第167話 さてと、思わぬ時にいいものが手に入りましたね。

前回のあらすじ:ライムが大活躍した。



 インフィニティと大ミミズの軍団が去ってから2ヶ月が経過し、領内では大賑わいとなっていた。というのも、インフィニティ効果が早速現れたからだ。特に小麦に最も恩恵があった。フロスト領で生産されている大麦は、種を蒔いて2週間程度で収穫できてしまうほどのチート性能な作物であるのに対し、小麦は他よりも少しだけ質のいい作物程度だったので、収穫には数ヶ月必要で、領内でもまだ2、3回程度しか収穫できていなかったのだけど、インフィニティが通過したことにより、1ヶ月で収穫できるくらいまで質が向上したようだ。


 ということで、今までは慎重に新商品を開発していた、というか、新商品は基本的に私だけが開発していたようなものだったが、インフィニティ効果により、今までとは比べものにならない位の収穫ができるようになったことで、領民達でも盛んに新商品の開発が進んでいるのは非常に嬉しいことだ。


 ビールの生産が順調に進んでいるため、それに伴って酵母も多く生産されているため、ふっくらしたパンも安定した供給ができるようになったおかげで、いろいろな種類のパンが生産、販売されるようになり、これによって携帯食の質も量も大きく増した。


 また、生産量が増えたおかげで、小麦やパン、うどん、パスタといった食品類も帝都以外のトリトン帝国内にも普及しているようだ。それに伴い、帝国領内から料理の腕を上げるべく人が集まってきており、冒険者ギルド内の食堂を始め、領内にある食堂だけでなく、各屋台でも見習いとして腕を磨きに来ていると報告を受けた。


 人が集まると、その分治安も悪化してしまう傾向にあるが、もちろん対策は取ってある、というよりも、そういった連中は治安部隊が出るまでも無く、うちの領民やペットのウサギ達がフルボッコにしてしまうので、騒動が起きる前に解決してしまうのだ。そんな中、トリトン帝国内でもそれなりに規模の大きかった盗賊団がいたようだけど、カムドさん指示の元、軍事演習と称して盗賊団を潰してまわった結果、トリトン帝国内での盗賊の類いはほぼ無くなったそうだ。大本は潰したから、後は各領主の皆さん、頑張ってね。


 フロスト領内では、外面的には平和そのものと言えたけど、他国からの諜報員がわんさか来るようになったそうで、レベルが低いので対応は楽だけど、何より数が多いので、面倒だとガブリエルが報告に来ては愚痴っていた。一応、信頼できそうな人材がいたら、スカウトしてもいいよと許可はしておいた。あと、下手に工作してきたら遠慮なく潰して構わないとも伝えておいた。


 そんなこんなで、結構細かいけど領主権限で対応しなければならない案件が増えてうんざりしていたときに、また新たな面倒な案件が飛び込んできた。報告してきたのは、最近の定番のガブリエルではなく、カムイちゃんだった。


「アイスさん、巨大なドラゴンがこっちにやって来るよ!」


「ミャッ!?」「巨大なドラゴン? ということは、今夜はご馳走です!?」「おにくたくさん!?」


 ドラゴンの言葉に、マーブル達が反応する。


「だけどね、変なの。全く敵意が感じられなくてね。」


「なるほど。デカいドラゴンということだから、その気になれば、すぐにもここに到着できただろうけど、こうしてカムイちゃんが報告に来られるんだから、何か話がしたいんだろうね。わかった。そっちに向かうよ。で、どこから来てるの?」


「以前、鉱石がありそうって行ってみたけど、結局何も採らないで戻ってきた山脈あったよね? あの辺からかな。」


「なるほど、あの国境扱いの山脈か。確かにあそこって何も無かったから見向きもしてなかったけど、ドラゴンがいてもおかしくないね。じゃあ、行ってみますか。ところで、陛下は何と?」


「陛下には他の者が行ってるよ。けど、どうせ、「んあ? んなもん、侯爵に任せりゃいいんじゃねぇの?」とか言って、アイスさんに丸投げするだろうから、どっちにしろアイスさん次第だと思うよ。」


 ・・・陛下ならそうするんだろうな、、、。まあ、一応報告はしているわけだし、それで多分いいんだろうな。気は進まないけどね。


「フェラー族長。これからデカいドラゴンと面会してくるよ。いつものメンバーで行ってくるから、留守は頼みますね。」


「ご主人、お任せを。カムイ殿から聞いてると思いますが、陛下と宰相様からも好きにして良し、とお言葉を頂いておりますので。」


 さて、あの場所に行くのはいいんだけど、ここからだと国境近くだと結構時間掛かるな。恵みのダンジョンから行けばいいか。ということで、マーブルに転送魔法を頼んで恵みのダンジョンへと転移してもらうことにした。で、あっという間に到着。デカいドラゴンの姿が確認出来た。報告通りデカいな。さて、相手はどう出てくるかな。


 デカいから遠くからでも姿はわかるけど、それでもそこそこ距離はあったので、そこまで行くとしますかね。デカいドラゴンの左右には、これまたデカいドラゴンが控えており、通常であればビビってしまう程の威厳を備えていたけど、あのクラスなら、氷王の訓練場でもゴロゴロいるし、ダンジョンの魔物ではない野生種だから、肉が沢山獲れるんだろうな、とか、マーブル達なら思っているんだろうな。


 そう思ってマーブル達を見ると、思った通りだった。特にジェミニなんかは、「これはかなり美味しそうなお肉が手に入りそうです!!」みたいな表情でデカいドラゴン達を見ていた。マーブルも、ジェミニほどあからさまではないにしても、そんな表情をしていた。ライムは頭の上に乗っているのでその表情を知ることはできないけど、たまにプルプルと震えているところを見ても、ドラゴンの味を思い出しては食べたそうにしていることはよくわかった。


 真ん中にいるドラゴンはともかく、左右のドラゴン達は、そんなことを感じたのだろう、最初は殺気を込めた視線を私達に送ったのだが、それも一瞬だけであった。マーブルとジェミニを見て、力の差を感じ取ったのであろう。強者の余裕とも言える強気の視線は、自分たちに置かれた状況を感じ取ったのだろう、逆に自分たちが捕食される立場だと思い知ったのか、一気に怯えの表情をこちらに向けていた。


 普通に話して声が届く程度の距離まで近づいたけど、ドラゴン達からは声すら出ていない。ここはこちらから話してみるべきだろう。


「ドラゴン種の主とお見受けする。こちらには一体何用で来られたのかな? 私はこの一帯を治めている、トリトン帝国アイス・フロスト侯爵。こちらの猫はマーブル、ウサギはジェミニ、スライムはライムと言う。こちらの言うことが分からないのであれば、こちらにいるジェミニに通訳をお願いするが、どうか?」


「いや、それには及ばぬ。我は、グレイル・ヴァンガード・・・(中略)・センチネルという。お主達で言うところのエンシェントドラゴンといったかな。左におる者は・・・(やはり長いので省略)であり、こやつらは我の側近である。こちらに来たのは、この領域の主と話をせんがためである。お主が代表ということで間違いないか?」


「この領域ということであれば、私が代表なんだろうね、、、。で、話というのは?」


「うむ、話というのは、我らの領域とお主の領域での条約を結びたい。」


「なるほど。それで、そちらの希望する条約の内容は?」


 希望を聞いてみると、真ん中の者ではなく、左側にいた者が口を開いた。


「我らに毎年、作物や魔物の肉を献上してもらいたい。」


「お、おい、、、。」


 真ん中にいるドラゴンはたしなめようとしているが、こっちが大人しく話を聞こうとしたら調子にのってきたようだ。


「我ら龍種に仕える名誉を与えると言っておるのだ。悪い話ではあるまい。」


 調子に乗った発言に、マーブルとジェミニが反応したけど、一旦止める。


「マーブル、ジェミニ、ちょっと抑えて。一応聞くけど、グレイル何とかさん、と言ったね。今発言した方と同意見なの? 一応右の方も聞いてみたいけど、どうなの?」


 真ん中のデカいのが口を開く前に、右のデカいのが口を開いた。


「我も同意見だ。もちろん、そのお返しとして、我らがそなたらを守護してやるのだ。これ以上の名誉はあるまい。」


「なるほど、左右のトカゲさんはそういう考え、ね。で、真ん中のあんた、あんたはどうなのかな?」


 私も少し殺気を解放して問い詰める。やや無表情で対応していた真ん中のデカブツも流石に驚愕の表情を浮かべて口を開いた。


「いや、我は、友好関係、最悪、せめて不可侵、の関係、を希望している、、、。」


「長! それでも、貴方は誇り高き龍種か!?」


「左様! こんな下等生物達にそんな気遣いは無用!!」


「なるほど、なるほど。君達はわざわざこのフロスト領に喧嘩を売りに来たわけだね、うんうん。」


「フン、我らドラゴン族に刃向かうか!」


「ありゃ、さっきマーブルとジェミニにビビっていた癖に、口上だけはいっちょ前だねぇ、、、。それに、真ん中にいるあんたも、こいつらがいたらまともに話もできなさそうだしね。じゃあ、マーブルは左の魔法に強そうなやつを頼むね。ジェミニは、右にいる硬そうなトカゲさんを頼むね。」


「ミャア!」「了解です!!」


 マーブルとジェミニが戦闘状態に入ったことで、先程の絶望感を思い出したのか、ビビり出したが、マーブルが魔法防御の強うそうな方に魔法を唱えだしたのと、ジェミニが物理攻撃が聞かなそうな方に物理攻撃を仕掛けてきたのを見て、向こうも戦闘態勢を取り始めた。恐らく負けることは無いと思い始めたのだろう。


 マーブルもジェミニも私の意図に気付いており、敢えてそういう行動を取ってもらった。まあ正直、それぞれ逆のドラゴンを狙いに定めてしまえば、間違いなくこちらの圧勝である、とドラゴン達は思っただろう、しかし、こちらの採った行動は逆であり、それならばドラゴン達が勝つであろう、しかも圧倒的な蹂躙劇でもって、、、。そう思ったに違いない。でも甘い。こちらの意図は、そっちの自慢の防御力をもってしてもマーブル達にはまるで意味が無い、つまり、絶望的な力関係を見せるために敢えて、自慢の防御力を発揮できる状態で戦わせてみることにした。


 流石は私達の自慢の猫(こ)達であり、勝負は一瞬でついた。マーブルが放った特大の風魔法で魔法防御に優れているであろうドラゴンの首が一瞬で刎ねられ、ジェミニは物理防御に優れているであろうドラゴンの首回りを一周して戻ってきたと思ったら、その部分からポロリと首が落ちたのだ。それぞれのドラゴンは、まさかこんなにもあっさりと攻撃が通るとは思わなかったのだろう、絶望の表情を浮かべたまま息絶えた。私はすぐさま空間収納で左右にいたドラゴン達を回収した。今日はドラゴン祭りじゃー!!


 元々戦う意志は持っていなかった真ん中のドラゴンであったが、まさか、ここまで一方的に殺られるとは思ってもいなかったのだろう、驚愕と絶望が混じった表情に変わっており、言葉すら発することができなくなっていた。でも、折角来たのだから話し合いは必要だよね、ということで、話し合いを再開することに。


「邪魔者もいなくなったことだし、改めてそちらの目的を伺いましょうか。」


 私が普段通りの話し口調で話しかけて、我を取り戻したのか、ようやく話し出した。


「供にいた者が大変失礼をした。我の希望は、あくまで我が領域の不可侵である。我はそなた達と事を構える気は全く無いのだ。それを理解して欲しい。」


「なるほど。ただ、私達は自分からそちらの領域を侵した記憶はないんだけど、いきなりそのことを提案してきた真意が理解できないんだけど。」


「・・・端的に言うと、我らの同胞、いや、同胞ではないな。そなたの領土を襲う魔物の中に、龍種がたまに混じっていると思うが、覚えはあるか?」


「ああ、たまにいますね。なるほど、龍種がこちらを襲ってきても、そちらに住んでいるドラゴンとは無関係だから、報復でそちらに襲ってこないようにする約束かな?」


「うむ、話が早くて助かる。我らは先程も伝えたように、お主達と事を構える気はない。」


「なるほど、貴方の言いたいことはわかったよ。けどさ、今いた側近達も同じ考えなの?」


「・・・正直なところ、半々といったところなのだ、、、。」


「大変だねぇ、、、。けど、わかったよ。ドラゴンがこちらに攻めてきても、報復行動は取らないことをこの場で約束するよ。もっとも、他の地域の連中は知らないけど、私達がドラゴンを倒すのは、ただ単に迎え撃ったのと、生活必需品を手に入れるためだしね。けど、倒したドラゴンは全てこちらの好きにさせてもらうから、仮に遺品を寄越せと言っても聞かないから、そこだけは注意ね。」


「了解した。」


「あ、そちらの事情はこちらの事情と似ている部分もあるんだよね。我が領にも冒険者ギルドはあるんだけど、その冒険者達が、そちらの里を攻めてくるかも知れないけど、その件に関しては私達は一切関与してないから、了承してくれると助かる。もちろん、我が領の冒険者ギルドからはドラゴンの素材を依頼することはしていないし、これからもするつもりはないから。」


「我らの素材だと!? ふむ、図々しいかも知れぬが、不可侵では無く取引に変更できるか? 我らの里で手に入らないモノをそちらで用意してくれれば、鱗や牙でよければ交換するぞ。」


「おお、それはいい提案かもしれないけど、ただ、人とドラゴンでは食べる量が異なるから、そこは量的に厳しいかもしれないんだけど、、、。」


「それについては心配無用だ。少し待って欲しい。」


 そう言うと、デカいドラゴンは人の姿に変わった。といっても、ぶっちゃけリザードマンに角と羽が生えた姿なので、どう見ても人とはほど遠い感じかな。


「なるほど、そのように擬態ができる、ということね、納得。」


「うむ、我らも普段からあの姿をしているわけではないのだ。食料の関係もあるからな。この姿であれば、人族と同じか、それより少し多い程度の食料があれば事足りる。これなら受け入れてくれるだろうか?」


「正直、量にもよるけど、その提案受けよう。じゃあ、これからよろしく。それで、何と呼べばいいかな? ドラゴンだと味気ないし、本名なんか長すぎて覚えきれない。」


「む、そ、そうか、では、グレイルと呼んでくれればよい。お主はアイスと言ったか? いや、フロスト侯爵だったな。では、我はそなたのことをフロストと呼ぼう。」


「了解。じゃあ、欲しいものをまとめて、後日改めてフロストの町まで来てくれてもいいかな? こっちから訪問してもいいけど、その感じだと、里の場所って知られたくないでしょ?」


「むう、気遣い感謝する。お言葉に甘えさせてもらうとしよう。」


「あ、言うまでもないけど、ドラゴンの姿で町には来ないでね。スペース的に無理だから。」


「無論わかっておる。しかし、距離的にも遠いから、この場所までならよいという許可をもらいたい。」


「そうだね、では、畑の手前まで、ということでどうかな? 丁度川も流れているからいい目印になると思うけど。」


「承知した。では、後日改めて挨拶に伺うとしよう。フロストよ、これからよろしく。」


「こちらこそ、よろしくグレイル。」


 話し合いが終わって、互いに握手をして私達はフロストの町へと戻った。町に戻ってから、やっぱり陛下と公爵がいらしたので、詳細を報告した。陛下達だけでなくその場に居合わせていた戦姫やフェラー族長やカムドさん、ウルヴ、アイン、ラヒラス達とマーブル達がアイコンタクトをしてニヤリと笑っていたことに私は全く気付いていなかった。


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トリトン陛下「侯爵がドラゴン族と協定を結んだみたいだな。」

リトン宰相「ええ、側近達を倒した上での条約締結みたいですな。」

トリトン陛下「そう、条約云々よりも、大事なのはマーブル達が倒した連中ということだ。なあ、マーブル?」

フェラー族長「ということは、今夜は、、、。」

トリトン陛下「そういうことだ。」


周囲からは一部ヨダレがこぼれていた。

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