第91話 さてと、別件で何か来ましたね。

前回のあらすじ:いい素材を使って夕食を楽しんだ。



 テシテシ、テシテシ、ポンポン、、、。もう朝か、、、って、まだ周り暗いんですけど? いや、いくらコカトリス達との勝負があるからといっても、流石に暗いうちに起こしてくるほどのことじゃないはず、って、今ここにコカトリス達いないじゃん? などと多少混乱しているとジェミニが起こした理由を話してくれた。



「アイスさん、こんな時間に申し訳ないです。実は、フロスト領から報告だそうです。」



 なるほど、フロスト領から来たのか、だからこんな時間なのね。それにしてもいくら基本的に平和なこの場所とはいえ、砦は砦。よくもまあ、見事に警備をかいくぐって来たものです。さて、誰が来たかな。



 よく見ると、イチゴを乗せているベリーラビットだった。私が起きるのをちょこんと座って待っていた。うん、これはこれで可愛いな。って、ホッコリしている場合じゃなかったな。報告を聞きましょうか、って、通訳はジェミニに頼るんだけどね。



「キューッ、キュキュッ。キュッキュー。」



 ・・・なるほど、わからん。とはいえ、向こうもわかっているだろう。一通り聞いて頷いてから、ご褒美として空間収納からドラゴンの肉(焼いたやつ)の一部を取りだして来てくれたベリーラビットにあげる。



 ベリーラビットは美味しそうにドラゴンの肉をモキュモキュと食べていた。ほう、これはこれで可愛らしいねえ。たまらず背中をナデナデしながらホッコリ状態の私にジェミニが通訳してくれた。



「アイスさん達の予想通り、私達が援軍でフロストの町から出発して次の日に行動を起こしたみたいです。」



「なるほど、やはり動いたね。」



「ハイ、動きましたね。しかし、これほどいいタイミングで仕掛けてきたということは、領内にスパイが忍び込んでいるのでは?」



「うん、一応いるみたいだけど、脅威とならないものについては放っておいてるから。あと、主力の大半はフロストの町に残していることを知らないということは、恐らく領内からではないね。帝都方面じゃないかなと思うけど。」



「なるほど。領内からでしたら、援軍は私達6人でしたから、むしろ動き出さない筈ですよね。」



「そういうこと。今回、この子を送ってきたのは、ただの報告で、向こうは向こうでしっかりと準備ができているということで間違いないかな?」



「そうらしいです。敵も考えたのか、フロストの町だけでなくトリニトの町にも仕掛けてきたそうです。」



「ありゃ、向こうにも仕掛けてきたか。黒幕はともかく、構成はどうなっているのかな?」



「そのことですが、、、。いまの話だと、敵が仕掛けてきたから報告だけしといて、ということらしいです。」



「なるほど、それで他には何か言ってきたかな?」



「他にはですね。一週間もあれば片付くから、一週間位したら戻ってきて、だそうです。」



「はゐ? 一週間も戻ってくるな、ですかい?」



「私達が戻ってきてしまうと、活躍の場がなくなるから、だそうです。」



「なるほどね、そういうことか。了解だよ、じゃあ、言われたとおり一週間くらいここでノンビリしてからゆっくりとフロスト領に戻る、って伝えておいて。」



「キューッ!!」



 何と、ベリーラビットまで敬礼を。何これ、もの凄く可愛いんですけど。



「あ、でも、今すぐじゃなくていいからね。渡したお肉もしっかり食べて、体力を回復させてから戻ってくれればいいから。あと、これもよかったら飲んでね。」



「キュッ!!」



 そう言って、空間収納からベリーラビット用に皿を出して、そこに湧き水を入れる。ベリーラビットは再び肉にかじりついていた。



 さてと、時間的にはもう一眠りできるかな。流石にこれからずっと起きているのはつらい。というわけで、私も再び眠りについた。



 テシテシ、テシテシ、ポンポン、テシテシ、、、。あ、もう朝か。って、1体増えてるし? ああ、報告に来ていたベリーラビットか、納得。



 みんなに挨拶をして、いつも通り水術で顔を洗ってサッパリしてから、朝食の準備をしに厨房へと向かうと、守備兵の炊事担当の人がすでに朝食の準備に入っていた。



「あ、フロスト伯爵、お早うございます。昨日は大変美味しいものを頂き、誠に感謝しております!」



「お早う。朝から精が出るね。」



「いえ、これも任務ですので! 伯爵には劣るかもしれませんが、我々も腕によりをかけて準備しておりますので、楽しみにお待ちください。」



「うん、楽しみにしているよ。・・・でも、本当は私が準備したかったな、、、。」



「・・・申し訳ありませんが、これも任務ですので。しかし、不躾ですが敢えて申し上げますと、伯爵自らが我々に食事を提供するのは正直どうかと思います、、、。」



「確かに、君達の仕事を奪うわけにもいかないね。了解したよ。じゃあ、これを差し入れるから使って。」



 そう言って、マーブルの方を見て、マーブルが右前足を上げて目に見える魔力を展開してから、私の空間収納から用意していたウインナーを取りだした。



「フロスト伯爵、これは?」



「これは、ウインナーといって、肉を細かくしたものを塩コショウなどで味付けして、ブタや羊の腸に詰めたやつを湯通ししたものだよ。これは煮ても焼いても、もちろん、そのまま食べても美味いものだから、役に立つと思う。ああ、試食と称してつまみ食いもある程度は許すけど、食べ過ぎに注意してね。」



「こんな珍しいものを、いいのですか?」



「まあ、調理法は珍しいかもしれないけど、中身は普段みんなが食べているものだから、遠慮なく使って。」



「これは、ありがたく使わせて頂きます!!」



「うん、じゃあ、朝食楽しみにしているよ。」



 そう言って、厨房を後にした。チェッ、朝食作りたかったなあ、、、。でも、仕方ないか、ここはフロスト領ではないのだし。大人しく待つとしましょうか。



 出来上がった朝食には、全員にしっかりとウインナーが添えられていた。今回は一緒に炒めたようだな。初めて食べる守備兵達はいい笑顔だった。提供した甲斐があったというものだ。そういえば、調理した守備兵達の分のウインナーの数が少し少なかったけど、それでも他の守備兵に比べると、俺はもっと美味いものを食べているんだぞって顔してるな、、、。あ、結構つまみ食いしたな、これは。まあ、役得だから仕方ないね。



 朝食が好評のうちに終わって、部屋に戻りマーブル達とモフモフタイムを堪能しているときに、アンジェリカさん達がやってきたので、今日はどうするのかなどを、いろいろと話していた。といっても、明日、明後日にはアンジェリカさん達はタンバラの街へと行くことになっているし、その時にはウルヴとアインとラヒラスも一緒に行ってもらうことになっているので、できることは結構限られていた。それと、タンバラの街へと持っていく差し入れの準備もまだ全部終わっているわけではなかったので、とりあえず、昨日の続きを行うことにした。



 昨日の続きに関してであるが、流石に昨日とは違って砦の守備兵を全員動員するわけにはいかない。ということで、非番だったりと手の空いている兵士さん達に手伝ってもらうことにした。折角の休みを申し訳ないと思いながら頼むと、むしろ感謝された。あ、そうか、アンジェリカさん達も一緒だからな。逆に担当のある兵士達から少し恨みの籠もった視線が、、、。いや、別に数時間程度の手伝いでフラグなんて起こらないから安心して欲しいんだけど、そういう問題じゃないのかな。



 人は少ないけど、昨日の続きを行っていると、守備兵が慌てた様子でこちらに報告に来た。もちろん、アンジェリカさんにだけどね。



「一体、何がありましたの?」



「ハッ、森からこちらの方に魔物がやってきております! このままですと、周辺に被害が!!」



「報告ご苦労様。引き続き偵察お願いいたします。」



「ハッ、それでは、これにて!!」



 作業は一時中断となり、出撃するために片付けなどをした。あとは、作業で手などが油まみれになっていたが、マーブルとオニキスの活躍により、あっという間にいつもの状態に戻った。



 準備をしていると、ラヒラスがこちらにやってきた。どうやら、昨日と同じく森へと葉物採集にウルヴとアインと一緒に行ったときに、魔物の群れと遭遇して第一陣を蹴散らしてこちらに戻ってきたようだ。



「アイス様、守備兵から報告は聞いたよね?」



「私にではなく、アンジェリカさんだけどね。一応聞いたよ。それで、魔物の構成はどうなってるの?」



「主だったものは、ゴブリンにコボルト、あとは、ホーンラビットかな。個人的な感想だけど、上位種はいない感じだったな。どうも統率が取れていないような気がする。」



「なるほど。上位種はいない、か。それで、魔物はそれで全部?」



「いや、まだ第一弾といった感じだったね。まだ来そうな気がするね。」



「ふむ。第二弾以降だと上位種はいそうかな?」



「これも、個人的な感想だけど、魔物達も何か追い出されるような感じでこっちに来ているような気がするんだ。」



「とすると、強力な個体がこちらに来ている、と?」



「まあ、あくまで個人的な意見だけどね、そう思うよ。」



「なるほどね。そうなると、第二弾以降は守備兵のみんなでは荷が重いかな。」



「うん、俺たちだけで行った方がいい気がする。折角の戦勝気分をこんなことで失うのはよくないからね。」



「そうだね。では、ここは我々だけで行くとしますか。あ、でも戦姫の3人には声をかけておいた方がいいかな。」



「うん、あの方達が行くなら、俺らは待機してもいいかな。第一弾だけでもかなりの数だったし、思う存分倒すこともできたからね。」



「うん、ありがとう。ただ、今回は君達も一緒の方が良いような気がするんだよね。これも勘だけどね。」



「そうすると、参加メンバーは、アイス様達と俺ら3人、あとは戦姫のお3方といった感じ?」



「うん、それでいこう。」



「アイス様、カムイさんはどうするの?」



「本音は連れて行きたいけど、今は別で動いてもらわないとならないから、今回はそっちかな。」



「わかった、伝えておくよ。」



 アンジェリカさん達が、支度を調えて、私のいる部屋へとやってきた。いや、ここはタンヌ王国内なんだからこっちを呼び出せばいいのに、と思ったけど、今いうべき内容ではないかな。



「アイスさん、もちろん魔物達を倒しに行きますわよね? ワタクシ達を置いていくなんてことは許しませんわよ?」



「もちろん、戦姫の3人も一緒に行ってもらいますよ。特にアンジェリカさんは先日の戦いでは満足に戦っていませんでしたからね、今回は大暴れして頂きます。」



「フフッ、そうですわね。何しろ、誰かさんの嫌がらせのために、ワタクシほとんど何もできませんでしたものね。今回は思いっきり戦いますわよ! とはいえ、アイスさんの指示には従いますわ。でも、あの時みたいな作戦はお受けしませんわよ。」



「大丈夫です。今回は政治的な思惑は必要ありませんので、普通に戦いますので。」



 そんな会話をしていると、ウルヴ達3人とカムイちゃんもこっちに来たので、これより作戦会議である。



「さて、みんな集まったね。状況確認のために、とりあえずウルヴ、報告よろ。」



「ハッ、私達3名と守備兵数人で、葉物を採集しているときに魔物達に出くわしました。最初はいつも通りかな、と思いつつ倒していたのですが、どうも出てくる数が異常でしたし、何より統率が全く取れておりませんでした。今は魔物は現れておりませんが、恐らくまだ第一弾といったところで、この後第二、第三とやってくると予想されます。」



「ありがとう。というわけで、私達はこれからそのやってくるであろう第二、第三の魔物達を倒すために出撃します。アンジェリカさん、このことは守備兵には伝えてありますか?」



「もちろん、抜かりはありませんわよ。守備兵達には、この砦を守り切るのが皆さんの仕事です、としっかりと言い聞かせておりますので、ワタクシ達だけで出撃することも連絡済みですわ。」



「重ねてお礼申し上げます。それで、魔物達ですが、先程ウルヴの報告からあった通り、どうも統率が取れていないようで、恐らく何か大物がやってきたので、魔物達がこちらに逃げてきているような感じがします。これは、ラヒラスと話して思ったので、恐らくそれで間違いないと思われます。」



「それで、アイスさんはどのように動くおつもりですの?」



「そうですね、正直、こちらにやってくる魔物が何であるのか皆目見当がつかないので、気配探知を使って魔物達を倒していきながら、その大物に向かって行こうかと思っております。ということで、申し訳ないけど、カムイちゃんはタンバラの街やフロスト領からの報告をまとめたりして欲しいので、こっちに待機で。」



「本心では、今度こそアイスさんと一緒に行動したかったけど、今の事情だとしょうがないよね。」



「うん、頼める人が他にいないし、頼むね。で、残りのメンバーで魔物を倒しつつ、原因となっている魔物に向けて行動します。」



「「「了解!!」」」



 全員が敬礼で応える、って、何故ベリーラビットがまだここにいるんだ? しかも一緒に敬礼してるし。



「アイスさん、この子は一緒に行って、強くなった自分を見て欲しいそうです!」



「キュー!!」



 何かもの凄いやる気になってるし、、、。まあ、マーブル達が反対してないようだから大丈夫か。



「ライム、万が一が起こっても悲しいから、ベリーラビットを密かに護って欲しい。」



「わかったー。」



 密かにライムにベリーラビットの護衛を頼んでおいた。ライムも引き受けてくれたから大丈夫だろう。



「では、出発します!」



 では、これから魔物達を倒しに行きますかね。守備兵達の見送りを受けて、私達7人と4匹は砦を出発した。


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