第12話

ドキドキしているのを隠しながら、真木さんの隣を歩く。

横顔を見上げるのにも勇気が必要で、ああ、もう、なんか。


「このかちゃんってさ、」

「へっ!」

「そんな驚かなくても」

「す、すいません・・・。」


変な返事、と真木さんがくすくす笑う。

私の頭の上に、触れないように手のひらをかざして。


「小さいよね、結構。」

「・・・一応155㎝はあります。」

「うん、ちっちゃいね。」

「!!コンプレックスなんです。」


からかう真木さんを睨みつければ、

少し頬を緩めて、私から目をそらして。


「えー。可愛いと思うけどな。」


なんて言ってクシャッと笑うから。

ああ馬鹿、私舞い上がるな。

なんて気持ちと同時に、言葉が溢れてきて。


「あのっ・・・」


立ち止まって、自分の服の裾を握り締める。


今日何十回と復唱した言葉を。

一文字一文字、勇気を出して。


真木さんの不思議そうな視線を感じる。

小さく息を吐いて勢いよく顔を挙げた。



「今度の花火大会!一緒に!いき、ま、せんか・・」


最後が消えかかってしまったけれど、

でも、言えた。


小さく、真木さんが息をのんだのが分かった。

言ったと同時にスッキリして、でもその後すぐに襲ってくる公開。

心臓がドキドキして、バクバクして、なんだか泣きそうだ。


真木さんの顔が見れなくて俯いたままの私。

しばらく流れた沈黙の後、はは、っと真木さんは笑った。


「いいよ。誰が一緒なの?夏未ちゃんとか?」

「えっいや」

「青柳とか暇そうだなあ。あ、他の先輩あんまり話したことないもんね?」


誰がいいかなあ、なんて言って真木さんは笑って。

さっきと同じトーンで話し続けるけど、その笑顔は乾いていて。


心臓がぎゅっと縮んで、

自分がすごくちっぽけな存在に思えた。


「皆で行った方が楽しいもんね。」


真木さんはそうやって笑って、

でもその瞳は私をとらえてくれない。


分かってしまった。いや、分かっていたのだ。


彼は避けている。

私の意図を分かって、分かった上で。牽制しているのだ。




「・・あー・・・そうです、夏未も一緒です!」


必死で絞り出した自分の声は、

自分の物じゃないみたい。


「快の事も誘ってみたんですけど、3人も変だな~って思って!」


スラスラと口から嘘がこぼれる。

俯いたまま早口で話して。大丈夫、私は泣かない。絶対泣かない。


「人数多い方が、楽しいですもんね。」

「ね、だよね。」


絞り出した言葉に真木さんは笑って答える。


ああ、もう。

そんなに安心した顔しないでよ。馬鹿。





「で、ヘコんでるのねヘタレちゃん。」

「返す言葉もございません。」


講堂の長机に教材を広げながら夏未ははあ、とため息をつく。


「いやでもその雰囲気は仕方ないかもね。私でも多分言えないもん。」


なんて言って夏未はよしよし、と私の頭を撫でる。

全くアメとムチがお上手で。


「花火大会は彼氏さんと約束しちゃってる?」

「あー。いや、してない。」


私の質問に夏未は少し口ごもって。

あれ、これはまさか。


「・・・別れちゃった?」

「ご名答。」


束縛酷くてさ~、なんて言って夏未はケタケタと笑う。

その言葉に今度は私がため息をつく。

恋多き女の夏未。付き合っても長続きしない事が多く。


お互い上手くいかないねえ、なんてため息が出てしまう。

講堂を出て、夏未と共に食堂へ向かう。お昼休み。食堂は生徒であふれていて。


いたる所で集団がご飯を食べながら談笑している中、

少し先、視界に入ってきてしまったのは見覚えのある男子集団。

サークルの先輩たちだ。その中には、真木さんもいて。


その集団は男子だけではなくて、女の人たちも混ざっていた。

先輩たちはとても大人っぽい。


2歳しか違わないのに、なあ。


覚えたてのメイクに、まだ慣れないヒールの靴。

急に自分がすごく子供に感じて、大人の真似をしているような。


「っ・・・なっ・・・」

「はい、お裾分け。」


急に口にものを入れられて驚きながらも咀嚼すれば、

甘酸っぱさが口全体に広がる。

見れば夏未はイチゴのロールケーキを食べていて、

どうやらそれを詰め込まれたらしい。


「・・・おいしい。」


なんてこぼした私に、夏未ははは、と笑って。


「あんたはそう言う顔の方が似合ってるよ。」


あんま難しい顔しないの、なんて言って私のコメカミをつつく。

胸がじんわりと温かくなって、ああ、もう。

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