第34話 さてと、ようやくこれで目処が立ちそうです。



 昨日は探索ついでに行った鉱山で幸いにも鉄鉱石が見つかったので、今日は予定を変更して鉄鉱石を鉄に変えようかと思っている。といってもマーブル頼みだけどね。当のマーブルはやる気になっているみたいでいつも以上に元気な感じがする。ジェミニとライムもどうなるのか楽しみでワクワク感が押さえられない感じだ。



 場所はというと、流石に屋外で大っぴらにやるのもどうかと思ったので、領主館、というか我が新居の空き部屋を利用するつもりだ。といっても、今はほとんど使っていない状態の常温倉庫だ。作業過程を考えながら、熱い状態で保温できる倉庫や、今後を考えて鍛冶場も作っておこうと思った。それは後にすることにして、まずは集めた鉄鉱石を鉄に変える作業だ。



 最初に行ったのは鉄とそれ以外の不純物を分けるために穴を掘った、というかこれはジェミニにやってもらった。ジェミニも何だかんだ張り切って掘ってくれたおかげでいい感じの深い穴を掘ってくれた。後はやってみてから考えますか。準備が出来たところで鉄鉱石を倉庫に出していく。部屋の半分を占めるくらいの鉄鉱石を用意してから、マーブルに火魔法をかけてもらう。鉄鉱石はすぐに溶けていき、穴に流れていった。



 しばらくその様子を見つつ鑑定してみると、どうも鉄の方が下に貯まってしまうみたいだ。重さの関係が大いに影響しているだろう。ただ、キレイに別れているらしく、冷えたら鉄とそうでない部分とに別れてくれそうなのでひとまず安心といったところか。以前いた世界のように高炉などというチート装置はこの世界にはないし、そもそも私自身そんな知識はないので、それで作っていくほかはないかな。後はラヒラスがここまでの高温を出せる魔導具でも作れるといいが、それは後回しでもいいと思っている。何よりマーブルが楽しそうにやっているのだから、少なくともマーブルが飽きるまではマーブルにお願いしようかな。それでも加工専用の場所をどこかに作らないといけない。



 とりあえず最初に出した分の処理は無事完了したが、鉄以外の不純物などはどうしようか決めかねている。今のところ石灰石がないので、スラグにすらできないので、正直もてあましている状態である。今回の分はともかく、今後これを有効活用できるように石灰石は必須だね。仮に石灰石が見つからなければ貝殻などを集めて加工すれば何とかなりそうだな、とはいえ、この辺って海ないんだよね。とりあえず効果的な再利用方法が見つかるまでは、魔導具と農具を鋼にしたら、このやり方の加工はしばらくは控えますか。不純物の塊は冷えた後、オーガの皮を加工して袋を作って、マーブルにマジックバッグにしてもらって、それに入れておくことにした。



 キレイに鉄のみの状態になったので、これを鋼に変える作業があるのだが、今回は火だけではなく風も必要というより、空気の循環をバリバリ行って酸素をしっかりと鉄に含ませる必要があるので、マーブルに聞いてみたところ、オーガジャーキーの強化版だから問題ないとのこと(ジェミニの通訳から)だったので、試しに少量お願いしてみた。少量とはいえ多量の空気が必要だったらしく、室内の風の流れがもの凄いことになっていたので、急遽入り口を氷の結界でふさぐ必要が出てきた。これ、一度にやってしまうと大変なことになりそうだったので、今回の量で数を重ねることによってチマチマ作ることになった。



 最初の数個で結構時間が掛かっていたので、終わるのはいつなのだろうかと多少不安ではあったが、そのうち慣れてきて、一つを作るのに5分も掛からない状態だったため、日が暮れる前には完了していた。夕食も近かったので、昼食を食べそびれて腹ぺこではあったが、ガマンして夕食までお預けとなった。マーブル達も今回ばかりは仕方ないと納得してくれた。



 夕食後、出来上がった鋼の塊をラヒラスに見せると、ラヒラスは興奮した様子で話してきた。



「アイス様? こ、この金属の塊は鉄だね? い、一体どこで手に入れたの!?」



「ああ、これね。これは東の山で見つかった鉄鉱石をマーブルに頼んで加工してもらったものだよ。」



「ニャー!!」



「おお! これがあれば、あの魔導具は作れるよ! しかも、これよく見ると鉄じゃなくて鋼だよね? それだったら、今準備しているやつよりも高性能なやつが作れる。アイス様期待してて欲しい!!」



「それは楽しみだね。ただ、このままの形で渡しても、ラヒラス、君では加工できないよね?」



「あ、。」



「どういった形にすればいいか木の模型でもいいから教えてくれればマーブルが加工できるはず。できるよね?」



「ミャア!」



「大丈夫だって。」



「ああ、わかったよ。模型はできているからそれを参考にして。大きさも模型と同じで作ってくれればいいから。」



 そして、ラヒラスは急いで鋼の必要な部分の模型を持ってきた。



「これだよ。この棒の部分と刃となる部分はどうしても鉄以上でないと無理だったんだ。この形でできるかな?」



「ミャア!」



 マーブルがいい返事で返したので、すぐに鋼の塊を用意すると、マーブルは一気に作り始めた。鋼が赤くなって液体状になったと思ったら、すぐに棒と回転する刃の形に変わって次々と完成していった。折角だから水術で一気に冷やすと、先程よりも硬い状態で完成した。その一連の様子を見ていたジェミニとライムも喜んだようで、マーブルと一緒に周りを走り回っていた。うん、眼福だ。しかし、問題はどう運ぶかだったが、全く心配なかった。アインが軽々とラヒラスの作業場に運んでいった。私も重量軽減のスキルで運びはしたが、一気にあんな量は運べない。スキル無しであんなに運べるなんてどれだけ化け物なんだろうか、、、。



 テシテシ、テシテシ、ポンポン、恒例の朝起こしで今日も始まった。あの後風呂と洗濯を済ませて私達は寝たのだけど、ラヒラスは完成させたくてうずうずしていたらしく寝なかったらしい。朝食の時に聞いた。



 完成した魔導具は乗れるタイプの耕耘機だった。違うのはエンジンはガソリンなどではなく魔石だったくらいかな。刃とその回転を支えるのに鉄が必要だったそうで、それ以外は魔樹で十分だったそうだ。先日魔樹狩りをして木材の量も、魔石の数も十分にあったので、今回の完成に至ったようで何よりだ。昨日は5台しか作れなかったそうだが、あれをあの時間で5台も作れるってどんだけなんだよ、、、。



 空間収納に耕耘機をしまって畑へと向かうと、領民が出迎えてくれた。



「フロスト様、よく来てくれただ。けんど、人がおらんから今はこの程度しか進んでないだよ、まっこと申し訳ないだ。」



「いや、こんな少数でもよくぞここまで広げてくれたね。むしろ予定より広い範囲でこっちこそ驚いているよ。」



「そう言われてホッとしただが、まだ植えたばかりだから、何もできてないだよ。」



「いや、今日は農耕用の魔導具を用意してきたんだ。みんな見てくれるかな。」



 話しかけた領民が、みんなを連れてきてくれたので、今朝できたての耕耘機を空間収納からだしていく。完成品を見た農業担当の領民は最初驚きのあまり声も出ていなかったが、先程話しかけた領民が恐る恐る聞いて来た。



「フロスト様、そのでっかいものは一体何だか?」



「ああ、これはね、耕耘機といってね、畑を耕してくれる魔導具だよ。今から使い方を教えるからみんな覚えて欲しい。」



 そう言って耕耘機に乗せて操作を説明する、といっても、操作は簡単。移動の仕方と刃を上下させるやり方だけ。実際に耕してみせると、あまりの効果に領民達が驚く。



「フ、フロスト様、こ、こいつは凄えだ。」



「これで開拓も楽になるだろう。こいつを使って君達が畑を広げていって欲しい。」



「こ、こんなに凄いものをオラ達が使ってもええだか?」



「うん、そのためにラヒラスに作ってもらったからね。ガンガン使って欲しい。また、不都合な部分が見つかったら遠慮なく言って欲しいんだ。」



「あ、ありがとうございますだ!!」



 領民が一斉に土下座をする。



「いや、そんなにかしこまらなくてもいいよ。まだしばらくはこっちに人を回せないから、せめてこれを使って頑張って欲しい。この程度でしか手伝えないことを許して欲しい。」



「そ、そんなことねえだ! フロスト様はオラ達に食事の面倒どころか風呂や洗濯を教えてくれただ。そのおかげでオラ達は日々快適に過ごすことができるようになっただ。みんなとも話しをしただが、感謝することはあっても、不満に思うことなどこれっぽっちもないだよ。」



 その領民の言葉に他の領民達もうなずく。



「そう言ってくれると、こちらも来てもらった甲斐があったよ。今日はその魔導具だけだけど、後日その他の魔導具も用意するから使いまくってバリバリ農業に励んで欲しい。」



 農業担当の領民達に耕耘機を渡して数日後、今度は水やり用の魔導具をラヒラスに作ってもらって彼らに渡す。その一方で狩り採集を担当していた領民の1人が運良く「植物鑑定」のスキルを得たらしく、いろいろな種類の種や苗を持ってきてくれた。稲こそまだ見つかっていないようだが、それでも特に小麦と大麦の種を見つけてくれたのは大きかった。農地でも日々耕耘機を駆使して範囲が広がっており、逆に肥料が足りていない状況すら出てきたくらいだった。



 東○ディ○ニーリゾートくらいの範囲まで耕地が広がったところで、これ以上管理は無理と判断して耕耘機はしばらくお休みということになった。生憎フロスト領には私達を含めて住人は40人弱しかいない。あ、トリニトからこっちに移り住んでくれた大工達を含めると40人強になるんだった。とはいえ、そんなものだから、出来上がる肥料の量もたかが知れているので、どうしようかと悩んでいたが、ジェミニが助け船を与えてくれた。



「アイスさん、私達バニー族ですが、共通して好きな植物があるです。もし特に予定がなければ、それを栽培して欲しいです。」



「種類にもよるけど、今のところは大丈夫かな。けど、肥料はないよ。で、どんな種類の植物なの?」



「はい、その植物はどこにでも育つです。ですから肥料はいらないです。それでその植物の名前ですが、クロービーという名前です。」



「クロービー? 一体どんな特徴があるのかな?」



「クロービーはほとんどが葉っぱが3つに別れているですが、たまに4つのものがあったりするです。」



 ん? それってクローバー、つまりシロツメクサのことか。確か、シロツメクサって根っこの性質で窒素が固定する作用があったな。うん、これはいいな。



「そのクロービーはジェミニも好物なの?」



「はい! アイスさんと一緒にいろいろな所に行って、いろいろ美味しいものを食べているですが、やっぱりクロービーは別格です!」



「そうか、実物を見てみないと何ともいえないけど、とりあえず育ててみて損はないかな。折角開墾したのに何も植えないのは勿体ないしね。」



 その次の日、早速狩り採集班にクロービーの採集を加えるようにお願いするだけでなく、私達も探しに向かった。アマさんが怒ると思って植物を鑑定しながら探し回るのはやったことがないので、鑑定は使うことができなかったが、ジェミニが張り切って探し回ってくれた。少しでもクロービーが見つかると一目散にそっちに向かって行き、こちらを呼んでは採集し、というのを繰り返した。とはいえ、取り尽くすのはよくないのでほどほどに頂く。ジェミニも流石にそれがわかっている、というか、ジェミニがこの範囲はここまでとストップをかけるくらいだった。



 一応鑑定してみると、「シロツメクサ」となっていた。名前同じかよ。まあ、混乱しなくて済むかな。それで採集したシロツメクサを畑に行って植えた。農地の領民達もこれ以上開墾する必要もなく、今ある畑についても雑草を抜き取る作業程度である程度余裕ができていたので、一緒に手伝ってもらった。それぞれの畑には区画ごとに種類を決めて植えてあったが、種類はともかく数が少ないので、少し寂しい感じはしたが、それでも今後しっかりと実を付けてくれれば数も増えるので大丈夫だろう。



 そうやって考えてみると、フロスト領は今でこそ何もない地域であるが、気候的に考えてみるとトリニトもそうであったが、雨がほとんど降らないくせに気温はそこそこ温かく、この辺も草木がない割にはそれほど乾燥しているわけでもない。ひょっとすると、ここは世界的にも巨大な穀倉地帯になりそうな気がしてきた。そう思うと俄然やる気も出てくるというものだ。



 空いた区画には均等にシロツメクサを植えていったが、数日後そのシロツメクサが知らないうちに範囲を広げていった。とはいえ、区画を超えて咲いたりはしていなかった。それはともかく、一面に花が咲いているのを見ると、その景色に見とれてしまう。その証拠に、農地の領民だけでなく、他の担当の領民達も農地に来ては一面のシロツメクサをわざわざ見に来たりするくらいだ。ジェミニはシロツメクサに突入してはその草を食べていた。それを見たマーブル達もジェミニと一緒にはしゃぎ回ったりしており、日によっては子供達と一緒に遊び回ったりしていた。ちなみに、マーブルもライムもシロツメクサのおいしさはわからなかったらしい。食べているのはジェミニだけだったのは少し笑えた。



 また、予想通りシロツメクサを植えた区画は土地の質がかなりよくなっていたので、最初の収穫が終わったら次はシロツメクサを植えた場所に植えていくことが決まった。また、先にシロツメクサを植えておこうと再び耕耘機が大活躍していた。その他に、シロツメクサだけではなく、いろいろな種類の植物を植えては花を楽しむようにもなってきていた。



 ようやくこれで、食についても目処が立ったな。あとは、それぞれ工夫をしながらフロスト領を発展させていくだけだ。外からの障害も多くなっていくだろうが、悉く返り討ちにしてやろうじゃないか。いろんな意味で楽しみになってきたな。

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