第165話 さてと、揉めること無くお帰り頂くことには成功しましたか。

前回のあらすじ:足の引っ張り合いの醜さを痛感しました。



 アバロン帝国の使者一行は一ヶ月ほどフロストの町に滞在して帰途に就いたようだ。聞いた話によると、彼らは本来、帝都へと行く予定であり、フロストの町を治めているのが侯爵だったため、手っ取り早く皇帝への拝謁をするための顔つなぎ程度でしかなかったらしい。まあ、信じてないけどね。とはいえ、トリトン陛下に拝謁する予定はあったらしく、時間もそれに合わせて準備していたらしいけど、その必要もなくなったため一ヶ月による滞在となったようだ。



 何故その必要がなくなったかといえば、おわかりだと思う、そう、トリトン陛下、並びに我が国における数少ない超大物の大臣であるリトン公爵に会うためには、わざわざ帝都へ行く必要はないからだ。だって、呼ばなくても来てるし、しかも毎日、、、。



 しかも、最初に会ったのが、領民はもちろん、一般冒険者でも普通に入って食べることの出来る冒険者ギルドの食堂だったらしいし、、、。アバロン帝国の使者達はそりゃ、信じられなかっただろう。まさか帝国の皇帝が一般庶民に混じるばかりか、一緒になって馬鹿騒ぎまでするんだから。しかもリトン公爵夫妻まで一緒にいたらしいし、、、。



 もちろん、最初は信じられなかったらしく、私に直に問い合わせてきたよ、、、。だから包み隠さず話しましたよ。ほぼ毎日来ること、目当ては食事と酒であることをね。ただ、それを正直に伝えたら、納得していたのも何だかなぁ、、、。詳しく話を聞いてみると、彼らもここまで美味い食事を食べたことがなかったので、この味を求めて毎日来ているということで、気持ちはわかる、ということで一部納得したらしい。けど、一国の皇帝がいて当たり前のように、領民達と馬鹿騒ぎしながら食事をしているのはありえない、ということも呟いていたっけ。そっちについては私も同意見である。



 ガブリエルから聞いた話だと、アバロン帝国の使者一行は、滞在期間中は普通に滞在を楽しんでおり、特に変な工作もすることなく、領内を見て回っていたようだ。ついでに、護衛として来ていた二人も、領内の訓練施設で一緒に訓練をしていたらしい。帝国内でも屈指の実力を持っていたようで、美味いメシと酒のお礼に力をつけてやろうと善意で参加したようだけど、逆に誰にも勝てずにむしろ稽古を付けてもらう結果となったようだった。冒険者ギルドの食堂でそんなことを愚痴っている姿を目にした冒険者は、誰しも通る道だから気にするなと慰めていたらしい。



 そういうことが多々あったようで、アバロン帝国の使者達は、冒険者達と意気投合したようで、滞在期間中に一緒に森へと狩りに行ったり、氷王の訓練場へと足を運んだりしていたようだ。あそこは鉱石が豊富にあるから、またちょっかい出されそうな気もしたけど、普通に一般開放しているし、まあ、何とかなるでしょ。



 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



 一方、フロストの町からアバロン帝国へと戻っている使者一行は、誰もが落ち込んだ表情をしていた。誰からも言葉を発することなくやや重めの空気であった。コーメ伯爵はおもわずため息をついた。



「コーメ様、どうなさいました?」



「・・・正直、身の程を知らないのは、彼らでは無く我々であると痛感したよ、、、。」



「それは、確かに、、、。」



「我がアバロン帝国は、領土も広大で国力も他国を圧倒しており、最強だと思っていた。いや、事実最強なのは間違いないと今でも思う、いや、思いたい。しかし、トリトン帝国、いや、フロストの町を見て、その考えが脆くも崩れ去ろうとしている、、、。」



「コーメ様、おかしいのはあの町だけだと思います。」



「ああ、そうだ。あの町はおかしい。領主のフロスト侯爵もおかしいが、あそこの領民、いや、町全体がいろいろとありえないよな、、、。」



「ですね。我々が案内されたのは城ではなく、教会、しかもアマデウス教会でしたからね。しかも、あの教会自体もかなり異様でした。」



「確かに、あの建物は異様に綺麗だったからな。しかも、アマデウス神以外の神を信仰していても、あそこで領民達は祈りを捧げているそうだしな。」



「・・・それもあるのですが、あの建物、そればかりではなく、実はアマデウス神の加護による不壊の付与が施されておりました。」



「何だと!? あの建物が不壊だと!?」



「ええ、それだけではなく、加護による不壊が施されている場所が所々にありました。建築途中のフロスト城内にあります訓練場でしたり、現在侯爵がいる領主館と呼ばれている場所でしたり。」



「それだけじゃない。あの領民達の強さも異常だ。我らでも、領民達に対して誰一人敵わなかった、、、。それを落ち込んでいたら、この町に来ていた冒険者たちに慰められたよ。俺らも通ってきた道だってな。」



「そうだな。特にあの子供の獣人2人に手も足も出なかったのは、かなりショックだったな、、、。」



「獣人だけではない。あそこに住んでいるであろう、ウサギ達。あれ、おかしいだろ!!」



「ベーア准男爵、、、。あのウサギはヴォーパルバニーです。」



「いや、ハクヤ男爵、俺らでもそのくらいはわかる。ヴォーパルバニーであれば、俺らでも残念ながら歯が立たないことは承知しているんだ。でもな、俺らが負けたのは、そのヴォーパルバニーではなく、ファーラビットやベリーラビットだ、、、。」



「え!? ヴォーパルバニーではなく!?」



「ああ、ファーラビット達だ、、、。」



「だな。俺の槍を難なく躱すし、ベーアもカウンターできないくらい、攻撃が早かったりした、、、。あんなのが敵に回ったら、命がいくつあっても足りんよ、、、。」



「しかも、ウサギだけでなく、ニワトリもいたよな、確か。それと、たまにだけど、アラクネ来てなかったか?」



「ああ、いたな。もの凄い美人だけど、アラクネだよな?」



「お二方、あれはニワトリではなく、コカトリスです。しかもピュア種という貴重かつ強大な力をもつ種類です。それと、あのアラクネは固有種でした。」



「は!? 帝国内では軍隊規模の動員クラスの魔物だろ!? しかも、あのニワトリ、かなり人懐っこかったぞ!? おれもかなり撫でさせてもらったが、コカトリスだと!?」



「ええ、鑑定結果ですので、ほぼ間違いないかと、、、。」



「・・・コーメ様、俺ら冗談でも、あの国、いや、あの町の連中と事を構えたくありません。」



「私自身もそう感じているよ。だから、今回の件をもって、この任から降りるつもりだ。」



「しかし、コーメ様、そんなことをされては、帝国内ではこれ以上出世どころか、逆に地位が。」



「ハクヤ。では、逆に君がこの任を引き継ぐか? 私は反対どころか、喜んで引き継ぐぞ。」



「コーメ様でさえ、この状況では、私では荷が重すぎますよ。」



「自分を過大評価するつもりはないが、誰がやっても荷が勝ちすぎるだろうな、いや、アバロン帝国全軍であの町を攻めても勝てる目が見つからない。ハンニバ、ベーア、君達はどうか?」



「ええ、勝てないでしょうね。仮に全軍が我らだとしても不可能でしょうね。我らはファーラビット達ですら勝てなかった。恐らく、フロスト侯爵はもちろん、侯爵の近くにいたあの3人はさらに圧倒的な強さを持っているでしょうし、アースドラゴンを単体で倒したというのは本当だと思います。」



「ああ、私もそう見ている。しかも、彼ら、あのアースドラゴンですら、肉としか認識してないだろう。」



「あのアースドラゴンを肉扱いか、、、。そういえば、我らが食べた冒険者ギルドで出された高級肉ですが、どうやらオークキングの肉だそうで。」



「オークキングの肉? ハクヤ、間違いないか?」



「間違いありません。我らが食べた高級肉は、オークキングもありましたが、グレイト種の肉だった日もありました。」



「何? ハクヤ男爵、その話は本当か?」



「ええ、皆さんには申し訳ないと思いましたが、一々報告するのも驚き疲れると判断したので、今まで黙っておりました。」



「・・・あの料理一人いくらだったっけ?」



「銀貨2枚だったな。」



「オークキングの肉のステーキがパンやスープも付いて銀貨2枚だと!? あのレベルの料理、アバロン帝国で食べるとしたら、、、?」



「金貨2枚、、、。いや、白金貨2枚クラスだろうな、、、。」



「料理もそうだが、あのビールというやつ? あのエールが冷たくなったような飲み物。あれ銅貨2枚だよな、確か?」



「ですね。ちなみに、私はマーブルビールというやつが気に入りましたね。」



「俺も同じだな。両方美味かったが。」



「我はジェミニビールの方が好みだな。両方美味かったので、どちらかを選べと言われたらだけど。」



「私もジェミニビールかな。・・・今回の任務失敗で地位が剥奪されたら、フロストの町で暮らそうかな。」



「・・・コーメ様、、、。」



「あんな美味いものを毎日食べられるのであれば、そりゃ、皇帝陛下が毎日来るはずだよな。」



「そういえば、そうでしたね。まさか、皇帝陛下がお忍びでなく、堂々と来てましたからね。しかも、宰相夫妻まで一緒に、、、。」



「ありえないよな!? しかも、さっさと皇帝やめてこの町で暮らしたいから、もっと上手く工作しやがれとか逆に怒られたのが意味分からん、、、。」



「我にもそんな事を言ってたな、、、。では、譲ると宣言されては? とか話すと、侯爵が嫌がって出奔するからそれは無理って言われたぞ、、、。」



「・・・聞けば聞くほど、フロストの町っておかしいよなぁ、、、。アバロン帝国ではどうやって、他人を落として出世するかで揉めてるのに、権力者が地位を譲りたいと、押しつけあってるからなぁ、、、。」



 アバロン帝国の使者達は、自分たちの感覚と真逆の環境であったことに戸惑いつつ、落ち着きを取り戻し、どう報告するのか、ではなく、どうやってフロストの町で暮らそうか模索し始めてしまうのであった。



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 アバロン帝国の使者がここに来てからは、何故か恵みのダンジョンからフロストの町へと遊びにくる魔物が出てきた。というのも、領民達と魔物達の両方から、フロストの町へ来られるようにしてくれと頼まれたからである。特に、アラクネのヴィエネッタと5匹の豆柴に対する要望が強く、断り切れなくなってきたから。



 ヴィエネッタはともかく、豆柴達は、不審者対策として必要なので、どうしようと迷っていたら、豆柴達の後に控えているダンジョントラッパー達でも可能らしく、結界に体当たりされて骨化していたのは、私達だからそうなっていたようで、不審者に対しては、豆柴達と同じく、ケルベロスとオルトロスに外見だけでは無く能力値も同一化できるようなので、毎日は無理でも、週に何日かはこちらへと来られるようにした。



 ということで、我が町自慢のウサギ広場はさらに賑わうようになった。領民達だけでなく、冒険者達もウサギ広場で昼食を摂るようになる者も増え、そのニーズに応えるべく、冒険者ギルドだけではなく、領内の食堂でも、後で容器を返却さえしてくれれば、外への持ち出しも許可できるようにしていき、さらに、ウサギ達やコカトリス達、さらには豆柴達でも食べられるようなメニューも追加されたようで、経済効果は高まった。



 恐るべきはモフモフの力、、、。この世界でも結構飢えているんだね、モフモフに。しかし、モフモフと言えば猫でしょ、とはいえ、この世界で猫というものを見たことがない。マーブルは別ね。どちらにしろ、モフモフ要員をさらに増やしていくのが肝要ですな。



 とはいえ、フロストの町って、領民が百人程度、冒険者が数十人程度しかいないくらいのちっぽけな町並みなんだけどね、、、。面倒だから、住人もあまり増やしたくないからねぇ。


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リトン宰相「ラヒラス殿、首尾はどうでしたか?」


ラヒラス「公爵閣下、ご安心を。タップリと種は蒔いておきましたので。」


リトン宰相「ほう、これが上手くいけば、私の負担は軽減されるのですね。」


ラヒラス「多分大丈夫だと、、、。(い、言えない、陛下から新たに仕事が追加されるという噂があるんだとは、、、。)」

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