第134話 さてと、はじめてのおさけづくりです。

前回のあらすじ:みんなを公都へと送った。




 では、早速ヒドラの首を解体しに戻ろうかと、部屋を出ようとしたら、職人達に呼び止められた。


「ア、アイスさん、ちょっと待ってくれ。」


「ん? どうしました?」


「今、すぐにヒドラの皮を準備しようとしているよな?」


「ええ、それが何か?」


「いやいや、それが何か? じゃなくてね。いくら俺らでも、この1枚だけでも加工するのに1週間くらいは最低でも欲しいわけ。いきなり必要な分持ってこられても何もできないんだよな。」


「なるほど。じゃあ、1日1枚ずつ用意してくればいいかな? で、数だけど、今渡した分で考えて10枚くらいでいいかな?」


「・・・一体何枚用意できるんですかね、、、。5枚もあれば十分ですよ。」


「なるほど、それだけで十分なんですね。了解。とりあえず1日1枚卸すようにするから、作成よろしくね。」


「ところで、アイスさん、最初は誰用に作ればいいので?」


「最初は、そうだね、前線で戦う人達かな、できれば、ウルヴ、アイン、ラヒラスの3人か、あるいは、部隊長のエーリッヒさん、エルヴィンさん、ハインツさんといったところかな。私の分は後回しで構わないから。もちろん、陛下達の献上品としての用意も後回しで構わないから。文句言ってきたら、ここで2度と食事出さない、と伝えれば大人しくなるから。」


「自分のところのお偉いさんにそんな態度でいいんですか?」


「それは大丈夫だから。本当に優先しなければいけない部分は押さえているし、陛下やリトン公爵は基本的には前線に出ないからね。あと、一々来るのに対応するの、面倒だし、、、。」


「気持ちはわかりますけどね、俺が陛下の立場でも同じような行動起こしそうだしなあ、、、。」


「まあ、そういうことで頼みますね。他に優先して作らなきゃならないものがあったら、そっちを優先して構わないので。」


 そう言って、この場を後にする。しかし、あの首1つで30人分の装備か、、、。5つで十分だったとはね。まあ、残りについては何かしら需要があるでしょう。肉に関しては、これだけあれば、いざというときも安心という感じですかね。それに、これだけの肉があれば、いろいろと試せるし。では、職人達に最低限の素材は渡したから、あとはどうにかしてくれるでしょう。洞穴族が住民に加わったおかげで、金属の加工が進んでくれそうなのは非常にありがたい。


 さてと、これから酒造りを開始しますか。といっても作り方ってどうやるんだろうな。今の時点で分かっているのは、必要な材料と、『発酵』という工程が必要だということの2点のみ。どの位の発酵が必要なのか、いくつもサンプルを作って自分で確かめるしかない、とはいえ、生前でもあまり飲まなかったので、正直酒の味というものがよくわからない。以前試しに高級ワインをもらって飲んでみたことがあるが、正直酸っぱいアルコール程度の認識しかできなかった。お子ちゃまの舌、と言われてしまえばそれまでだけど、、、。


 現時点で作り方を知っていて、且つ、材料を揃えられるのは2種類のみである。というわけで、最初はハチミツと水を使って作る酒であるミードから着手する。以前、興味本位で作ったことのあるミードであるが、そのときにはドライイーストを使用したけど、今はそんな便利なものは存在していない。代用となる原料のブドウすら見つかっていないのだ。まあ、ブドウがあればワイン造りにも着手できそうだけど、どちらにしろ今手許にないのだから仕方がない。


 以前作ったときと異なるのは、ハチミツの質と成分である。今手許にあるハチミツは、ハニービー達が丹精込めて作り上げた超高級品である、それも前世の私ではとても手が出ないほどの。当然熱殺菌などというものはしていないため、ドライイーストがなくても何とかなりそうな気がするのだ。水についても同様であり、あまり言いたくないけど、ほぼご都合主義のチートな水なので、恐らく予想以上の完成度になるはずであり、今後のフロスト領の財源確保において大いに貢献してくれるだろう、そうなると、いいな、、、。


 心の準備も整えたところで、ハチミツを取り出す。ハニービー達から頂いたハチミツは、どれも超高級品ではあるけど、それでもランクというものは存在しているようだ。その中でも最も量が多い通常クラスのものを今回は使用する予定。


 主な理由は2つ。1つ目は単純に量の問題である。何と言っても酒である。領民達が密かに熱望していたものであるため、かなりまとまった量が必要となる。後でエールにも着手するけど、完成するのはこのミードが先であるため、いくら試作品とはいえ、量は必要なのだ。


 次の理由は、単純に失敗が怖いからである。流石のハニービー達とはいえ、高級品のなかのさらに高級品というものは、そうそうできるものではない。そんな貴重なものを失敗するかもしれない作業にいたずらに消費するわけにはいかない。デザートであれば、躊躇いなく使えもするけど、それでもそこまでのクラスになると混ぜるのも正直勿体ない。


 フェラー族長いわく、ハチミツ自体の生産量は増えてきているらしい。採集班が恵みのダンジョンへと行ったときにもらえるハチミツの頻度が上がっているようだ。ミードが完成したら少しお裾分けしてみるのもいいかな。気に入ってくれたら、さらに張り切って作ってくれるかもしれない。まあ、無理させる気はないけど。


 用意したハチミツの入った容器は全部で5つ。どの容器もバスケットボール1つ分の大きさである。この容器の5倍の容量をもつ壺をこれから作成するために、土を取り出した。この土は、街道整備などで掘ったときに手に入れたもので、大部分はフロストの町の建設用に造成班が掌握しているが、こういった容器などを作るようにと、焼き物に向いた種類の土を一部こちらでもらっている。かなりたくさんあるので、こういったことで大量に消費しないとね。


 土をある程度取り出して、ジェミニに渡す。ジェミニは土魔法で土をこねたりして粘度を上げていく。時々水術で土の水分調整などもしつつ様子を見る。十分な粘度になり成形していく。成形が完了したら、ライムが軽く体当たりして、ライムの印みたいなものが付く。ミード用の目印としての必要な作業である。これらが終わったら、マーブルの出番である。マーブルはいつも通り火魔法と風魔法を使って焼き上げていく。


 壺が焼き上がるのを待っているが、手でこねた場合、いくつかひび割れなどが出てくるものだけど、魔法でこねまくったおかげか、そういったものは出てきていない。無事に完成したので、ある程度風魔法で冷ましてから、水術で熱湯を入れてみる。漏れが出ているか確認するためと、ついでに熱湯消毒するためだ。


 無事に5つの壺が完成したので、これより作成開始である。完成したばかりの壺に、それぞれハチミツを投入していく。容器に残った蜂蜜が勿体ないので、もちろん水を少し入れて水術で攪拌して、できるだけ容器にはハチミツが残らないようにした。水についてだけど、先程加えた水の分を加味した上で、合計でハチミツの3倍になるように壺に水を投入。それぞれの壺についても水術でしっかりと攪拌して完全に混ぜて仕込みは完了。


 あとは軽く蓋をするだけなのだが、実はこれから作成するという、何とも場当たり的な行動だった。蓋についても同じように先程の土の残りを使って焼き上げた。かぶせる程度で構わないので、蓋がずり落ちない程度に広くしたり、周りの部分も低めにつけて完成。こちらについては、熱湯消毒する程度でよろし。


 保管場所であるが、もちろん食堂は却下。邪魔者(主に皇帝陛下)達が味見と称して侵入してくるのは想像に難くないので、普段余り利用していない部屋が偶然にもあったので、そこを利用する。そこなら常温だし、他に何もないので、保管場所には最適である。念のため侵入者対策として氷の結界を張っておく。


 ミードの仕込みはこれで大丈夫だけど、発酵が終わったら液体と固体を分ける必要が確かあった。ということで、それらを濾す用の材料が必要である。一番良いのはザルだろうけど、もちろんそんなものはここにはないので、次善のものとして、手ぬぐいなどがいいかと思った。もちろん素材は贅沢にシルクスパイダーを利用したい。これについては、明日くらいにハニービー達に会いに行くついでにヴィエネッタに話せば大丈夫だろう。


 さて、次はエールである。これが難題で、とにかくノウハウが少ない、というかほとんどない。ということは、ある程度の知識をフル動員してどうにかしていかないといけない。しかもホップ無しでね。


 エールに限らず、酒類は言うまでもなくアルコールである。アルコールは発酵させなければならない、で、発酵させるにはデンプンを糖に変える必要がある。効率よく糖に変えるには細かくする必要がある。それと、デンプンを糖に変えるには40℃前後のぬるま湯が良かったっけ。速度を上げるにはアミュラーゼが必要だったよな、それって唾液か、、、。人の唾液を飲むのは基本的には精神衛生上よろしくないから却下だな。いや、戦姫の3人の唾液なら、逆にこぞって飲みたくなるかもしれない、いや、それは人としてやってはいけないことだな。時間はかかるけど、無しでやるしかないな。


 そういえば、大麦の在庫が少ないか。そうなると、今ある分でどうにかしないといけない。とはいえ、我が領の大麦はすぐに収穫できるチート植物だから、とりあえずは少しでも作ってみてから今後どうするか考えることにしよう。


 ということで、最初は大麦を粉にする作業からだけど、これは特に問題ない。魔導具の臼があるから、これを使えば問題なし。とりあえず細かくしてしまおう。


 倉庫に取っておいた大麦の袋を食堂へと持ってきて、袋を開けて、臼の投入口へと大麦を入れる。取り出し口に袋をセットして起動。あ、わかっていると思いますが、魔力のない私では起動できませんよ、ええ。マーブル達はこの魔導具を気に入っているようで、率先して起動ボタンを押しに行った。今回の勝者はジェミニのようだ。


 魔導具が作動しだすと、臼が回ってゴリゴリと音がし出した。その音が出ると、マーブル達は嬉しそうに周りを駆けだした。いやあ、眼福ですなあ。


 しばらく回っていた魔導具も、投入した大麦を全て擂り終えたようで、臼の回転が止まったので、擂った大麦を回収した。回収した大麦を鍋に入れて水を投入、ある程度水温を上げて攪拌する。


 結構な時間攪拌したけど、完成したのはいろいろなものが混ざったおかゆとしても食べられない代物になったものだ。うーむ、アミュラーゼ以前の問題だな、、、。アミュラーゼ以外に糖を分解するには、どうすればいいのか、、、。あ、そうか、少し発芽させれば解決しそうだな。いや、しかし、ここまで勿体ないとかの理由で追い詰められないと、ここまでアイデアは出てこなかったな、、、。


 あとは、これも濾した方がいいな。とりあえずは、この大麦のおかゆもどきについては、申し訳ないけど、ライムに殻などを消化してもらって、残りは私達で食べますか。


 ということで、ビールについては次の大麦が手に入るまで保留だね。


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タンヌ王国公使「姫様、戦後交渉は3日後になる予定です。」

アンジェリーナ「はぁ、退屈ですわ、、、。」

カット男爵「私はもっと退屈ですよ、、、。」

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