罰当たり

はおらーん

罰当たり

「里紗!またこんな遅い時間に帰ってきて!」


「うるさいなぁ、お母さんには関係ないでしょ!」


これが深夜の橋本家の日常である。上に二人いる、末っ子の里紗は、甘えながら育てられたため、かなりの我がまま娘だ。


それでも小さい頃は、その我がままも可愛く思えたものだが、中学生にもなると、反抗期のまっただ中。お母さんが心配するように、最近では帰りも遅く、少し悪い友達もできたようだった。



次の日も帰りが遅く、心配で里紗に電話をかけるが、まったく出る気配がない。


そのころ里紗は…



「かんぱぁ~い!」

「やっぱチュウハイでしょ」


友達の家で酒盛り中だった。お母さんの心配を裏切ることなく、まさに非行の道に進んでいたのだった。




完全に出来上がった中学生は、少しふら付きながら自宅まで戻った。一瞬お母さんの怒った表情も浮かんだが、その日は運よくお母さんは先に眠っていた。


「ちょっとオシッコしたいかなぁ。ま、いっか、明日の朝行こうっと」


こう考えたのが運の尽き。お酒を飲んだ頭が働くはずもなく、翌日の里紗のベッドには、大きな地図が描かれていたのである。


「里紗、里紗!起きなさい、学校送れるわよ?」


「うぅ~ん、わかってるよ」


はじめは寝ぼけて気付かなかったが、頭がはっきりするにつれて、下半身の気持ち悪さに気がついた。


「…、えっ???」


「どうしたの、里紗?」


「えっと、その…」


「今日はシーツ洗うんだから、早く起きてちょうだい!」


「いや、今日はちょっと風邪っぽくて…」


「ホントに?熱はないみたいだけど…」


お母さんが里紗の頭に手を当てて言った。


「もう、とにかく一旦起きなさい!」


そう言って、お母さんは無理やり里紗の掛け布団を剥ぎ取った。里紗は往生際悪く、大きな枕で隠そうと試みたが、大きなおねしょのシミは隠しきれなかった。


「里紗、どうしたの、コレ…。おねしょしちゃったの?」


「うぅ…」


「普段おねしょなんてしないのに、一体どうしちゃったの?」


「わかんなぃ」



しかし、もっと隠さなければならないことがあった、それは、昨日お酒を飲んで帰って来たということだ。それにも、お母さんは薄々感づいていた。


「あなた、急におねしょするなんて、もしかしてお酒でも飲んだんじゃないの?」


里紗はギクッとした。今まで家に帰るのが遅いことはあっても、お酒を飲んだり、煙草を吸ったりと、法律に違反したことはなかった。あのときは、友達の誘いを断り切れず、ついつい手を出してしまっただけだった。


「そ、それは…」


お母さんには、おねしょの匂いに混じって二日酔いのようなにおいがしていたのを、敏感に感じ取ったのだ。


「お酒なんて飲んでないよ!」


「嘘!お母さんにおいでわかるんだからね」


里紗はシュンとしてしまった。その様子を見て、お母さんは、里紗がお酒を飲んでおねしょしてしまったのだと確信した。


「まったく、二日酔いで学校なんていけると思ってるの?今日は学校休んで、家で反省してなさい!着替えるのもダメだからね」


「そんなぁ…」


里紗は抗議したが、おねしょで汚れたパジャマ姿で言われても、まったく説得力はない。仕方なく、そのままの格好でベッドの上に体育座りしていた。


(昨日の罰が当たったのかなぁ…。もう絶対にお酒なんて飲まない!反省します…)



お昼近くになった頃、どこかに出かけていたらしいお母さんが帰ってきた。


部屋に現われたお母さんの手にあったものは…



「お母さん、それ…?」


「そう、おむつよ!おねしょする子は赤ちゃんと一緒だから、おむつするの。これがお酒飲んでおねしょした罰だから」


そう言うと、あらがう術もない里紗のパジャマとパンツを手際よく脱がせた。買ってきたおむつは、パンツタイプだったため、パッケージを破り、両手を通して履かせる準備をした。


「ホントにおむつするの?」


「当たり前でしょ、早くしなさい」


里紗は、やっとつかまり立ちできる赤ちゃんのように、お母さんの肩に手をかけ、片足づつ通していった。恥ずかしかったため、ゆっくりのスピードだったのだが、両足とも通した後は、お母さんが一気に腰まで引き上げた。そのせいか、股におむつの吸収体が当たった瞬間、少しだけ変な声が出てしまった


「んん、ふぅ…」


「何変な声出してるの?里紗赤ちゃんはおむちゅがしゅきなんでちゅか~?」


お母さんが里紗をからかうと、里紗は反論せずに顔を赤らめた。


(この子、ホントにおむつ好きなんじゃないの)


変な気持もよぎったが、とりあえずの罰ということで、今日一日は学校を休ませて、おむつで過ごさせることにしたのだった。



お昼過ぎにお母さんが里紗の部屋を覗くと、洗濯物によりかかりながら、うたた寝していた。よく見てみると、2時間ほど前に履かせたはずのおむつが黄色く垂れ下がっていたため、指を入れて確認してみたところ、完全におねしょしてしていた。


「これじゃ罰にはならないわね」


そう言いながら、寝ている里紗を起こさないようにベッドに運び、おむつ交換をしてあげたのだった。



実のところ、最初はお母さんも里紗におむつをさせるつもりはなかった。おねしょして恥ずかしがる里紗を見て、まだ可愛いころの里紗を思い出したのだ。


どうせなら、おねしょついでに、おむつもさせて赤ちゃんみたいに扱ってやろう!と。それが功を奏し、まさか、本当に赤ちゃんみたいにおむつを汚すようになるとは思っていなかったが。


それでも反抗されるよりはずっと良い。おねしょで汚したおむつを取り替えるのも母の愛だと。


里紗も、おねしょした日以降、非行に走ることはなかった。まぁおねしょでおむつを常用するようになれば、外泊もできないし、夜遅くまで遊ぶこともできないわけだが。



罰から始まった親子愛は、これからも続いていく。

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