第166話 さてと、贅沢はさらに進んでいきますな。

前回のあらすじ:アバロン帝国の使者達が帰りにぼやいていた件について。





 アバロン帝国の使者達がフロストの町を出発してから数ヶ月、町では、盛んに新しい服が作られるようになった。というか、今まで領民達は服に関して無頓着(お前が言うな)で、基本一張羅か、同じような服を複数枚所持しているだけだった。



 しかし、アバロン帝国の使者が来てからというもの、その状況は一変した。というのも、別にアバロン帝国の使者達の服装に触発されたわけではなく、使者達にお披露目したアンジェリカさんの服を作った職人達および、素材を提供したヴィエネッタ達が服を作る楽しさを覚えたらしく、ちょくちょく町に来ては、布をガッツリ用意して職人達に作らせる始末。まあ、平たくいうと、作りすぎたから着てね、という感じで領民達に広がっていったのだが、領民達も、ここをこうして欲しいとか、アイデアが浮かんだようで、その結果、もの凄い勢いで作られている。



 ちなみに、素材はシルクスパイダーが基準となっており、狩り採集班が偶然見つけた綿花や麻なども使っては、素材の研究も進むようになり、外見だけで無く、着心地も重要視されているのが現状だ。言うまでもなく領民達にしか配布されていない、というのも、冒険者ギルドに卸そうとしたら、凄い勢いで反対された。余りにも高価過ぎて、買い手がほとんど存在しないからだそうだ。じゃあ、安価でというと、素材の質が違いすぎて他国の職人や生地の生産者の生活が成り立たなくなるのだとか。こちらとしては、別に売れたらいいな程度にしか考えていないので、売るのを諦めたという感じかな。



 しかし、余った素材はどうしようか、と考えていたところ、装備品にも、こういったものを付けて、外見的に差別化を図るのも悪くない、と思って提案してみたところ、賛成してくれたので、服ばかりでは無く、鎧の上にも通気性のいいものをかぶせたりとか、帽子を作ってみたりとか、いろいろな試みがなされている。



 そういった状況なので、領主である私の所持する服などの数もかなり増えてきている。ただ、普段着用として強く希望しているので、見た目はかなり地味である。派手なの嫌いだし、、、。正直、100%綿花だったり、麻であっても私にはそれで十分と伝えていたけど、残念ながらその意見は全く採用されることはなかったのが悲しい。ハイ、私の着ている服達の素材は、もちろんヴィエネッタが自ら拵えたアラクネの素材です。



 正直、ツッコミどころ満載な状況なのです、というのも、トリトン陛下やリトン公爵夫妻ですら、シルクスパイダーの素材なのに、何でそれよりも下位の身分である私が、そんな高貴な方達よりも良い素材を使ったものを着ているのか、ということですよ。しかも、お三方とも承知しているのが不思議でならない、、、。お三方いわく、シルクスパイダー、しかもフロスト領産のものなので全く不満が無いどころか、いつも遠慮なくうちでメシ食ってるマリー公爵夫人でさえも、逆に申し訳ない気持ちで一杯とのこと。あ、もちろん、タンヌ国王陛下やそのご家族にも、定期的に渡っているようです、シルクスパイダー素材の方ですが。



 ちなみに、ヴィエネッタ自らが作り出した素材だけど、使用者は私とマーブル、ジェミニ、ライムの4人のみだそうで、アンジェリカさんは、先日着た姫服1着のみだそうです。ヴィエネッタよ、少しは他の人にも分けてやれよ、、、。それをヴィエネッタに伝えると、「私の作った素材を着られるのは、主のみ、マーブル様達も私の中では主と同じ。」という意見だった。トリトン陛下は一応私の主だよ、と言っても、私の主では無いという返事だった。しかも陛下や公爵夫妻が一緒にいる場での発言だ。それを聞いた陛下達は大爆笑していたのが印象的だった。



 で、マーブル達なんだけど、ライムは嫌がっていなかったけど、マーブルとジェミニ、いや、他のウサギ達やコカトリス達も嫌がっていたかな。何か動きが阻害される感が強いみたいだ。ジェミニやレオがそう言っていたから間違いないだろう。とはいえ、何も着ないのは折角用意してくれたシルクスパイダー達にも申し訳がないということで、首輪というより、首に巻くスカーフなら、ということで納得してくれた。



 ゴブリン達? 彼らは魔物ではあるけど、姿形は人なので、もちろん喜んで着ているよ。特に、防具は全員がヒドラ皮の鎧だから、画一的でなくなるのが嬉しいみたいだ。まあ、服飾系の職人にはゴブリン達も数人所属している位だから、嫌がるわけがないんだけどね。



 折角なので、木騎馬にもつけたりしている。騎馬隊のメンバーが自分の扱う木騎馬用に何枚かそれぞれ持っているみたい。最初は誰も付けようとしなかったみたいだけど、ウルヴがアウグストに試しに付けてみたところ、見栄えが良くなった上、馬具も付けやすくなったらしく、瞬く間に広がったという経緯もある。言うまでもなく、ウルヴの所持している馬用のやつは、黒一色である。ウルヴ本人は、違う色を希望していたようだけど、シルクスパイダー達はもとより、職人達も黒以外は一切受け入れていないようだった。彼らもわかっているようで何よりだ。



 他には、厳密には領民ではないけど、屋台のおっちゃん達にはエプロンとして、フロスト支部の冒険者ギルドには制服としてそれぞれ贈って使用してもらっている。冒険者ギルドでは、最初はこんな高いもの受け取れない、と断られたけど、領民達は普段着として着ているから、ここにいる間は使ってと押しつけた。屋台のおっちゃん達はというと、数人を除いて遠慮なく受け取ってくれた。中には価値がわからず、ただくれたから着けているというおっちゃんもいたけど、使ってもらってナンボだから、そこは他の人達も見習って欲しい。



 また、トリニトで頑張っているアッシュ達にもある程度贈っておいた。アッシュからお礼紙と、クソババ、いや、母上から催促されるかも知れないから注意してという内容の返事の手紙が届いた。馬鹿な、と思っていたけど、その数日後に本当に催促の手紙がこちらに届いた。送っても豚に真珠だから、無視したのは言うまでもない。あんなのに渡すくらいなら、シルクスパイダー達には申し訳ないけど、燃やして燃料にした方がマシというものである。ってか、バ、いや、母上、まだトリトン帝国内にいたのか、、、。



 そういえば、中年の冒険者だったとき、マーブル達は私とお揃いの柄、というか、ホーンラビットの毛皮を従魔の首輪として着けていたのを思い出した。言うまでもなく可愛さが倍増していたので、思いっきり褒めると、照れながらも交代で飛びついて来たので、モフプヨを楽しんだ。



 マーブルとジェミニは首に巻いたスカーフであったが、ライムはかぶり物だった。ライムは光属性と神聖属性の魔法が使えるということで、教会内でシスターがかぶっているような形のかぶり物だったけど、控えめに言って、可愛すぎる代物だった。どんな感じかというと、す○モリ2のシスターみたいな感じだった。あまりの可愛さにプヨ多めになってしまった。いつもならちょっと拗ねてしまうマーブル達であったが、その時に限っては許してくれたほどだった。



 マーブル達はたまに領内で私とは別行動を取るときがあるけど、そのときは、それぞれ得意分野で領内で仕事をしているそうだ。例えば、マーブルは魔法の指導をしていたり、ジェミニはマーシィさんの補助として戦闘訓練の教官をしていたりする。ライムというと、実は教会で治療などを行っているそうだ。魔法が得意なマーブルとはいえ、回復魔法だけは使えないらしい。そういえば、マーブルって、最初に出会ったときは傷だらけであったけど、怪我という怪我はあの時だけだし、ジェミニも私と出会って以降は傷一つ付いていないみたいだし、ライムに至っては怪我すら一度も負っていないのでは無いか? 今後、ダメージなどを負う機会が出てきてしまう可能性はあるけど、そうならないようにこちらでも気をつけていきますかね。正直、自分は怪我しても構わないけど、マーブル達には怪我をしてもらいたくない。



 こんな感じで最近は特に問題も起こらず平和に過ごしていたけど、ガブリエルから連絡が入った。何事かと話を聞くと、どうやら、山脈の方から地響きあり、地龍もどきの集団がこちらへとやって来ているという。地龍といえば、アースドラゴンであるが、どうやら違うらしい。地龍は地龍でも、ギガントワームの方だ。数は数え切れないほどで、真っ直ぐこちらに向かっているという。



 その報告を受けて、領民には訓練所へ、冒険者など領民でない物達はアマデウス教会へと避難するように指示する。どちらも不壊の付与が施されているので、そっちに避難してくれれば大丈夫だからだ。また、その報告を受けて、アンジェリカさんが私の部屋へと来て、少ししてからトリトン陛下やリトン公爵が領主館へと来た。



「侯爵、避難命令を出したようだが、一体何が起こった?」



「ガブリエルの報告ですと、ギガントワームのような集団がこちらにやって来ているようです。」



「ギガントワーム? 侯爵達なら楽勝だろ? 何で避難なんかさせるんだ?」



「恐らく、こちらに来ている集団はギガントワームではないと思うからです。」



「アイスさん、それってひょっとして?」



 アンジェリカさんは気付いたみたいだ。以前見たことあるしね。セイラさんやルカさんもわかったみたい。周りを見ると、マーブル達も気付いたようだ。



「私の予想が正しければ、恐らくその集団はインフィニティだと思います。」



「あぁ、インフィニティかぁ、なるほどな。侯爵が避難させるわけだぜ。」



「陛下、インフィニティとは、一体!?」



 リトン公爵はご存じないのだろう。インフィニティとは、超巨大ミミズとそれに同行する大ミミズ達の集団であり、インフィニティが通った場所の畑はそれ以降豊作が約束されるという非常にありがたい現象なのだ。穀倉地帯と呼ばれている場所でも、インフィニティが通過することはまず無い、ましてトリトン帝国にこの現象が起こること自体がありえないのだ。リトン公爵がご存じないのは当然である。



 この現象で注意しなければならないのは、インフィニティを倒すことはもちろん、その動きを止めることすらしてはいけない、ということだ。この超巨大ミミズは、体内に猛毒があり、万が一にも倒してしまうと、その毒が周囲にまき散らされることになり、その周辺の土地は毒の地と化してしまうのである。ただ、毒でも少量の使用であれば薬にもなる、ということであり、通過をそのまま見送れば、その毒は逆に超有用な肥料となる。インフィニティは、布を縫い付ける糸のように、大地を縫い付けるように進んでいくので、自然と肥料付きで耕される結果となり、豊潤な土地となるのだ。とはいえ、ミミズの集団である。殺したくなるのも分かる気がする。私は殺さないけどね。



「な、なるほど。それで、フロスト侯爵は、迎撃せずに、この町にいる全員を避難させたわけですな。」



「ああ、アマデウスからお告げがあって、知っていたんだろうな。」



 いえ、中年冒険者時代に見て鑑定した結果、知っているだけです。ある意味お告げといえばお告げなんだろうか?



「で、侯爵、この後どうするんだ?」



「マーブル達とインフィニティかどうかを確かめに行きます。インフィニティならともかく、普通にギガントワームとかだと倒さないといけませんからね。」



「そうか、頼んだぜ。」



 陛下から命を受けて、改めて出発しようとしたら、アンジェリカさん達も一緒に行くとのことだったので、一緒に行くことにした。前回見たときも一緒だったから大丈夫だしね。



 今回は転送魔法を使わずに、通常移動することにした。アンジェリカさん達は木騎馬で、私達は水術での移動で。ちなみに、水術での移動というのは、足下を水術で凍らせて滑らせるような感じで進む方法である。速度的には木騎馬の移動よりも速く移動できる優れものである。



 畑の区域に到着した。アンジェリカさん達も木騎馬をしまい、インフィニティを待ち受ける。まだインフィニティは来ていなかったけど、わずかに地響きを感じた。地響きは徐々に強くなり、地面を縫って移動する集団の先頭が見えてきた。



「アイスさん、あの集団、間違いありませんわね。」



「ですね。インフィニティで間違いないですね。」



 鑑定をするまでもなく、インフィニティだということがわかった。ギガントワームは、ワラスボのような外見をしており非常に特徴的な見た目をしているので、間違えようがない。だって、こっちに来てるのって、思いっきりミミズだしね。



 インフィニティの本体が見えてきた。うちの畑に一直線に向かって来ている。邪魔しないように、どのルートを通るのか内心ヒヤヒヤしながら見守る。正直町中に突っ込んでくるのは勘弁してもらいたいからね。



 結果から言うと、杞憂で終わった感じだった。現在ある畑や、今後開拓予定の領域をさんざん動き回ったと思ったら、先程進んできたルートを通って戻っていった。戻るんかい!! と心のなかで突っ込んでしまったけど、仕方ないだろう。私もそうだけど、マーブル達はもちろん、戦姫の3人も唖然として見ていた。



「も、戻っていってしまいましたね、、、。」



「ですねぇ、、、。」



 しばらく何とも言えない空気が広がったけど、気を取り直して領主館へと戻り、陛下やリトン公爵へと報告すると、やっぱり呆れた感じだった。



「奴ら、何がしたかったんだろう、、、。」



「ですなぁ、、、。」



「ま、まあ、フロスト領の畑を通過したんだろ? だったら、豊作が約束されたということで、メシや酒がさらに美味くなるってこったな!!」



「そうですな!!」



 ・・・何で、陛下や公爵が私達より嬉しそうにしているんですかね、、、。



 それは置いといて、やはり避難する際に多少の混乱はあったらしく、擦り傷などの怪我人が出たようだ。今後もこういったことは起こりそうだから、少し避難訓練もしておいた方がいいね。その治療のため、シスター帽をかぶったライムが大活躍していたが、非常に可愛らしかったことも付け加えておく。


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領民A「おお、ライムちゃんだ!!」


冒険者A「ありがたや、、、。」



・・・最近、シスター帽をかぶったライムを見ると拝む人が出てきたんですが、、、。

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