第38話 さてと、第一陣ですか。

 さて、人為的スタンピードを仕掛けられたが、規模がどれだけであろうと、ぶっちゃけ水術で周りを凍らせて暴れ回るだけで殲滅はたやすいが、それでは面白くない。戦える者は戦い、戦闘経験を積んでもらうことも大事なこと、ましてスタンピードという大規模な侵略に対しての防衛練習もできるというフロスト領にとっては一石二鳥の美味しいイベントである。さらには魔物の種類にもよるけど、大量の食料をゲットできるチャンスでもあるのだ。さらに素材も大量にゲットできるかもしれない、これを生かさない手はない!! あ、そうだ、戦闘員には素材のことも考えて戦ってもらわないとね。と、まあ、ここまで正直余裕がある。



 とはいえ、敵を侮るのは禁物だ。特にトリニトへの被害だけは気をつけなければならないので、その辺の対策もしていかないとな。



 とりあえず主だった者を呼んで今後の対策を図りたいと思う。ちなみに参加者だが、私の大事な家族であるマーブル、ジェミニ、ライムはもちろん、配下であるウルヴ、アイン、ラヒラス、その他には人族の長である長老、野ウサギ族の長であるレオ、獣人族の族長であるフェラーさんだ。



「さて、みんなに集まってもらったのは他でもない、近いうちに我が領にスタンピードが起こる。」



 最初に反応したのは長老だ。



「ス、スタンピードって、確か魔物の大量発生のことですよね?」



「長老、正解。調べによると、およそ一週間くらいで第一弾が来るはず。」



 それを聞いた長老は驚き、顔を青くする。



「先日にお話を聞きましたが、改めてお聞きすると不安が募ってきます。」



「うん、危険だと思う。今ならここを安全に脱出できるけど?」



「いえ、不安ではありますが、フロスト様が慌てておりませんので、このまま指示を仰ぎたいと思います。」



「ありがとう、もしやばそうだったら言ってね。」



「お気遣いありがとうございます。」



 次に族長が聞いて来た。



「フロスト様、それで、対策はできておるのですか?」



「ああ、それについては大丈夫。」



「では、指示をお願いします。」



 周りがみんな私の指示を待ち受けているようだ。



「ある程度考えはまとまっているけど、こればかりは相手次第だからねぇ。」



「と、言いますと?」



 ウルヴが言葉をつなげる。



「スタンピードというのは、大まかに2パターンあって、1つはもの凄い数の魔物達が一斉に襲いかかってくるパターン。もう1つは、集団毎に一斉に襲いかかってくるパターン。この2つだね。ぼんやり聞いていると同じに聞こえるけど、もう少し具体的に説明するとね、例えば魔物が5000体発生したとするよね、1つめのパターンは5000体が全滅するまで一団で襲ってくるんだ。2つめのパターンは500体を1つの集団だとしたら、それが10回続くんだよね。で、その合間は少し時間ができるから、軽く休憩できるのがポイントかな。」



「なるほど、そういうことか。わかった。それで今回のパターンについてはわかるのか?」



 私の説明に納得してからフェラー族長が聞いて来た。



「こちらの予想だと、2つめのパターンかな。もちろんこれは希望的観測ではなく、調査した結果の結論だから。理由は何となく、ということにしといて。」



「フロスト様がそう言うなら、そうしておこう。」



「さて、今回の作戦だけど、正直私が心配しているのは、ここフロスト領ではなく、隣のトリニト領なんだよね。城壁があるとはいえ、戦力的には心許ない部分もある。けど、こちらが一方的に守ってしまうと、トリニトの住人のためにならない、ということで、トリニト方面へ進行する魔物はある程度倒すけど、私達はトリニトの町へは入らない。そのつもりでよろしく。」



 出席者が全員頷く。



「それをふまえて、今回の作戦は戦力を2手に分けます。ここに残る人達と、トリニト方面へと向かう人達とです。トリニト方面へはトリニトにいるアッシュと冒険者ギルドへの手紙を渡してもらうついでに、こちらに向かってくる第一陣を後方から蹂躙してもらうのが任務です。トリニトへの使者はアインに頼みたいと思います。」



「それは構わんが、ウルヴにしなくてもいいのか?」



「一応理由があります。第一陣は恐らくゴブリンかコボルトのどちらかでしょう。外交的にはウルヴに慣れてもらいたいところではありますが、今回は機動力を使いながら殲滅するつもりですので、殿、じゃなかった、ウルヴには先陣を切ってもらう予定です。ラヒラスも思う存分ぶっ放してください。あとは、野ウサギ族にも一緒に行ってもらって、準備運動を兼ねて潰します。」



「そういうことか、なるほど。了解した。」



「それで、第一陣の魔物に対しては素材関係は無視で構いませんので、ガンガン潰してきてください。で、潰したら袋を渡しておきますので、その袋に入れてください。」



 レオが待ったをかける。



「主よ、ワシらはどうやって袋に入れていけばいいのだ?」



「渡す袋はマジックバッグになっているから、魔力を込めるだけで収納してくれるから大丈夫。」



「なるほど、了解した。」



 レオは納得してくれた。ただ、やはり傍目で見ていると会話になっているか心配そうに周りは見ている。



「わかってもらったところで、ここに残るのは、私とマーブル隊員、ジェミニ隊員、ライム隊員と狩り採集担当の領民です。私達が暴れ回るので、仕留め損なった魔物を領民のみなさんで仕留めてください。」



「わかりました。伝えておきます。」



「ご主人、了解しましたぞ。」



「あ、フェラー族長は別任務を与えるから、そのつもりで?」



「別任務? 一体何をすればよろしいので?」



「族長には帝都トリトンへ行ってもらいます。」



「わ、我が帝都へですか? しかし、我は獣人ですぞ。」



「大丈夫、その時はセバスチャン、いや、人化してもらうから。」



「ご主人、我をセバスチャンと呼ぶのは、、、。」



「いや、人化したら完全にセバスチャンだから、ということで、普段はフェラー族長だけど、人化したらセバスチャンということで、異論は無しの方向で。」



「・・・不満がない訳ではありませんが、そこまで言うなら従いましょう、、、。」



「で、族長はどのくらいセバスチャンになれるの?」



「現段階ですと、3日が限界ですかな。」



「了解、とりあえず帝都にいるライトロウト伯爵に話しをつけておくから、伯爵の指示に従って皇帝陛下に手紙を渡すだけだから。これからもフェラー族長には外交的任務を与えることになると思うから、そのつもりでいて。もちろんセバスチャンになれる時間は延ばしてもらうからね。」



「わ、我をそこまで信用してくださるのか、、、。わかりました、精一杯任務を達成しますぞ!!」



「うん、よろしくね。」



「あ、今思い出したけど、アインとフェラー族長には転送装置を使って移動してもらうから、アインは離れ小屋をそのまま使って。」



「離れ小屋はまだ俺たちが使っても良いのか?」



「うん、アッシュが私達が来たとき用の宿ということでそのまま使えるようにしてあるから。」



「了解した。」



「フェラー族長は帝都の近くに移動するけど、見たらすぐにわかるから。そこからセバスチャンの状態で大きな門にいる門番にこの手紙を見せたらすんなり通れるから。門を通ったら、そのまま真っ直ぐ進めば貴族街の入り口にたどり着くから、そしたらライトロウト伯爵に会いに来たと言ってこの手紙を見せれば大丈夫だから。」



「わ、我で本当に大丈夫ですか? 不安しかございませんが、、、。」



「フェラー族長はもっと自身を持っていいよ。正直私より高貴な感じがするから問題ない。」



 私の言った言葉に、アインとラヒラスは頷く、ウルヴは何とも言えない表情ではあったが、頷いた感じだ。



「そこまで言われてしまうと断れません。」



「まあ、仮にうまく行かなくても大丈夫だから。気にせず気楽にやってくれればいいよ。」



 作戦と任務をそれぞれに伝えた。あとは第一陣がくるのを待つばかりの状態であったが、ふと気になったことができたので、ラヒラスを呼んだ。



「アイス様、何か用件でもできた?」



「ちょっと気になったんだけど、私の予想だけど、張本人達は人を使って本当にスタンピードが起こったか確認に来るとかはない?」



「本来の策士であれば、準備したらあとは知らんぷりでそのままにしておく場合が多いけど、自称策士の場合は心配で誰かを様子見に来させるよね。そういえば、使者は来た?」



「いや、まだ来てないな。アッシュからトリニトの冒険者ギルドへの通知は来たらしいから、遅くとも明日くらいには来るだろうな。」



「そうすると、使者本人か、護衛的な誰かになるね。どうする? 放っておく?」



「いや、連中とは違って、ここに来る奴らは腕が確かな者だと思う。折角だから巻き込まれてもらうかと。」



「なるほど。ということは、一発だけなら誤射というやつだね。うん、それで問題ないと思うよ。」



「ラヒラスがそう判断してくれるなら心強い。では誤射に巻き込まれてもらいますかね。」



「ミャー!」



 マーブルが立候補してきたので、そのままお願いすることにした。



 次の日の朝に、彼らはやってきた。わざとらしく息を切らせながらの登場である。内容は予想通りここフロスト領に大量の魔物が襲ってくることを伝えてきた。わざわざ連名で。わざと驚く振りをしてもよかったけど、どうせ彼らは誤射によって別世界へと旅立つ予定なので、演技する必要も無く、淡々と返事した。どうせ準備できてるし、仮に準備できていなくても問題なし。しかも、彼らは魔物が大量に発生したとしかこちらに伝えてきていない。ちなみにこちらはもう何の魔物か判明している。あとは、もう少し引き寄せてから倒すつもりである。



 念のため一緒に戦うか聞いたら、急いで向こうでも準備するため戻ると言ったので、戻ってもらうことにした。もちろん、精神世界に戻ってもらうのですがね。マーブルはすでに時限式の魔法を彼らに施したらしい。3日後かトリニトを離れたところに移動すると作動するようだ。不自然ではあるが、どうせ全員そうなるから問題なし。マーブル、恐ろしい猫。でも可愛い。



 ついにゴブリン達が森を出てこちらに向かって来たらしい。ということで、迎撃をする。作戦は伝えてあるので、あとはこちらが戦闘開始するだけだ。数は200か、少し物足りないがまだ第一陣だ、これからの魔物に期待、というやつだ。では、指令を伝えるとしますか。



「第一陣はゴブリンが200体です。狩り採集担当の君達はここで待機して、私達がうち漏らしたやつを倒してもらいます。ゴブリンとはいえ油断は禁物です。1人で無理そうなら躊躇うこと無く複数で対処してください。大事なのはできるだけ怪我をせずに倒すかです。無傷で倒してナンボですので、くれぐれも名誉の負傷とかのないように。あ、倒したら、渡した袋に入れておいてね。」



「「「「はっ!!」」」」



「マーブル隊員とジェミニ隊員は私と更に前進して敵を迎え撃ちます。ライム隊員は万が一に備えて狩り担当の領民達を守って上げてください。」



「わかったー、みんなをまもるねー!!」



 うん、いい返事だ。ライムの姿にほっこりしながら私達は前進する。



 よし、見えてきたな。アルスリを取り出して準備完了する。



「では、マーブル隊員、ジェミニ隊員。数は200ですが、私達でそれぞれ60体ずつ倒すことにしましょう。今回は次も控えていますし、素材は気にしなくてもかまわないので、好きに倒してください。」



「ミャア!!」



「了解です、暴れるです!!」



「よし、では、戦闘開始!!」



 私はアルスリから氷の塊を作り出しては相手に放っていった。今回は素材は関係ないが、少し考えがあるのでとにかく倒すことを優先にするためつらら状の塊を用意した。投擲スキルは順調に上がっており、しっかりとつららにしてあるため、刺さる刺さる。一投一殺で仕留めていった。最後の方には余裕があったので、一投でどれだけ倒せるか、なんてこともしていた。ちなみに最高記録は5体だ。今後記録更新できるように頑張ろう。って、そろそろ弓も使いたい年頃です。弓は和弓にする予定。射程距離より威力重視でいきます。スリングショット>弓>格闘戦のつもりです。威力については向きが逆と言うことで。



 そんなことをしていきながら自ら課したノルマである60体を仕留め終える。マーブルとジェミニはどうなったかというと、マーブルもジェミニも魔法であっさりと倒していた。それで倒しては回収してを繰り返していたようだ。ちなみに私が倒した分も2人が回収してくれていた。ありがとうね。



 倒し損ねた、というより彼らにも手柄をということで、領民達の戦いぶりを観戦していたが、流石にまだまだといった感じで、苦戦してはいたが、よい練習になっているだろう。所々でゴブリンの攻撃を喰らいそうになっていたが、ライムがそれとなく防いでくれている。ちなみに、ライムが何度か守ったおかげで無傷なのは領民達は気付いていない。ライムよ、それでいいんだよ。



 しばらくして何とか残りのゴブリンを仕留めた領民達は、息も絶え絶えになりながらもホッとしている様子だった。



「みなさん、お疲れ様でした。よく頑張りましたね。これからもその調子で修行を重ねていって強くなってくださいね。」



「フロスト様、わざわざありがとうございます。しかし、ご領主様がこんなに強いとは知りませんでした。」



「これも修行の成果ですよ。みんなも修行すればこれだけできるようになります。」



 領民達は呆れながら見ていた。口には出していないが、みんな、(あんなの出来る訳ねえ)と言っているかのようだった。



 無事第一陣を倒し終えたので、領民達とフロストに戻った。さて、第二陣はどんな魔物が襲ってくるのやら、、、。希望はオークなどの美味しく食べられるやつですが、はてさて。

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