第35話 さてと、予想外の展開です。(いい意味で)

 我がフロスト領内では、最近畑一面のシロツメクサの花畑を見た影響か、家の周りでも花の咲く植物をを育てる人が増えてきた。といっても、どの植物がどの花を咲かせるのか誰も分かっていないので、食べられない種類の植物を育ててみて確認するという感じではあるけどね。それでも、家の周りで植物を植えるのは見栄えてきにもいい感じだった。



 それとは別に畑では、収穫できるものが出てきたのは嬉しい知らせだった。植える前に鑑定では毒の有無や食べられるかどうかは確認してから植えているので、死んだりすることはないだろうが、気になるのはその味である。正直言うと、以前いた世界では45という年齢にもかかわらず好き嫌いは結構あったので、今収穫したものが果たして食べられるかどうか、という不安がある。しかし、折角領民が汗水垂らして頑張って開墾して手入れしてようやく出来上がった栄えある第一号の収穫物を、苦手な味だったから食べられませんでした、なんて言えるわけがない。



 収穫されたものは緑色ではあったが、ぶっちゃけそこらに生えていそうな感じのものだった。ただ、葉が異様に多い感じかな。とりあえず意を決して葉の部分を食べてみた。ん? これ、どこかで食べたことのある味だぞ、何だっけかな、、、。あ、この味キャベツだ!! なるほど、この種類は見慣れた結球性のやつではなかったからな。なるほど。それにしても、いきなりキャベツとは大当たりかな。何せステーキもそうだけど、何かと副菜として合うな、何より種植えてから収穫までの成長がすばらしい!!



「フロスト様、味はどうだか?」



「うん、これはそのまま肉と一緒に食べると美味いよ。あと、これは煮ても焼いてもいける。最初に出来上がったもので考えると大当たりだね。」



「おお、この土地で食べられるものを植えて作るなんて考えたことなかっただよ。」



「しかし、こうして作物が完成したんだよ。では、これから頑張っていっぱい育てていきましょう!!」



「「「おー!!」」」



「ところでこの植物の種はあるかな?」



「はい、これですだ。」



「これで全部かな?」



「いえ、まだまだたくさんあるだよ。」



「そうか、じゃあ、植える予定の区画を耕す準備を、もちろんシロツメクサの生えている部分ね。で、耕さない場所のシロツメクサをさっき収穫した区画にある程度植え替えておいてほしい。」



 その後、初収穫のキャベツだが、収穫量こそ少ないものの、何よりもフロスト領では初めての収穫物ということで、夕食の時にみんなで食べた。もちろんステーキにしてね。結果と言えばかなり好評だった。とりあえずこの土地でも作物が作れることが判明したし、何よりフロスト領の発展はこれより始まると行っても過言ではない。その割には人員はそれほど割いていないという面は否めないが、治水工事などはともかく、農作業は魔道具を優先的に開発してできるだけ少人数でやっていく予定である。



 その後も収穫物の種類は増え、生姜や大根、人参も作れるようになった。残念ながら芋類は今回は手に入らなかったが、それもこれからだろう。言うまでもなく欲しいもの全部がここらで手に入るわけがないので気長に待つしかない。とはいえ、自分たちで収穫できるようになってきたのは大きい。



 さらに1ヶ月が過ぎて小麦や大麦が成長しだしてホッとしているときに、狩り採集をしていたウルヴから来た。何か報告があるらしい。



「ウルヴ、任務中に珍しいね。何かあった?」



「はい、茶葉を採取しているときに、魔物が現れました。なにやら小型の魔物のようですが、申し訳ないのですが、私達では歯が立たないと思われましたので、退却しました。」



「念のため聞いておくけど、ウルヴってそのとき木騎馬に乗ってた?」



「はい、しっかりと乗っておりました。その状態でも私ではムリと判断しました。」



「わかった、ありがとう。それこそ勇気ある行動と言えるね。それで怪我人とかは出てる?」



「いえ、木騎馬から反応があったので、様子見で私だけ先行して確認したのと、あとはこれは何となくですが相手に敵意がありませんでしたので、何とか無事戻ってくることができました。」



「それもお手柄だね。わかった、私が向かうから、で、だいたいの場所でいいから報告よろ。茶葉を除いた獲物や採集物は冷蔵室に置いといて。」



「承知しました!!」



 ウルヴが退出すると、私はマーブル達に向かって話しかけた。



「ウルヴが危険を感じて戻ってくるとは、どんな強敵なんだよ、普段の状態ならともかく、木騎馬に乗った状態のウルヴなんだけど。しかも小型の魔物か、、、。」



「ミャア!」



「マーブル殿も、そう思うですか? アイスさん、ワタシ何か分かった気がするです、、、。」



「2人とも何となくわかったの?」



「はい、恐らくほぼ間違いないです。」



「ちょっと待って、折角だから私も考えてみる。まず小型の魔物で木騎馬に乗ったウルヴがまるで勝てそうにない存在で、さらにこちらに敵意がなかった、、、あ、なるほど。私もわかったかな。」



「ニャア!」



「流石はアイスさんです!!」



「あるじー、すごいー!!」



「いやいや、まだ答え言ってないんだけど、、、。まあ、いいか。私達がそちらに向かうとしましょうかね。」



 恐らく導き出た答えは恐らく合っているはずだ。そう思い出発しようとすると、3人とも定位置に飛び乗ってきた。あ、森へ行く前にウルヴにどの辺で会ったか聞かないとね。



 ウルヴに聞いた場所へ向かっていく途中で気配探知をしながら進んでいくと、反応があった。確かに小さい反応だ。マーブルも感じたらしいが特に戦闘態勢に入るわけでもなく何時も通りの様子だ。ジェミニはまだ気づいていない状態だったが、マーブルの反応で気がついたようだった。恐らく予想通りなのだろう。これ以上進んでもあまり意味がないので、この辺りでモフモフを堪能しながら待つことにした。



 あまり待つことなくこちらに近づいてくる集団を感知した。その数12位? どれも小型の魔物っぽいが何かもの凄い速度で近づいてきている。敵意は全く感じられない。これでほぼ間違いないな。その集団は一瞬で目の前に現れた。



「久しぶりだな、ジェミニよ。」



「やはりムラ長でしたか、お久しぶりです。」



 予想通り、ジェミニの一族達だった。小型で騎乗状態のウルヴが歯が立たないと思わせられる種族は限られている。1つがマーブルの元種族であるデモニックヘルキャット、もう1つがジェミニの種族であるヴォーパルバニーである。その他には変異種などがあるが、それは割愛する。で、今挙げた2種族のうち、敵意が感じられないと判断できるのはヴォーパルバニーだけだ。デモニックヘルキャットの場合には問答無用でこちらに襲いかかってくるそうだ。って、ジェミニを通じてマーブルが言っていたのを覚えていた。ということで、どの種族かはわかったし、見事に正解した。まあ、それはいいとして、ここに来た理由が皆目見当が付かない。



「で、なんでみんなでここに来てるですか?」



「そりゃ、お前、全くこっちに戻ってこないからどうなっているのか様子を見に来たんだよ。」



「様子を見に来たですか? 何でまたみんなで来たですか?」



「お前ばっかり楽しんでズルイ!! っていうのが多数だな。で、お前ばっかり美味い物食べてズルイ!! っていう意見もある。」



「そんな理由で普通は来ないですよ、、、。」



「そんな理由だと? いいか、我々ヴォーパルバニーは日頃から避けられている存在なんだぞ? 精々来るのは腕自慢が我らを倒しに来るくらいじゃないか!! 一応勝負でお前が勝ったからアイス殿の護衛として行かせたけど、お前の扱いって護衛じゃなくもう家族じゃないか!!」



「だって、もう家族ですし。それよりも、アイスさんここにいますよ? 話してみたらどうです?」



「な、何? この人間がアイス殿? 確か以前はオッサンだったはずだが、これは?」



 ジェミニがこっちに向かって言ってもいいかと聞いて来たので、頷いた。ウサギ語わかる人いないだろうし何だかんだ言っても仲よさそうだから秘密を守ってくれそうだしね。



「ムラ長が信じるかどうかはわかりませんが、アイスさんは転生して今の姿になっているです。その時にワタシも一緒に神様にお会いしたですよ!!」



「なにっ? それは本当か? しかも神にお会いするとは、、、。お前どれだけいい思いしてんだよ!!」



「というわけで、どうしたいのかアイスさんにムラ長が直接話すですよ。」



「む、むう、、、。わかった。え、えーっと、見苦しいところを見せてしまって申し訳ない。ワシはジェミニを含めたヴォーパルバニー族の長であるレオと申す。あ、あくまでここら一帯の族長ね。他の地域についてはわからないぞ。」



「ご丁寧にありがとう。私はここフロスト領の領主を務めている、アイス・フロスト子爵です。ジェミニという大切な家族ともいえる子を私に預けてくれてありがとう。」



「おお、ここら一帯の領主であったか。ところでジェミニは護衛として役に立ちましたか?」



「ええ、十分すぎるくらいに。今ではここにいるマーブルとライム含めて私には無くてはならない存在といえるほどだね。」



「マーブル? ライム? それはそこにいる2体のことかな?」



「あ、紹介し忘れた。こちらの猫がマーブルといいます。」



「ミャア!!」



 マーブルを紹介すると、マーブルは右手を挙げた。うん、やはりいつ見ても可愛い。



「ほう、見た目は子猫だが、ただ者ではないな、、、。」



 流石はSクラスの魔物だ、強敵は強敵を知るといったところかな。



「こちらのスライムがライムといいます。」



「ボクがライムだよ、よろしくー!!」



 ライムはその場でピョンピョン跳ねた。他に誰もいないから普通に話す。



「何と、人語を話せるスライムか、しかも我らほどでは無いにせよ、なかなかの強さを持っているな。」



「ワーイ、ほめられたー!」



 嬉しそうにライムが更に跳ねる速度を加速させる。分身しまくりだよ、、、。まあ、可愛いけどね。



「ところで、レオ族長。私にしてほしいこととは?」



「うむ、それなんだが、、、。図々しいお願いかも知れんが、ワシらも一緒に君達の仲間に加えてもらえないか?」



「へ? 領民としてフロスト領へと来てくれるの? 本当にいいの?」



「ああ、フロスト領の領民としてワシらヴォーパルバニー族12名を加えて欲しい。」



「いままでいた場所は大丈夫なの?」



「ああ、それは問題ない。元々面倒な関わりを持ちたくなかったから隠れるように済んでいただけだからな。暴れ回るのもよかったかもしれないが、更に面倒なことになりそうだったから特に人が来そうも無い場所でのんびりしていただけだから、特に思い入れもないしな。」



「まだ、開発途中だから、気に入った食べ物とか満足に食べられないと思うけど、それでもいいかな?」



「うむ、問題ない、ワシらは基本何でも食べるからな。って、思い出した!!」



「うわっ、いきなりどうした?」



「そう、ここに来たら偶然ジェミニの気配を感じたから会話が明後日の方向へいってしまったけど、近くにシロツメクサが一杯咲いておる場所があるだろ? その臭いにつられたのだ!!」



「・・・ワタシの方は偶然だったですか、、、。」



 ジェミニが呆れながら長に言っていた。



「い、いや、それでもあながち嘘でもないぞ。羨ましかったのは本当だしな。」



 そんな感じでジェミニを含めたヴォーパルバニー族がフロスト領の領民として加わった。一応住民には危害を加えないことを約束させるが、元々そんなことを念押ししなくても大丈夫だろう。住民達ではどう転んでも彼らには勝てないし、レオ族長達もそれをわかっているからわざわざ偉そうにしたりもしないだろう。何せ危険な魔物としてではなく、一ウサギとして可愛がってもらいたいそうだから。正直言うと、個人的にはありがたい申し出だった。何せSクラスの魔物がフロスト領を守ってくれるのだ。それだけでなく見た目は普通のウサギなので癒やしにも最適だ。



 レオ族長達を連れてフロスト領へと戻り、夕食時にみんなに紹介すると、領民達も大喜びだった。特に子供達は速攻で抱きついたりしていた。周りの大人達の一部では羨ましそうに見ているものもいたが、そこは流石のSクラス。それを察してさり気なくそういった人達のところへ行って、体をこすりつけてきたりした。こういったこともあり、領民達はみんな陥落した。



 その一方で、ウルヴ達はというと、微妙な表情だった。歓迎するしないという感じではなく、あんなに可愛い外見のくせに全く歯が立たない強さを持っていることを身をもって知っているからか。



 また、ジェミニは仲間との再会で楽しそうにしていた。それにマーブル達も混じって楽しそうに過ごしていた。これでホッコリが増えた。



 また、いい感じで我がフロスト領が発展していくな。明日も楽しみだね。

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