第163話 さてと、面倒だけど相手はしないとね。

前回のあらすじ:釜玉うどんが予想以上に美味しかった件について。





 ようやくアバロン帝国の使者一行が到着したようだ。今回は堂々とアバロン帝国の使者であることを告げて来たらしい。どちらにせよ、領主館で会う気はないので、アマデウス教会の大会議室へと移動。それにしても、たまにしか着ないだけあって違和感がハンパない。服の素材なんかは、ヴィエネッタ特製の糸を編んだものであるので、実はもの凄い高級品だ。どれだけ凄いかというと、この服1着で、タンヌ王国そのものを購入できるとアンジェリカさんが言ってた。宝石類はノームのガンドさんが気合を入れた逸品らしく、こんなものはどの国にも存在しないそうだ。まあ、本人は作ってもらったから着るか程度のものだけどね。



 一応トリトン陛下やリトン公爵夫妻、タンヌ国王、アンジェリカさんといった面々にも、ランク落ちはするけどそれぞれ一着ずつ進呈されたそうだ。ちなみに、後日、お披露目用に生まれたばかりのタンヌ王国王子にも作る予定だとか。いや、おかしいだろ!? 普通は私の方がランク落ちだろ? そう思っていたが、もらった当人たちは「問題ない、むしろそれでいい」という返事だったそうな、、、。私をどうしたいのだろう、この人達、、、。



 いいものとはいえ、着慣れない服を着させられてかなり不満げに思いつつも、会談場所であるアマデウス教会へと足を運ぶ。もちろん、ゆっくりとね。ちなみに、これ、ほぼ全部ラヒラスの書いた筋書きである。使者として堂々と来た場合には、広い空間で待たせることが大事なのだそうだ。って、これって私が元いた世界で超有名なドゥーチェこと、イタリアの某政治家の取った手法ではないか。無駄に広い空間に放置して待たせつつも圧迫感を与えてこちらの主導権を握るという手法である。ラヒラスが採用している手だから、かなり有効だとは思うけど、この程度の相手にそこまでする必要があるのかな? まあ、いいや。筋書き通りに動こうじゃないの。



 気配探知をかけつつ威圧を発動。私の場合は威圧というスキルはないので、ラヒラスに文句を言ったら、「少しだけ相手に殺気を伝えればいいよ。」だってさ。どうでもいい相手に殺気を放つのは正直骨が折れるけど、そういう筋書きだから仕方がない。あ、何か反応が変わった。一応大丈夫そうだな。ちなみに、使者の数は合計で4人。内訳は使者、従者、護衛×2の編成かな。折角だからついでに鑑定かけておくか。



 鑑定でわかったのは、使者「コーメ」弁舌持ち、従者「ハクヤ」鑑定持ち、護衛1「ベーア」タンク系、護衛2「ハンニバ」槍聖持ち、ということ。・・・この国って、国名もそうだけど、まさか、人物まであれとは思わなかったよ、、、。なんとなく、何故この国が帝都他数都市だけ開発が進んでいる理由がわかったよ、多分。それと、皇帝の名前が気になる、、、。私の知っているとおりだと、自分で付けたりとか、???とかなってたりしたもんな、、、。まあ、それは後で聞けばいいか。スキルレベルも高いけど、さっきの威圧程度で気弱状態になっていたから、こいつらは大したことはなさそうだな。さて、実際にどんな顔か拝むとしましょうかね。



 アバロン帝国の使者が入ってきた扉とは異なる場所の扉から大会議室へと入ると、私もびっくりした。部屋の中は、使者4人と全身鎧を纏った4人のみで、あとは何も存在していない。ちなみに全身鎧を纏っている4人というのは、ウルヴとエーリッヒさん、エルヴィンさん、ハインツさんである。それと、全身鎧の見た目とはなっているけど、実際はヒドラ皮で作成した革鎧にラヒラスが魔導具で偽装を施しているため、見た目とは大きく異なって軽くて動きやすい上に、見た目の金属よりも頑丈というありえない仕様である。ウルヴだけ隊長っぽく顔をさらしている状態で、見た目ゴブリン、中身チートの3人は顔の部分まで隠れるようになっているけど、ハクヤだっけ? 彼が鑑定持ちだから、ゴブリン族というのはバレているだろうな。まあ、問題ないけどね。



「遠路はるばるようこそいらっしゃいました。私はアイス・フロスト侯爵と申します。恐れ多くも、トリトン皇帝陛下より命を受けてここを治めております。」



「侯爵自らのご挨拶とは恐れ入る。私は今回の使者を務めるアバロン帝国所属、コーメ・ショッカツ伯爵。隣に控えているのが、ハクヤ・キョイ男爵。左右の護衛を務めるのがベーアとハンニバ、共に准男爵である。」



「さてと、本日わざわざこんな辺鄙な場所を訪れた理由を伺うとしましょうか。」



「本日、こちらを訪れたのは、いくつかお願いの儀があり参上した次第。まずはわがアバロン皇帝陛下よりの信書を持参したので、まずをこちらを読まれたし。」



 コーメが私に信書を手渡そうとしたので、受け取らず無視した。しばらくして、我慢できなくなったのか、コーメが言葉を発する。



「何故受け取らぬ。皇帝陛下よりの信書であるぞ。」



「その方、いや、そちの帝国は礼儀というものを知らぬのか? たかが伯爵風情が侯爵に直接手渡すなぞ、普段はあってはならないこと。」



 恐らく、先程の威圧? で呑まれそうになったのだろう、舐められてはいけないと思っての精一杯の虚勢かも知れないし、普段からそういった行為をしている愚か者かもしれないし、そこら辺はわからないけど、こいつ少し調子にのっているみたいだから、自分たちの置かれた状況を改めて思い知らせてあげようと思い、改めて殺気を少し放つ。その殺気にコーメは自分の置かれた状況を確認したようで、態度を改める。



「し、失礼、い、致しました。こ、こち、ら、が、し、信書と、な、なります。ぜ、是非ご一読を。」



 今度はウルヴに手渡したので、それを受け取ったウルヴから改めて受け取り、封を解除して中身を確認する。これもラヒラスからの指示である。



 内容は、サムタン公国を共同で攻めようというものと、トリトン帝国内での私の立場を上げるために、アバロン帝国が後ろ盾となるとの内容であった。・・・こいつら馬鹿か? 確かに、アバロン帝国から来た諜報員には必要最低限の情報しか与えずに、残らず始末していた状態だから、あまりここの情報が入っていないかも知れないけど、まず集めるべきは、領都の繁栄ぶりと、領主の性格だろうに、、、。ぶっちゃけ、今の段階でも面倒なのに、これ以上立場上げるようなことされて喜ぶとでも思ったのか? こんな面倒なことをしなくても、あの2人なら、二つ返事で私の地位を引き上げるだろう、、、。



 うわ、しかも、協力してやるから、金を寄越せだの、挙げ句の果てには、自分の手のものを側近に取り立てろとか意味わからん、、、。典型的なゴミ屑だな。あ、しかも、これ、皇帝の直筆じゃないな。確か、ガブリエルが言ってたな。この帝国って、外交官が独自にこういったことができるように、封蝋とか印璽とか、自分たちで各自で用意して管理したりしているって。で、約束について聞くと、皇帝の印ではないから知らんと惚けたりするらしい。向こうからしたら、取るに足らない存在であるトリトン帝国のしかも一領主に対してだから、恐らく、いや、間違いなく約束が果たされることは無いな。というか、いらんことすんな。まあ、この程度の相手でしかないなら、相手にしてやる義理もないか。



「なるほど。内容は理解した。が、このサムタン公国を共同で攻めるという話であるが、攻めようにもタンヌ王国を通過しなければならないが、その辺はどうなっている?」



「その辺については、抜かりなく。別に使者を出しており、タンヌ王国とは話がついております。」



「なるほど。それで、共同で攻めるのであれば、我らが取り分はどのようになるのか?」



 私が乗り気であると踏んだようで、そそくさと懐にしまっていた別の書簡を手渡そうとした。もちろん受け取らない。



「相変わらず無礼だな、そちは。」



「た、大変失礼致しました。こちらになります。」



 ウルヴが受け取り、私に手渡す。その時のウルヴの手は震えていた。震えていた理由は、表向きは、私に対する無礼に怒っていることっぽいが、実は、笑いを堪えているのである。その証拠に、一緒に控えているエーリッヒさん達も一緒になって震えている。端から見ると怒っているように見えるけど、彼らも笑いを堪えるのに必死である。特に笑い上戸のエルヴィンさんなんかは限界寸前のようだ。



「ふむ。切り取り勝手とな。」



「はい、内容の通りでございます。トリトン陛下へ何卒良き返事を頂けるよう、お取り次ぎを。」



「断る。」



「え? 今、何と?」



「断る、と言っている。」



「皇帝陛下の判断なく、断る、と?」



「トリトン陛下より、私の判断で良いと言付かっているからな。お前らと違い、陛下の許可はすでに得ているからな。」



 もう、面倒だから、口調を元に戻す。そち、とか言いづらい。



「わ、我らとて、皇帝陛下からのご許可を受けて、この話を持ちかけております。封蝋や印璽が何よりの証拠でしょう。フロスト侯爵こそ、皇帝陛下の判断無く独自に判断なされたのではないですか!?」



「辺鄙な場所だと思って、私が何も知らないとでも?」



「え?」



「お前達の手口くらい、承知している程には把握しているぞ。その封蝋や印璽はそちらの皇帝の使用するもので無いのは承知している。マーブル。」



 皇帝直筆のものと、こいつらの使用する印璽の違いは聞いていたので、実際にどう違うのかということも聞いている。まさか、実際に現物を掴んでいるとは思わなかったけど。私は興味なかったけど、マーブルが面白がってその形を保存したと聞いたので、実際に出してもらう。マーブルが「ミャッ!」と可愛い声で鳴きながら右前足を上げると、2つの印璽が浮かび上がってくる。



「こっちが、お前の用意した書簡の印璽、で、こっちが、お前のとこの皇帝が使用している印璽。ほら、この部分に違いがあるな。つまり、ここで約束されたことはお前の気分次第、いや、間違いなく反故にされるということ。こちらが約束の履行をせまっても、知らぬ存ぜぬを通すことができるということだな。」



 使者は無言である。まさかこんな辺鄙な所で領主をしている人間が、ここまで掴んでいるとは思わなかったのだろう。あと、補佐官、鑑定持ちなんだから、ウルヴ達の装備を見て普通で無いことくらい気付けよ。



「あと、もう一つ言っておく。サムタン公国? あんな領土いらん。そもそもいらない土地を得るために出兵なんてするわけないじゃん。お前らも、サムタン公国の町並みと、ここフロストの町並みの違いをしっかりと確認しておけよ。どうせまともに見ずにここに来たんだろ? もう一つ言っておくとさ、ここって城じゃないんだよ。アマデウス教会なんだよね。」



「えっ?」



「ほら、見てない? 建設中の大きな建物。あれが、城なんだよ。まだ完成してないけどさ。ってか、いつ完成するかわからないけど。」



「・・・。」



「それとさ、もう一つの内容のあれ、それこそいらないんだよね、、、。こんな若造が侯爵となっているのは不思議だと思うけどさ、別になりたくてなった訳じゃ無いから。」



「え? そ、それは、一体どういうことで?」



「押しつけられたんだよ、皇帝陛下に。ただでさえ、なりたくもない侯爵にさせられてさ、これ以上地位を向上させる? それこそ余計なお世話だよ。で、自分の手下を側近に付けろ? こんなことも調べられない程度の人間の配下を側近? いらねぇよ、ゴミを押しつけるんじゃねぇ!!」



 話していて本気で腹が立ってきたので、思わず殺意丸出しで大声を上げてしまったよ、、、。ありゃ、周囲が凍り付いたよ、、、。使者一行はビビって腰抜かしてるけどどうでもいいや。あ、ウルヴ達が震えてる。ゴメン。気がついたマーブル達が可愛いお手々で私をなだめてくれる。ああ、癒やされる。



 私が落ち着いてから、しばらく経過して、ようやく使者達も気を取り直して立ち上がった。



「も、もう、しわけ、あ、ありま、せ、せんでした、、、。」



「ゴメンね。色々思い出てしまって、醜いところを見せてしまったね。まあ、そんなことよりさ、君達、まだ他にも嘘ついているよね?」



「え? そ、それは、、、。」



 そろそろ準備出来ている頃かな、と思いつつ話を続けることにした。


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リトン宰相「!? こ、この殺気は、、、?」


トリトン陛下「ここまでのものだと、恐らく侯爵だな。よほどあちらさんに腹が立ったのかもな。何かは知らねぇけど、八つ当たりも含まれてそうだな。」


リトン宰相「は、はぁ、、、。(その八つ当たりって、原因は陛下です、、、。)」

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