第36話 さてと、ついに登場したか、長かった、、、。

 ジェミニの以前いた集落から一族がこぞってフロスト領へと移動してきた。彼らは瞬く間に住民達を籠絡してフロスト領のペットとして君臨することとなった。彼らは見た目の愛らしさとは逆にSクラスの魔物でもあるが、彼ら自体は魔物ではなくペットとしての生活を希望していた。



 と、少しまじめに語ってしまったが、その効果が凄かった。まず畑であるが、シロツメクサが彼らの好物と知ると、農業担当の領民達はこぞって畑を開拓しまくり、現状での最終地点まで開墾してしまった。フロストの町においては、大工担当の領民達が気合を入れてヴォーパルバニー、いや、一々そう呼ぶのは面倒なので、彼らは自分たちを野ウサギ族と言っていたので、今後はそれを採用する、その野ウサギ族用の家を数日間だけで建ててしまった。それと同時に、ウサギ達とくつろげる広場を中心地、というか、私の屋敷のとなり辺りに作り上げてしまった。それに合わせて野ウサギ族用の風呂場まで作る羽目になった。風呂場を作るのは大した手間ではないが、風呂用のお湯を出したりする魔導具の作成の関係でラヒラスが悲鳴を上げていたが、ガマンしてくれ、君はそういうキャラだ。



 そんな感じでいつも以上にフロスト領が発展してしまったが、何より人がいないので、建物や畑など用意しても使い切れていないのが現状だ。とはいえ、シロツメクサを広範囲に植えることができたおかげで、今後の作物を育てやすい状況になったのは間違いない。ちなみに、野ウサギ族はシロツメクサが大好物ではあるが、1日に1本程度食べられれば満足らしく、それ以外では普通にみんなと同じものを食べたちとのことだった。ちなみに、野ウサギ族と会話できるのは現段階では私しかおらず、そういった意味では忙しく面倒な日々が続いたのは少し厄介だった。



 とはいえ、ペットとして領民達に受け入れられはしたが、これほど役に立つ種族も少ないので、もちろん仕事はしっかりと与えていた。各部署に野ウサギ族を配置して、領民達にその日の仕事が終わったら、ウサギ達と遊べることを約束した結果が先程言った発展の原因だ。



 ちなみに、野ウサギ族はジェミニをのぞいて12体いて、今のところ、農業班、建築班、造成班、採集班という現在行っている開発部署にそれぞれ1体ずつ、4体にはフロスト領周辺の警戒と探索に、残りは広場でくつろいでもらい、それぞれ日ごとにローテーションを組んでもらっている。



 こうして野ウサギ族がフロスト領での生活になじんで来た頃、集落から来たであろう集団がここを尋ねてきた。全員飢えで疲労困憊の様子だった。とりあえず会うことにした。



「お会い頂けて感謝します。私はこの獣人族を率いております、フェラーと申します。」



「私がここフロスト領の領主、アイス・フロスト子爵である。用件を聞こうか。」



「ここのご領主でしたか、ご領主様にお願いがあって参りました。」



「要望か、一応聞きましょう。」



「お願いというのは他でもありません。我らをここに住まわして頂きたいのです。ご領主様もご存じかと思いますが、我々獣人は至る所で差別を受けてきました。難を逃れるため我々はこの地に逃げるようにして住んでおりましたが、ご承知の通りこの地域では作物が育たないため、食べるものが尽きてしまったのです。どうしようか悩んでいたところに、最近この地に貴族が来て開発を行っているという話しを耳にして、ここにいる住人達全員でお願いをしに参った次第です。どうか、お願いを聞き入れて頂けませんでしょうか。」



 正直に言おう、ケモミミきたーーーー! ついに、獣人をこの目で見ることが出来た!! この地に転生したときから一度は見てみたいと思っていたケモミミが、しかも、私達を頼っているではないですか!!



「なるほど、話しはわかった。人族が治めているというこの地に、よくぞ来てくれた。私達は君達を歓迎する。住居も与えるし、生活の保障も約束しよう。」



「あ、ありがとうございます!! ああ、ここを頼ってよかった、、、。」



 フェラーさんは涙を流していた。そうか、差別していたのは人族だもんな、ここに来ることだけでも勇気がいるよな。これで領民が増えた。これでますます我が領土は発展するな。でも、ここに来たからには仕事は頑張ってもらうよ、それは大丈夫かな?



「喜んでもらったところに水を差すようで申し訳ないが、もちろん住むには条件がある、それを聞き入れてくれたら我がフロスト領の領民として大歓迎しよう。」



「じ、条件とは一体? 何人か奴隷として差し出せとかお命じになるのでしたら、我々はあきらめてここを離れるつもりです。」



「奴隷? 何を言っているのだ? 領民にするのになぜ奴隷になぞしなければならないのだ? 条件というのは他でもない、ここの領民になったからには、何かしらの仕事に励んでもらう、ということだ。もちろん、領民だから、種族関係なく同じ時間帯で働いてもらうつもりだ。」



「へ? 奴隷になさらないので? 普通に働けと?」



「そうだ。何せここは開発して間もないから、町としてはまだまだこれからなんだ。というか、まだ町として機能してないけどね。ここフロスト領を発展させるために、君達にもバリバリ働いてもらうつもりだから、覚悟をしておくように。」



「もちろん領民としていただけるなら、精一杯働かせて頂きますぞ!!」



「まあ、それはそれとして、ここまで来るのは大変だったでしょう。まずは少し休んで心を落ち着けるといい。ラヒラス、他の獣人達はどこで待機している?」



「とりあえずウサギ広場で休んでもらっているよ。作っておいてよかったよね、あれ。」



「そうだな、予想してなかったとはいえ、領民達グッドジョブだな。と、まあ、それはおいといて、そこで休んでいる獣人達に水でもあげて飲んでもらって。」



「了解だよ。」



 たまたま屋敷にはラヒラスがいたので、待機している獣人達に水を配ってもらった。いきなりだから食事とか用意できてないから、今はそれでガマンしてもらおう。一応領都だから、こういったことに対処するために配置しないといけないか。とはいえ、今は領民達でこの仕事が出来る人っていないから、獣人達の中からとりあえず数人選んでやってもらうか。フェラーさんには私が水を用意した。



「フェラーさんも、これを飲んで心を落ち着けるといいよ。」



「ご領主自らとは、ありがとうございます、頂きます。」



 かなり喉が渇いていたのか、上手そうに飲み干した。ちなみにこの水はねぐらの湧き水を汲んだものだから、そこらの水より数段美味いものとなっている。まあ、今は満足に水が得られない状況だから仕方ないんだけどね。もう少し開発が進んでからかな。普通は最優先で取り組むべきことなんだけど、利用できるものは利用していかないとね。



「しかし、この水は今まで飲んだことのある水よりも美味いのですが、これはどこで?」



「これは、私が独自に手に入れている水だよ。生憎まだここには飲み水は川以外からは手に入れられないからね。もう少し畑の問題を解決してからかな。しばらくはこの水で生活していく予定だから。安心して、領民も同じ水を飲んでいるから。後で説明するけど、飲み水を用意してある場所があるから、そこで調達してくれればいいよ。」



「なるほど、何から何までありがとうございます。」



「そろそろ落ち着いたかな? じゃあ、みんなの所へ行きましょうかね。これからいろいろ説明しないといけないからね。」



 獣人達が集まっている広場へと行った。来た獣人達はフェラーさん含めると50人近くかな。広場には野ウサギ族がくつろいでいたが、獣人達にはウサギ達と遊んだりしているものもいた。今更だけど、族長のフェラーさんは、狼系の獣人みたいだ。いろいろな種類の獣人がいて、これはこれでいい。猫族、犬族といった定番のケモミミが多めかな。ウサミミもいるね。変わったところでは魔樹系がいるかな。ちなみに野ウサギ族を見たウサミミの獣人達は拝むかのようにへりくだっていた。やっぱりわかるのかな。でも、彼らはペットとして接して欲しいみたいだから、慣れたらモフモフしてあげてね。



 獣人達には、人族の隣の区域に住んでもらうこと、風呂と洗濯をしっかりと行って体を清潔に保つこと、それぞれの仕事に励んでもらうことなどを説明し、ついでに飲み水のある場所や、風呂場、洗濯場、トイレなどの場所も案内しておいた。最初の領民達もそうだが、とりあえず何よりも優先すべきなのは、たくさん食べて早く元気になってもらうことかな。



 夕食の時間になったので、領民のみんなに、新たに住人となった獣人達を紹介する。獣人達ということで拒否反応がでるかどうか心配だったが、それも杞憂に終わった。それどころかみんな自発的に話しかけたり何かと世話を焼いたりしていた。特に積極的だったのは若い男達だった。若くて可愛い女の獣人達を見つけてはここぞとばかりに近づいていった。まあ、気持ちはわかるよ。子供の獣人については犬族と猫族とウサギ族がそれぞれいたが、特に元気だったのが犬族の子だった。この子は物怖じしない子みたいで、マーブル達に近づいては「ねこしゃん!」と言ってはマーブルに抱きついたりしていた。この子の親らしき犬族の獣人はしきりにこちらに頭を下げていたが、避けられるよりも何倍もマシなので、こちらはニッコリと頷いて安心させた。



 風呂については男性同士、女性同士でそれぞれ一緒に入っていた。一応風呂場は何カ所かに分けてあるが、別に人族専用とか獣人専用とか決めていない。場所的に平等にするために作ったので、どこで誰が入ろうとかまわない。しっかりと打ち解けている様子に安心しながらその日は終わった。



 獣人達がフロスト領に来てから数日後、獣人達はすっかり元気になったので、仕事を割り振ることにした。獣人達は種族によって得意不得意が別れていたので、振り分けはものすごく簡単だった。とはいえ、一通りの仕事はしてもらって改めて正式に配置する予定だ。ちなみに、フェラーさんに屋敷で接待などの仕事をしてもらうことにした。基本は狼系ではあるけど、人化の能力があり、人化してもらうと、思わず「セバスチャン」と言ってしまいそうな渋い老人の外見になったので決めた。もちろん、決定理由はそれだけではなくこういった仕事を難なくこなせる能力があったからだ。



 獣人達が領民に加わったことで、人手不足が少し解消してくれた。まだまだ町と呼べる状態では無いが、少しずつ発展していくのを見ていると嬉しくなってくる。ちなみに給料であるが、まだ支払えていない。そりゃそうだ、お金がないんだから。でも、みんな文句を言わずに働いてくれている。特に、直接の配下であるウルヴやアインやラヒラス達は状況がわかっているらしく積極的に手伝ってくれている。以前に直接話したこともあったが、みんな揃って「別に給料はいらない」と言ってくれていた。やせ我慢ではなく今やっていることに満足しているし、特に困っていないので問題ないそうだ。お金が動くようになったら多めに支払うことにしよう。



 まだまだ、問題が山積みの状態ではあるが、一つ一つ解決していきますか。

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