第149話 さてと、襲撃が起こるようです。
前回のあらすじ:アマさんから久しぶりに呼び出されたけど、少しはぶられた、、、。
私がアマさんの元を辞した後、他のメンバーは残って話をしていたそうだ。何? この疎外感、、、。というのは半分冗談である。いくらマーブル達との仲とはいえ、私には言えない事情も少なからずあるのだろう。では、何でこんな事を知っているのかといえば、いつものテシポンの後にジェミニとライムが話してくれたからだ。話の内容についてはもちろん聞いていないし、聞いてもはぐらかされるか、内緒の一言で終わるだろうし、まあ、そこは別にいいや。ただ、先日どうにか完成したミードとビールについては絶賛されていたようで、話の大半がそれらについてだったらしい。
そういえば、久しぶりにゼラチンマスターのゼータがこちらに来た。最近顔を見ていなかったので不思議に思っていたけど、どうやらギルドや宿屋の食堂にずっといたらしい。新商品の開発ということで、食料関係者から引っ張りだこだったご様子。しばらくライムとはまた違ったプヨプヨ感を堪能してから、私も新商品の開発ということで、ゼラチンを分けてもらい、お礼にヒドラ肉などをあげると、ゼータは非常に喜んでくれたようで、追加でほぼ体の半分くらいのゼラチンを分けてくれた。
ゼータの出してくれるゼラチンは非常に高密度であり、匙一杯でも余裕で20個くらいのゼリーが作れてしまう位だ。って、以前はここまで高密度じゃなかった筈なんだけど、、、。ライムが「おいしいごはんを沢山食べているから。」と言っていたので、恐らく体を大きくする代わりに密度を上げたのでは? ということらしい。とにかく、しばらくゼラチンには困らないくらいの量をもらったので、試しに1つ作りましょうかね。
私が作ったのは、麦汁をゼリーにしたものである。麦汁にそのまま溶かしたゼラチンを入れても、甘すぎて食べられないので、ある程度お湯で薄めつつ、丁度いい感じの割合ができたので、そこにゼラチンを投入して溶けたら器に入れて冷やすだけ。
それとは別に、ゼラチンの濃度を上げて、粒を小さくして冷やし固めてグミの出来上がり、ってまだ完成はしてないけどね。いやあ、ゼータ便利だわ。無事に完成したら早速味見をしますかね。
朝食も終えて、アンジェリカさん達とダンジョンへ行くので、その支度を終えてからマーブル達とモフモフしてじゃれ合っていたところに、狩り採集班を通じてカムイちゃんから思いもかけない報告が届いた。
「魔物はおろか、動物達すら出遭わなかった?」
「うん、魔物はいない日って、たまにあるんだけど、それでも、少なくとも動物はいるんだよね。でもね、今日は動物すら1匹も見かけないって。」
「なるほど。となると、やばい魔物が森にいるっていうことだね。」
「そうだね。でも、ドラゴンクラスでも、ここまでいない日ってなかったんだよね。」
「確かに。ドラゴンは私達にとっては、貴重な高級食料でしかないけど、それでも普通に考えるとドラゴンはこの世界では、最上位に君臨する存在だよね。」
「そういえば、そうだね。最近、当たり前のようにドラゴン倒したりしてるから、その辺は感覚がおかしくなってきてるけど、ムラに住んでたときは、絶望でしかなかったからなぁ、、、。」
「ところで、動物すらいないことに気付いたのはいつ?」
「今日だね。昨日までは普通に魔物も動物もいたみたいだから。」
「なるほど、そうなると、少し時間があるかな。フェラー族長、済まないけど、ウルヴとラヒラスを呼んできてくれないかな。」
「承知しました。」
少し経つと、ラヒラスとウルヴがやってきた。また、領主館の空気が少し重くなったのを感じたのか、アンジェリカさん達戦姫もやってきた。
「アイス様、俺たちに話が?」
「アイスさん、一体何があったのです?」
「ウルヴ、ラヒラス、いきなり呼び出して済まないね。アンジェリカさん達も来ましたか。話というのはね、ここにいるカムイちゃんからの報告なんだけど、森の様子がおかしいんだって。」
「どうおかしいのです?」
「報告だと、普段森にいる魔物や動物達に全く出遭わないんだって。」
「なるほど。とすると、強力な魔物がこちらに向かってくる、ということかな。」
「恐らくそうだと思う。ラヒラスはそれについて何か掴んでいることある?」
「うーん、こう言っては何だけど、俺が把握しているのは、基本的には他国の情報であり、人についての情報なんだよね。魔物となると、俺よりもアインの方が、って、人の情報についてもアインの方が適役かな。それはそうとして、考えられるのは、強力な魔物ではあるんだけど、ドラゴンほどの脅威ではないかな。」
「そうなんだ。でも、小動物すら見かけないということだから、ドラゴンよりヤバい存在じゃないの?」
「普通はそう考えるよね? でもさ、ドラゴンってあの巨大な体でしょ? そうなると、小動物なんかは基本的には狙われないんだよね。小動物達も狙われないってわかっているから、基本的にはドラゴンクラスの魔物だと逆にとどまったりするんだよね。」
「ということは、ドラゴンほどではないけど、強力な魔物っていうこと?」
「そういうことだね。で、小動物を全くみかけないってことだよね? となると、結構な数がこちらに向かって来ている可能性は高いね。」
「なるほど、まとめると、ドラゴンほどではないにせよ、強力な魔物が多数、こちらに向かって来ている、ということでいいのかな?」
「恐らくそうだと思う。ということで、対策を取らないとね。」
「対策と言っても、ここには城壁とかの防御施設はないわけだし、偵察して相手を確認している間に戦闘準備を整えるくらいしかできないけどね。」
「・・・戦闘準備も立派な対策だよ。」
「まあ、そうか。カムイちゃん、偵察部隊を選出して。もちろん、レオに頼んで、ウサギ族やコカトリス達にもお願いしていいから。あと、ここでは手狭なので、アマデウス教会の会議室へ移動します。カムドさんは、エーリッヒさん、エルヴィンさん、ハインツさんを会議室に呼んで下さい。それ以外の領民達は戦闘準備を整えてから、通常通りに過ごすように伝えて。」
カムイちゃん、フェラー族長、カムドさん達は、一礼してこの場を離れた。
「あと、ウルヴは申し訳ないけど、早速偵察に向かって欲しい。もちろんアウグストでよろ。」
「承知しました。」
「ラヒラスは、魔導具の準備を。あとアインも会議室に呼んでおいて。」
「了解だよ。」
「アイスさん、ワタクシ達は何をすれば?」
「アンジェリカさん達は戦闘準備を整えてから、会議室へと向かって下さい。あと、ダンジョンへはこれが終わってからになりそうですね、申し訳ない。」
「何を水くさいことを。ワタクシ達もフロスト領の住民ですのよ、こんな時は、領民の方達と一致団結して対処するのが当たり前ですわ!!」
そばに控えているセイラさんやルカさんも頷いていた。いや、領民ではあるんだけど、まだお客さんという意識がこっちにはあるんだよね。仮にそれが失礼にあたるとしても、どうしてもそこは拭い去れないというか何というか、、、。
私達も戦闘準備を整えて、アマデウス教会の会議室へと向かうと、すでに全員揃っている状態だった。そこら辺は流石だね。
「みんな忙しい状況なのに、ここに呼び出して申し訳ない。話はすでに聞いていると思うけど、改めて。先程森の様子がおかしいと連絡が来て、軽く話し合った結果、ドラゴンほどではないにせよ、強力な魔物が多数ここのフロスト領へと向かっていると判断してみんなを呼んだ。」
一応念押しで、一緒にいなかったメンバーに呼んだ意図を改めて伝える。
「話の内容はわかったし、俺らも同意見だ。それでこちらに向かってくる魔物の種類は?」
「そこまではわかっていないね。とりあえずウルヴにアウグストに乗って先行偵察をお願いしておいた。」
「ウルヴには遠目のスキル効果がある魔導具を渡しておいたから、大丈夫だとは思うけど、予想以上に速く移動できる魔物だと少し心配かな。」
おい、ラヒラスよ、変なフラグを入れてくるのは止めろ、、、。それって、ほぼ間違いなく高速移動してきそうな存在じゃないか、、、。
「仮に遠目が効かなくても、地響きとかで判断できませんの?」
「アンジェリカ様、相手が空から来てしまうと、地響きでは判断できないかと、、、。」
空、か。って、ここにも変なフラグをいれる人達が、、、。
「空か、十分ありえるな。地上からであれば、報告を聞いた後でも対処できるが、空から来てしまうと、報告を待ってからでは対処は難しいな、、、。」
はいはい、流れから考えると、ほぼ間違いなく空から来る魔物で決定ですね。
「じゃあ、今からある程度指示をだしておかないといけないってことかな?」
「そうなるな。エルヴィン、射撃部隊は迎撃準備に取りかかってくれ。」
「了解した。」
「いや、待って。空からなら、マーブルの風魔法で撃ち落とせばいいんじゃない?」
「いや、アイスさん、それは最終手段とさせてもらいたい。というか、アイスさん達の出番は、俺らでは対処しきれない場合にしてほしいんだ。」
「あれま。何でまた?」
「いや、簡単な話だよ。アイスさん達が出てしまうと、俺らの出番がなくなってしまうんだよ。それだと何のために鍛えてきたのがわからなくなってしまう。あと、領民達も自分がどれだけ強くなったのかを実感してもらうためにも、ここはしばらく俺たちに任せてもらいたいんだ。」
「その考えって、エーリッヒさん達だけの考えではないんだね?」
「もちろんだ。領民達もどこまで通用するか腕試しをしたくてしょうがないんだよ。ゴブリンやオークの集団だけではなく、強い魔物の集団にどれだけ通用するかね。」
エーリッヒさんの発言に、エルヴィンさんやハインツさんだけでなく、アインやラヒラスも頷いていた。そこまで気合が入っているんであれば、こちらは止める術はない。
「みんなの意見はわかったよ。ただ、無理は絶対にしないようにね。」
「もちろんだ。」
私達が後続で控えることについては決まったので、それを踏まえて作戦を立てているときに、ウルヴが戻ってきた。
「ウルヴ、偵察ご苦労様。魔物の種類と数はわかった?」
「ハッ! 魔物はグリフォンです!!」
グリフォンという言葉に、エーリッヒさんだけでなく、周りのみんなが驚いた。驚いていないのは私とマーブル達くらいのものでした。
「グリフォンか、想定外の魔物だな、それでウルヴ殿、数は?」
「数は100以上だな。」
「100以上だと!? まずいな、地上の魔物であれば、どうにかなるが、グリフォンクラスで、その数となると、、、。」
エーリッヒさんばかりでなく、エルヴィンさんやハインツさんも苦悩の顔を浮かべる。
「ところで、エーリッヒさん達は、グリフォンと戦ったことがあるんですか?」
「ああ。今ほど強くなっていないときではあったが、数回襲撃を受けている。死者こそ出なかったが、被害は甚大だった。襲って来るのが10体程度であれば、今なら問題なく対処できるが、100以上となるとな。」
悲痛な重苦しい空気になっている会議室だったが、そこに空気を読まない高貴なお方が参上したことによって、その空気が一変することになる。いつも通りリトン公爵夫妻を率いての参上である。って、貴方達お仕事は? ってか、いつもより来るの早くないですかね?
「お? 何だ? いつものお前ららしくない表情だなあ、一体何があった?」
「あ、陛下。どうやらグリフォンの集団がこちらに向かって来ているみたいです。」
「何!? グリフォンだと!?」
いつもならガハハッと笑うのだろうけど、今回は違った。流石にグリフォンだとこうなってしまうのか、と思っていたら、斜め上の方向の発言が飛び出した。
「そうか、グリフォンか、、、。確か、600年くらい前に食ったことあったけど、美味かったなぁ。」
この発言に、マーブル達の目の色が変わり、こちらをじっと見た。その目は非常に綺麗で可愛らしかったけど、これは私に何かを期待している目だな。それに気付いたトリトン陛下は口元をニヤリとさせながら、いつも通りの発言を私にしてきた。
「フロスト侯爵、わかっているよな?」
はい、言われなくても分かっております。自分たちにも食わせろ、そういうことですね。はいはい、わかりましたよ、やればいいんでしょ、やれば。
「・・・エーリッヒさん、フロスト領の領民達で対処できる数は?」
「そうだな、恐らくであるが、50前後といったところだろうな。」
「了解。じゃあ、エーリッヒさん達は40体を倒す作戦で考えて。今回は相手が相手なので、コカトリスもウサギ族も全員、エーリッヒさんの指揮下に入ってもらおう。何なら冒険者達にも働きどころを与えて上げて。残りについては、私達と戦姫の7人、いや、8人で対処するから。じゃあ、必要な物資とか、細かいものはフェラー族長が指揮って。カムドさんは総大将ね。作戦はエーリッヒさんに一任するから。」
「承知はしたけど、どうやって40体前後だけを対処すればいい? って、アイスさん達なら問題なさそうだな。わかった、そうさせてもらう。」
「それじゃあ、よろしくね。というわけで、アンジェリカさん達戦姫の3人とオニキスは私の指揮下に入ってもらいますけど問題ないですね?」
「もちろんですわ!!」
さて、幸いにして重苦しい空気が一変された。特にいい知らせだったのは、グリフォンの肉が美味いということである。領民達には戦闘のレベルアップを、私達には極上の素材というか、食料が大量に手に入るということでもある。
では、張り切って参りましょうか!! 私の上に乗っかっている可愛い猫(こ)達を顔モフしながら、頭の中ではどうやって美味しく頂こうかということばかり考えていた。
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リトン公爵「へ、陛下、その、大丈夫なんですか?」
トリトン陛下「ああ、問題ない。侯爵達だからな。」
リトン公爵「そういえば、そうでしたな。」
トリトン陛下「そういうことだ。今日のメシは期待できるぜ。」
2人「「ハッハッハッ!!」」
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