第148話 さてと、久しぶりに呼び出されました。

前回のあらすじ:まだ先の話だけど、未来の国王の教育をすることになった。



 さて、マーブル達と領内を見て回りながらまったりと2日過ごして、明日は恵みのダンジョンではない方のダンジョンへと向かうわけだけど、あのダンジョン名どうしようかな。ギルド長に冒険者ギルドの方で決めていいよって言ったのだけど、私達の方で決めて欲しいってさ、、、。ネーミングセンス皆無の私にどうしろと言うんだ、、、。ということで、この件については保留としておいた。戦姫の3人があのダンジョンを体験したら、いい名前を付けてくれることでしょうし、そうしますか。



 って思っていたけど、私、次の日に備えて、マーブル達のモフモフ天国に挟まれた状態で寝ているはずなんですが、何でこんなに意識がはっきりしているんでしょうかね? と、辺りを見回したら、そこは、周りが白い大理石のようなもので囲まれている場所でした。なるほど、久しぶりのお呼び出し、ということですね。ということで、早速奥へと進みますか。



 向かった先には、こたつでくつろいでいる見慣れた老人と、その向かいで豪快な口調でゲラゲラ笑っているこれまた見慣れた方がいらっしゃいました。で、こたつの上に乗って、楽しそうに話をしている猫とウサギとスライムがおりました。君達、先に来ていたのね。私の存在に気付いたのか、老人が声をかけてきた。



「おお、アイスよ、来たか。待ち侘びたぞ。」



「おう! 侯爵、よく来たな!!」



「いや、待ち侘びたも何も、いきなりここに飛ばされてどうしろと?」



「そう言ってものう、初めてではないのじゃから、いい加減慣れてほしいのう。」



「いや、忘れた頃に呼ばれるから、無理ですよ。一応これでも、周りの景色で察してすぐにここに来たんですけどね。と、まあ、それについてはいいとして、何で陛下までいるんですか?」



「何でって、そりゃ、お前、俺もこう見えても神と呼ばれる存在だからな! 今まではお前さん達に遠慮して、お前さん達がいないときにこうしてアマデウスの所に来てたんだが、もう、お前さん達は俺が何者かわかっているからな、もう隠す必要もないから遠慮せず会話に参加するぞ。」



「まあ、それはおいといて、アマさん、今日私を呼んだのは?」



「ふむ。最近直接会っておらんかったから、久々に直接顔を見たくてのう。後、いくつかワシに備えてくれたよな? それのお礼も兼ねておるんじゃよ。そういうことじゃから、ほれ、お前さんも座るとよいぞ。」



「では、失礼しますかね。」



 そう言って、マーブル達が乗っている場所へと座ると、マーブルは私の左肩に、ジェミニは右肩に、ライムは頭の上にそれぞれ飛び乗った。



「それにしても、マーブルもジェミニも上手く乗るもんじゃのう。」



「ミャア!」「そこは慣れですよ!」



 マーブル達はさも当然と言わんばかりに答えた。そう、本当にマーブル達は上手く乗るんだよね。移動しているときも平気で乗ったり降りたりしてるし、実際、肩のサイズにピッタリかといえば、そんなことはなくて私の肩のサイズよりもマーブル達は少し大きめである。大きさ的にはマーブルは生後5ヶ月くらいの猫だし、ジェミニはマーブルとほとんど同じ大きさなのである。ちなみにライムは、状況に応じて大きさを変化させているから、実際にはどのくらいの大きさかはわからない。今は私の頭より一回り大きいくらいになっており、帽子のようにスッポリといった感じである。



「ああ、それと今日は、特別ゲストを呼んであるから、もう少し待ってくれ。」



「特別ゲストですか? 一体どんな方が?」



「ホッホッ、まあ、来ればわかるからのう。」



「そうだな、お前さん、驚くぞ。」



 まあ、誰か他の神様を呼んであるのだろう。とはいえ、厄介事をこちらに押しつけるのは勘弁願いたい。多分断るけどね。



 とか思っていたら、遠くで話し声のようなものが聞こえる。どうやら1人ではないようだ。1人はどうやら周りを確認しており、もう1人は魔力を展開して迎撃態勢を整えているようだ。って、何か知っている気がするぞ、これは神ではなく人だよな。一体誰だろうか?



 マーブル達はこれから来る人達を知っているのか、あるいは既にアマさん達から話を聞いていたのか知らないけど、いつも通りノンビリしていた。ということは、警戒しなくてもいいということだ。では、そのままこちらに来るのを待つとしましょうか。折角だから、無制限に湧き出てくるミカンをいただきながらこちらもノンビリと待つことにした。時々、マーブル達にみかんを食べさせたり、自分で食べたりしながら過ごしていると、どうやらこちらにたどり着いたようだ。



「こ、ここは? って、アイスさん!?」



 何と、ここに呼ばれたのは、アンジェリカさん達戦姫の3人だった。



「あれ、アンジェリカさんにセイラさん、ルカさんもか。驚いたと思うけど、ここは、アマさん、じゃなかった、アマデウス神の部屋です、で、いいのかな、アマさん?」



「うむ。概ね正しいぞい。厳密には客室ではあるが、ワシは基本ここに住んでおるからのう。ふむ、この話はおいといて、3人ともよくぞ来られた。ワシの名はアマデウス。この世界では食関係について任されておる。」



「あ、貴方が、アマデウス神でございますか!? ワタクシはタンヌ王国国王オーグ・デリカ・タンヌが三女アンジェリーナ・デリカ・タンヌと申します。」



「私は、アンジェリーナ王女殿下の侍女であるセイラと申します。」



「同じくルカと申します。」



 アンジェリカさん達が、貴族風の仕草で挨拶を行う。こういったところは流石は王族とそのお伴と言ったところだろうか、所作がもの凄く綺麗である。一方の私はというと、、、。聞かないで欲しい、人間、どうしても触れて欲しくない部分というものはあるのだ。そもそも、貴族としての教育を受けていない私にそんなものを求めないで欲しい。好きこのんで貴族になっている訳ではないし、正直、貴族なんて面倒なものは正直いらないと思っている。まあ、その辺は別にいいか。



「ふむ、わざわざ最敬意での挨拶をしてもらって済まんのう。お主達は別の神を信仰しておるじゃろうに。」



「いえ、こうして直にお会いできたことは誠に光栄です。」



「そうか、まあ、そこで寛いでおるアイスから察してもらえると嬉しいが、ワシはそういった堅苦しいことは正直苦手でのう、お主達もこの『こたつ』に入るとよいぞ。場所は、アイスの対面がいいじゃろう。」



 初対面、しかも神様からの提案とはいえ、こういったことは流石にためらいというものがあるのだろう、正直私もアマさんでなければ、このように寛いでミカンを食べるなんてことはできない。トリトン陛下に対しては例外ね。ここは助け船を出しましょうか。



「アンジェリカさん、セイラさん、ルカさん、アマさんが仰った通り、まずはこたつに入りましょう。」



 私の発言に、アマさんとトリトン陛下も頷く。それを見て、アンジェリカさん達はしぶしぶ座ってこたつに足を入れた。3人はこたつに足を入れると、先程とは別の表情で驚いていた。



「「「!!」」」



 恐らく、こたつの魔力にとりつかれたことによるものだったのだろう。少々興奮気味にアンジェリカさんが話しかけてきた。



「ア、アイスさん!! こ、これがこたつ、というものなのですね!?」



「そうです。これは、私が以前いた世界でも、特に私の生活していた国で使われていた冬の必需品です。」



「・・・食べ物にしろ、このこたつにしろ、アイスさんの以前いらした世界って、実はとんでもない所なのですね、、、。」



「アイス侯爵、このこたつだけどよ、帝国でも導入できねぇか?」



「正直、導入すること自体は可能ですし、ラヒラスでなくとも作成は可能ですが、やめておいた方がいいと思いますよ。まず、帝国はほぼ一年中、気温があんな感じなので、そもそもこれが必要になるとは思えません。次に、これを導入してしまうと、誰もここから出たくなくなりますよ。あと、私や戦姫の3人だけでなく、我がフロスト領の住民は基本、風呂などに入ってできるだけ体を清潔に保っておりますが、帝都はもちろん、リトン公爵領もそうですが、他国でも、そこまで体を清潔に保っている人達ってどれだけいるのですか? それが解決できないと、このこたつのせいで、疫病が蔓延する可能性が高くなりますよ?」



「そうなのか?」



「そうです。ですから、ここだけの楽しみということで我慢しましょう。」



 アンジェリカさん達が、こたつが原因で疫病が蔓延するという部分について聞いて来たので詳しく説明しておいた。順を追って説明していくうちに、アンジェリカさん達の顔が青ざめてきていたのを見て、理解してくれたとホッとする。そんな感じで話を続けていると、戦姫もアマさんとの会話にも慣れてきたのが感じられた。



「それにしても、アマデウス様は、フロスト領にあるアマデウス教会にあります像とそっくりなお顔ですわね、本当に驚きましたわ! それに、あの像の表情と同じように穏やかなお方でしたので、そのことも驚きでしたわ。」



「そうじゃな。ここにおるジェミニがワシの姿を思いながら作ってくれたみたいじゃな。」



「はい! アマデウス様はお優しいですから、それをそのまま像に思い描いて作ったです!!」



「そうなんですの? って、ジェミニちゃんの話していることがわかるんですが、、、。」



「ああ、そのことじゃな。ここは現実の世界ではないからのう、こうして会話できるようにしてあるのじゃよ。ちなみに、マーブルについては、当人の希望でそのままにしてあるからの。」



「ニャア!」



 なるほど、アマさんのいる場所では、ジェミニが何を言っているのかわかるようになるのか。で、マーブルは猫のままを希望、と。



 こんな感じで話は進み、最近お供えした酒についての話題になった。



「おっと、そういえば、最近ワシに供えてくれた酒があったよな? ミードとビール2種類じゃったか。あれらは特に嬉しかったぞい。」



「喜んで頂けて何よりですよ。」



「そうだな、侯爵が作ってくれたミードも美味かったが、俺はやっぱビールだよな!」



 そう言って、トリトン陛下はビールを馬鹿みたいに飲んでいた。



「ワタクシはミードの方が好みですわね。もちろんあのビールもかなり美味しいとは思いますが。」



 アンジェリカさんはミードを中心に飲んでいた。セイラさんとルカさんは酒類ではなく、麦汁を水で薄めたジュースを飲んでいた。私はアマさん特性の無限に出てくるお茶を堪能していた。これって、ここでしか飲めないやつだからね。ちなみに、マーブルとジェミニはビールを飲んでいた。ライムは、いろいろバランス良く飲んでいた感じかな。



「ところで、アイスよ。お前さんは、これ作れるかのう?」



 アマさんが出してきたのは、日本酒である。恐らく私の世界からのお供え物だろう。酒好きの方達は、その日本酒が入っている瓶に目が向いていた。



「何だ!? こんなに透き通っているのに酒なのか!? 一体どんな味なんだ!?」



「え? これがお酒ですの!? どんなお味か気になりますわ!」



 みんなの視線に耐えられなくなったのか、アマさんが希望者にそれぞれ注いでいく。かなり好評で、セイラさんやルカさんまで美味しいと言って、飲み始めてしまった。とはいえ、あの2人はちびちびと飲んではいたのだけど。で、日本酒の虜となってしまったみんなに作れないのかを聞かれたので、正直に答えた。



「ハッキリ申し上げますと、無理です。ミードやビールについては、少しは知識があったのと、材料があったから作ることはできました。しかし、この日本酒については、作り方はおろか、材料に何をつかっているのか皆目見当がつきません。」



「しかし、お主らの国で主食として食べている米から作っているのじゃろう? それなら何とかなるんじゃないかの?」



「無理ですね。最低限米、つまり稲が必要で、今私がメインで食べているのは大麦です。大麦を押し麦にして米のように食べてはいますが、あくまで大麦であって、米ではないのです。どうしても欲しければ、稲を生産している国、あるいは村で酒を造っているところに頼るしかないでしょうね。」



 いろいろ言ってくるが、あれについては正直無理である。そもそも、自分で飲まないのに何で私が作らなければならないのか。他の種類が欲しかったら、領民達と相談して何とかして欲しいと思う。



 その後、いろいろと話をして楽しいひとときではあったけど、限界が来て本格的に眠るためにこの場から消えて夢の世界へと旅立った。



 しかし、この場から消えたのは、アイスだけで、他のメンバーは消えずに残っていた。


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アマデウス神「ふむ、アイスでも日本酒は無理か。」

トリトン陛下「ああ、それについては予想外だったな。」

アマデウス神「じゃのう、そもそも、あやつは酒に興味がないからのう。」

トリトン陛下「そっちは諦めるしかないのか。」

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