第133話 さてと、戦利品を加工してもらいますか。

前回のあらすじ:蛇皮祭りを楽しみました。



 蛇皮祭りが盛況のうちに終わり、どうにか公都へと到着することができた。ただ、予定とは少し異なっていた、というのは、公都へと入る前にアンジェリカさん達やカット男爵は貴族の格好で入る予定だったのが、公都の門が閉まるかどうかという微妙な時間帯になりそうだったので、急遽冒険者の格好のまま城門へと到着してしまったからだ。


 ということで、プランBに変更。私達は戦姫のポーターとして冒険者カードで入城、戦姫はもちろんAランクの冒険者としての入城、カット男爵は戦姫の護衛ということで個人的に雇ったという形になる。


 サムタン公国の公都なだけあって公都に入るだけでもかなりの行列であった。正直野営というのもアリではあるけど、正直さっさと用事を済ませてフロストの町へと戻りたいのが本心である。行列の最後尾に並んだ私達は、ノンビリと話ながら順番を待つことにした。


「・・・フロスト侯爵、一番弱い私が護衛というのも何か変な話ですが、、、。」


「ああ、その辺は大丈夫ですよ。公国は冒険者カードとかしか見ませんので。この国は名目が非常に大事なので、本質を見る目が全く備わってませんので。ただ、戦姫の護衛ということで、嫉妬むき出しの殺意の視線は絶え間なく向けられると思いますけど、その程度ですよ。」


「なるほど、一応心の準備はしておきます。ところで侯爵、私の宿はどのようになっているのですか?」


「カット男爵の宿泊される宿ですが、タンヌ王国とは話がついておりますので、戦姫の方達と同じタンヌ王国の公使館で寝泊まりしていただきます。何せトリトン帝国の公使館は存在しませんからねえ、、、。」


「え? タンヌ王国の公使館ですか? なるほど、確かに戦姫の方達は公使館で問題ないと思いますが、私もお世話になってよろしいのですか?」


「ええ、構いませんわよ。本来ならアイスさんがタンヌ王国の公使館で宿泊なさる予定でしたけど、何やら裏で手を回したようで、カット男爵に変更となった、それだけですから。」


「裏で手を回したって、人聞きが悪いですね。今回のこの件については私はノータッチですからね。」


「ええ、存じ上げておりますわ。今回は「元気の出る水」の開発を始められるとかで、トリトン陛下の指示があると伺いましたわ。」


「ちっ、やはり陛下が一枚噛んでいたか、、、。そういうことに関しては本当に地獄耳だな、あの陛下は。」


「ということですので、カット男爵は我が国の公使館をご利用下さいませ。」


「お気遣いかたじけない。それでは、お言葉に甘えさせて頂きます。」


 というわけで、宿も決まったことだし、あとは4人と1匹を公使館へと送れば、とりあえず私の役目は終了である。もう少し冒険を続けて未知なる植物を探したい気持ちもあるにはあったが、サムタン公国もトリトン帝国と同様に国土は貧しいので、それほど期待できそうもないことで、次は頼まれた品物を作成するために頑張りますか。


 ちなみに今の会話についてだけど、マーブルが気を利かせてくれて、風魔法で周りには伝わらないようにしておいてくれたので、周囲には全く聞こえていない。流石、できる猫(こ)は違うね。


 順番が回ってきそうだったので、マーブル達は定位置と言わんばかりに、飛び乗ってきた。やはりこのモフモフの感触は最高である。ライムもいつも通りの定位置、つまり腰に差してある革製の筒の中に入り込んだ。ちなみに、筒の中はねぐらの湧き水が入っており、名目的に水筒としての役割を持っている、また、ライムの洗浄と回復もできるようになっている、いわば、ライム専用の回復施設でもあるのだ。普段はもちろん蓋をしておいてあるが、その蓋は水術で作った氷の蓋であるので、任意に設置や解除ができる。


 公都では、先日の大敗が影響しているのか、どうも城内の様子がピリピリとした空気だったせいか、門番達のチェックも一々時間がかかっていたが、私達についてはかなりすんなりと通ることができた。というのも、ここでも戦姫の力が強かった。


 冒険者カードを提出したときに、この美女3人が戦姫ということがわかると、今まで偉そうにしていた門番達が掌を返したような態度となり、ついでに私のギルドカードを確認して睨むような視線を向けてきた。いつものことである。護衛扱いのカット男爵については特に何も無く、入城料として銀貨5枚を支払って終了したけど、いつも睨まれるのは私だけなのは解せない、、、。


「侯爵っていつも、こんな視線を向けられていたのですね。」


「そうなんですよね、まあ、慣れたので、またか、という気持ちしか沸いてきませんがね。」


「ハッハッ、私的には門番の気持ちが手に取るようにわかりますよ。」


「・・・男爵、後で覚えておけよ、、、。」


「・・・すみませんでした、、、。」


 と、こんな遣り取りをしながら、公都内を進む。公都は人こそ多いけれど、町並みは、というと、帝都と同様かそれ以下、、、。公都、、、。


 気を取り直して、道を真っ直ぐ進んでいく。公都も宮殿と貴族街と庶民街とに別れているようだ。話によると、庶民街の外れにスラム街があるらしい。目指しているのは貴族街にあるタンヌ王国の公使館である。しばらく進むと、立派な城門が見えてきた。ここが貴族街への入り口か。


「止まれ! ここからは貴族街。一般庶民の来るところではないぞ。」


 門番に呼び止められると、セイラさんが前に出て対応した。


「お役目ご苦労様です。私達はタンヌ王国から来ました。タンヌ王国公使に面会を求めます。これが書状です。」


 そう言って、封筒を門番に手渡す。封筒にはタンヌ王国の王家のみが使用できる印が押されており、いくら先日戦を交えた関係とはいえ、この印の押された書状を渡されては受けないわけにはいかない。


「御使者達。こちらにご案内しますので、しばしそこでお待ち下さい。」


 門番が慌てて上役と思われる人物に話をしている。上役は別のものに何かを伝え、命令を受けたものがこの場から離れていく。しばらく待っていると、先程の兵士が戻ってきて上役に報告した。それを聞いた上役はこちらに近づいてきた。


「タンヌ公使がお会いになるそうです。私が案内するので、付いてきてください。」


 案内に付いていくと、外れの方へと向かっていた。しばらく進むと結構立派な建物が見えてきた。建物の前には公使であろう人物と、その部下達が勢揃いしてこちらを待っていた。案内を務めていた上役は、それではこれで、とそのまま門の方へと戻っていった。


「おう、じゃなかった、アンジェリカ殿とそのご一行、タンヌ王国公使館へようこそ、それでは案内致しますので、こちらへ。」


 念のため周囲に気配探知をかけてみると、やはりというか、何人かの気配を探知した。恐らく見張りか何かだろう。その気配は特に動くことなくそのままの状態でいたので、こちらも気付いていないような振りをして公使達の後に付いていった。


 公使達と軽く打ち合わせをした後、私達は案内された部屋へと向かい、カット男爵にこちらと連絡できるように通信の魔導具を渡し、くれぐれも自分の命だけは大事にしろと念を押してから、私達だけフロストの町へと戻っていった。


 部屋に戻ると、今日の当番であろうフェラー族長がこちらに気付いて出迎えてくれた。


「ご主人、よくぞご無事で。道中は問題なかったですかな?」


「フェラー族長、出迎えありがとう。それについてだけど、丁度いいお土産ができたから、明日を楽しみにしててね。」


「・・・お土産、ですか? また、とんでもないものを手に入れましたか?」


「とんでもないものといえば、そうなんですけどね。でも、みんな、喜んでくれると思いますよ。」


「そうですか。それでは明日を楽しみにしておりますよ。」


 そんな感じでその後はこれといった用もなく、いつも通りねぐらへと行って、風呂と選択を済ませてからこちらへと戻り、オーガジャーキーの仕込みをしてモフモフを堪能しながらグッスリと寝た。


 次の日、いつものテシポンで起こしてもらう。久しぶりにマーブル達がコカトリスの進入を妨害したらしく、コカトリスが朝起こしには参加できずに悔しがっていた。久しぶりに見たなぁ。悔しがりながらも、次は負けない、というオーラを出しつつ、いつもの産みたて卵を持ってきてくれたので、お礼のモフモフを堪能してから朝食を摂った。


 朝食を摂った後、最初に漬け込んでいたオーガジャーキーを取りだして、乾燥の作業をした。


 それらが終わったので、今後の主目的の準備をしなければならない、そう、酒造りである。ドワーフのガンドに催促されたのもあるけど、まさか住民達もここまで期待しているとは思っていなかった。いや、住民どころか、冒険者ギルドはもちろん、トリトン陛下やリトン公爵夫妻を始めとする帝都の住民も期待していると聞いて、驚いたと同時に、何で自分たちで作ろうとしないんだと呆れもした。


 まあ、その前に昨日手に入れた戦利品を加工してもらうべく、職人達の宿舎へと足を運んだ。


「おお、アイスさん、朝からご苦労様です。して、今日はどのような用件で?」


「ご苦労様です。今日来たのはですね、昨日遭遇した魔物からいいものが手に入ったので、それを加工してもらおうかと来たのですよ。」


「ほう、昨日倒した魔物ですか。それは気になりますね。見せて頂けますか?」


 催促されたので、最初にヴァイパー27匹分の皮を空間収納から取り出す。


「え? ま、まさか、これはレッドヴァイパー、、、。それに、他の色の種類もある、、、。って、何でしれっとレインボーヴァイパーまでいるんですか!!」


「いや、出てきたから倒して手に入れただけだけど、それが?」


「いや、それが? じゃないですよ!! レッドやブルーでもかなりの貴重品なのに、何で当然の顔して持ってきてるんですか!!」


「まあまあ、それらの素材で何が作れるんですか? 出来れば、それで鞄や袋などの道具を領民用に作ってもらえるとありがたいのですがね。」


「・・・正直、これらは防具に使った方がいいのですけど、何で道具にこだわるんですか?」


「実はね、ヴァイパーを倒したのは、カット男爵とジェミニとライムとオニキスなんだよね、私とマーブルと戦姫の3人は別の魔物と戦ったもんだから。」


「ほう、カット男爵もなかなかできる方ですね。で、アイスさん達は何を手に入れたんだい?」


「私達が倒したのはこれです。この皮で領民達の防具は作れませんかね?」


 そう言って、私は昨日手に入れて、試しに解体したヒドラの皮を取りだしてその場に出した。


「は? これってま、まさか、、、。」


「おい、ロックさんよ、この素材が何だかわかるのか?」


「あ、ああ、俺の目が間違っていなければ、その皮ってヒドラだよ、、、。」


「は? ヒドラ? ヒドラってあの?」


「ああ、そのヒドラで間違いない。しかも、この硬さは首が少ないタイプだな。ヒドラの中でもかなりヤバい部類に入る。そんな化け物だ。」


「そんな化け物をどうやって、、、って、アイスさん達だからなあ、、、。」


「うちのご領主ってそこまで凄いのか?」


「ああ、そうか。ロックさんやガンドさん、ボーラさん達は来て間もないから、分からないのも仕方ないか。そうなんだよ、うちの領主のアイスさん達は、それぞれがドラゴンを余裕で倒せるんだ。むしろドラゴン程度では美味い食材程度という認識でしかねえんだよ。」


「は? ドラゴンを食材扱い? は、ははっ、それじゃあ、俺たちが手も足も出なかったマンイーターですらそもそも雑魚扱いだったんだな、、、。」


「そういうことだ。だから、一々驚いていたら、こっちの精神が保たねえんだよ。まあ、そのうち慣れるから大丈夫だよ。」


「なるほどな、、、。」


 ・・・何かいろいろと納得できないのですが、、、。まあ、いいや、話を進めないとね。


「それで、このヒドラの皮で、どのくらいの防具が作れるの?」


「俺らの腕だと、その量で30人分といったところかな。俺らより腕の良い職人だと40人分はできそうだけどね。ただ、それを切断したり、縫い付けるにはここにある道具では少し厳しい。できればミスリル製のやつが欲しいんだけど。」


「ミスリルか、、、。これで足りる?」


 そう言って、ダンジョンの最下層で手に入れたミスリルのインゴットを取り出す。


「は? ミスリルのインゴット? 何でアイスさんが持ってるんだよ、、、。まあ、それはいいとして、残念ながら俺らでは加工できないな。」


「いや、それはワシに任せてもらおう。」


「ああそうか、ガンドさんはドワーフだったな。でも、うちの炉ではミスリル加工できる温度にはできないんだが。」


「そういうことなら俺に任せてくれ。炉の成形については俺らノームが詳しいからな。組み立てるのはボーラもいるから大丈夫だ。」


 おお、流石は洞穴族。非常に頼もしいな。いや、ここにいる職人達も全員頼もしい存在だ。


「ミスリルの加工についてはこれで大丈夫か。で、ガンドさん、このミスリルの量でどのくらいの数揃えられますかね?」


「加工道具だけなら、5組だな。ただ、それだとギリギリ切り詰めた場合だ。余裕をもって考えると3組がいいところじゃな。」


「なるほど。じゃあ、採掘してくれば大丈夫だね。」


「採掘って、アイスさん、フロスト領でミスリルが取れる場所ってあるのか?」


「一応あるにはあるんだけど、そこにいる魔物が強すぎて、マーブルやジェミニクラスでないとムリなんだよね。」


「なるほど、アイスさんがそこまで言うんだから、相当やばい場所にあるんだな、、、。」


「まあ、手に入れることは可能だから、後で取ってくるけど、それでいいかな?」


「それでいいと思うよ。あと、これは別の問題なんだけど、、、。」


「ん? 他にも何か問題が?」


「いや、単純に素材の量の問題かな。単純にこの皮の量だと30人分って言ったけど、その30人を誰にするか、ということかな。」


「ああ、そっちか。それこそ問題はないかな。」


「は? 問題ないって、アイスさん、もしや、、、。」


「うん、それは試しに解体した首1本分だけだからね、住民全員に余裕で行き渡るから、そこは安心して良いよ。あと、これも使えるよね。これは、ヴァイパーを倒したメンバーが集めてくれたやつだけど。」


 そう言って、ヒドラの尾を取りだした。


「あと、首はあと10体分くらい解体して持ってくればいいか。それはすぐにできるから待ってて。」


 その言葉に職人達は唖然としてしまっていた、、、。


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ガンド「蛇皮よりも酒が欲しいのじゃが、、、。」

他の職人達「あの様子だと、酒はもう少しお預けかな、、、。」

全員「(´Д`)ハァ…」

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