第18話臨時ボーナスだ!色付けとくねー!

 翌日の昼過ぎ、『粉衛門』に『UDN47ぷらすワン』レギュラー十人全員が集まりました。


「皆さん、この約一か月の間、僕がいない状況でよく頑張ってくれました。売り上げも少しずつですがV字回復しつつあります。まあ、ボーナス時期もありますが皆さんが一丸となって助け合った結果です。皆さんに付いてきてくれてるファンは大事にしてくださいね。少しの間、足が遠のいたファンの方にも寛大な心で何事もなかったようにお願いします」


「で?どうなったのさ?あいつらはぶっ潰せそうなのかい?」


「なんなら今から私が乗り込んでじゅうはちゴー!!かますぜ!」


「いえいえ、そこまでやる必要はありません。今日、皆さんに集まってもらったのはこれからお見せするたくさんのリアルを見てもらうためです。その前に皆さん、自分の靴を見てください」


「え、え、え、靴ですか?」


「これは準備期間中に讃岐さんがプレゼントしてくれた業務用の靴ですよね」


「そうです。飲食店は長時間の立ち仕事です。六時間、七時間も立ちっぱなしだと足の痛みは半端ないです。それが毎日だととんでもない苦痛になります。あ、僕の名誉のために。靴と苦痛をかけたわけじゃないですよ」


「なんか寒いですね」


「そうですわね。暖房をきつくしましょう」


「ごめんなさい。そこは謝ります。話を戻しますね。アイドルならおしゃれもしますし、ルックスにも拘ります。ただ、やり方はすべてお任せすると約束した僕からお願いとしてこの『業務用の靴』だけは履いて『粉衛門』では働いて欲しいと言いました」


「そーおーでーすーよーーね」


「そうでしたあ」


「でもこれは讃岐さんの優しさだと思ってましたよ」


「おっかさん。ありがとうございます。立ち仕事はとても大変です。それでも『UDN47ぷらすワン』としてアイドルをしながら皆さんはこの靴だけは全員履き続けてくれました。よくできすぎさん、アイドルを目指しながらホールとしてたくさんの衣装の努力をしてくれてありがとうございます。ぴーてぃーえーさん、『ちーむ父兄参観』のお姉さん役として同じ靴を履き続けてくれてありがとうございます。キューティフルさん、スピードマウスさん、本当にありがとうございます。この靴は『UDN47ぷらすワン』のシンボルです。アイドルも飲食店も長距離ランナーが理想です。その一瞬を、刹那を駆け抜ける美しさもあるでしょう。それよりも僕は全国制覇への果てしなく長い道のりを皆さんと共に歩きたいです」


「ううううううううう!うわーーーーーーーーーーんん!」


「十八号さん、シラフですよね?ハンカチ使います?」


「うっうっうっ…、めがねめがねちゃーん…。ありがとねえーーー。うううう、ぐすぐす、チーーン!はい、ありがと」


 また人のハンカチで鼻をかんじゃいましたよ。十八号さんは。


「それでは今回のリアルを順にお見せします。『一度発言、発信したものは確実に消すことは出来ない』です。『スプラッシュ』の本体は関東を中心に今は全国に店舗展開している激安居酒屋グループです」


 讃岐さんがノートパソコンの画面をメンバーに見せながら株式会社イレブンが展開するお店の各ホームページを見せていきます。


「あれえ。これえ、店名は違いますがあ、料理は全部おんなじ写真ですねえー」


「あの店がこんな料理を出せるわけがないさ。写真も加工だろうね」


「その通りです。そしてあそこは店舗ごとに売り上げを競わせています。まず、各店舗でグループラインがあり、そこで働く人間全員がそのグループラインに強制加入させられています。そしてその上にまた大きなグループライン、『スプラッシュ』を含む、全店舗のアルバイト、社員、社長も加入した人数が多いグループラインにて毎日、決まった時間までに各店舗が、その日の日付、曜日、店舗名、目標金額、実績金額、客単価の報告をします。まあ、見せしめや管理しやすい意味もあるのでしょう。またそれを書き込んだ方のその日の反省点やコメントなども強制的に書かされるようです。これらがそのスクショの一部です」


「あらまあ。正直な方たちですねえ。各店舗の売り上げまで一円単位でアルバイト全員にまで丸わかりですわね」


「ご覧のようにこのグループはメニューややり方は同じで、名前だけは別々にしています。お客さんレベルではこれらが系列店だとは分かりません。またアルバイトレベルでも何故このようなやり方をしているか、本当の意味は分かりません」


「本当の意味とは何でしょう?」


「このやり方なら一つの店舗が不祥事を出しても他のグループ店はダメージを受けません。大手居酒屋などは看板で勝負してますが一店舗が不祥事を起こすとグループ全店舗がダメージを受けます。逆もまたしかりです」


「これだとスクショが残ってますから税金もごまかせないですよね?」


「その通りです。おそらく、ここまで狡猾なやり方をして、短期間で成長した企業です。その辺も叩けばホコリはいくらでも出るでしょう。『疑う』とそうなります」


 そして次から次へとグループラインのスクショが。うわー。えげつないですね。なになに?『代表の池澤雄二です。皆さんの出勤がルーズになっているのが目立ちます。余裕を持って出勤しましょう。また、タイムカードは働く準備が出来てから切るのが基本です。タイムカードを切ってから着替えなどをされてる方が多いです。監視カメラで常に見ていますので徹底してください』?ええええええええ?着替えを監視カメラで見てるんですか?


「おそらく監視カメラは脅しだと思いますが、このスクショだけで十分『迷惑防止条例違反』に『軽犯罪法違反』確定です。証拠がないと言おうが、このスクショは大きなダメージになるでしょう。他にもこんなに人数が多いグループラインの中で個人名をあげての誹謗中傷。これがしっかりとソースのある事実であり、庇いようのない人間に対するものや上の立場の者を諫めるものならまだいいですが、言われた方はグループラインを退会したり、中には強制退会させられていますね。これもひどいですね。恨みを残すだけです。このように大多数の人間の前で個人名を出してネガティブなことを言うことはナンセンスです。ホールの方が『料理の提供が遅い!』や『盛り付けを綺麗にしろ!』と言っても『スプラッシュ』は百席を厨房二人、少ないときは一人で回してたようです。これは厨房の方がちょっとかわいそうですね」


「ひゃ、ひゃ、百席を一人でえええええええええ?」


「少しでも相手のことを考える気持ちがあれば『ああ、厨房の人は忙しくて大変だろうな。人も少ない中でよくやってくれているな。ホールがカバーできることをして力になってあげたいな』の感情が芽生えるはずです。それが『喜怒哀楽』であり、『優しさ』です。水も飲む暇もない厨房の方にそっと氷を入れたグラスにドリンクを注いで、それを見えないところで黙って差し出す優しさがあれば厨房の方も『元気』を貰いますよね。皆さんにはアイドルとしてファンの皆さんへ『元気』を。そして同じ志を持つ仲間でありライバルであるメンバーに対して『喜怒哀楽』をぶつけ合える信頼関係、気の置ける関係をこれからも築いていってください。この一か月の皆さんはそれが出来ました。皆さん、最初に僕が渡したメモ帳を持ってますか?」


 メンバー全員がメモ帳を取り出す。


「今回、僕からご褒美を皆さんにお渡しします。『スプラッシュ』は二、三日で閉店します。これからも頑張っていきましょうね」


「お!臨時ボーナスかい?やったな!みんな!」


「ヒューヒューですうううう!」


「では順番にメモ帳の白紙のページを僕に見せてください。特別に色をつけておきますから」


 真っ先にメモ帳を差し出した十八号さん。そこに讃岐さんがハンコを押しました。


「なんじゃこれ!?」


 十八号さんのメモ帳の白紙のページに『たいへんよくできました』の文字とそれを囲む桜の花びらが…。眼鏡をサングラスに取り換えるめがねめがねさんや両手に包丁を持ち、雄叫びを上げながら派手に舞うアニマルさん。笑いながら何を言ってるのか聞き取れないスピードマウスさんやこの一件が片付き、笑いながら涙を拭うメンバーの姿もちらほらと見えます。結局、讃岐さんは『UDN47ぷらすワン』のメンバーには見せませんでしたが、『スプラッシュ』に店舗視察で来ていた池澤氏が部下の本条氏と閉店後のお疲れ会でアルバイトの女の子を酔い潰して、卑猥なことをしたり、それらを写メで撮っている姿も動画に撮っていました。讃岐さんは翌日、それらの株式会社イレブン及び社長の池澤氏にとって大きなダメージとなるデータと引き換えに『スプラッシュ』の撤退及び金輪際、商売の邪魔をしないことの約束を取り付け、それを破ると大変なことになりますよと。今回の問題を解決しました。藤谷亜紀さんはこの世に存在しません。池澤氏もやり手の方なのでしょうが相手が悪かったですね。

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