第11話

今日だけでなんど同じ言葉を復唱した事だろう。


午前の講義中、お昼休み、午後の講義中。

そして、サークル前の今の時間。


「あんたもう、重症だわ。」


呆れたように隣で呟く夏未。

重症なのは私が一番わかってますって、ええ。


夏休みも近づいた7月後半。

大学のめちゃくちゃ長い休みを目前に、

本日の、私の目標は一つ。


「真木さん、花火大会、一緒に行きませんか。」


今日だけで数十回目の復唱。

ついに夏未はスマホ片手に何も反応してくれなくなった。仕方ない。


自分から異性を何かに誘うという事は人生初めてで、

私にとっては本当に勇気のいる事なのだ。

しかも先輩。しかも、真木さん。


夏未相手にはすんなり言えるのになあ、なんてこぼせば当たり前だろ、とはたかれた。痛い。でもその通り。


「どうしよう夏未~、私いえるかな~」

「いえる言えないじゃない、言うの。」

「ええええええ。」

「えええじゃない!ああもううるさい!」


いつもは夏未に私がうるさいと文句を言っているのに、今日は立場が逆転。

サークルまでの時間ドキドキしすぎて、講義なんて全く耳に入らないのであった。




「よっしゃ飯行こうぜ~」


青柳さんの言葉でわーっと歓声が上がる。

焼肉、お寿司、ラーメン、様々な声が上がる中で、

真木さんは肩をすくめて。


「俺ちょっと課題があるから今日はやめとこっかな。」

「おー。りょうかーい。」


青柳さんにそう言って、

真木さんはシューズを脱ぎ始める。


わ、どうしよう。

ご飯の後にでも言おうと思ってたのに、これはピンチ。


こういう日に限って真木さんはスタスタと体育館を出ていく。

うん、これは仕方ないよね。

ちゃんと言おうと思ってたけど、でもここで追いかけるのも変だしね。

なんて自分に言い訳をして、正直少し安心してしまう。

・・・が、彼女がこんな私を見逃してくれるわけもなく。


「なにやってんのよ!ほら!」

「ちょっ・・・無理だってええ・・・」


情けない声を出した私なんてお構いなしに、

夏未は私にリュックを背負わせる。

そしてグイッと私の背中を押して。


「ほら!行ってきな!」

「夏未い・・・」

「今帰ってきたら絶交!あ!いや絶交は私がいや!取り消す!」

「なんだよもう可愛いな・・・」



夏未に押されて体育館の外に出る。

少しだけ涼しくなった風を頬に受けながら、ゆっくり深呼吸をして。

勇気を出して、後ろから声をかける。


「お、お疲れ様です!」

「あれ、このかちゃん。ご飯は?」

「わっ・・・私も課題があって。」


私の言葉に特に疑問を持った様子もなく、

そっか、と真木さんは歩みを進める。


しかしその速度が私に合わせてゆっくりになったことが分かって、

ああ、だめだ。こんなことにもときめいてしまう。


「真木さん、おうちこっち方面何ですか?」

「そうだよ。駅のすぐ近く。このかちゃんもその辺だっけ?」

「あ、そうです。なんで・・・って、あ。」


そうだ。私が真木さんと出会ったきっかけの日。歓迎会の日。

お家の近くのコンビニまで送ってもらったんだった。


そう言えばこうやって2人で一緒に歩くのは、

あの日以降初めてだ。

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