第164話 さてと、とりあえず一難は去りましたね。

前回のあらすじ:マーブル達の癒やしの力を改めて感じた。



 しっかし、このアバロン帝国って酷いねぇ、、、。適当に空約束振りまいちゃって。


「まだあるんでしょ? 嘘ついていることが。正直に言ってごらん。」


 コーメは黙っている。何か手は無いかといろいろと考えているようだ。いい加減嘘を認めて楽になった方がいいと思うんだけど、、、。まあ、もう少しだけ付き合ってあげるとしましょうかね。


 しばらくした、何かを思い出したようにコーメが話し出した。


「そ、そういえば、一つこちらの不手際で忘れていたことがございました。」


「忘れていたこと? まだあるの? 空約束が。」


「い、いえ、トリトン皇帝陛下へとお取り次ぎ頂きたく、フロスト侯爵にお納め願いたいものを持参致しましたことについてです。ハクヤ男爵。」


「は、これに。」


 お付きの者が手に持っていたものをコーメが受け取り、コーメはウルヴに手渡したので、受け取った。


「これを、私に? 中身を確認してもいいかな?」


「どうぞ、この場にてご覧下さい。」


 罠は、なさそうだね。マーブル達が無反応だし。ってか、無反応ってことは、大したものではなさそう、いや、マーブル達は食べ物じゃ無いから反応してないだけかも知れない。現金な猫(こ)達である。まあ、そこも可愛いんだけどね。箱を開けて中を確認すると、中には魔物の素材らしきものがあったので、鑑定をかけてみると、「ギガントワームの皮」だそうだ。食べられない魔物のようで、アマさんの鑑定もおざなりである。いや、おざなりなのは私の方だったか。


「ほう、これは?」


 フロスト領では見かけない魔物の素材だったので、少し驚きを込めたのだけど、それが向こうには突破口のように感じられたのだろうか、コーメが先程までの態度とは一変し、得意げに語ってきた。


「驚かれましたか? これは、地龍の皮でございます。我が領の高ランク冒険者達が協力して倒した魔物でして、フロスト侯爵に献上した部位は特にきれいな部位でございます。」


「ふむ、一つ聞きたいのだが、アバロン帝国では、このギガントワームを地龍と呼んでいるのか?」


「はい。地中をその巨大な体で這い回り、その攻撃力は圧倒的でございまして、地龍と呼ばれております。」


「なるほど。場所が変われば、呼び名も変わるのだね。丁度よかった。先日私達も地龍を狩ったんだけど、折角来てくれたんだから、我が領で地龍と呼ばれている魔物の素材の一部を提供しよう。本隊はかなり大きいから、部屋の入り口辺りで出すね。」


 そう言って使者達が入ってきた入り口付近へと移動し、血抜きしかしていない地龍を空間収納のスキルで取り出す。もちろん、マーブルもわかっているので、マーブルの魔法で取り出すような振りをするのも忘れない。私達が倒した地龍を出したとき、使者達は唖然とした。


「フ、フロスト侯爵、こ、これは、、、?」


「我が帝国で地龍と呼ばれている存在だよ。私にくれた部位は、腹の辺りだったよね。とすると、この辺がいいかな。ということで、マーブル、ジェミニ、ライム、頼むね。」


 マーブル達はもう慣れているので、見事な連携で指定した部位を解体する。大きさ的には鱗一枚分くらいだから、ついでに鱗も丸々1枚付けてあげよう。


 指定した部位の解体が終わったようで、その部位をライムが渡してくれた。解体が終わったので、私達は元の場所に戻った。


「マーブル、ジェミニ、ライム、ありがとう。はい、コーメ伯爵、これが我が領で地龍と呼ばれている魔物の素材ね。お土産にあげるよ。」


 ウルヴに渡して、ウルヴがそれをコーメに渡す。直接手渡しなんてことはしない。コーメ自身もとっておきとして用意した貴重な素材を、まさか、それ以上の価値のある素材でお返してくるとは思わなかったのだろう、受け取るときにはかなり手が震えていた。


「フ、フロスト侯爵、こ、これは、我が帝国では、アースドラゴンと呼ばれ、軍隊規模で倒すほどの魔物となります。こ、これほど貴重なものを、わ、私に?」


「その程度の魔物なら、まだ在庫はあるから問題なし。あ、その個体は私が倒したやつだから、自分でもらうなり、帝国への土産にするなり、好きにしたらいいよ。」


「ま、まさか、、、お、お一人で!?」


「そうだよ。ここにいるマーブルやジェミニも一緒に1体ずつ倒しているから。まあ、この程度の魔物なら簡単だしね、何より肉が美味しいし。」


「ミャア!」「キュウ!」「ピー!」


 ・・・マーブルさん達や、肉が美味しいの部分で一緒に反応しなくてもいいからね。けど、何だろう、この可愛らしさは、、、。そして、領民と帝国側の温度差よ。帝国側は青ざめ、うちの領民達はホッコリした空気なんですが、、、。まあ、普通はそうなるかな。


「さて、贈り物の交換が済んだところで、コーメ伯爵、私に嘘をついているよね? 誤魔化そうとしたんだろうけど、それは通じないから。これ以上くだらない遣り取りで時間を浪費したくないからさ、ハッキリ言っておくね、タンヌ王国に話が付いているというのは嘘だよね?」


「嘘ではございません! こちらを訪問する前に、担当の者と擦り合わせをしており確認済みです! 侯爵こそ嘘だと断言できる根拠はおありですか?」


「ありゃ、そこまで言い切りますか、、、。まあ、いいや。コーメ伯爵が嘘をついているのか、その担当官が嘘をついているのか、あるいは私が騙されているのか知らないけど、もちろん、こちらも根拠があって言っているんだけどね。折角だから、その根拠というものを用意してあげましょう。エルヴィン、よろしく。」


「ははっ!!」


 エルヴィンさんにタンヌ王国関係者、しかも超大物を呼んでもらいにいった。ちなみに、エルヴィンさんに頼んだのは、笑いをこらえきれずに限界寸前みたいだから。流石に公の場なので、さん付けはよろしくない、と、カムドさんだけでなく、エルヴィンさん達本人から念を押された。思わず癖でさん付けしそうになったけど、何とか呼び捨てで言えた。だってさ、以前いた世界では、会話することすら恐れ多いチートな存在の方達に呼び捨てなんてできるわけないじゃん? まあ、生きていた時代が違うから会話できないだろ、というツッコミはあるかも知れないけどさ。


 っと、こんなことを考えていたら、早速来た。ってか、早すぎない!?


「フロスト侯爵、お連れしました。」


「ご苦労様、入って頂いて。」


「失礼致します。」


 エルヴィンさんの後に入ってきた人物は、言うまでもなくアンジェリカさんとセイラさんとルカさんの3人である。言うまでもなく、戦姫の3人は、普段の冒険者スタイルではなく王族とその侍女に相応しい格好である。アンジェリカさんの衣装は、いつの間にかヴィエネッタが自ら織り上げた糸でできた衣装になっていた。以前見たドレスと違うんですが、それは、、、。まあ、王女ですからね、複数持っていてもおかしくないんでしょうね。私は今着ている1着で十分ですがね。セイラさんとルカさんもシルクスパイダーの糸で編んである生地をふんだんに使ったドレスを着ている。


 後で聞いた話だけど、アンジェリカさんの着ていた衣装は先日新たに作られた一着だそうだ。というのも、ヴィエネッタはもちろん、ロックさん達洞穴族が滅茶気合を入れて作り上げた逸品で、超高価である私の衣装3着分の価値だそうだ。言うまでもなく、トリトン陛下、リトン公爵夫妻はもちろん、タンヌ国王夫妻は納得済みらしい、、、。


「初めてお目に掛かりますわね、アバロン帝国の御使者達。ワタクシ、タンヌ王国王女、アンジェリーナ・デリカ・タンヌと申します。以後、お見知りおきを。」


 しばらく、唖然としていたコーメだったが、必死に気を取り直して、自己紹介を行う。


「し、失礼致しました。初めて御意を得ます。わ、私は、コーメ・ショッカツ伯爵と申します。」


 しどろもどろになりながら、コーメは自分たちの自己紹介をしていく。それにしても、改めて戦姫の凄さがわかるな。冒険者姿というラフな格好でも、注目の的であるのに、ドレスを着ると、その美貌がさらに増幅された状態になってしまう。アバロン帝国の使者達はおろか、ここにいる領民達も見とれている。私? 私は平常運転です。とはいえ、ここまで私が平常運転なのもおかしい気がする、、、。マーブル達がいない世界で一人暮らしをしていた私であれば、ここにいるみんなと同じ反応をしていたであろう。それだけでなく、絶対にこの目に焼き付けていたはずだ。でも、多分マーブル達が着飾って、いや、何かしら可愛らしいアクセサリーなんか身につけていたら、彼らと同じ表情になっているはず。でも、マーブル達が嫌がるから付けないけどね。


「で、コーメ伯爵とおっしゃいましたかしら? 我がタンヌ王国と話がついているとのことでしたが、具体的にどこまで話がついているのかお教え頂けませんか?」


 アンジェリカさんが、周りの空気に関係なくコーメを問い詰める。


「そ、それは国家機密により、お教えできません、、、。」


「なるほど、国家機密ですか、、、。それでは、どなたと話がついているのか、位はお話ししてもよろしいのでは? ちなみに、ワタクシは父、すなわち、タンヌ国王陛下から、アバロン帝国と何かしらの話がついているようなことは伺っておりませんわよ。ということは、我が国の貴族のどなたか、ということですわね?」


 コーメ達は二重に驚いたことだろう。まさか、王国の王女がここにいたこと、そして、その王女が噂異常の美貌を備えていることに。コーメは驚きながらも、自分たちが交渉していたであろう貴族の名前を出す。


「ああ、彼の者でしたか。彼の者ならやりそうなことですわね。残念ながら、彼の者並びにその一族は、国家反逆罪で既に爵位を没収されて、現在はサムタン公国や貴国に追放となっているはずですが?」


「!!」


 コーメの表情が土気色に変わった。恐らくこれに関しては、本人は嘘をついていないみたいで、初めて知ったであろう事実に愕然としていた。


「まあ、アバロン帝国からすれば、我がタンヌ王国なんて隣国でもありませんし、吹けば飛ぶ程度の認識でしょうから、その辺の情報収集がおざなりになってしまうのも致し方ないかもしれませんわね。」


 実は、タンヌ王国の現状をここまで知らなかったのは理由があり、擦り合わせをした担当官が敢えて情報を伝えていないということもあったからだ。俗に言う足の引っ張り合いである。コーメ伯爵は、外交でかなりの成果を上げており、アバロン帝国の拡大にかなり貢献しており、現在はサムタン公国を版図に加えようとしている最中の今回の工作である。タンヌ王国を担当していた担当官が面白く思っていないのは当然であった。


「あと、こちらからお伝え致しますが、我がタンヌ王国は、サムタン公国の領土は一切求めておりません。そのため、協力など一切する気はございませんわ。もう一つお伝えしておきますが、我がタンヌ王国は、こちらのトリトン帝国と現在同盟を結んでおりますの。」


「そういうこと。その表情からすると、本当に話が通じていると思っていたようだけど、今回の話はなかったことにして。あと、これは警告だけど、そっちが手を出してこない限りは、こちらからは手を出さないけど、もし、手を出してきたら、わかるよね? もう1つお土産を渡しておくけど、そのお土産の意味をしっかりと理解して欲しい。」


 このお土産はエーリッヒさんが最初から持っていた袋で、エーリッヒさん→ウルヴ→コーメと渡った。


「念のため確認してみるといいよ。取りだしてもいいけど、袋に手を入れる程度にとどめた方がいいよ。というのも、その袋は一度出したらしまえないから。」


 袋はもちろん、マーブル印の収納袋である。とはいえ、これは先程伝えたとおり、一度取りだしたら入れられない代物である。容量もそれほどない。


 コーメはこっちの言った通りに手を入れ、再び青ざめた。中身は言わなくても分かる人は分かると思うけど、ヒント的には嫌がらせの意味合いが強い。少ししたら、青ざめた顔が元に戻り、こちらに来たときよりもスッキリとした表情になった。


「今頂きました、お土産で、フロスト侯爵のお考えとお気持ち、理解致しました。先程までのご無礼誠にご容赦下さい。また、このコーメ、トリトン帝国、並びにタンヌ王国へ赴く際には、決して敵対行動となる目的では伺わないことをこの場で誓います。」


「なるほど。ということは、コーメ伯爵以外のものが来たら、、、?」


 私が意地悪くニヤリとして話すと、コーメもニヤリとして答えた。


「ええ、つまりは、そういうことです。」


「では、改めて、使者の件、誠にご苦労であった。長旅の疲れもあるだろうから、領民には話を付けておく故、数日はフロスト領でくつろぐとよい。」


「ありがたきお言葉。それでは、そのお言葉に甘えて、短い間ではありますが、この町を楽しみたいと思います。では、失礼致します。」


 ウルヴ達の案内で、コーメ一行は大会議室を退出した。


「アンジェリカさん、セイラさん、ルカさん、ご協力ありがとうございました。それから、マーブル、ジェミニ、ライムもありがとう。」


「お気になさらず。日頃お世話になっているアイスさんの頼みですから。それにしても、あのコーメという方ですか、帰り際もの凄くスッキリされた表情をしていたようですが。」


「恐らくですけど、彼は自分の才能に自信があったのでしょう。それをこんな辺鄙な場所でここまで完全に叩きつぶされて完全敗北を悟ったのでしょうね。」


「流石はアイスさんですわ!!」


「いや、これ、全部ラヒラスの筋書きですからね! 私だったら、彼らは首と胴体を切り離されて終わりにしましたよ。」


「フフッ、そういうことにしておきますわ。」


 いや、本当にラヒラスの策、というか筋書き通りだったんだけど、、、。まあ、いいや。


「取り敢えず、面倒なことも終わりましたから、時間も時間ですし、楽しい昼食とまいりましょうか!」


「ですわね!」「はい!」「賛成。」


「ミャア!!」「了解です!!」「ごはんー!!」


 王女とそのお付きの侍女から、冒険者戦姫に戻った3人と、いつもそばで私を癒やしてくれる3人が元気よく返事を返してくれた。さて、何を作りましょうかね、、、。


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トリトン陛下「おろ? 俺らの出番は!?」

リトン宰相「出番の前に終わってしまいましたね。」

トリトン陛下「なんだよー、折角俺が出て一気に解決させようと思ってたんだぞ!」

リトン宰相「それはいいから、仕事の続きをしますよ。」

リトン公爵にドナドナされる陛下だった、、、。

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