないし教会でお祈りも出来ない、領主様が賞金をかけて下さったっ言うのにね」

 冒険者がワイバーンを避けて旅するなんて世も末だねと勇者は思った。


「じゃワイバーンを倒すのが今回のクエストって事でいいよね♪」

 僕は路銀稼ぎと人助けを兼ねてワイバーンを倒す事にした。


ハハハハッ!


宿場にいた男達から一斉に笑い声が聞こえた、どうやら僕が偉く弱そうに見えたかららしい。


「なんですのー!勇者様は激強げきつよですの!」

 女神様の機嫌が悪くなる。


「あっ、かほこさんめてめて当然の反応だから」

僕は軽くかほこさんをいさめる。


「じゃあなにか?勇者様は、そのちんけなショートソードでワイバーンを倒して下さるのかい?」

 男達の意見は当然だ、脆弱なショートソード1本でワイバーンを狩ろうとする馬鹿などは居るはずないのだ。


 まあ、始まりの村では空からご光臨だったからいきなり女神と勇者って信じられたけど、かほこさんが僕を「勇者様」とか言ってるのも面白い光景なんだろうなと思った。


「あのね、かほこさん、通常の異世界ファンタジーならやな感じの人とか出して読者にストレスかけた後のカタルシス(解放)が鉄板なんだけどこの物語だとストレスがかから無いんだよ」

 ダダでさえ過保護女神の加護があるのに更に勇者の強さが天文学的に違い過ぎて腹でも立てよう物なら相手の腕とか頭とか軽めに吹っ飛ばしかねないのだ、いくらレーティングが[残酷描写有り][暴力描写有り]でも限度がある、逆に相手に対して思いやりの気持ちが必要なレベル差なのだ。


「あの…勇者様ごめんなさいですの…」

 なんだか僕を強くし過ぎた女神が謝ってきた。


「いや気にしないで、僕も山とか吹っ飛ばす程強くなければあの方達に腹を立ててしまってたし、このレベル差で怒ってると只の暴君になりかねなよ…」

 僕は冒険がノーストレス過ぎて完全に人=弱者=護るべき者と成ってしまっていた。


「あんたら正気かい?ワイバーンだよワイバーン」

 女将さんはとても僕らを心配してくれていた、ちなみにワイバーンは白亜紀の翼竜に近い生物であり、知恵のある者[ドラゴン]とは全くの別種ではあるのだが多くの人にとっては(ファンタジー世界の住人もふくめ)あまり区別されていないようだった


「まあ、それでも普通に強いしね、ワイバーン…」

 勇者はなんの緊張感の無い自分に気づき、なんか楽しく無いと思った。


「勇者様…」

 女神は掛ける言葉が見つからない。



***



「おにいちゃんは、ゆうしゃさまなの?」

 食事のあと部屋へと戻ろうとした時、あの小さな女の子が女神がいないのを見てが声をかけてきた。


「そうだよ僕は異世界からこの世界を救いに来た勇者なんだ♪」

 僕は例え信じて貰えないとしても只真っ直ぐにそう言った。


「…………」

 女の子は突然に涙ぐんだ、僕は余程ワイバーンが恐かったのかと膝をおり女の子の目を見つめ「大丈夫だよ」と言おうとした。


でも女の子は言うのだ。



「ちがうの、ゆうしゃさま!」



***



「なるほどね…」

 勇者は町の中心にある教会の尖塔にいた、その宿場町の教会には最近巨大な翼を持つ蜥蜴[ワイバーン]が住み着き町の住人を困らせていたと聞いたからだ。


「赤ちゃんが居ますわ♪」

 女神はそのかわいらしいワイバーンの雛をそう呼んだ。


「あの女の子はこれを見たのか…」

 太陽が高くなる頃大地は暖まり上昇気流を生み出す、ワイバーンは雛の為にモンスターを狩りに出ていた。


「賞金は貰えそうにないね、かほこさん」

 僕はやれやれとばかり笑った。

 

「大丈夫ですの、この前の村でいただいたお金もありますし、いざとなれば私がお金の雨でも降らせて見せますの」

 僕はお金の雨を降らすのはいかがなものかと思ったが、頼もしい女神様だと思えて来たから不思議だった。


「じゃ、女神様、僕にそのお力をお貸し下さい」

 僕は女神に頭を下げその宿場町より更に高い山の頂きを指差す。


 女神は光りに包まれ僕の指差した先へと飛翔し飛び去った(町の人はどんな顔でそれを見たのだろう)。


「おとなしくしてなよワイバーン、僕に逆らうのは頭のいい選択では無いぞ」

 僕はワイバーンの雛を少し脅かし、藁やら枝やらで造られたワイバーンの巣ごと雛を頭の上に乗せ尖塔から飛び降り町の細い道を歩いた、町の人々はその光景にのけぞるほど驚いている(まあ当然か…)巣は以外と柔らかくお母さんの愛を感じるものだった。


「ゆうしゃさま!」

 あの女の子が宿屋の前で女将に抱えられ、こっちに来るのを止められている。


 僕はニヤリと笑い、片目をとじた。



***



 女神の造った山頂の高い高い石塔せきとうでワイバーンが子育てをするようになったあの時から、その街道にはモンスターが現れなくなった、そして[石塔のワイバーン]を町のシンボルとして掲げたその宿場町は繁栄し笑顔の絶えない町となったと言う。



「まるで本当に女神様と勇者様の様な方だったね」

 女将は女の子もと手を繋ぎ2人が旅立った街道を見つめる。


「ママだっこ♪」

 女の子はがんばったご褒美とばかりにママにだっこをせがむ。

 


 この異世界には優しい人がいっぱいなのだ。

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