第15話「UDN47ぷらすワン」の快進撃!
今日は『粉衛門』のリニューアルオープン日であり、記念すべき『UDN47ぷらすワン』デビューの日でもあります。夕方五時ですね。あれ?お店の前にはたくさんの開店祝いのお花が。すごいですよー。あ!すごくごっついスタンドのお花には『SHIN様より』と。これは嬉しいですねー。お店の中も初日の開店間もない時間なのに席は全て埋まっています。
「すいませーん!こっち生四つね!」
「はい!ありがとうございます」
「君、かわいいねえー。アイドルだって?名前はなんていうの?」
「私の名前ですか?それでは私の眼鏡を取っていただけますか?」
「こう?」
眼鏡を外されためがねめがねさんが両手で手探りしながら言います。
「めがねめがね!あ、眼鏡を戻していただいていいですか?」
「こう?」
眼鏡を再びかけてもらい一言。
「そういうわけで。私の名前は『めがねめがね』です。よろしくお願いします」
「かわいーーーー!俺もやっていい?」
「そうですね。ドリンク一杯につき、『眼鏡取り外し権』をストックするということでいいですか?」
「本当?俺、もう三杯飲んでるから三回権利ストックしてるってことでいいの?」
「そうですね。もちろんこのようにたくさんの眼鏡をご用意しておりますので。その眼鏡にあったリアクションを致します」
そう言って腰に下げたポーチの中に入っているたくさんの種類の眼鏡を、サングラスまでありますね。それらをお客さん、いやファンですかね。皆さんに見せるめがねめがねさん。なるほどですねー。これは面白い。しかも料理まで本日のおすすめと書かれたボードには十五行のメニューが書かれています。「鳥わさ」はもちろん、「ポン酢で食べるマグロのコロッケ」、「浅く〆た真鯖のお造り」、「茄子と茗荷のお浸し」など。「バルサミコ酢ジュレ」の言葉もあります。すごいですねー。これは居酒屋としても個人店としてレベル高いと思います。五十歳を超えた夫婦と讃岐さんのレシピの融合でしょう。提供時間は遅いですがお客さんはめがねめがねさんと触れ合ってます。それにしても初日からこんなに大盛況とは…、あ!奥のテーブル席の四人!SHINちゃんとこーさん、やえさん、そして讃岐さんです!
「いやあ、SHINちゃん!こーさん!やえさん!まさか初日に来てくれるとは!ありがとうおおお!!」
「なあに言ってんのー。私と讃岐さんの仲じゃん!知り合いにもたくさん声かけてるからさあ。メイド喫茶の常連さんや地下アイドルファンもたくさん来てくれると思うよ」
「私も微力ながら声をかけてますので」
「私もですよ」
「うわわああああああん!みんなありがとおおお!今日は奢るから好きなだけ飲んで食べていってねえええ!」
「いや、それは嬉しいんだけどごめんねえ。うちらもこれからお店に戻るからさあ。それにお客さんもこれからもっと殺到すると思うし。なんか前の常連さんも多いみたいじゃん」
「そうなのねー。嬉しいことですよー。あ!めがねめがねさーん!ハイボールをこちらに!」
讃岐さんの声にめがねめがねさんと一緒に前の常連さんも振り返る。
「あーー!讃岐さん!何さぼってんのー!大事な『粉衛門』のリニューアルオープンでしょー!」
「ありがとうございます!!皆さんお久しぶりです!実は僕はクビになりましたので。これからは『UDN47ぷらすワン』がこのお店の店長さんです。日替わりでかわいいアイドルたちが皆さんへお酒やお料理、そして『元気』を提供いたしますのでよろしくです!あ、金曜日担当の『めがねめがねさん』にお会計時、ジャンケンで勝てばお会計は無料になりますよー」
「マジで!」
「この『めがねめがね』さんはジャンケンで負けたことがないそうです」
「そうなの!よし!それなら俺が最初に勝ってやるぞ!」
「それならもっとどんどん食べて飲みましょう!新しい『粉衛門』は前の『粉衛門』にも負けないレベルですよ。うどんだけでも大歓迎です」
「飲食店は座席を提供するサービスでもあるよね。じゃあ、私たちはこの辺で。ごめんねえ」
SHINちゃんたちがテーブル席を次のお客さんのために空けます。
「本当ありがとうね!このご恩は讃岐、一生忘れません!」
「いや頼むから忘れて。『ヘブンズドアー!』、忘れる、と。書き書き」
「あれ?僕何してたっけ?」
「んじゃねー!」
「本当ありがとおおおおお!」
SHINちゃんたちを店の外まで見送り、店に戻る讃岐さん。常連さんに冷やかされます。
「さっきの子もかわいいねえ。誰?新しい奥さん?そういやママは?」
「あの子は僕の行きつけのママさんです。よかったらお店を今度紹介しますよ。うちの嫁は僕と同じくでいったんクビです」
「えええええ…。そうなのお…」
「うちの嫁がアイドルなんて無理でしょう?まあ、近いうちに顔を出すように言っておきますし、皆さんのこともよく伝えておきますので」
「めがねめがねちゃん!こっちウーロンハイね!」
「ちーす!」
サングラスをかけためがねめがねさんがキャラを変えて返事してます。そして常連さんやアイドル目的のご新規様を含めてラストオーダーまで大盛況です。お会計時に全員ジャンケンで負けるお客さんたち。
「勝ち抜き戦でもいいですわよ。団体様なら代表の方だけでなく全員と順番にジャンケン致します。次にご来店いただける時もたくさんの方をお連れになって来てくださいね。八人でも十人でも私が負ければお会計はタダになりますので」
めがねめがねさんが『UDN47ぷらすワン』デビュー初日に記録した売り上げは十二万五千八百二十円。二十四席の個人店でこの売り上げはめちゃくちゃすごいらしいです。
「おおおおおお!さすがだ!この調子で売り上げを伸ばしてくれればめっちゃ儲かる!!」
大喜びの讃岐さんですが、営業中はずっと厨房の奥でタバコばかり吸ってました。
「この売り上げだとダンディさんとマダムさんには仕込みの三時から後片付けまでの深夜0時まで九時間の労働時間になりますから『出来高』より『時給』の方が高くなりますので『時給』でお願いします。『売り上げの三十三%』を三人で割ると一人当たり一万三千八百四十円ですね。『時給』だと二千円×九時間で一万八千円になりますよね」
「はいそうです。夜十時以降は深夜手当で時給も二十五%増しになりますからね。さあ、ちゃっちゃと片付けをして賄いを食べて帰りましょう。本日のおすすめで好きなものを好きなだけ食べて帰っていいですよ。残った食材は『アニキ』として明日の十八号さんのために、お肉は冷凍して、刺身はトレイにキッチンペーパーを敷いてラップ、野菜もそれぞれのところに。あと、明日のうどん出汁のために小さめの寸胴に昆布を浸して冷蔵庫に。ホールと厨房の清掃にゴミ出しですね。これらの指示も全てめがねめがねさんの判断で今後もお願いします」
「分かりました」
この『UDN47ぷらすワン』の勢いはそのまま止まりません!
土曜日の十八号さんと、もともと料理が得意で綺麗なお姉さん二人での三人組もめがねめがねさんとほぼ同じ売り上げをたたき出しました。讃岐さん仕込みの腕前で厨房もホールも出来るお姉さん二人とホールで『個性』を振りまく十八号さんの三人のバランスはすごいです。SHINちゃん同様底なしの酒好きである十八号さん。
「おら!私の酒が飲めねえってのか?全員の酒に付き合ってやるよ!みんなが飲んだ分と同じだけ私は飲むから。つまり、ドリンクは半額ってこと。一杯分の料金で私がもう一杯飲むんだぜー。私を潰せるもんなら潰してごらん!その時はこの三人でじゅうはちゴー!!でじゅうはちキーーーンが待ってるぜえ!」
なるほど。料理の提供時間を「料理よりも酒の注文を多くさせる方法」でカバーしてますね。お酒の原価率は変わってきますがその分、どんどんアルコールの注文が増えてます。
月曜日の『ちーむ父兄参観』も十万円を超えました。すごい数字だそうです。アイドルグループ色を前面に出してホールをスピードマウスさんとみすえっこさんが。厨房をぴーてぃーえーさんが担当しました。ぴーてぃーえーさんは短期間で讃岐さんの料理の知識と腕を相当学びましたね。それでも提供時間は遅いですが料理に一生懸命になりながら、他の天然ドジキャラの二人を監視する役割をすることも引き立てとなりました。早口言葉とスローな言葉遣いを上手く使い分けるスピードマウスさん、計算高いみすえっこさんの『つい庇いたくなる』末っ子キャラも上手くハマりました。まるで『未熟な妹たちをしっかりものの姉が面倒を見る』の構図のようです。
「みすえっこちゃーん」
「(もぐもぐ。ほっぺを膨らませながら)はひ?はんでふか?」
「注文した唐揚げの数が一個足りないんだけど…。お口に入ってるのは何かなあ?」
「へ!たりなひでふは!?」
「みすえっこちゃーん、ちょっといいかなーーーーーーー!」
「まあまあ、ぴーてぃーえーちゃん。大丈夫だよー」
「本当にすいません。追加で二個、今お出ししますので。スピードマウスちゃんもーーー!」
「(もぐもぐ)なーんーでーすーかーあー」
火曜日の『ちーむしーおー2』はその親子版て感じですね。美人のおっかさんが厨房で、おおぼけこぼけさんとキューティフルさんがホールです。おっかさんは割烹着ですね。キューティフルさんも厨房に入ります。お客さんの愚痴を上手に聞いてあげるおっかさんの慰めの言葉はまるで素敵な女将さんです。おおぼけこぼけさん、キューティフルさんに負けないぐらいおっかさんも人気者です。おおぼけこぼけさんは十七歳なので夜十時にはお店を上がりますが残った一時間、お客さんが一番盛り上がるラストオーダーまでの時間を二人で切り盛りします。結果、売り上げは十万円を超えました。すごいですねー。
水曜日のアニマルさんは完全に高級居酒屋です。刺身三点盛りを注文すると十種の刺身の盛り合わせが。これにはお客さんもびっくり!それが九百八十円!刺身は単品で注文されるより店側が自由に出したいものが出せる方のでロスが少なくていいそうです。また、イカやタコ、鯵にしめ鯖やなめろうなど原価の安いものや偏って余りが出そうなものやサービスに回してしまうものも無駄なく使うことで可能だそうです。酵素製剤を使ってとろとろに柔らかいローストビーフや天ぷら盛合せも料亭のようです。そして提供時間も早いです。加熱が必要なものはお客さんに見えないところに設置された電子レンジを使ってます。天ぷらで三分かかるカボチャも電子レンジ六百ワットで五十秒加熱すると箸で刺すと、スッと食べられる柔らかさになっているのが分かります。その応用で時短出来るものは全て時短してます。
「とにかく『ハマらない』ことさ」
ハマるとは一つの料理に時間を取られて、注文がどんどん溜まっていくことだそうです。職人顔負けの仕事をカウンター越しに見せるアイドル(と言っても本当は四十歳の男性ですが)にお客さんも大騒ぎです。
「アニマルちゃんすごいねー!どこで修行したの?讃岐さんより美味いよ!!」
「しゃー!おりゃー!うぃーすっ!」
決めのアニマルポーズは喜びの印です。『個性』となる背番号50と「ANIMAL」と野球のユニフォームをイメージした制服。オーバーフォーティーの野球好きのお客さんにはピンときたようですね。
「ああ!アニマルちゃんの名前の由来はあの人からかー!」
ホールの真面目で地味な『まじみ』ちゃんの素朴さと仕事の早さもお客さんには好評です。売り上げは十三万円を記録しました。めちゃくちゃすごいです。
そして木曜日のよくできすぎさんと讃岐さんのコンビは圧巻です。『UDN47ぷらすワン』のレギュラーよくできすぎさんがホールで厨房は讃岐さんでした。両方が弾けてます。かわいらしいルックスで仕事も早く、どのお客さんにもバランスよく対応しながら『ちょっと近すぎるんじゃない」というぐらいまで顔を近づけて満面のスマイルゼロ円。時に踊りながら、時に歌いながら、料理の乗ったお皿をバランスよく両手で運びながらのパフォーマンスにおひねりが飛びます。ものすごいスピードでごつい料理を提供しながら余裕をかましている讃岐さんが言います。
「名前通り、よくできすぎさんは普通にテレビに出ててもおかしくないと思いますよ。『UDN47ぷらすワン』の中でもアイドルの要素だけを見ると…。この一週間で『UDN47ぷらすワン』第一期生レギュラー十人をお見せしましたよ。どの子も『個性的』で魅力的でしょう?全員彼氏はいないそうですよ。『恋愛自由』のルールですし、押しに弱いかもしれませんねー」
「え!そうなの?よくできすぎちゃん!?」
「はい。そうですわ。私は皆さんに『元気』を届けられるアイドルを目指してます。ずっとそんな夢を追ってきました。皆さんに『元気』を。それが私の幸せです。それ以上の幸せを感じることが出来るなら、恋愛してみてもいいのかな?とは思っています」
「じゃあ!俺と付き合おうよ!」
「いや!俺と!」
「お、おじさんとデートしよう!」
「今はまだ、皆さんとお知り合いになったばかりですから。これから私のことをたくさん知ってください。皆さんのこともたくさん知りたいと思ってます。それに他のメンバーにも私より魅力的な方たちがたくさんいます。私たちをもっと知ってくださいね。私たちも皆さんをもっと知って、お近づきになりたいと思ってますので。とりあえず、最初は『集団デート』で行きましょうね」
「はーい!」
木曜日の売り上げは十八万円超えました。これは讃岐さんの力が大きいと思いますが、よくできすぎさんもかなりの注文を取りましたし、讃岐さんの足を引っ張るどころかホールとして素晴らしい仕事をされたからの結果であります。
と、こんな感じで讃岐さんのアイデアで始まった『UDN47ぷらすワン』はみるみるとその名を売り出していきました。もともとの常連さんに加え、SHINちゃんの紹介で来たご新規さんや地元の噂やメンバーの私生活での地道な広報活動などで客足は増える一方です。毎日くる常連さんやある程度、曜日を狙って通う常連さん、推しを決めてお金を使う常連さん。日によってうどんの味も変わるようです。高級な鰹節から出汁をとる方もいれば業務用の安い出汁パックを使う方もいるようです。機械を使って麺を切る方もいれば、自分の手で専用の包丁を使って切る方もいます。茹で時間を短縮し、かつ、ロスをなくすため冷凍麺を使っている方もいますね。美味しければいいのでしょう。日曜日の補欠枠もコツコツと結果を出しています。高齢者をターゲットにした『のど自慢お茶会』は日曜日午前中の枠から平日午前中枠への拡大も検討中らしいです。
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