第10話え?男の娘だったのですかー?

 いやあ、今日はお疲れさまでした。讃岐さん。それにしても準備期間も水曜日はお休みにするってことは「ダブルゼータ」のSHINちゃんのためですね?ピシッ!痛い…。しっぺをされました…。


「水曜は魚屋が休みなんだよ。俺は『粉衛門』を継いでから魚も出すようにした。刺身は店の『格』を上げてくれるんだよ。まあ、SHINちゃんは…。これは…。運命を感じる!」


 ほらあ。でも水曜日に魚屋さんがお休みとは知りませんでした。


「正直、二週間じゃあ俺の腕と知識をメンバーに教えるには全然足りねえ。優先順位を付けて基本の基本から教えていかねえとだぜ。うーん、アニマルとおっかとぴーてぃーえーはその辺大丈夫だと思ってんだけど。めがねめがねとよくできすぎと十八号も覚えは早いと思う。まあ、オープンしても俺が手伝えば最初は大丈夫だろ?働きたくねえ俺の考えに反するがな」


 そうですよねえー。讃岐さんは働きたくないからこんな面白いアイデアを考え付いたんですもんねー。それにしても最近の讃岐さんはめちゃくちゃ働き者ではないでしょうか?


「そうなんだよ。なんで俺がこんなに働かなきゃいけねえんだよ。体重も減る一方だぜ。プール通いも節制した食事制限もやめたのに今は体重六十八・八キロだぜ。いろいろ食べ歩きや試作もしてるにも関わらずだ。まあ、ダイエット前に寝る前に甘いもんやスナック菓子をバクバク食っていたのをやめたのもあるがな」


 そんな生活を送ってたんですか。へえー。それにしても今日の『返し』を作っている姿は讃岐さんの職人を思わせるものでした。


「まあオープンまでの二週間は『返し』を寝かせる期間だからな。『あったかいつゆの返し』は一週間も寝かせれば十分だが、『冷たいつゆの返し』は二週間寝かしたい。先代のジジイからの教えだぜ。他の店もいろんなやり方があると思うが『粉衛門』はジジイのやり方でやる。だから二週間だ。それにしても料理をしない子は薄口醤油と濃口醤油の違いも知らないのか。まあ、俺も最初は知らなかったから同じだけど」


 確か色が薄い濃いで名前をつけていると思うのですが塩分濃度は薄口の方が高いんですよね。


「それにうちの『返し』は砂糖ではなくザラメを使っている。みりんも合わせて数字さえ間違わなければ誰がやっても同じ味が出せる。それが料理だぜ。しかも他の店はみりんを大量に使っているところもある。やり方はいろいろあると思うがみりんは高くつくからな。ジジイのやり方は一番だと思うぜ」


 『粉衛門』のあったかいつゆの『返し』は薄口醤油十八リットル、みりん一・八リットルを寸胴に入れて九十五度、沸騰寸前で火を止めてました。そしてそこにザラメを三キロ入れ、よく溶けるように五十回ほど業務用の柄杓でかき混ぜてました。そして十分後にもう一度、三十回ほどかき混ぜてました。冷たいつゆの返しは濃口醤油十八リットル、みりん一・八リットルを同じように。加えるザラメは四キロでしたね。そして徹底していたのが「『返し』には一滴も水をいれない」でした。


「まあ、それも砂糖をお湯で溶いて混ぜる店もあるし、一滴でも水が入ると腐ると言う人も多いな。だから『返し』を入れたかめは絶対に水が入らないように保管する。基本中の基本」


 勉強になります。メモリますね。メモメモ。


「まあ、正解はないが正解だ。数字は店によって本当に変わってくるぜ。『返し』をあったかいつゆ、冷たいつゆ兼用にしてる店もあるし、薄口醤油と濃口醤油を混ぜている店もあるぜ。保管の仕方も徹底して店の床に穴を掘って埋めている店もあるんだぜ」


 メモリます。メモメモ。


「そんなことより、もっと基本の基本の基本をあいつらには教えていかないとな。あいつらはアイドル『UDN47ぷらすワン』だが、飲食店も同時に行う。食品衛生の知識や防火の重要性を真っ先に教えてえ。教えたいことは山ほどある」


 そうなんですね。私も新しいメモ帳を買っておきますね。それにしても気になるのが…。どうしよう…。うーん…。


「ん?なんだ?今日は特別に何でも聞いていいぜ」


 本当ですか!?実はあのレギュラー十名の実年齢が知りたいんです。あと性別もです。SHINちゃんが男の娘と聞いた時の衝撃は今でもありまして…。


「参ったなあ…。それを聞いてくるか…。守秘義務の約束をしたこともあるし…。何でも聞いていいと言ったのも事実だし…。ま、いっか。お前から漏れることはねえしな。一度だけしか言わねえぜ。めがねめがねは二十歳。アニマルは四十歳。よくできすぎは二十四歳。スピードマウスは十九歳。みすえっこも十九歳。おおぼけこぼけは十七歳。十八号は二十五歳。キューティフルは二十一歳。おっかは三十八歳。ぴーてぃーえーは二十五歳。アニマル以外は全員女性。以上」


 ま、まじですか…。アニマルさんが四十歳で男性だとは…。最年少がおおぼけこぼけさんでおっかさんが三十八歳…。十八号さんとぴーてぃーえーさんが同い年なのもびっくりです。


「そこはもう自称でいいんだよ。めがねめがねが男の娘と名乗るのも自由。十八歳と名乗るのも自由。アニマルなんか二十八歳でも通用するんじゃねえの?お前、俺が四十歳に見えるか?」


 そうですねー。讃岐さんは美しいし、二十代後半と言っても通用しそうですもんね。SHINちゃんもアラサーには絶対見えませんし。二十代後半なんですかね?


「お前、絶対言うなよ。SHINちゃんは三十四歳だぜ」


 えええええええええええええええええええええええええええええええ!


「まあ、明日からの準備期間であいつらのことも俺はもっと知りてえ。逆に教えたいことも山ほどある。楽しみだぜ。お店の準備に金は結構かかってるが、これからもかかる。それにあいつらが全員俺の言った昼の二時から夜八時まで来てくれたら一人二千円×六時間で一万二千円+交通費だぜ。十人で一日十二万を超えるんだぜ。二週間後まで水曜日二日を引いても十二日。十二万円×十二で百四十四万円だぜ。それプラス補欠枠の時給も二千円で九十人としても十八万+交通費。目眩がしそうだぜ。ハイスペックのVRがサクサク動くパソコンが五台買えるぜ。このお尻がプリンプリンの美少女フィギュア『レビータン』が八十体…。おおおおおおおお…。具合が悪くなってきたぜ。俺はもう寝る」


 例え方もすごいですね。この『レビータン』は一体二万円ぐらいするんですね…。台座に固定され、お尻を突き出し、まるみーえな格好で両手でえちえちなところを広げています…。眠りにつく讃岐さんが充電器に刺したスマホの画面ですが…、覗き見防止フィルターで今まで気が付きませんでしたが二次元美少女がお尻を突き出した壁紙です…。讃岐さん…。信じてますよ…。

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