第7話てめえらの乳は何カップだあああああ!

 そして舞台は秋葉原「ダブルゼータ」です。讃岐さんとSHINちゃんが盛り上がっています。


「あっはっはー!さすがSHINちゃん!そこにしびれる!あほがでるぅー!」


「いや、あほかい!」


 このかわいいSHINちゃんは男の娘なんですよね…。いつものようにハイボール連発でお祭り騒ぎであります。結局あの後、三回に分けて行われた一次選考の三回目が今日の先ほど終わったのです。しかも二回目の一次選考会は会場が夜のお墓でアピールの順番を決めるのも「あみだくじ」だったですし。今日の三回目の一次選考会は会場どころか、大型バスを借りてきて都内を走りながらだったし、順番も「ビンゴ」で決めてましたし。大型バスなんて一番最初の子はアピール終わっても結局最後まで待たないとだめだったじゃないですか。あ、ちゃんと防御してますよ。痛っ!目潰し…。


「さあ、この第一次選考会で結構面白そうな子が何人かいたんだよねええ。レギュラー六人を選ぶのが難しいねええええ。きゃああああああああああああ!嬉しい悲鳴」


「どれどれ?私が紹介した子とかどうだった?つーか、話はいろんな子にいったと思うけど、誰が応募したかは知らないんだよねー」


「いや、SHINちゃんがいなかったらこんなにも応募者は集まらなかったよおおおおおおお!お願いハイボール!」


「あざまーーーーーす!」


「僕にも『SHINちゃんすぺっしゃる89』のおかわりくださいな」


「さー!家!さー!」


「とりあえず、応募してくれた子は全員採用するつもりなのね」


「へえ、そうなんだ」


 『SHIN様すぺっしゃる89』を作りながら返事をするSHINちゃん。かなりのハイボールを飲んでいるのに、テキパキと動きながらも話を聞きながら返事もしっかりとしていますね。


「補欠枠の日曜日に一時間二千円を百人に払っても二十万でしょ。十人ずつ十組に分けても十時間で何か商売は出来るでしょ?甘いかな?」


「いや、讃岐さんがバックアップすれば利益出ると思うなあ。はい。『SHIN様すぺっしゃる89』お待たせ―!」


「カンパーイ!」


「はざまかんぺーーーーい!でもさあ、今日は大型バスまで借りたんでしょ?結局何人の応募があったの?」


「それは今もポロポロ電話はなってるからまだ未確定だけど。今日の時点で応募者は百三十一名。バックレは二十五人。日程変更を繰り返してる子が三人。まあこの三人はノーチャンスでいいかな。なので現時点で百三名」


「すげえええええええ!今どき、どの求人に出してもそんな数は集まらないよ。普通は」


「いや、アイドル目的が大半だったし。何よりもSHINちゃんのおかげですよおおおおおおおおお!」


「いや、それだけじゃあ無理だって。やっぱ、讃岐さんのアイデアだよ。で、なんで土砂降りの公園に夜のお墓に大型バス?」


「あ、それはタバコが吸えればどこでもよかったんだけどね。ほら、あれ。『事件は会議室で起こってんじゃない!給食室で起こっているんだ!』のやつ」


「給食室って!求職だけにかい?」


「SHINちゃん!ごめんね!そこは僕の名誉にかけて。かけてないからね」


「分かってるよーん。だいじょぶよーん。ほら、チチ触る?」


「てめえらの乳は何カップだあああああああああああ!え?Jカップ?A、B、C、D…H,、I、J…Jカップ!?」


「おまえらの血は何…!?え?ABのRHマイナス?的な?がはははは!!」


 本当面白いですね。この二人。


「でね、僕がガチで逆の立場だったら初日は選ばないよね。偵察送るかな?何をやるのかが分かれば傾向と対策を事前に考えることが出来るじゃん?だから同じことはしたくなかったのね。まあ、順番決めもアピールタイムも同じことかあ」


「でもそれなら初日に来た子は自信ありか、何も考えてないかのどっちかか。若しくはその日が空いてたからとかかな?」


「そこなんだよねえ。自信ありであのレベルなら…。まあそれはしょうがないね。これからだし、まだ分かんないところもあるし」


「でもレギュラー六人は今の時点で絞り切れてないんでしょ?」


「うーん。普通ならどこへ行っても通用すると思う子なら十人以上はいるね。でもぶっ飛んでないと面白くないし。可もなく不快もなくってとこですね」


「不可も不快もなければオッケーじゃん!」


「うーん。これは『想像と共感』の差かなあ」


「なにそれ?『想像と共感』の差って?」


「人ってさあ、『共感』出来るってことは同じような考え方が出来るってことじゃないですか?それって大多数であって。『わあ、あんな酷い目にあって。可哀そう!』とか誰でも分かるじゃないですか。逆に『想像』って人によって全然違うじゃないですか。突拍子もないアイデアを思いついたり、普通じゃ考えられないことをやったり。『えー!信じられなーい!』ってことをする人ってある意味突き抜けてるじゃないですか。ベクトルは違えど。その両方を持ってて使い分けることが出来る子がいれば、物事をファンの目線でも考えられるし、自分の立場でも考えられると思うんだよねー。成功してるアイドルやプロデューサーってその辺が徹底されてると思うよ」


「なるほどねえー」


「ほら、SHINちゃん。グラスが空だよ。はひはひぼーるいってみよー!」


「あざまーーーーーす!」


「あれ?この曲。昔流行ってたよね。なんて歌だっけ…。千マイルだったよね…。誰だっけ?」


 カラオケをしていない時、「ダブルゼータ」では店内に有線放送が流れている。


「へえー。讃岐さんにしては珍しいわね。音楽にもやたら詳しいのに。この曲はヴァネッサ・カールトンの『サウザンドマイル』だよね」


「ああ!そうそう!ダメだね。僕の記憶力は確実に衰えてるわ」


「人間に外付けハードディスクは付けられないからねえ」


「だよねー。でね、話は三百六十度変わるんだけどね」


「いや、三百六十度変わったら一周回って同じだから!」


「あ、そっか。じゃあ五百四十度だ。面白い子は本当にいるんだよね。すげえ早口の子とかいてさ。アピールタイムはこっちからは何も提案はしなかったんだけどね。早口の子が早口言葉を言ってみたらどうなるんだろう?とかさ」


「ええ?それ知りたーい!どうなるんだろうね?」


「他にもすっげえ明るいだけが取り柄の子とかね。『貞子』ちゃんって名前で売り出したくなるよね」


「あの『貞子』のイメージを覆すほどの明るさねえー」


「そう。名前は全部僕が決めるつもりだから。『童貞息子』!略して『貞子』!」


「そんなアイドル推したくねえーーーー!」


「それを覆すぐらいの、ねえ。あとは五十歳を超えたマダムも面白いと思ったし」


「え?そんなマダムからの応募もあったの?」


「結構あったよ。中には夫婦で応募してくれた方もいたし」


「夫婦で!?逆に面白いわそれ」


「でしょ?じい様ばあ様の力って侮れないからね。金持ってるし。会話に飢えてるし。知恵や経験は豊富だし。何より、個の力が集まればすごいからね」


「え?どゆこと?」


「ほら、僕がね。区のプールに通ってるじゃん。そこでね。じい様ばあ様の水泳教室をやってるのね。時間ごとに二つか三つのレーンを貸し切りでさ。その横で僕、泳いでるじゃん?それでさあ、前にね。じい様ばあ様たちが二人一組になって後ろの人が前の人の方を持って、レーンに沿うように水中ウォーキングで歩き始めたの。気が付いたら僕、波で押されてたの。台風の目ってあるじゃない?あんな感じ。信じられる?じい様ばあ様が集団で輪になって水中ウォーキングで大波を起こすんだぜ!こっちはバタフライで泳いでるのに確実に横から強烈な水圧を感じるんだぜ!あれはすごかった!元気玉は本当にえらいこっちゃですよー!」


「おらに便器を分けてくれってやつ?」


「そうそう。震えながらトイレにたどり着いたら個室が一個だけで使用中だよお。少しずつでいいから分けてくださいーい!ってそれもダメでしょ!」


「ペンキを分けてくれ?」


「そうそう。いやさあー、ホームセンターでこのぐらいあれば足りると思ったのね。念のため、もう一個買おうと迷ったけど高いからね。多分足りると思ったからそれで帰ったのね。そしたらいざ塗り始めたら最後のあと二塗りってとこでなくなっちゃってね。わざわざホームセンターまでまた買いに行くのもめんどくさいじゃん?お金も勿体ないじゃん?新しいの買ってもめっちゃ余るの目に見えてるじゃん?でもちょい売りはしてないじゃん?小さいの買っても色が微妙に違うとだめじゃん?だからペンキを少しだけ、二塗り分だけ分けてくれてもいいじゃん?て、ちがー――――――――――――う!!」


 そんな時に讃岐さんの携帯から『ルネッサンス情熱』が。


「うわー、着メロのセンスさいこー!さっすが讃岐さん。じょうねつ―♪僕のこの手―はー♪」


「あ、募集の子からだからちょっと待ってね。はいもしもし。讃岐です。はい、はい。あ、まだ募集してますよ。お名前と連絡先、あとは希望の日時をいいですか?はいはい、今メモリますので。はい、ではお待ちしてます。失礼しまーす。ガチャ。こうやって募集もまだポロポロ来るのね」


「すごいじゃん。でも讃岐さんの例の募集の電話番号って固定電話の番号じゃなかったっけ?」


「あ、僕の携帯、番号三つ入れてあるから」


「ええええ?そんなの出来んの?ラインとは別で!?」


「ラインも便利だけど、090と03と0120の三つ入れてるよ」


「フリーダイヤルまで?え?それって転送電話?」


「違うよーん。通話も録音出来るしー。メモなんか取ってねえもん」


「そんなアプリあるの?教えてええええええん!パフパフしてあげるからー!」


「みんなには内緒だよー。SHINちゃんだけだよー。ひそひそ」


「へええええええええええええええええ!」


「えへへー。じゃあパフパフねー」


「はい、ファンデーション、パフパフ」


「お、おおおう…。まあ、僕が『歩くドラレコ』と呼ばれてる所以はそういうところもあるんですぅー。実際は誰も呼んでないけどね。でも本当、どうしょうかなあー。まあ、二次選考が最終選考になるかなあ。ちょうどお店も契約だしね」


「讃岐さん!お店が始まったらうちに来なくなるなんてないよね!?」


 SHINちゃんがぶかぶかのトレーナーの袖を手のひらで握るまで伸ばし、両手の拳を口に当ててかわいく言う。


「そんなの来るに決まってるじゃーーーん!SHINちゃんに会えなくなると僕チン寂しくて死んじゃうよー!」


「絶対だよ!私も讃岐さんのお店に行くからさあ!」


「僕も行きますよ」


「私も伺わせていただきます」


 こーさんとやえさんまでSHINちゃんの傍に来て讃岐さんに声をかける。なんて素敵な人たちでしょう。


「うわーん!最後に、いや、今週もみんなで乾杯だー――――!」


 私も讃岐さんのこんなお茶目な一面を見れる場所、「ダブルゼータ」には是非これからも通って欲しいです。さあ、『UDN47ぷらすワン』の二次選考と言う名の最終選考がまもなく始まりますよ!

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