第93話 さてと、ついにあの乗り物が(なまもの)。

前回のあらすじ:魔物の反乱の大本を倒したけど、その近くに気になる魔物がいた。





 4人の合体必殺技『レールガン』で、何もさせずに超巨大生物「スプリガン」を倒してしまった私達であるが、恐らく、そのスプリガンにやられたのであろう傷ついた魔物の存在を探知したので、早速向かってみることにした。



「アイスさん、一連の原因であろう魔物は倒したと思うのですが、実は違ったと?」



 アンジェリカさんが、戻ろうとしない私達を見て聞いて来た。他のメンバーも同じように不思議な様子でこちらを見ていた。



「いえ、そのスプリガンにやられて弱っている魔物の確認をしようとそちらに向かっております。」



「その魔物って、放っておくと危険な存在になりそうですの?」



「正直、それはわかりませんが、何か気になるんですよね。」



「アイスさん、気になるとは?」



「その魔物、たったの1体なんですが、何か足が多いんですよね、、、。」



「足が多い、ですの? それってひょっとして虫系の魔物とか?」



「いえ、虫では無い感じです。実際に見てみないことにはわかりませんが。」



「なるほど。とりあえず、実際に見てみないことにはわからない、ということですのね?」



「そういうことです。思わぬ掘り出し物かも知れませんので。」



 私とアンジェリカさんの会話を聞いて、周りのメンバーは納得した感じであったが、ウルヴとラヒラスの目がひそかに輝いていたのは黙っておこう。ぬか喜びさせても可哀相だしね。



 その魔物の所へ向かっていると、その魔物はこちらの存在に気付いたようだけど、何故か動こうとしない、いや、動けないのかもしれない。これは急いだ方がよさそうか、いや、急ぎすぎて向こうが暴れてしまうと面倒である。倒すことは簡単だけど、今回については倒さない方がよさそうな気がしたのだ。ということで、同じペースで先を進むことにした。



 同じペースで近づいて来ていることを向こうも悟ったのだろうか、何か落ち着いてきた感がわかった。



 ようやく視界に入ったので、確認してみましょうか。アマさん、よろ。



------------------------------------


『スレイプニル』・・・おろ? こりゃ珍しい。別名悪魔の馬じゃな。しかも、この子は若いのう。この世界では、オーディン神はおらんから、神の乗馬とは呼ばれなかったんじゃろう。とはいえ、ワシもオーディン神は見たことがないがな。世界が違うからのう。悪魔の馬とは呼ばれておるが、それは、上手く扱える者がおらんかったからじゃぞ。さてと、お主達の中に上手く扱える者はおるかの? 上手く扱える者がおれば、後は簡単じゃぞ。普段の世話も魔物じゃから、お主達と同じものを与えればよいからの。もちろん、通常の馬と同様に牧草なども食すぞい。


------------------------------------



「おお、いたいた。みんな、この馬が先程探知した魔物です。さっきいたスプリガンの攻撃を喰らってボロボロの状態になっているね。ちなみに、この馬は『スレイプニル』という種類だそうです。」



「スレイプニルだって?」



「おお、セイラさん、ご存じですか?」



「スレイプニルって、悪魔の馬で有名なんだよ。まさか本物をこうして目にするとは思っていなかったけど。でも、悪魔の馬という割には可愛らしい目をしているよね。」



「流石はセイラ様、お目が高いです! こんなに素晴らしい馬、私は見たことないですよ!!」



 驚きのあまりか、普段はこういった場では自分から話さないセイラさんやウルヴが話していた。まあ、ウルヴについてはわかる気がする。



 スレイプニルも最初は警戒していたが、マーブルやジェミニの姿を見ると一気に大人しくなった。というか、あれ、どうみてもあきらめの境地なのかもしれない。覚悟を決めた目をしていた。とはいえ、マーブルやジェミニはこの馬をどうこうするつもりはないので、大人しく見ているだけのようだ。まあ、満足に動けないから逃げようにも逃げられないというのもあったかもしれない。



 弱っているのはわかっているので、とりあえず状態確認のための鑑定もかけてみると、大怪我と空腹となっていたので、定番の餌付けから始めることにした。先程の鑑定で、私達と同じものも食べられるということだったので、用意していた昼食の一部をあげることにした。って、私らも昼飯まだじゃん、、、、。



 折角だったので、ここで馬と一緒に昼食を摂ることにした。最初はスレイプニルも戸惑っていたが、やがて諦めたのか慣れたのかわからないけど、一緒にくつろいでいたのは笑えた。スレイプニルに昼食を上げる役目はもちろんウルヴである。あとは、魔導具の関係でラヒラスにも関わらせることにした。2人は喜んでその役目を引き受けた。



 食事も終わったので、これから少し治療をするべくいろいろ試すことにした。食事が終わった頃には私達の誰が近づいても驚かなくなっていたので、触れたりするのも簡単だった。もしかしたらこちらの言葉も理解しているのかも知れない。そういった素振りがあったのだ。



 まずは定番中の定番である薬草だ。食事後に薬草なんて、と思うが、まずは体力や気力の回復をしてもらうのもそうだが、それ以前にこちらの行動を受け入れてもらう必要があったからだ。今回はベリーラビットも一緒だったので、必要だと思って用意しておいたものだ。試しに与えてみると、草は別腹、と言わんばかりに中々の勢いで食べていた。



 ある程度薬草を食べて、少し時間をおく。消化を待っているのだ。その間にウルヴやラヒラスはしきりにスレイプニルを撫でていた。いつの間にかマーブル達も、横になっているスレイプニルに乗ったりしていて結構仲良くなっていた。意外にもベリーラビットが一番仲良くなっていたのは驚いた。



 ちなみに、薬草だけでは不十分であった場合、ライムの光魔法での治療を考えていたが、薬草だけである程度動けるようになったようで、立ち上がるとこちらの周りを走り回ったりしていた。それに合わせてマーブル達も一緒に走り回っている様子には周りの人間もホッコリ状態だった。



 本来であれば、ここまで動けるようになると逃げたりするかもしれない、と思っていたが、逆に逃げるどころか、むしろこちらに近づいたりしているくらい、懐いてくれたようだ。



 それでは、ここからが本番となる。もちろん、主目的はウルヴの乗馬となってもらうことだ。スレイプニルの方も何となく感づいていたようで、むしろ、「俺を乗りこなせるかな?」と言わんばかりの態度で、いつでも乗ってみるがいい、という素振りでウルヴが乗りやすいような体勢になっていた。ウルヴはウルヴで、早く乗せろ、といわんばかりの表情だった。



 ウルヴはスレイプニルの背に跨がる。スレイプニルはウルヴを振り落とそうと、色々と動き回っているが、ウルヴは全く苦も無く背に跨がり続けている。正直一度や二度くらいは振り落とされるかな、と思ったけど全くそんな素振りすら見せずに、平然と乗りこなしていた。逆に予想以上の良い動きをしていたようで、ウルヴの表情も嬉しそうだった。



 流石の悪魔の馬と呼ばれたスレイプニルも、ここまで振り落とされずに乗りこなしたウルヴに対して乗り馬となることを認めたようで、こちらに戻ってきて立ち止まった。



「どうやら、スレイプニルがウルヴを認めてくれたようだね。ウルヴ、どうだった?」



「いやあ、最高でしたよ。ラヒラスの作ってくれた木騎馬もかなりの乗り心地でよかったのですが、このスレイプニルに乗ってしまったら、もう木騎馬でも満足できませんね。」



「だそうだよ、ラヒラス。」



「うん、あれだけの機動力を見せつけられると、そう思うのも仕方ないんじゃないかな。どちらにしろ、スレイプニルは俺らでは乗りこなせないしね。」



 そう話していると、スレイプニルが「ヒヒン」と鳴いて、それをジェミニとライムが頷いていたので、気になって聞いてみた。



「ジェミニとライムはこのスレイプニルが何ていっているのかわかったの?」



「はい! 俺も仲間になったんだから、名前を付けてくれと。」



「あるじに名前つけてほしいっていってたー。」



「はゐ? 乗り役として背を預けることになったウルヴじゃなくて私に?」



 私が驚いていると、スレイプニルがまた、「ヒヒーン」と鳴いた。



「はいです! ウルヴ殿は乗り役としては認めたけど、主人はあくまでもアイスさんだそうです!」



 ジェミニがそう私に通訳してくれると、スレイプニルが続けて「ヒヒン」と鳴いた。



「それで、基本的にはウルヴ殿が乗り役だけど、アイスさんが認めた人達を乗せてもいいそうです。」



「それは嬉しい申し出だね。でも、ほとんどウルヴ専用になると思うけどね。何せ、あんな動きをされては私達では無理だからね。まあ、それはおいといて、このスレイプニルに名前をつけないとね。」



 名前をどうしようか考えていると、スレイプニルが「ヒヒン」と鳴く。



「格好いい名前を希望、だそうです。」



「格好いい名前、ね。簡単に思いつけばいいんだけど、、、。」



 こんな感じでジェミニと会話していたが、ジェミニの言葉は人間では私にしかわからないので、同時通訳でライムがしてくれたようで、みんな考えてくれている。そして、あーでもないこーでもない、といろいろ意見が出ては保留にしたり却下したりと難航していた。突然ラヒラスがひらめいたように言ってきた。



「基本はウルヴが乗るわけだから、ここはやはり、『カール・アウグス、、』「おっと、それ以上はいけないぞ、ラヒラス!」」



 何かやばそうだったので、慌てて止める。でも、それはいい案だとも思った。



「よし、それでは、ナイ、、はやばいな、アウグストにしよう!!」



 私がそう告げると、スレイプニル、いや、アウグストは「ヒヒーン!!」といい声で鳴いた。当人も気に入ってくれたので、アウグストに決定。喜んだアウグストは、私達の周りを走り回っていた。



 ある程度落ち着いてきたところで、ラヒラスがウルヴ用の魔導具をアウグストに装着させてほしい旨を伝えると、アウグストは頷いてくれた。ってか、お前も頷けるんかい。



 その後、私達は交代でアウグストに乗せてもらっていた。流石は魔物なのだろうか、鞍がなくても安定して乗ることが出来た。アウグストも乗り手の技量によって速度などを調節してくれたりもした。かなり凄い馬だね。ちなみに、スレイプニルといっても、足は4本だった。足がもっとあるという言い伝えは、ウルヴが乗ったときだけ全力を出したときの足の動きで、6本とか8本に見えたので、そこから来ているのかもしれなかった。



 ちなみに、アウグストには家族がおらず、基本的に1体だけで行動していたようなので、私達と一緒に戻ることを快く了承してくれた。



 さてと、いくらアウグストが優れた馬とはいえ、ここから一晩で砦に戻るのは不可能である。なぜなら、私達が現在地を把握していないのだ。ということで、転送魔法で戻ることは最初から決めていたので、ウルヴとの慣熟訓練やメンバーとの連携に慣れてもらうために、この辺りで魔物と戦ったり、夕食用の素材を手に入れたりして過ごした後、暗くなり始めたので、マーブルの転送魔法で砦の近くへと転送して、砦に無事到着することができた。



 砦の守備隊は、最初、アウグストを見て驚いたが、「フロスト伯爵だから」という理由で納得しているようだった。何故だ、、、。また、砦内の厩舎では、馬たちはアウグストに最初驚いていたが、すぐにアウグストをボスと見るようになり、大人しくなった。アマさんの鑑定では、まだ若いそうだけど、もうこの時点で力関係がはっきりしているところを見ると、アウグスト、いや、スレイプニルはかなり強い魔物なんだと思う。



 あ、アウグストを見て思ったのが、毛繕い用のブラシの必要性である。アウグストのたてがみはもちろんのこと、我が領にいるモフモフ達もそうだし、マーブルとジェミニ用にも正直欲しい。フロスト領に戻ったら、職人達に作れるかどうか聞いておかないとな。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る