第9話早口の人が早口言葉にチャレンジすると?

 『UDN47ぷらすワン』一期生レギュラーの十名は店内の椅子に座って讃岐さんの話を聞いてます。


「では順にメンバーをご紹介していきます。これから皆さんが仲良く競い合うメンバーですので。曜日の振り分けはまた後でご説明します。まず、めがねめがねさんです」


 讃岐さんが眼鏡の子に手を向けて他のメンバーに分かるよう言います。


「めがねめがねさんは『計算高さ』を評価しての結果になります。『ソロ』でお願いします。あと、『ジャンケンの必勝法』を知っていますね」


 讃岐さんの最後の言葉にメンバーの視線が「めがねめがね」さんに集まります。


「そうですよね?めがねめがねさん」


「はい。ズルいかなとは思ってましたがいつも使っています」


「ジャンケンで常勝するには『後だし』しかありません。それを可能にするには常人離れした『動体視力』と『反射神経』が必要になります。それを長年の経験でものにしたのでしょう。普通に『後だし』をしてもバレます。『ジャンケン』の掛け声で手を上下させ、『ポン』で上から出す基本的なフォームでめがねめがねさんはジャンケンをしています。ギリギリまで相手が何を出すか見ています。また、それに対応できるよう手を『パー』と『グー』の中間である半握りにしてます。そこから相手の手を見ても上手くやらないと『後だし』はバレます。そしてこれが肝心です。めがねめがねさんは『ポン』で手を出した瞬間に振り下ろした手を一瞬、上にあげてます。その瞬間に自然と手を変えてます。振り下ろした時に変えるのではなく、振り下ろして止めて、一瞬上にあげる。その動作は普通に見えますがそれを身に着けるのにものすごい努力をしたと思います。どうですか?めがねめがねさん」


「バレちゃいましたか。そうですね。讃岐さんのおっしゃる通りです」


「めがねめがねさんの引き出しがどれだけあるのか、今は僕にも分かりません。しかし、ジャンケン必勝法を身に着けている時点で僕の中では『めがねめがねさんなら飲食店やアイドルにも上手く対応し、結果を出せる』と判断し、レギュラーで『ソロ』と決めました。次にアニマルさんです。あ、今は面接順と言いますか。一次選考会で僕にアピールをした順番で紹介しています。アニマルさんは一次選考会初日の二人目のレギュラーです。順番はめがねめがねさんが一番でした」


 讃岐さんがバイクの方に手のひらをむけて話を続けます。


「アニマルさんのあだ名の由来は元プロ選手の助っ人外国人からです。アニマルさんは『料理の腕、知識』で選びました。どこでその技を身に着けたかは知りませんがとても高い技術を持っていると僕は感じました。アニマルさんは『ソロ』でやってもらいます」


 それを聞いてアニマルさんが右手で手刀を作り、その場で振りかざしてます。


「あれはアニマルさんのあだ名の由来になった元プロ野球選手の助っ人外国人の方がやっていたパフォーマンスです。それは『アイドルとしての魅力』にもつながると僕は感じました。次に二日目で最初にアピールされたよくできすぎさんです」


 讃岐さんが黒髪ストレートのかわいらしい方に手のひらをむけます。


「よくできすぎさんは本当に出来過ぎだと感じました。『計算高さ』と『アイドルとしての魅力』を同じぐらい高いレベルで持っていらっしゃると僕は思いました。『ソロ』でお願いします。料理の部分は希望されるなら僕がカバーしますし、他の誰かに任せるも適当にするのもお任せします。売り上げが出せるならその辺の安い市販のジュースを一杯二千円で売ってもいいです。ただしぼったくりは止めてくださいね。できすぎさんのさらに上のレベルと言いうことでよくできすぎさんです。次にスピードマウスさんです。」


 讃岐さんがショートカットでそばかすの子に手のひらをむけます。


「あたしですか?」


 ものすごい早口です。


「そうです。早口なのでスピードマウスさんです。『アイドルとしての魅力』ですね。その早口は立派な『個性』になると思いました。僕は一つだけ疑問に思っていることがあります。『早口の人が早口言葉を言うとどうなるのだろうか?』です。スピードマウスさん。一度『生麦生米生卵』と早口で言ってみてくださいますか?」


「えっと、なーまーむーぎー、なーまごーめー、なーまーたーまーご」


「もっと早く。いつものように」


「なまむっ!なまぎ!なぐみ!なまぐび!」


「あ、もういいです。長年の疑問が解消しました。ありがとうございます。スピードマウスさん。これからはそのキャラクターを上手く活かしてください。最初にゆっくりと言おうとしたことと何も考えずに早口で言おうとしたのを上手く使い分けてください。それだけで魅力になると僕は思ってます。スピードマウスさんは『トリオ』です。次にみすえっこさんです。先ほどご質問を頂いたのでどなたかはお分かりですね。同じく『アイドルとしての魅力』で選びました。みすえっこさんは小柄で愛くるしいです。末っ子みたいだと僕は感じました。それで『ミスター末っ子』の言葉が頭に浮かび、アイドルなので『ミスター』ではなく『ミス』の方がいいと思い、『す』が被るので一個抜かして『みすえっこ』さんに決めました。みすえっこさんは天然っぽいところが魅力だと思いました。『トリオ』でお願いします。スピードマウスさんと同じトリオに入ってもらいます」


 スピードマウスさんとみすえっこさんが不思議そうな顔とよろしくねの顔が混ざった表情で顔を見つめ合っています。


「次におおぼけこぼけさん。あなたが一次選考会二日目の最終合格者になります。おおぼけこぼけさんは『アイドルとしての魅力』を感じたので選びました。あと『計算高さ』も感じました。そのドジっ子キャラを計算で演じているなら大したものだと思います。計算ではないのかもしれません。現時点で僕にはどっちなのかは正しくは分かりません。ただ、大きな武器になると思いました。『トリオ』でお願いします。しかし、『アイドルとしての魅力』の三人をトリオにするにはバランスが悪くなります。スピードマウスさんとみすえっこさんとは違うもう一つのトリオでお願いします。次に十八号さんです。一次選考会三日目最初の合格者です。『計算高さ』で選びました。あとその素敵な見た目と強気で男っぽい話し方も『アイドルとしての魅力』であると思いました。やり方は任せます。『ソロ』でお願いします」


「おう!まかしときな!じゅうはちゴー!!がやってやんよ」


「期待してますよ。現時点で『ソロ』の四名は確定しました。残った三名は『トリオ』でお願いします。ご紹介とあだ名の由来とどなたとトリオを組むかを言っていきますね。次はキューティフルさんです」


 讃岐さんが黒髪でセミロングの子に手のひらをむけます。『ソロ』でないことに少し不満を持っているように見えます。


「キューティフルさんは『アイドルとしての魅力』がずば抜けていると感じました。見た目とツンデレっぽいところが魅力です。大人っぽい魅力もあります。なのでビューティフルだと思いました。同時に髪の毛も綺麗で素敵です。キューティクルとかけてキューティフルさんです。その他の部分は現時点であまり感じませんでした。おおぼけこぼけさんと同じトリオに入っていただきます」


 キューティフルさんがおおぼけこぼけさんに向かって右人差し指と中指をくっつけてよろしくのピースサインをおでこから手首を曲げて送ってます。いい子ですね。おおぼけこぼけさんも笑顔で両手を胸の前で振ってキューティフルさんに応えてます。


「次におっかさんです」


 讃岐さんが少し年齢高め(三十代なのかな?二十代後半ですかね?)の給食センターの制服のような白い服にエプロンをした方に手のひらをむけます。


「おっかさんは一次選考会三日目の最終合格者です。一番の魅力は『料理の腕、知識』です。また、その見た目であるお母さんぽいところもいいと思いました。なので田舎のおかあさんぽいのでおっかさんです。おおぼけこぼけさんとキューティフルさんと一緒にトリオでお願いします。おおぼけこぼけさんの今は分かりませんが『計算高さ』と『アイドルとしての魅力』とキューティフルさんの『アイドルとしての魅力』とおっかさんの『料理の腕、知識』を上手く協力し合って最大限発揮して『ソロ』を脅かす存在を目指してください。もちろん、結果次第で『トリオ』から『ソロ』になることもあります」


 キューティフルさんがおおぼけこぼけさんに送ったのと同じようによろしくのピースサインをおっかさんに、おおぼけこぼけさんも笑顔で両手を胸の前で振りおっかさんに。おっかさんも両手の拳を握って頑張ろうねのガッツポーズを二人に送ってます。


「残った最後の方がぴーてぃーえーさんです。ぴーてぃーえーさんは一次選考会終了後に応募していただき、魅力を感じたので追加合格として『UDN47ぷらすワン』一期生レギュラーに選びました。今後も募集は続けていきますので追加、入れ替えは随時あるということです。ぴーてぃーえーさんの魅力はその名の通り大人っぽい魅力です。『アイドルとしての魅力』と『計算高さ』と『料理の腕、知識』をバランスよく持っていると感じました。ただ、バランスはいいですが一つ一つの力でずば抜けているものは今の時点では感じられません。逆に言うと『ソロ』になれる潜在能力も十分に持っていると思います。『アイドルとしての魅力』を持つスピードマウスさん、みすえっこさんとトリオを組んでやってもらいます」


「うわあー!皆さんよろしくですう!」


 みすえっこさんがスピードマウスさんとぴーてぃーえーさんに向かって気さくに元気よく声をかけてます。


「こちらこそよろしくね。みすえっこさん、スピードマウスさん、一緒に頑張りましょうね」


「よろくす!足ひぱらないよに私も頑張りす!」


 スピードマウスさんは本当に早口ですねえ。それにしても『UDN47ぷらすワン』一期生レギュラー十名はとても魅力的な方が集まりましたね。素晴らしいです。私の推しですか?うーん…。今の時点ではちょっとまだ決めかねますね。讃岐さんの説明が続きます。


「それでは今日のこれからの予定を話しておきます。まずは皆さんの採用は決定しましたのでこれから一人ひとり、契約をしていきます。お伝えしたハンコはお持ちですよね?はい。僕は皆さんを雇用することになりますので皆さんの個人情報をお聞きすることになります。もちろん守秘義務で他言はしません。本名、これは確認の意味です。年齢、本人を確認できる身分証の確認、性別、住所、連絡先、国籍。あとは時給制か出来高制かの選択です。軌道に乗るまで時給制で途中から出来高制に変更も自由です。もちろんアイドルであり、活動は名前もあだ名で、年齢も表向きは詐称でいいです。性別や国籍も同じくです。これらは僕と一対一でやりますので他の皆さんは自分の順番までお待ちいただくことになります。もちろん本日の時給二千円は発生しますので。一分単位でお支払いします。売り上げの三十三%を希望されてもお店が開始するまで売り上げは発生しませんので。今日の集合時間から、もちろん、どなたが何時何分にこの場所に到着したかも全部記録として残してます。その時間も一分単位で時給はお支払いします。さすがに家を出る時間までは分かりませんので。そこは申し訳ありません。交通費も同じくです。住所が分かれば金額は出せますのでお支払いします。契約が終わった方はお帰り頂いてもいいです。このお店、あ、遅くなりましたが『粉衛門』と言います。『粉衛門』がオープンするのは今日から二週間後です。この二週間を準備期間とします。僕は水曜日以外、オープンまでの間は毎日昼の二時から夜八時までここにいます。僕に教わりたいことがある方はいつでも来てください。もちろん時給二千円と交通費はお支払いします。あと、追加ですが準備期間の二週間のうち二日間だけは水曜とは別でお休みを頂きます。その二日間は補欠枠の方に使わせて頂きます。二週間後のオープンまでの準備期間の使い方もお任せします。自由に使ってください。食べ歩きやアイドル活動の準備に使ってもいいですよ。領収書も活動の一環として認められる範疇まではお持ちいただければ後日早めに清算します。今日は契約の後、うどんの基本である、『返し』を作ります。それを見学して帰るもいいですし、見学せずに契約が終わればそのまま帰るのも自由です。ご質問のある方?」


 『UDN47ぷらすワン』一期生レギュラーの十名がそれぞれ周りを見渡しますが手を上げる方は誰もいません。


「では順番に契約からいきましょう。めがねめがねさんからやりましょう。申し訳ございませんが他の方はお店の中を見学するなり自由にしててください。タバコもご自由にどうぞ。携帯もどうぞご自由に。ただし、契約は一対一なので少し離れていてくださいね」


 その後、讃岐さんは一人ひとりと契約を結んでから、うどんのつゆに必要な『あったかいつゆ用の返し』と『冷たいつゆ用の返し』の作り方を実演し、レギュラー十名に本日のお給料をその場で交通費も含めて手渡し、『UDN47ぷらすワン』の最終選考会兼最初の活動を終わらせました。

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