スライム娘と目覚め


 ……これはなんだろう。頬になにかひんやりとしたものがあたっている。


 おれは、まだ完全に寝覚めていない頭で考えてみる。


 たしか、昨日は小春と虎徹の歓迎会をやったんだ。そんで、その後みんなでくつろいでいる時に――そう! ペットを飼いたいって話をしたんだ。

 それで、その話を聞いた婆さんがおれに生きてるスライムをくれた。おれは初めてのペットがあんまりにも嬉しくて、ベッドがべとべと(断じてダジャレではない)になるかもしれないと考えつつも、一緒に寝ることにしたんだ。

 つまり、このひんやりでぐにぐにの感触はフランのものだろう。


「おはよう、フラン」


 ようやく結論まで至り、おれはゆっくりと目を開ける。


「……え?」


 予想外なことに、目の前にあったのはおっぱいだった。


 そして、おっぱいがあるということは、もちろんそこには本体である女の子がいて、すやすやと寝息をたてていた。しかも、なぜかビキニ姿でだ。……つまり、おれは女の子とひとつのベッドで一緒に寝ていたのだ。


「うぇぇえい!?」


 おれは驚きのあまり、ベッドから飛び起きた。


 なにが起こってるんだ!? おれはどうして知らない女の子と寝てるんだ!? まさかおれはスケコマシ型夢遊病にでもかかっているのか!?


 おれの大声で目が覚めたようで、女の子はむくりと上体を起こす。


「……おはよう、コウイチ」


 え? なんでおれの名前を知っている!? おれのほうはこの女の子のことなんか――と思ったが、この子どっかで見たことあるぞ。


 大きくまん丸な瞳、ぽってりとした下唇、そしてなにより豊満なバスト。この子は間違いなく、超人気グラビアアイドルの牛尾みるくその人だ。

 しかし、おれは牛尾みるくに色々お世話にこそなっているが、面識なんて一度もない。母親は芸能人ではあるが、おれにはその関係の知り合いなんてひとりもいないのだ。

 それなのに目の前の牛尾みるくはおれの名前を呼んだ。これはどういうことか。


「って、あれ?」


 いままで隣に女の子が寝ているという衝撃の事実にばかり気をとられて気づかなかったのだが、この子、肌が緑色でちょっと透けている。いや、肌だけではない。水着すらも透けている。さらに言うなれば、全体的にゲルっぽい。


「……お前、もしかしてフランか?」


 おれは確信を持ちつつ女の子に尋ねる。


「フランの名前は今野フラン。コウイチがつけた。……コウイチ忘れた?」


「いや、しっかり覚えてるぞ。そうだよな。おれがお前にフランって名前をつけてやったんだ」


 少し不安そうな表情になっていたフランを落ち着かせるために、おれは優しくフランの言ったことを繰り返す。すると、フランは安心した様子でうなずいた。


「ていうか、お前しゃべれるの?」


「しゃべれる……。コウイチはしゃべれる?」


「いや、まあ、おれもしゃべれるんだが……」


 しかし、これはいったいどういうことだ? おれはペットを飼いたいと言ったはずなのに、なんでそのペットが牛尾みるくに変身してるんだ!? これは、あのババアを問いつめる必要がありそうだな……。

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