第135話 さてと、リベンジを余儀なくされましたけど。
前回のあらすじ:エール作成に失敗しました。
期待と義務感の半々の思いで行った酒造りであるが、ミードの方はとりあえず完成を待つばかりの状態にできたと思う。エールの方はというと、完全に失敗です、ハイ。で、現在は原料に出来る分の大麦はないので、次の収穫を待たなければならない状態となっている、といっても、遅くても来週には届くんだけどね。
と、そんなことを思っていた時期がありました。どこからかぎつけてきたのか知らないけど、領民達が余剰分だから使ってくれと、大麦を提供してきやがったのです。折角あとはノンビリしようと考えていたのに邪魔しやがって、、、。酒に対する執念というのは恐ろしいものだね。食に対してはお前も似たようなもんだろう? はい、その通りです。
そんなわけで、時間もあるので、しぶしぶ作業再開といきますかね、トホホ、、、。そんな心境を汲んでくれたのか、マーブル達がモフモフな毛で癒やしてくれます。・・・よし、モフモフ成分も補給できたところで気合入れていきますか!
「ニャア!」
「それでこそアイスさんです! ワタシもお酒の完成待っているです!! 他のウサギ達もコカトリス達もアイスさんの作るお酒を楽しみに待ってますよ!!」
「ボクもたのしみー!!」
えー、君達もですかい、、、。って、どうでもいいと思っていたのって、子供達除けば私だけですかい、知らなかったとはいえ、マーブル達も実は期待していたなんてねえ、、、。可愛い我が猫(こ)達も期待しているというなら、頑張って完成にこぎつけないといけないね、こりゃ。
とりあえず、先程の失敗の原因はわかっているので、後はそれを解決していけばよろしい。そもそもの失敗は糖を分解できる状態にはなかったということで、最初に大麦を発芽させないといけないということだ。本来ならそれ用の施設を作る必要があるけど、やり方がわかれば、領民達が張り切って作ってくれるだろうから、私はやらない。とりあえず実験的に、領民達が大量に用意してくれた大麦の入った袋をそのまま使って実験を行う。
試しに袋の1つを開けて、水術で程ほどに温かい温度で湿らせる。この状態で1日放っておこうと思いつつ観察すること5分くらいで、発芽してしまった、、、。いや、1週間で収穫できるくらい生育が早いとはいえ、ここまではやく発芽するなんてあり得ないだろう、、、。まあ、発芽してしまったものは仕方がないので、あきらめて次の行程へと移る。
次の行程は、その発芽を止める作業だ。これ以上の発芽を止めるには、ズバリ、水の供給をストップすること、そのためには発芽した大麦を乾燥させる必要がある。基本的には軽くかき混ぜながら熱風に近い温風を当てて、水分を飛ばすのが一般的だけど、私には水術があるので、乾燥させるのも楽勝である。水術で袋にある大麦の水分をほぼ完全になくしてから、しばらく観察したが、これ以上成長することはなかったので、乾燥作業も成功だろう。
この状態にしてから、先程行った大麦を臼で細かくして、ぬるま湯で温めてデンプンを糖に変える作業を行えば、恐らく期待通りの結果になってくれると思う。そんなことを思っていたら、マーブル達が張り切って、先程発芽→乾燥を終えた大麦の袋を咥えて、臼の魔導具へと運んでいってしまった。
マーブルが咥えて運び、臼の魔導具へとジェミニが飛び乗り、飛び乗ったのを確認してマーブルが器用に投げ渡し、それをジェミニがキャッチして器用に袋の口を下に向けてダバー、それを確認してライムがスイッチオン。大麦が砕ける音が響き出したのを聞いて、マーブル達は大はしゃぎ。この姿を見るだけでも、この世界に転生してよかったとつくづく思った。まあ、それは置いといて、私の仕事をしないといけないな。
先程失敗して、空になっている壺を水術で洗浄する。ライムに念のためキレイにしてもらってから、改めて熱湯消毒をして準備完了。もちろん蓋についてもしっかりと同様の処置は施した。
機械音が止まったので、取り出し口から粉砕された大麦を取りだして、先程の壺に投入。水を投入して徐々に温度を上げながら攪拌する。一応反省点を踏まえての作業だから、大丈夫だと思うけど、少し心配なので様子を見ておく。
しばらくすると、小さな気泡が現れたので、上澄み液を少し汲みだして味見をする。お、結構甘いなこれ。スガープラントや蜂蜜の甘さとはまた違う甘みである。折角だからマーブル達にも少しあげると、嬉しそうな反応をしてくれた。それを見て思ったことを口にしてしまった。
「もう、これでいいじゃん、、、。」
その言葉にマーブル達が珍しく反対の声を上げた。特にマーブルが私の意見に反対したのってこれが初めてじゃないのか? そこまで酒求めてたの!? 特にジェミニがもの凄く反対意見を出していたのには驚きもしたが少し笑えた。そういえば、ジェミニってこんなに可愛らしい外見だけど、実年齢100超えてたのをすっかり忘れていた。
「どちらにせよ、今日はもうこれ以上できることはないから、その間に足りないものを手に入れてこないとね。」
「アイスさん、足りないものって?」
「まずは、ミードにしろエールにしろ、不純物を取り除く『濾過』という作業が必要なんだよね。だから、その濾過をする道具を手に入れないと。」
「それはどこで手に入れるですか?」
「一番良いのは金属でできた網だけど、今はまだムリだから、ヴィエネッタに作ってもらうか、ムリそうなら材料だけでも分けてもらおうかな、と。」
「なるほど! それでは、それを手に入れるために恵みのダンジョンに向かうですか?」
「そういうことだね。ついでというか、これも主目的の1つなんだけど、ハニービー達からハチミツをもらってこようと思ってね。」
「確かに! あのお酒も気になるです!!」
「ニャア!」
「ボクもたのしみー!!」
マーブル達の賛成をもらって、私達は恵みのダンジョンへと向かった。もちろん、素材や材料を貰いに行く目的はあるけど、何より少し久しぶりなので、ダンジョンにいるみんなに会いたいという気持ちの方が実は強かったりする。丁度いいお土産もあることだし、いいタイミングだと思う。
移動はもちろん、マーブルの転送魔法です。普通に移動していたのでは、到着するだけでも日が暮れてしまう。アウグストに乗れば大丈夫かもしれないけど、それは全速力という前提である。私達では、あの全速力を出させるのは無理。あと、マーブルが転送魔法を使いたがっているので、それも大きい。逆に利用しないと拗ねたりするときもある。それも可愛いのだけど、やり過ぎて嫌われてしまうのは本末転倒なので、基本的にはそうならないように行動しなければならない。まあ、何よりラクだから、利用できるものは利用していくことも大切ではないかな。
久しぶりに恵みのダンジョン入り口へと到着。いつも通りの何もない部屋を抜けると、次の部屋にはいつも通りの可愛らしい豆柴5体がおり、こちらの姿がみえると、尻尾をふりふりしながらこちらに向かって来た。見た目もそうだけど、こういった行動がやっぱり可愛らしい。これが合体して地獄の番犬と呼ばれる存在になるのが信じられない位だ。
しばらく撫で回したり、マーブル達と飛び回っているのをホッコリしながら眺め、いつも用意している骨をあげたりした。今回はお土産としてヒドラの肉をあげると、5匹とも、もの凄い勢いで食いついた。よほど美味しいのだろうか、尻尾の振り速度が尋常じゃなかった。合体していたら、間違いなく風魔法が発生しているね、といわんばかりの勢いだった。そこまで喜んでくれるとは、あげて正解だな。
正直、もう少し戯れていたかったけど、時間も押しているので、名残惜しいとは思いつつも、主目的である場所へと向かう。豆柴達は尻尾を大きく振って見送ってくれた。また今度来ますよ。
先に進んでダンジョントラッパー達を倒して、次回の土産用の骨を手に入れて空間収納にしまっておく。別に骨でなくても豆柴達は喜んでくれると領民達は以前教えてくれたけど、それでも骨が一番喜ばれるようなので、やはり骨は確保しておきたい。
ダンジョントラッパー達を倒して、地下1階の下り階段を降りて、地下2階へと進む。地下2階へと進んですぐに、ハニービー達が出迎えてくれた。ハニービーの女王蜂を筆頭にこちらに飛んできたので、一通りモフモフしてこれに応えた。
一通りモフった後、もらったハチミツで酒を造り始めたことを伝えると、女王蜂は嬉しそうにして、
「ゴシュジン、ワタシ、モットタクサン、ミツ、ツクレル。」と言ってきた。それは非常に嬉しい提案なんだけど、いくつか条件があるようだったから、とりあえず聞いてみた。
1つめの条件は、完成したミードを少し分けてもらいたいそうだ。言われなくても、これだけのいい素材を提供してくれているのだから、感謝の気持ちも含めて、お裾分けをする予定だったので、これは問題なかったので承諾した。
2つ目の条件は、自分にも名前を付けて欲しい、とのことだった。名前をもらって、その名前を受け入れることによって、女王蜂は進化するようで、是非とも私に付けて欲しいとのことだ。正直これには困った。名前を与えるのが嫌なのではなく、名前が思い浮かばないのだ。蜂とはいえ、外見が非常に可愛らしいから、可愛い名前の方がいいかな、ということで、シロップにしよう。
「じゃあ、これから君の名は『シロップ』ね。」
「『シロップ』、ありがとう、ご主人。」
お、女王蜂、もとい、シロップの言葉が聞き取りやすくなったぞ。周りの親衛隊も嬉しそうに動き回っているし、進化したんだろうな。
「ありがと、ご主人。これからミツ、たくさん作るね! みんなもやる気になってる!」
それはありがたいことだ。お礼も兼ねて、さらにモフモフする。
ハニービー達と別れて、さらに進んでヴィエネッタの所へと向かう。向かう途中で、ヴィエネッタ自身がこちらに来た。
「ご主人、聞いたわよ。お酒造り始めたんだってね。できたら、私も欲しいんだけど。」
おい、どこから聞いたんだそれ? しかも作り始めたの今日からだぞ。と思っていたら、領民が来たときに話を聞いたらしい。口が軽いな、うちの領民は、、、。まあ、いいか。別に隠すほどのことでもないし、それが目的で来たようなもんだし。何より、そういう話をするということは、領民達とも上手くやっているということでもあるよね。
「ああ、それでお願いがあるんだ。」
「お願い? 今度は何を作って欲しいの?」
「濾過用に目の細かい網のようなものが欲しいんだけど、作れる?」
「濾過、ね。ちょっと待ってね。」
ヴィエネッタは糸を吐き出すとそれを8本の足で器用に編み上げていく。流石はアラクネだ。その動きの見事さに魅入ってしまった。その魅入っていた間に10枚のきめ細かい網を作り上げてしまった。
「はい、これね。急ぎで作ったから、シルクスパイダー程度の強度しかないけど、今はそれで十分だと思うわ。また今度来てくれたときにはさらにいいものを作っておくから、お酒の完成品頼むわね。」
濾す用の網をもらったので、お礼にとヒドラの肉をあげると、最初は嬉しそうにしていたヴィエネッタの顔色が徐々に変わり、終いには青ざめていた。
「ご、ご主人、こ、これって、ま、まさか、ヒドラの肉?」
「そうだよ。先日出遭ったから狩った。毒は含まれてないからかなり美味しいよ。後で食べて。」
「い、いえ、毒は平気なんだけど、あんなもの、どうやって倒せたの!?」
「普通に倒せたよ。凄い再生能力だったから、どこまで再生できるんだろうとひたすら首狩ってたから、いやあ大漁大漁。やっぱ野良で出てくる魔物は素材がまんま手に入るからいいよね。」
「え? まさか、これ以上再生できない状態までひたすら首狩ってたの、、、。」
「首が3つしかなかったから、最後はローテーション組んだよね。いやあ、結構ラクだったよ。」
「3つ首のヒドラって、、、。しかも、それを簡単に倒すご主人って、一体、、、?」
「私だけじゃないよ。マーブルもバリバリ首狩ってたし、ジェミニ達も尾をたくさん狩ったけどね。」
「ミャア!」
「あの硬さ程度なら楽勝です!」
「ボクもヘビたくさんたおしたー!」
「な、何なのよ、このメンバー、、、。本当に逆らわなくてよかったわ、、、。」
何かヴィエネッタがブツブツ言っていたけど、最後の方はよく聞こえなかったな。まあ、いいか。とりあえず濾過用の網についてはこれで何とかなるな。
その後はオニジョロウのメンテなどしてもらい、ヒドラの首を狩るのに、もらった糸が非常に役に立ったことに感謝を伝えると、ヴィエネッタの笑顔がひくついてたけど、とりあえず主目的は達成したので、この場を後にして牛乳の回収と、お猿さん達と遊んで、土産を渡しーの、味噌の実をもらいーのしてから、フロストの町へと戻った。
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領民A「みんな、大麦は届けたな?」
領民B「いや、まだほんの一部しか届けてねえ。」
領民A「どうし、、、いや、なるほど。失敗したら、次の奴が届けるって寸法か!」
領民B「そうだ、失敗したら、すぐに渡してすぐさま再開してもらわねえとな。」
・・・結局成功するまで、続々と届けられるようです、、、。
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