第92話 さてと、安全のためとはいえ、実りは少なかったです。

前回のあらすじ:魔物が沸いてきたので蹴散らすことにした。



 ウルヴ達から報告を聞いて、これから出撃だ。魔物達は森から出現しているということで、森に突入するつもりだ。今回のメンバーはマーブルの転送魔法を知っているので、帰りのことは気にせずに行動できるというのが強みだ。これで私の方向音痴でヤバいことにならずに済みそうだ。



 兵達の見送りを受けて、砦を出発した。せっかくの戦勝気分が水泡に帰すことだけは避けたいので、できるだけ多く倒していくつもりである。逃げるだけの魔物達にはちょっと申し訳ないけどね。ちなみに、今回は森の中へと入るということで、当面は徒歩で移動している。森には行ったら木騎馬に乗って移動する予定だ。通常の馬では森の中での行動は少し厳しいところもあるけど、木騎馬であれば森でも平気で走行できるから安心だ。



 森の中に入ったので、ラヒラスが木騎馬を用意する。全員が騎乗すると、約1名だけ黒い全身鎧を纏った騎士に変化する。もちろん我らがウルヴである。うーん、いつ見ても○下だなぁ、とか思いつつも何か違和感を感じたので、ラヒラスに聞いてみた。



「ラヒラス、何かウルヴの木騎馬って損耗度がやばくない?」



「アイス様にはわかったか。うん、そうなんだよね。でも、乱暴に乗っているかといえば違うんだよね。恐らく、ウルヴの騎乗技術に木騎馬が対応できなくなってきているんじゃないかな、って思う。正直、俺らの方が乱暴に乗っているしね。一応、予備は何体か用意してあるけど、結果は同じじゃないかな。改良も考えたけど、今の段階でもこれ以上の強化は難しいくらいなんだよね。一部を金属で補強しようとしても、接続部分がむしろ弱くなったりとかして、今のところはどうにもならないかな。」



「なるほど。とりあえず今の段階では最大限まで強化されているといっても過言じゃないんだね?」



「うん、それこそ、世界樹レベルのランクの植物でないと無理かな。ただ、俺個人的にはカスタム機って好きじゃないから、仮に手に入ったとしても、全頭分の材料が手に入るまでは手を付けるつもりはないけどね。」



「そうなると、しばらくは数でカバーかな。」



「うん、しばらくはそれでガマンしてもらうしかないかな。」



「なあ、ラヒラス、そういうことなら、しばらくは騎乗を控えようか?」



「ウルヴ、気にする必要はないよ。お前が予想以上に使いこなしている証拠でもあるから。」



 私達の会話を聞いて、ウルヴは少しショックを受けたみたいだが、ラヒラスは乗りつぶして当然といわんばかりにウルヴを慰めていた。その会話にアインも加わった。



「ウルヴ。お前にとっての木騎馬とは、俺が普段使っている武器と同じなんだよ。」



「? アイン? どういう意味?」



「俺は、いつも狩りなどの戦闘が終わるたびに武器を新調してるんだ。」



「いつも?」



「そうだ。狩りなどが終わると、武器が耐えきれなくなっていつも壊れてしまってな。今はゴブリンの職人が来てくれたから、新調もラクになったけど、それまでは大変だったんだ。」



「何で毎回壊れるんだ? って、マジか?」



「ああ、本当だ。そういうわけで、ウルヴの木騎馬も同じだと思う。で、それを作っているラヒラスが気にすんなって言っているんだから、気にする必要はないと思うぞ。そうだよな、ラヒラス?」



「そういうこと。逆にもろい部分とか調整や修理をしているときに見つかるから、素材面はともかく、術式などの改良点が結構見つかって逆に面白いんだよ。まあ、今の段階ではこれ以上改良点が見つからないから修理や補修をしている程度だけどね。これからも気にせず使ってくれよ。」



「・・・ありがとう。」



 そんな話をしながら、私達は全員木騎馬に跨がった後、マーブルは左肩、ジェミニは右肩、ライムは腰袋に入った後、何と、ベリーラビットは私の頭の上に乗ってきた。それを特にルカさんが羨ましそうな目でこちらを見ていた。いや、頭の上に乗られると、身動きが取れないのですが、それは?



 そんな私の困惑にもベリーラビットは知らんがな、といった感じで微動だにしなかった。・・・少し速度を落として移動してもらいますかね。



「で、アイス様。何で私が先頭なんですかね?」



「様式美だ。ウルヴが戦闘モードで騎乗したら、先陣を切るのは当然。異論は認めない。もちろん、出発のかけ声は『イクゾー』だ! あ、でも、少しいつもより速度は落としてね。」



 私が「様式美」と答えると、周りのメンバーは一斉に頷いていた。みんな、わかってきたね。



「・・・いつものこととはいえ、納得はできませんが、命令なら仕方がありません。」



 そんな訳で、、ウルヴが持っている槍を真上に掲げて、それに合わせてウルヴ騎乗の黒い木騎馬も両前足を上げる。あんなに高く上がっているのに、ウルヴは平然としている、私達ではあんなのは無理。絶対落ちてる自信がある。そんなことを思いつつ、ウルヴは「イクゾー」のかけ声と共に走り出す。私の頭の中では、有名となっているあの勇ましい曲が流れている。あの曲を知っているのはこのメンバーではいるのだろうか? いや、いたら怖いな、とか思いながら後に続く。



 ちなみに、陣形はこんな感じ。



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        アンジェリカさん   セイラさん



 ウルヴ    ラヒラス       ルカさん



        私&マーブル達    アイン


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 ちなみに、これは話し合いすらせず、勝手にこんな感じになった。でも、案外バランスは取れているかもしれないのは笑えた。



 しばらく進んでいると、マーブルが魔物達を探知したようで、教えてくれた。私はというと、頭上にいるベリーラビットが気になって気配探知どころではなかった。取り敢えず、木騎馬に搭載されている通信機能でみんなに魔物を探知したことを伝え、方向を指示する。



「いや、指示しなくても、アイス様が先頭を走った方がいいのでは、、、。」



「様式美の方が大切だからね。これは譲れないよ。」



 ウルヴが愚痴をこぼすが、これは譲るわけにはいかない。



 魔物の気配があるという方向へとしばらく進み、もう少しで接敵しそうな距離になってきたので、一旦停止して、ウルヴを除いて全員木騎馬から降りて戦闘態勢を整える。ベリーラビットもようやく降りてくれたので、改めて気配探知をかけると、警戒しつつも後退している集団を発見した。今までにあったことの無い種類だな。それに他にも距離こそ離れているけど、いくつが集団がいるな。鑑定をかけるが、一番近い集団だけしかわからなかったが、鑑定結果は「ジャイアントエイプ」と出ていた。なるほど、肉は無理か。で、毛皮が高額で取引されている、か。鑑定が終わったので、さらに集中して探知をかけて数を確認する。なるほど、数は、と、15体か。このクラスにしては数が多いけど、このメンバーなら問題ないか。ベリーラビットがどこまで戦えるかだな。



「みなさん、もうすぐ接敵します。種類はジャイアントエイプ、巨大な猿の魔物です。数は15ですね。とりあえずノルマは1人につき1体です。あ、ライムとオニキスはベリーラビットの護衛ね。それと、アンジェリカさんは制限設けませんので、思う存分暴れ回ってください。」



「フフッ、アイスさん、お気遣いありがとうございます。その期待に応えて見せますわ!」



 こうして、私達は戦闘態勢を整える。私はもちろんオニジョロウを取りだして準備完了だ。矢は1発のみで今回は勝負する。



 戦闘準備が完了したので、ゆっくりと前進しているが、巨大な猿達は、向こうを警戒しているのかこちらに気付いている様子はなかったので、遠距離部隊がそれぞれ猿達を攻撃し始めた。ラヒラスはいつものフレキシブルアローではなく、先端に長い棒のついた板、、、って、ビームライフルじゃねえか、、、。属性が気になるけど、後で聞くとしましょうか。狙いを過たず、猿の頭を打ち抜く。ナイスヘッドショット。セイラさんとルカさんもしっかりと仕留めていた。



 こちらの攻撃でようやく気付いて、こちらに攻撃を仕掛けてくるジャイアントエイプ達。思っていたよりも大きかったが、それだけだった。マーブルとジェミニはアッサリと首を切り落として終了。私も近づいてきたところにヘッドショットを決めてフィニッシュ。ウルヴは真っ向から突っ込んですれ違いざまに心臓を一突きして仕留めていた。アンジェリカさんはというと、これまた無双状態だった。集団で襲いかかってきても物ともせずに打ち払っては一突きでそれぞれ仕留めていた。



 唯一の懸念事項であったベリーラビットだったが、流石にジャイアントエイプ相手では少し旗色が悪かったけど、ライムとオニキスのスライムコンビがしっかりと猿の攻撃を防いでサポートしていた。最後はスライムコンビが足や手を固めてベリーラビットの後ろ足で見事にフィニッシュ。その成長ぶりを私達にアピールしたのだ。



 恐らくこのジャイアントエイプはBクラス相当の強者。それをサポートがあったとはいえ、Fランクの魔物であるベリーラビットが仕留めたのだから、これは褒めないわけにはいかないだろう。ってか、ベリーラビットですらこんな強さになってしまって、あのウサギ達はどこまで強くなるのだろうか? まあ、モフモフ具合にしろ、可愛らしさにしろ、その部分は変わっていないので良しとしますか。



 こうして遭遇した魔物を倒しつつ進んでいると、1体の巨大な魔物の存在が確認できた。なるほど、あれでは魔物達が逃げるはずだよ、、、。とにかくデカいの一言である。しかも人型。サイクロプスとかトロールよりももちろんデカい。どんな種類の魔物なんだろうか。アマさん、よろ。



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『スプリガン』・・・巨人族の中でも特に大型の種族じゃな。デカい分一撃もヤバイが、良くも悪くも巨人族は巨人族じゃな。残念ながら皮しかお主らの需要に応えられる物はないのう、、、。あ、念のために言っておくが、皮を加工してベストを作っても、攻撃を跳ね返したりなぞは無理じゃからな。まあ、こやつらの皮はそれなりに防御に優れておるが、それ以上でもそれ以下でもないぞい。けど、高くは売れるぞい。また金持ちに一歩近づいたかの。


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 チッ、しっかりと読まれているか、、、。なるほど、ベストを作っても攻撃反射などは無理か。まあ、どう考えても当たり前だよね。って、あれ? 少し距離があるけど、もう1体魔物の存在があるな。でも、これどうみても弱っているな。とりあえず、さっさとこのスプリガンという巨人を倒して弱っている魔物について確認しに行きますかね。しかし、なんでこんなのがここにいるのだろうか? しかも、何かいきなり呼び出されてしまったのか、暴れているし、しかもこっちには全く気付いていないし。



「さて、みなさん、あそこにいるデカいのは、『スプリガン』という種類みたいですね。少し試したいことがあるので、ここは私に任せてもらえませんかね。」



「先程まで思う存分暴れさせてもらいましたから、ワタクシは構いませんわよ。」



「アイス様のご指示通りに。」



 こんな感じで言ってくれたので、お言葉に甘えることにする。



「ところで、アイスさん、試したいことって?」



「ちょっと、今回も合体攻撃を試してみようかと思いましてね。マーブル、ジェミニ、ライム、昨日話したものはできそうかな?」



 3人とも頷いたので、早速やってみますか。



「できますか。よし、では、早速やるとしましょう! では、最初はマーブル隊員!」



「ミャア!!」



 マーブルは風魔法でバレーボールくらいの大きさの風の塊を生み出した。



「よし、次は私だな。」



 私は水術でマーブルの作った風の塊内の水分を全て氷に変えると、風の塊の中には雷が発生し出した。



「よし、良い感じだ。じゃあ、次はジェミニとライム!!」



「了解です、いきますです!!」



「わかったー!」



 ジェミニが土魔法で石の塊を生み出し、その塊をライムが光り魔法で包み込む。その光に包まれた石の塊をジェミニが後ろ足でキックして雷の塊に入る。



「よし、準備完了! 名付けて『レールガン』、いけーっ!」



「ミャア!!」



 最後に、出来上がった塊をスプリガンめがけて放つ。光の弾に気付いたスプリガンは慌てたが、避けられずに頭に直撃して首から上がなくなっていた。光の弾はそのまま落ちることなく飛んでいき、しばらくしてスプリガンは仰向けに倒れてしまった。上手くいって喜びを分かち合っていた私とマーブル達。しかし、他のメンバーはそうではなかった。



「な、なんですの、アレ?」



「ああ、あれですか。あれはレールガンといって、私達の新たな合体技です。」



「いえ、そうではなくて、どうやったらあんな威力になるのですか?」



「いやあ、凄い威力でしたね。でも、ちょっと強すぎるからもう少し工夫がいりそうですね。」



「はあ、もういいですわ。」



 アンジェリカさんに呆れられてしまった。周りのメンバーも唖然としているだけで反応が薄かった。解せぬ。



 まあいいか、とりあえずこれで大丈夫でしょう。後は、少し離れたところで弱っている魔物ですかね。さてと、どんな魔物でしょうか。

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