第5話質問は「東京音頭」で。恋愛オッケーのアイドル?
今日は記念すべき、『UDN47ぷらすワン』一次選考初日ですね……て、讃岐さーーーん!ここは近所の公園じゃないですか!しかもめっちゃ雨が降ってますし!
「いやあ、最高のコンディションだぜ」
雨合羽と大きめの傘を背中に背負った例のアニメのリュックサックと背中の間で固定した状態で讃岐さんが言った。集合時間は二時間後ですが、雨はやみそうにありません。予報でも今日の降水確率は百%です。
「アルバイトの面接なら普通、三十分ぐらい前には指定された場所の近くまで来るだろう。今はスマホがあるから場所は分かってるはずだし、迷うこともない。ただ、今回は面接であり、オーディションだぜ。時間ギリギリに来るようなら、まあ、約束の時間に間に合えばマイナスにはしない。ここに到着する時間でその子の意識を知る材料にはなる。この雨の中、どんな服装で来るか。どんな雨具で来るか。履歴書不要と伝えたがアピールは大歓迎とも伝えている。そこで『個性』を知る材料も増える。バックレる子もいるだろう。俺に電話してきて『納得のいく理由』を伝えてきて日時変更を希望してくる子もいるだろう。アイドルになりたい子たちが普段どんなオーディションを受けているかなんて俺は全く知らねえし、そんなもんに興味はねえ。俺は俺のやり方をする。一次選考はその子の『個性』を俺の目で見る。見た目や年齢、性別も学歴も国籍も関係ねえ。見たいのは『個性』だ」
なるほどですね。確かにこの雨、悪天候でこの場所なら連絡なく来ない子もいると思いますし、「体調が悪いから別の日にして欲しい」と電話してくる子もいると思います。でもそれは『個性』であってマイナスにはしないということですね。ボコッ!痛い!殴られました…。
「無断でバックレ、遅刻はその時点で失格だぜ。『時間を守る』は基本」
さすがにそうですね。
「それよりあそこ。俺より先に来ている子が一人。ほら、ベンチに傘さして座って本読んでる子。あの眼鏡の。あの子、応募者じゃねえの?まだ分かんねえけど」
讃岐さんが咥えタバコのまま、目と顎で方向を示す。あ、本当だ。この雨の中、わざわざ公園のベンチで傘を差しながら本を読む人はいないと思います。おそらく応募者の一人なのでしょう。二時間前なのにすごいですねー。でも讃岐さん、この公園は禁煙ですよ。デコピン、ピシッ!痛い…。
「この公園は禁煙だ。しかし、俺は今、原付に跨いでいる。この公園は自転車などを乗ることも禁止されている。だが、『駐車禁止』とは書いていない。原付の灰皿に灰も吸い殻もちゃんと捨てている。セーフだぜ。それにしてもあの子。プラスにはしねえが俺の興味はゲットしてる。まだ他にも近くでスタンバってる子もいるかもな」
そうこうしているうちに段々と公園の中は人が増えてくる。讃岐さんのスマホから「ルネッサンス情熱」も時々流れてくる。中には直接、讃岐さんに声をかけてくる子もいる。
「あのお、讃岐さんですか?」
「はい、僕が讃岐ですよ。こんにちは。オーディションまでまだ時間はありますね。もう少しお待ちいただけますか?」
中にはスマホで確認しているのだろうか。咥えタバコでスマホを耳にあてながら公園の入り口に向かって手を振っている讃岐さんを見て、駆け寄ってくる子もいる。それにしても雨合羽の子はいないですね。みんな個性的なものや普通のものを含め、全員傘をさしてます。長靴の子もいないですね。オーディション開始十五分前、ものすごいバイクのエンジン音が遠くから聞こえてきました。段々こちらに近づいてくるとともに大きくなるエンジン音。ウオンウオンウオンウオン!お金のウォンじゃないですよ。ボコッ!痛い…。殴らました。痛いのはさておき、これはふかしてますね。暴走族みたい。そしてこの公園の前で音が止まりました。大型バイクを押しながら公園に入ってくる。真っ赤なライダースーツ、背中には何かのエンブレム、フルフェイスのヘルメットを被ったまま、讃岐さんの原付の横にバイクを押してきて停める。
「あんたが讃岐さんかい?」
バイクを停め、フルフェイスのヘルメットを被ったまま、その人が言った。スモークのシールドで顔が見えない。
「はい、僕が讃岐です。こんにちは。あなたが今被っているヘルメットはドラレコも付いてますね?SNSで僕を晒さないでくださいね。他の応募者の方もね。あと、ブルートゥースでスマホも繋げてますね?会話出来るんでしょうね。僕も『歩くドラレコ』と言われてますので。ちょっと待ってくださいね」
讃岐さんがポケットから手袋を取り出し左手にはめる。そして右手親指でスマホを弄りながら手袋をはめた左手の親指を耳に、小指を口へ近づける。手袋をはめた左手を電話の受話器のように。
「もしもーし。聞こえますか?これはブルートゥースで手袋の親指部分から声が聞こえて、小指の部分からこちらの声を発信できるんです。僕のヘルメットは半キャップだから運転中はこっちを使ってるんです。『歩くドラレコ』のご説明はまた今度ということで。もう間もなくオーディション開始しますので。今日はこの天候ですからね。濡れないようにそのままでもいいですよ。出来ればお顔を拝見したい気持ちもありますが」
予定の時間になる。讃岐さんが例のリュックサックからノートを取り出し話し始める。しかも原付に後ろ向きでまたがって咥えタバコのまま。これっていいのかな…。あ!防御しておこう。
「皆さん、本日は足元の悪い中、『UDN47ぷらすワン』第一次選考会に参加していただきありがとうございます。改めまして。僕が讃岐耕太郎です。それではまず点呼をとりますね。名前を呼ばれた方はお返事願います」
ノートに書かれた名簿を見ながら名前を呼びあげていく讃岐さんと返事をする応募者たち。二度呼んでも返事がない人には『最後にもう一度だけ聞きますよー。返事がなければ欠席と言うことですね』と。結局、本日の参加希望者数四十三人に対して集まった人数は三十一名。日を改めて欲しいとの連絡は三名ありましたので、九名は無断欠席、バックレです。よくないですね。一通り、点呼が終わり讃岐さんは続ける。
「ご覧のようにこの悪天候です。効率よくちゃっちゃと終わらせましょう。まずは皆さんからご質問がありましたらどうぞ。皆さんの『個性』のアピールは後でしっかりと見せて頂きますので、出来れば同じ内容の質問の重複は避けてください。今は質問の場であり、アピールの場とは考えていませんので。挙手でお願いします。と言っても傘の方が多いので傘の方は傘を上下に振ってください。ではどうぞ」
一斉に多くの傘が上下に揺れる。あのバイクで来た方は手を挙げていないです。
「では一番遠くの青に白の水玉模様の傘の方、ああそうです。あなたです。どうぞ。いや、そう、あなたです。分かったら傘を『東京音頭』のようにしてください。え?『東京音頭』知りません?ではやって見せますね。『東京音頭』を」
讃岐さんが背中から傘を抜き取り、咥えタバコのまま、右上左上と斜めに傘を上げて見せる。
「これが『東京音頭』です」
そしてまた傘を背中へ差し込む。
「それではもう一度。一番遠くの青に白の水玉模様の傘の方、どうぞ」
青と白の水玉模様の傘の方が『東京音頭』で分かりましたの合図をする。
「はい。上手です。ではご質問をどうぞ」
「私の名前は…!」
「あ、名前はいいです。今は質問の場ですので」
「はい!時給二千円以上、もしくは一日の売り上げの三十三%を貰えると書いてましたが本当ですか?」
「本当です。僕は嘘を言いません。それに関しては時給か出来高の選択も自由です。また、途中で変更も構いません。また時給に関しましては二千円からです。最低限二千円はお支払いいたします。時給制を選ばれた方も売り上げに応じて昇給はあります。その日その日の売り上げに応じてです。時給に関してはどんなに売り上げが悪くても二千円は保証するという意味です。数字はとても正直です。例えば僕が今吸っているタバコはパーラメントです。電卓をお持ちの方、もしくはスマホをお持ちの方は電卓機能のご準備をお願いします。興味のない方はそのまま聞き流してください」
あ、二時間前に到着した讃岐さんより早くに来て、ベンチで読書していた眼鏡の子はカバンから電卓を取り出している。電卓を持ち歩いているなんて珍しいですね。
「はい、いいですか?このタバコは一箱五百三十円です。タバコは一箱に二十本入ってます。530÷20は?電卓に26・5円と表示されますよね?表示されなければ電卓が壊れているか、スマホが壊れているか、アプリがおかしいかのどれかです。今、僕はタバコを吸ってますがこれは26.5円に火を点けて燃やしていることと同じことをしているのです。ではここからは応用です。僕は一日に何箱のタバコを吸っているかは数えてませんが仮にです。一日一箱としましょう。一か月で530×30は?15900円ですね。では一年だと?530円×365は?19万800円ですね。ハワイ行けますね。これが十年だと高級車買えますね。マンション購入の頭金になりますね。でも普段そんなこと考えてタバコ吸ってる人は少ないと思います。これが数字です」
集まった子たちから笑い声や感心する声などが混ざって聞こえる。ざわざわです。讃岐さんは続けます。
「三十三%は『黒字を出す商売の理想的な人件費』のパーセントです。商売は芸術、アートであると言います。これは数字のバランスの芸術を意味してます。飲食店の場合、売り上げの六十六%を仕入れ及び人件費と考えます。まず『利益』のお話からいきますね。残りの三十四%から家賃を十%引きます。賃料は売り上げの十%以内に止めるのが理想です。残った二十四%からさらに光熱費を引きます。分かりやすく言いますと、三十四%のうち、家賃、光熱費、その他経費、金利、返済、償却などを十%から十五%が理想です。金利、返済、償却は分かりやすく言いかえるとお店の初期投資にかかったお金を回収するという意味です。お店を出す時に銀行などからお金を借りることもあります。それらを返済するのもこの十%から十五%の数字からです。借りたお金には金利が発生します。それら借入金も完済し、初期投資も回収すれば大体十%が仕入れ及び人件費以外の出費となります。足して七十六%。残る二十四%が自分の手元に残るようになります。それでも貯金は必要です。お店の備品が劣化して新品を購入する、テナントの更新で更新料を支払う、もちろん経営者の生活費も含まれます。お金持ちになりたくて商売をしているのですから。それらの貯金をキャッシュフロー、日本語で現金繰り越し益と言います。金利や返済をしている時もキャッシュフローは十%から十五%が理想ですね。先ほど出した借金のない状況にし、売り上げの二十四%をキャッシュフローに回すようにすることが一番の理想になります。税金もありますのでこの数字は目標ですがなかなか難しいですよ。ここまでの話、分かった方は『東京音頭』をお願いします」
全員が傘を『東京音頭』で右に左にと上げています。バイクの方も両手で『東京音頭』のゼスチャーをしていますが『阿波踊り』に見えます。今の讃岐さんは説明に夢中なので殴られる心配はないようですね。ボコッ!痛い…。殴られました。とにかく理解したのかそうでないかは別として全員が『東京音頭』をやっています。
「皆さん、数字に強くてよかったです。一回の説明で済むとこちらも楽でいいです。これはまたいつでも聞いてくれればお教えします。次に仕入れと人件費の比率の話です。六十六%をどう配分するか?例えば、仕入れの少ない商売として高級クラブなどの場合です。銀座の政治家や偉い人が行くお店を想像してください。お客さんはその飲食店に美味しいものを目的として行きますか?違いますよね?綺麗なホステスさん目的ですよね?それなら仕入れは五%、綺麗なホステスさんには高い給料を払います。六十%以上です。それで六十六%です。ではその逆のパターンは?原価のかかる高級ステーキ店などはどうでしょう?仕入れ五十%以上、人件費は十五%です。単価が高いので一人当たりの売り上げは高くなります。その分人件費は削減できます。よくテレビなどでカウンター四席のみ、従業員は職人である店主一人のお店など見たことありませんか?料理はコースで一人数万円ぐらいのお店です。そういうお店をイメージしてもらえれば分かりやすいと思います。ここまでの話、分かった方はまた『東京音頭』お願いします」
一斉に傘を持っている方全員が『東京音頭』を、バイクの方は『阿波踊り』をしてます。
「先ほどまでの話を全て合わせて考えると、人件費三十三%が一番バランスのいいお店です。営業時間はお任せ致します。基本、日曜休みで十七時から二十三時ラストオーダーの二十三時半閉店と考えてますが『UDN47ぷらすワン』第一期生に選ばれた方にはそれぞれの考え方で営業時間を変更されても構いません。保健所には年中無休、早朝五時から二十四時までで申請は出します。一日の売り上げが十万円なら三万三千円がその日のアルバイト料です。二十万なら六万六千円です。ただ、そこまでの金額になると一人でお店を切り盛りするのは不可能です。アイデアがあれば別ですが。そこから、つまり自分のバイト代からバイトを雇うのも自由です。その時給は選ばれた方が自由に決めてください。目安として普通のうどん屋さんなら十万円の売り上げを出すには最低でもホール一人、厨房一人の二人は必要です。それは選ばれた方を含めての人数です。自分がホールをやって、職人を雇うもいいです。その逆で自分が厨房をやり、ホールにバイトを雇うのもいいです。それでも十七時から二十四時まで七時間で十万円売り上げれば三万三千円です。職人やバイトに一万円払っても二万三千円が手元に残ります。七で割れば?時給三千二百八十五円と少しです。同じケースで売り上げが十五万から二十万の規模になればもう一人バイトは必要です。三人体制です。六万六千円から一人一万円として二万円バイト代を払って手元に残るお金は四万六千円です。それを七で割ると?時給六千五百七十一円と少しです。すごいですね。でも大きなハードルは一つあります。それは一日に十万円、二十万円も売り上げる個人店のうどん屋さんはそうそうないということです」
集まった子たちはアイドルになりたい動機の方が多いと思いますが、お金のこともリアルに絡んできていることもあり、真剣に讃岐さんの話を聞いてます。
「しかし、そのハードルを簡単に飛び越える方法が一つだけあります。それはあなた方がアイドルとして輝き、ファンの推しになるのです。推しにお金は惜しみませんよね」
讃岐さんが一番近くにいる子に手のひらを上に向けて差し出しながら続ける。
「あなたがアイドルになり、たくさんのファンに愛され、推しになればファン一人が一回一万円を使ってくれたとして。十人のファンがその日一万円ずつ使ってくれれば十万円はすぐにクリアします。七時間で十人のお客さんならアルバイトや職人を雇う必要はありません。会話しながら、歌いながら、余裕でうどんを提供出来ますね。作るのもあなたであり、運ぶのもあなたです」
讃岐さんに指名された子は照れ笑いしながら、周りの子たちも「なるほど」という表情をしています。バイクの方は顔が見えないので分かりませんが…。
「お給料の話は以上になります。ご質問された水玉模様の傘の方。これでよろしければ『東京音頭』をお願いします」
最初に質問した子が傘で『東京音頭』をして、了解の返事をしてます。
「では他にご質問のある方?」
多くの傘が上下している。
「ではそちらの黒の折り畳み傘の方、『東京音頭』をお願いします」
讃岐さんに選ばれた子が上下に振っていた傘を右上、左上に動かす。
「はい。あなたです。ご質問をどうぞ」
「はい!『恋愛ご自由に』とありましたが本当ですか?また、そんなアイドルのファンになってくれる人はいるんですか?」
「恋愛はご自由にお任せします。まず二つの質問の二つ目のお答えですが、恋人のいるアイドルにファンは出来ないとお考えですね。それはあなたたち次第です。今回の募集にあたり、いくつかこちらの考えをお伝えしてます。年齢、性別、学歴、国籍、容姿、やる気、経験、全て問いませんと。そんなものを『個性』と考えていません。人間百人いれば百の魅力があります。例え平凡であっても『人生』は『金』より重いです。ここに集まった皆さんにはそれぞれの人生を生きてこられたと思います。少なくとも自分の人生の主役は自分でありましたでしょう。また、自分の『ずるさ』や『頑張り』、『人には言ってない秘密』なども自分だけは知っているはずです。『勝ち組』、『負け組』の言葉がありますがそれは他人が決めたことです。人生の主役である自分が本当の価値をジャッジするんです。僕はアイドルに興味はありません。僕の趣味はこのリュックサックを見てもらえば分かる通り、『二次元オタク』です。これらの趣味につぎ込んだお金を計算すると大変なめまいを感じます。でも、後悔は一ミリも感じません。自分の人生を生きるためにたくさんの『元気』を貰いました。趣味があるから嫌なことも頑張れました。あなた方がファンに『元気』を与えられることが出来ればそれは素晴らしいことであり、そこに『推しを独占したい』の気持ち以上の『元気』を与えることが出来れば。僕はアイドルとして成功すると信じてます。実例もありますね」
讃岐さんが萌え系リュックサックから美少女フィギュアや萌えキャラグラスなどを出しながら言った。みんなドン引きするどころか真面目に聞いている。
「そしてもう一つの質問のお答えです。恋愛は本当にご自由にお任せします。普通のアイドルグループの恋愛禁止は商品価値を考えてのことです。アイドルである前に人である皆さんに商品価値の言葉を使うのは失礼ですが、ファンが一生懸命作ったお金を使ってくれる時点でアイドルは商品なのです。現実としてグレーな部分もありますよね。タイミングのいい卒業だったり、後だしジャンケンのような脱退などです。ここからは例え話になりますが、アイドルをやっていると恋愛をしている暇がなくなる、例えるなら甲子園を目指している高校球児が恋愛にうつつを抜かしている暇はないでしょう、と。本当にそう思いますか?皆さん」
首をかしげながら考え込む子もたくさんいます。みんな真面目に考えています。バイクの方もヘルメットを傾けながら考え込んでます。
「僕の立場からは次の言葉を皆さんにお伝えします。僕の考え方です。皆さん、自分に置き換えて考えてください。想像してください。それでは言いますね。『恋愛は肥やし』です」
驚いてる方が多いですね。バイクの方は「うんうん」と頷いてます。
「野球以外でもいいです。部活で恋愛禁止ってちょっと聞いたことないですね。おそらく本業から心を奪われて、本業が疎かになるとの考え方なのでしょう。しかし、恋愛をすることで相手の気持ちを考えるようになります。察します。そうすれば気配り、心配りが生まれます。相手がどうすれば喜ぶのだろう、と。デートをするにしても事前に綿密な計画を立てるでしょう。結果、段取り力が増します。そして何より、恋愛は心を豊かにします。それらにより『人間力』が格段とアップします。まさに『肥やし』なんです。しかーし。『肥やし』も与えすぎると成長が止まり、腐ってしまいます。恋愛が本業の励みになり、支えてくれ、応援してくれれば一番ベストだと考えますね。先ほどのご質問の回答が以上になります。納得されましたら『東京音頭』をお願いします」
黒の折り畳み傘で『東京音頭』をする質問をした子は納得されたみたいですね。そしてお金のこととアイドルのことの讃岐さんの考え方を聞いたからだろう。傘を上下する子はだいぶ少なくなりました。
「他にご質問のある方?じゃあ、そちらの眼鏡をかけた赤い傘のあなた。どうぞ」
あ、ベンチで読書してた子です。
「もし採用された場合、シフトはどうなりますでしょうか?」
「そうですね。シフトの件は書いてませんでした。申し訳ございません。今回の募集で『UDN47ぷらすワン』第一期生の採用者数、上限は決めておりません。ただ、『六人』をレギュラーとして考えております。その六人の方に一週間の月曜日から土曜日までをそれぞれ担当してもらいます。レギュラーに選ばれなかった採用者は補欠枠である日曜日に活動してもらいます。なのでシフトは基本週一と考えてください。希望は聞きます。あとは全て結果で判断します。最初に選ばれたレギュラーの六人も売り上げが悪ければ当然日曜日の補欠枠の方、つまり候補生の中から優れた方と入れ替えます。売り上げが良ければ週二回や三回に増やすこともあります。それはレギュラー枠が減るということです。僕の理想は月曜日から土曜日まで最高の売り上げを出し続けることです。売り上げさえよければ麺もインスタントだろうが冷凍だろうが構いません。うどんのつゆもスーパーで売ってる家庭用のものでも全然いいです。もちろん僕はうどんを含め、料理ならそれなりの知識と腕を持っています。希望者にはそれらを出し惜しみなく全て伝えますし、教えます。また、レギュラーに選ばれた方がアルバイトを必要となったら日曜日の候補生から自分の部下として雇うのも自由です。それを候補生が断るのも自由です。報酬額も自由に決めてください。別に候補生からではなく、知り合いの友人に頼んで働いてもらうのも自由です。全て結果で判断します。極端な話、売り上げがずば抜けている方が希望すればレギュラーは一名のみになることもあり得るということです。まあ、そんなに簡単ではないと思いますが。以上になりますがよろしいでしょうか?よろしければ…」
そのタイミングで眼鏡の子は笑顔で赤い傘で『東京音頭』を行っていた。その後、説明しなくてもいいような質問が三つ続き、傘を上下に動かす子は一人もいなくなりました。
「よろしいでしょうか?他に質問がなければアピールタイムに移りますが」
バイクの方が手を上げる。
「はい、そちらのフルフェイスのヘルメットの方。どうぞ」
「あんたの言うことは大体分かったよ。紙に書いてあったことに『全国へ』とあったね。そしてこの『UDN47ぷらすワン』のネーミング。47は都道府県を意味するってことかい?」
「はい。その通りです」
「私がもし採用されたとしてさ。店で結果を出せば全国に展開するお店も私がやるってのもありってことだね?」
「はいもちろんです。結果さえ出してもらえば二号店、三号店とあなたが経営されても全然構いません。ただし、三十三%のお給料は変えません」
「ふーん。なるほどね。そして最後の『ぷらすワン』ってのは?アイドルグループの48にかけたわけじゃないんだろ?」
「はいもちろんです。47は全国制覇を意味します。そして『ぷらすワン』は世界です」
「オッケー。了解。『東京音頭』はやらなくていいだろ?」
「個人的には見たいですが、今は質問の場ですからね。大丈夫です」
こうして質問タイムは終了しました。讃岐さんが言ってたように質問タイムはあくまでも質問の場であって、プラスやマイナスの評価にはならないのでしょうが、あの眼鏡の子とバイクの方は私的に興味を持ちました。この後のアピールタイムはどんなことをするのでしょうか?気になりますねー。先ほどより雨脚は強くなってきました。
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