第6話「さつまいもプリンとワイバーン」(初期公開正式ルート版)

「なんですの?」

 宿屋で軽めの食事を済ましたあと勇者がスプーンの刺さったマグカップを差し出す。


「さつまいものプリンだって、ここの名物らしいよ」

 マグカップからはさつまいもの甘い香りがほのかに漂い、表面はつるんとした感じてはなく芋の粒子が見てとれた。


「あら美味しい、鼻から甘いの香りが抜け、優しいさつまいもの甘さと粒が舌で伸びる感じがしますわ」

 女神はグルメリポーターとしてまずまずのところに収まった。


「この辺りはさつまいもが良く取れるからこれが名物ですの?」

 当然女神はそう思った。


「イヤ、作中になんか名物出すって考えた時に作者が良く作ってたさつまいものプリンがあったなーって思い出したらしい」

 今となってはプリンそのものを作らなくなったうえ、どんなさつまいもをどんな調理していたかすら忘れたと言う代物だった。


「作者様は良くそんなあやふやなメニューを小説にお書きになりましたね…」

 これが第6話のプロローグである。



***



 さて作者の勇気は置いておいて勇者[伊勢いせカイ]と女神[溺愛神できあいしんかほこ]は街道沿い高台にある小さな宿場町にいた、山の上まで石を運ぶのは大変らしく多くの建物があったがどれも小さな石を積み上げ造られた小さな物が殆どだった。


「取りあえずお金稼がないとな」

 実際勇者は始まりの村で謝礼としてショートソードと樹海の開拓利益の10パーセントを得る契約をしていた、村長むらおさの娘[そんナガコ]は生真面目で魔物避けにと置いて来た魔剣の代金だとして聞かなかった為だが開拓利益なんてもの何時になるか分からないし、そもそもある程度大きな街にしか商業ギルドが無く商業ギルドにしか銀行が無い始末だったので始まりの村の人がかき集めてくれた資金が僕たちの全財産だった。


「お金ならわたくしが出しますのに」

 女神は当たり前の様に言うが僕は沢山稼いで女の子に苦労をさせないって考えが頭に強く染み付いていた。

 ↑

 なおこれ伏線なので覚えておいて下さい。


「おや、あんたら夫婦で金の相談かい?」

 宿屋の女将さんが話に割って入る、異世界フラグである。


「あっ、かほこさん「夫婦だなんて~♪」とか言うデフォルトの反応要らないからね」

 僕の予言突っ込みが冴え渡る!


「勇者様、わたくしベタって大事だと思うのですわ!」

 女神は取りあえずイチャつきたい性分だ。


「それで女将さん、なんかこの町でお金稼をぐ方法があるの?」

 僕は女将の話を聞き、説明台詞の為に話を整える。


「つまりこの街道にはワイバーンが出現し人が襲われると…」

 どうやら異世界ファンタジーらしく成ってきた、巨大な翼持つ蜥蜴[ワイバーン]に領主が賞金を懸けているらしい。


「じゃワイバーン狩りで決まりですわ♪」

 かほこさんも異世界ファンタジーと言う物が解ってきたなと僕は思った。


ハハハハッ!


宿場にいた他の旅人達(多分冒険者)の笑い声が聞こえた、どうやら僕が偉く弱そうに見えたかららしい。


「なんですのー!」

 女神様は機嫌が悪くなる。


「あっ、かほこさんめてめて装備の貧弱さが原因だから、当然の反応だから」

 僕は軽くかほこさんをめる、普通脆弱なショートソード1本でワイバーンを狩ろうとする馬鹿などいないのだから当然な事なのだ。


 まあ、始まりの村では空からご光臨だったからいきなり女神と勇者って信じられたけど、かほこさんが僕を「勇者様」とか言ってるのも面白い光景なんだろうなと思った。


「あのね、かほこさん、通常の異世界ファンタジーならやな感じの冒険者とか出して読者にストレスかけた後のカタルシス(解放)が鉄板なんだけどこの物語だとストレスがかから無いんだよ」

 ダダでさえ過保護女神の加護があるのに更に勇者の強さが天文学的に違い過ぎて腹でも立てよう物なら相手の腕とか頭とか軽めに吹っ飛ばしかねないのだ、いくらレーティングが[残酷描写有り][暴力描写有り]でも限度がある、逆に相手に対して思いやりの気持ちが必要なレベル差なのだ。


「あの…勇者様ごめんなさいですの…」

 なんだか僕を強くし過ぎた女神が謝ってきた。


「いや気にしないで、僕も山とか吹っ飛ばす程強くなければあの方達に腹を立ててしまってたし、このレベル差で怒ってると只の暴君になりかねなよ…」

 僕は冒険がノーストレス過ぎて完全に人=弱者=護るべき者と成ってしまっていた。


「あんたら正気かい?ワイバーンだよワイバーン」

 女将さんはとても僕らを心配してくれていた、ちなみにワイバーンは白亜紀の翼竜に近い生物であり、知恵のある者[ドラゴン]とは全くの別種ではあるのだが多くの人にとっては(ファンタジー世界の住人もふくめ)あまり区別されていないようだった。


「まあ、それでも普通に強いしね、ワイバーン…」

 勇者はなんの緊張感の無い自分に気づき、なんか楽しく無いと思った。


「勇者様…」

 女神は掛ける言葉が見つからない。



***



「暖かな日だ」

 あの宿場町に滞在してから3日程がたっていた、暖かな日ざしは大地を暖め上昇気流を作りだす。


「勇者様、ワイバーンの好む天気ですわ♪」

 かほこさんの言う通りだった、太陽の中にチラチラと黒い影が見える、どうやらワイバーンは旋回しているようだ。


「結構頭良いじゃないかワイバーン…」

 僕は太陽に隠れて近づくワイバーンの姿を見て素直にそう思った、明らかに僕に狙いを定め急降下で襲う構えだ。


 僕はその辺に在った石を拾い上げる、手の中に丁度収まる程度の投げ易そうな石、そう只の石コロをである。


スゥ…


「……当たれ!」

 石コロが投げられた、瞬間的にそれは音速を超え「パン!]っと軽めのハンドガンの様な衝撃音を残しワイバーンの胸、心臓の位置へと叩き込まれた、僕のステータスは命中制度も天文学的数値だった為ワイバーンに回避の術はなかった様だ。



***



「あ、…ありがとうございます勇者殿」

 きっとこれって普通の異世界ファンタジーだったら達成感あるシーンだったんだろうな…僕は領主の屋敷で少し引き気味の領主から懸賞金を受け取った。


「一体どうすればこんな凄まじいダメージをワイバーンに与える事が出来るのだ…」

 領主の家臣達は屋敷の中庭にワイバーン退治の証拠として僕が運び込んだそれを見、まるで僕の方を化け物を見るような目で見ていた。


「すいません石を投げて当てただけです」

 僕は心の中で申し訳無さそうに突っ込む。


 僕の投げた只の石コロは当たった瞬間に砕け散りまるでバカデカイ散弾銃を密着させて発砲したかの様にワイバーンが飛ぶために発達させ竜骨に支えられた分厚い胸筋に小さな穴を開け、円錐状に背中へと広がり背骨を砕き背中に爆発したかの様な傷痕を生み出していた。


「…良かったですわ勇者様、ワイバーンを倒してレベルも「ピンポン×10」と上がった事ですし、領主様からお金も頂いてホクホクですの」

 もはや女神の言葉は空虚でしかなかった。



「やっぱりチートも過ぎると楽しくないな」

 僕はタイトルに偽り無しだとハッキリと感じた。

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