第11話十八号さん!みんなで乾杯だ!

「おっはよーございまーすぅ!」


 みすえっこさんが一番乗りでお店にやってきました。


「おはようございます。みすえっこさん。僕も今さっきお店に来たばかりです。グッドタイミングですね」


「そうなんですかあ。いえーい!あ、讃岐さん。昨日、あれから同じトリオになったぴーてぃーえーさんとスピードマウスさんと三人でファミレスでいろいろ打ち合わせしたんですぅ」


「それは素晴らしい。早速チームメイトと打ち合わせですね。何か有意義なお話は出来ましたか?」


「はいい!とってもお!で、これお願いしますぅ」


 みすえっこさんがファミレスの領収書を出してきました。


「清算ですね。これはこれは。あれ?ドリンクバーと軽いおつまみだけですね。もっと食べてもいいんですよ。まあ、皆さんのやり方がありますからね。ではこちらで預かっておきますね。今日の帰りの時に時給も含めて清算しますね。これはみすえっこさんが立て替えたのですか?」


「そおでえすぅ。ジャンケンで負けてしまいましたあ。めがねめがねさんに今度必勝法のコツを教えてもらいますぅ」


 そんなこんなで二日目も二時前には『UDN47ぷらすワン』第一期生レギュラー十名全員が『粉衛門』に集まりました。学校とか大丈夫なんでしょうか?あ、学歴不問ですもんね。


「えー、それでは本日の予定を説明しておきます。僕も全員がこの時間に揃うと思っていませんでしたが、ちょうどいいです。最初にやっておきたかった『座学』を今日はやりたいと思います。メモ帳と鉛筆はこちらで用意してます。客席に座って僕の話を聞いてください。お手洗いやタバコも自由です。『座学』すなわち、『座ってお勉強』ですので居眠りされないよう僕も気を付けますので、皆さんは少しでもためになると思ったことはメモを取ってください」


「座ってるだけでも時給はもらえんの?」


「もちろんですよ。十八号さん。もちろん途中で『これは時間の無駄』かなと感じたり、予定のある方は帰るのも自由です」


 そう言いながら讃岐さんがめがねめがねさんの眼鏡を取り外しました。


「ああ、めがねめがね」


「ナイスリアクションありがとうございます。眼鏡はお返ししますね。それとめがねめがねさん。このメモ帳と鉛筆を皆さんに回してください。ドリンクはこちらで提供します。メニューから皆さんお好きなものをお選びください」


「それでは私がこのメモ帳に皆さんのファーストドリンクの注文を取りますね。私はウーロン茶を頂きます」


 よくできすぎさんが率先して『粉衛門』のドリンクメニューが書かれたラミネートされた定番メニューをカウンターに取り出し、見えやすいように置いてくれました。


「ありがとー。じゃあ、私もウーロン茶がいいかな」


 おっかさんもウーロン茶。


「あたしコーラ!」


「スピードスターさんは『コーラ』でいいですね?私も『コーラ』でお願いします。みすえっこさんは何にします?」


 ぴーてぃーえーさんが同じトリオを上手くまとめていますね。


「えええっとおお。私もコーラでお願いしますぅ」


「私は生!ん?ダメなんかい?」


 十八号さん、昼間からビールですか!


「いえ、アルコールでも支障がない方は全然いいですよ。まあソフトドリンクもアルコールもいろんな種類がありますがそこに『個性』はあんまりいらないですね。好きなものを選んでください」


「お二人は決まりましたか?おおぼけこぼけさんは未成年なのでアルコール以外でね」


「ありがとう。おっかさんと同じので私もいいです。おおぼけこぼけさんはどうする?」


「じゃ、じゃ、じゃあ、私も同じトリオ仲良く同じものでお願いします」


「私はノンアルコールビールを貰おうかな。飲みたいけど運転あるし」


「あら、私が最後ですね。それじゃあ私も生をお願いします」


 めがねめがねさんも昼間から生ですか!よくできすぎさんがメンバー全員の注文を書いたページを破り取り、讃岐さんに「お願いします」と差し出しました。讃岐さんが手早くサワー用のグラス七つを取り出し製氷機から氷をグラスに入れ、カウンターに並べます。そして冷水器からコーラが入った小瓶を三本取り出し、それをタオルでよく拭き水気をとってます。


「まずはコーラの方ね。カウンターに置きますので後はセルフでお願いします。次がウーロン茶四つですね」


 そう言って、冷水器から冷えたペットボトルの業務用ウーロン茶、スーパーなどで売っている安い二リットルのやつですね。それをタオルで水気をとり、氷の入ったグラスにとくとくと注ぐ。


「あ、普段はお客さんに見えないようにやってますからね。ソフトドリンクは原価が安いので儲かります。グラスが大きくても原価ほぼゼロ円の氷を大量に入れてありますので。ファミレスのドリンクバーが何故飲み放題なのか。あれだけ安いのに設けが出せるのか。ソフトドリンクは原価が安いからです。その気になれば炭酸ジュース、コーラなんかはいくらでも下げられます。ただ『瓶のコーラ』は信用がありますので。だから『粉衛門』のコーラは瓶のものを使っています。はいウーロン茶四つです。後はセルフでお願いします。それから生が二つとノンアルビール、つまり瓶ビールですね」


 説明しながら冷水器から冷えたノンアルコールビールを取り出し、同じようにタオルで水気をとり、栓抜きシュポッ!カウンタにドン!そして手酌用に小さなグラスを同時にトン。


「瓶ビールは栓を抜くだけです。すぐに提供出来ます。あと生が二つですねー」


 冷凍庫から冷えたジョッキを二つ取り出し、ビールサーバーから生ビールを。ジョッキを上手く傾け、最初は黄金の液体が溜まっていき、仕上げに泡をギリギリまで注いでます。それを二杯分作りました。


「はい、生二つ。瓶ビールの方が提供は早くて楽なんです。それにうどん屋には冷水器が必ずあります。釜で茹でたあちちなうどんを冷水でしめるためです。うちのお店の冷水器は九十リットルの水が常に四度に冷やされてます。先ほど生のグラスを冷凍庫で冷やしてましたが、冷水器があれば『冷えたジョッキが足りない!』な時もグラスを冷水器にぶち込めばすぐに冷えたジョッキが用意できます。うどん屋には魔法の水槽が二つあります。その一つが『冷水器』です。この応用はまた次の機会にお話しします。では『座学』を始める前に『乾杯』をしましょう。記念すべき『UDN47ぷらすワン』の成功を祈って。僕はウーロン茶です。乾杯の音頭は…」


 讃岐さんの言葉を十八号さんが遮ります。


「よっしゃ!みんな!グラスは手元にあるね!『UDN47ぷらすワン』の船出だ!景気よく行こうぜ!ほい!次!おおぼけこぼけちゃんにパス!」


「え?私にパス?ですか?え、え、え、頑張ろおおおお!それではおっかさんにパスです!」


「皆さん素敵です。この出会いに感謝して。それではキューティフルさんにパスしますね」


「全国制覇狙います!そしてセンターも狙います!みんなライバルと書いて『友』と読みましょう!アニマルさんにパス!」


「なーんか悪かないね、この『熱さ』は。目指せ!月収一千万!ぴーてぃーえーさんにチェストぉーーーーパス」


「人気もお金も料理も一番になりますわ。でも今はどれも足りてないのも事実です。マラソンも最後からまくるタイプです。共に頑張りましょう。みすえっこさんにパスですわ」


「私ですかあ?『UDN47ぷらすワン』初代レギュラーの名に恥じない活躍をしまあす!ほい!スピードマウスさんにパス!」


「ありがとござます!こういうのは……、ちょっと変かもですが皆さんが好きです!よろしくです!よくできすぎさんにパスです!」


「一度は諦めたアイドルです。今まで何度もオーディションを受けましたがアイドルにはなれませんでした。『運』がないとダメだと思ってました。でもこれは必然と考えます。全国制覇と行きましょう!日本一狙います!それではめがねめがねさんにラストパス!」


「皆さんが繋いでくれたこの思いを試合時間残り一秒、決まれば逆転のスリーポイントシュート。私が放ちます。このシュートが決まるかどうか。外れれば決まるまで何度も投げるだけです。皆さん、『UDN47ぷらすワン』にかんぱあああああああああああい!!」


「かんぱあああああああああああい!!」


 メンバー全員が笑顔で乾杯です。あー、いいシーンですねえ。あれ?讃岐さん。いじけてタバコ吸ってますね。


「とっておきの決め台詞を用意してたのに…。ま、いっか」


 あー、讃岐さん飛ばされちゃったんですねー。でも讃岐さんは『UDN47ぷらすワン』のメンバーでもないし、「働きたくない」からの歪んだ動機ですもんねー。ボコッ!

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