第9話
僕は仕事が終わってからいつも村尾さんや森川さんとどこかに遊びに行った。森山さんもそこに加わった。僕の月にかかる電話代もかなり減った。僕の家に泊まりに来た村尾さんが僕に向かって、モテモテだな、でも森川は絶対に止めておけと言った。僕が何故なのかと聞いたら、森川はデブで不細工だから、普通の男なら全員森山さんを選ぶと言った。森川さんと村尾さんのやり取りは見ていて面白かった。いつまでも実家暮らしで給料を全て自分のお小遣いにしている村尾さんのことを、だから村尾氏は彼女が出来ないと森川さんが言う。村尾さんも森川さんに、自分だって実家暮らしだと指摘すると、私は家にお金を入れていると反論する森川さん。ドーナツ屋さんで村尾さんに奢ってもらったドーナツと紅茶を飲みながら基本三人で、時々四人で彼女や彼氏が欲しいなあと言う話ばかりする。森山さんはキリヤ堂で働いている人の中では珍しく村尾さんにも優しい。でも時々、村尾さんに対して冷めた目をする。森川さんが村尾さんに、村尾氏は給料で月に一回、毎月エッチなお店に行っているだろうと言うと、村尾さんが、別に自分のお金で行くのだからいいじゃないかと言う。すると森山さんはすごく軽蔑するような目で村尾さんを見る。僕はお金を持っていないからまだエッチなお店とか行ったことがなかったけれど、今でも心の中で村尾さんがそういうお店に僕を奢りで連れて行ってくれると言った約束をしっかりと覚えていたし、エッチなビデオは自宅にたくさんあるので森山さんのそういう冷たい目を見ると僕自身、責められている気持ちになった。村尾さんは自分のいやらしい部分を正直にみんなに言っているだけで僕はそういう部分をあえて言わないだけで、結局健全な男ならみんなそういう気持ちは持ってしまう訳で。女の人はいやらしい気持ちを持ったりしないのかなあ、エッチなビデオではエッチな人がいやらしい言葉を普通に言っていて、それが女の人の本音であって、森川さんや森山さんにもそう言う好奇心や本性はあって、それでも僕と同じようにあえて隠しているのかもしれない。そうなるとこの中で正直な人は村尾さん一人だけということになる。そう言えば昔からエッチな本やビデオの中のお姉さんはいつも僕を誘惑するような言葉やポーズばかりしていた。しかし現実で出会う女の人はそう言う雰囲気や感情を一切見せない。そういうのは全てビデオの中の世界と思ってきた。女の人と付き合ったことのない童貞の僕には本当のことが分からなかった。それでもビデオの中の世界は男の妄想であって、現実には女の人がいやらしい気持ちを持たないのだったらすごく残念な気持ちになる。女の人に性欲がなければ夢が壊されるような気持ちになる。よく考えてみたらエッチなお店も男の人専用の店しかなくて、エッチなビデオも男の人専用に作られている。それはとても残念な気持ちになる。千田さんが結婚している菅谷さんと付き合っていたことは当然エッチなこともしているはずである。でも性欲を剥き出しにしている千田さんの姿なんて僕には想像もつかない。性欲剥き出しのハゲの菅谷さんの姿は簡単に想像できる。だから僕は村尾さんのことが好きで尊敬しているのだと思う。森山さんが冷めた目で村尾さんを見るのは森山さんがまだお子様で自分を美化しているようにも思えた。僕はとてもひねくれているから町中で妊婦さんを見るとどんなにきれいな人でもこの人はエッチなことをしたんだという目で見てしまう。でもみんな、誰かと誰かがエッチなことをしたから生まれることが出来た。すごく不思議だったのは、菅谷さんは結婚もしていて自分専用のエッチの相手がいるはずなのに何故千田さんにも手を出したのだろうかということ。村尾さんが言うにはそれは相手に飽きたからじゃないかと言うことだ。女の人と付き合ったことのない童貞の僕にはそれが信じられなかった。誰かと付き合ったり、結婚したりすることは自分専用のエッチの相手が出来ることじゃないのか。そもそも自分専用の女性に飽きるという意味が分からなかった。僕は同じエッチなビデオを何回でも見ることが出来るし、飽きることもなかった。エッチな本もいつまでも捨てられなかった。それでも一つだけ分かっていたことは、僕がエッチなことをカミングアウトすれば確実にキリヤ堂での僕の株は暴落して、小沢君募金箱にも誰も何も入れてくれなくなるのではということ。僕はずるいと分かっていながらそう言う部分は隠し続けた。でもキリヤ堂の女の人で森川さんと内田さんと佐々本さんだけは僕のそう言う部分を薄々と感じ取ってくれていた。小沢君だって年頃なのだからそういうことにめちゃくちゃ興味があるはず。森山さんには分からない。それは飼い猫だから。森川さんも内田さんも佐々本さんも野良猫だから。野良猫はきれいごとを言わないし、汚い部分もしっかりと理解している。だから見た目だけなら圧勝する森山さんと同じぐらい森川さんのことが僕は気になっていた。森山さんと付き合うことになっても森山さんは僕にエッチなことをさせてくれるのだろうかとか、森川さんなら僕のいやらしい部分もちゃんと分かってくれていろんなことをしてくれそうだった。だからいくら可愛くて胸が大きくても村尾さんに一時の感情で考えずに絶対森山さんにしとけと言われても僕の中では二人とも大事で選ぶことがなかなか出来ない。
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