第27話 さてと、まずは場所の確保ですかね。



 さて、私達はフロスト領を治めるべく任地へと向かっているのだが、まず最初に問題点があった。それは、どこを拠点とするかである。国境紛争も起こらないくらい不毛な地と言われている場所ではあるが、集落は存在するはず。しかし、その集落がこれから発展性を持つか持たないかは別問題である。ぶっちゃけると、最低限私達が過ごせる場所であればいいので、別に集落から選ぶ必要はないが、1から始めるより集落を改良して発展させる方が物的にも人海的にもその方が楽であることは間違いない。というわけで、これからその場所を探したいと思います。はい、そこ、無茶っていわない。そういった準備も一応してあるのだ、一応だけどね。



「というわけで、これから拠点となるに相応しい場所を探そうと思いますが、一塊になって探すのは効率が悪いです。そこでメンバーを分けて探したいと思います。」



「おい、そこからかよ!!」



「うん、そこからだよ。考えても見なさい、私達はトリニトから出たことはなかったのですよ? しかも、国境紛争すら起こらぬような場所の地形なぞ帝都ですら把握してないのですから。」



「確かに、言われてみればその通りか、、、。」



「そういうことです、わかったかな、アイン?」



「不本意ではあるが納得せざるを得ない。ところで、それはわかったが、連絡とか合流とかはどうするのだ?」



「それについては、一応対策はあるよ、ラヒラス、例の物は完成してるかな?」



「それについては大丈夫。木騎馬に搭載してあるよ。でも、アイス様は今回木騎馬は使わないんだったよね。というわけで、はい、これ。」



「ラヒラス、それは一体何?」



「ああ、言ってなかったね、これは通信の魔導具だよ。これを使えば離れた場所でも相手と話が出来るようになる魔導具さ。」



「おお、そいつは凄い。でも、大変じゃなかった?」



「魔導具自体はそれほど大変じゃなかったけど、必要な魔石の量がシャレにならないんだよ。」



「そんなにか?」



「やばいよ、何せ今まで集めた魔樹の魔石ほとんどそれだけで使っちゃったからねえ。」



「は? 先日まで馬鹿みたいに残っていたあの量の魔石をほとんどだと?」



「うん、ダークオークの魔石が3つくらいしか今残ってないよ、、、。」



「ラヒラス、お疲れ様。よくそれだけの量で完成できたね。」



「は? アイス様、それだけ消費するって知ってたのか?」



「いやあ、正直足りるかどうか心配だったんだよね、構造自体は以前からあってね、魔導具職人の見習いでも作ることはできるんだよ、作ることはね。」



「けど、必要な魔石の量がやばいと。」



「そういうこと。その量をどれだけ抑えられるかが魔導具職人としての腕なんだよね。正直ラヒラスクラスでないと無理だったよ。」



「それはわかったが、一体、それだけの量を使って完成したのはいくつだ?」



「4つだね。」



「4つ? あれだけの量の魔石を使ってたった4つ?」



「いや、4つもできた、という方が正しいかな。今のところ、この魔導具の効率化って無理で、魔石の消費をどれだけ抑えて作成できるか、という部分しか改良できなかったからね。」



「流石はラヒラスだね。」



「いやあ、時間はそれほどかかってないけど大変だったのは間違いないかな。」



「アイス様、それで編成はどうされますか?」



「ああ、編成だけど簡単だよ、私達とウルヴ、アイン、ラヒラスと別れて探索するだけ。」



「・・・何となくそんな感じはしてたが、たまには俺たちもマーブル達と一緒に行動したいのだが。」



「それは却下。」



「まあ、断られるのはわかっていたが、まあいいか。で、拠点に相応しい条件とは?」



「最優先すべきは大量の水のある場所かな。できれば綺麗な水が流れている河がいい、川じゃなくて河ね。次はその土地で作物が作れるかどうか、あとは君達の直感でいい。最悪飲める水が流れている河という条件を満たしてくれれば何とかなる。その場所の近くに集落があればなおいいけど、とにかく河でよろ。」



「条件はわかりましたが、具体的にはどのように別れて探索するのですか?」



「とりあえず西側は森だから探索しない、ということで東側を攻めます。北側はフレイム領の国境沿いにウルヴが、アインは東北東を、ラヒラスは東南東を、私達はタンヌ王国国境側をそれぞれ探索するということでいいかな。」



「それで、よさげな場所を見つけたら報告すればいいのか?」



「いや、とりあえず東端までは進んでもらう、確か地図だと東端は山だったはず。みんなにそれぞれ地図を渡すから、よさげな場所を見つけたら印なり何なりしておいて。探索は木騎馬に乗って一直線で進むだけでいいから、それで東端を確認したらこちらに戻ってきてくれればいいよ。集合場所はここね。目立つように簡易的にライムの像をここに置くから、ということで、ジェミニ、よろしく。」



「キュウ!」



 そういうと、ジェミニは土魔法であっという間にライムの像を作り上げた。完成度はなかなかですな。いい出来にライムも飛び跳ねて喜んでいる。



「あと、何かトラブルがあったら連絡するなり蹴散らすなり好きにしていいから。では、解散!!」



 私達はそれぞれに散っていく。あ、食料や水はしっかりと渡してあるからね。とりあえずタンヌ王国国境まで街道を南下してみる。今回は木騎馬に乗らずに水術で移動する。ある程度助走を付けてから足下と接地面を凍らせていくやり方だ。これはタンヌ王国での一冒険者時代から行っている移動方法なので簡単に行えるが、久しぶりなので速度が心配だったが、思っていた以上に大丈夫だった。マーブルとジェミニは隣で一緒に走っていたかと思えば、器用に私の肩の上に乗ったりとずいぶん余裕をみせていた。ってか、いつの間にそんな速度でも乗り降りできるようになったの? 流石は私の猫達だ。



 国境らしき場所を確認したが、特に兵士がいるわけでもなく平穏だった。兵士がいなくとも土の色が異なるため非常にわかりやすかった、というか、これじゃあ、国境紛争なんて起こるわけないよな、とつくづく感じる。どれだけトリトン帝国って貧しいんだよ、、、。



 気を取り直して国境を東沿いに進む。速度はともかく久しぶりに私とマーブル達だけでの、のんびりとした旅ともいえる。もちろん気分は最高といえよう、しかし、それに水を差すかのように「何もない」。いや、タンヌ王国側にはある程度草木が生えてはいるが、トリトン帝国側にはそれすらもない、じゃあ、砂漠かといえばそうではない。干からびているのだ。おっと、ため息をついている場合ではない、今回の目的は領都となる場所を探すことであって、マーブル達との旅を楽しみに来たわけではない、とはいえ少しは楽しむ要素があってもいいのだと思うのだが、、。



 そんなこんなで東端に到着、東端には大きな湖があった。うん、水場だ。触れて確かめてみると冷たくて綺麗な水だった。水は向こうの山から流れてきているようだ、それで、湖を経由してあちこちに支流が流れているが、残念ながらどの支流も拠点にするほどの水量はなかった。山の向こう側にある国はどの国かはわからない。拠点としてはいいかもしれないが、領都にするには向いていないかな、いかんせん遠すぎて領都とするには非常に長い年月がかかりそうだ。途中何もないし。とはいえ将来化けそうな気がするので、ここは確保しておきますか。向こうの国はどうかわからなけど、少なくともタンヌ王国やトリトン帝国から見れば思いっきり端っこにあるから、ここを第2のねぐらにしてもいいかもしれない、うん、そうしよう。



「ここは領都には向かないけど、いい場所っぽいから第2のねぐらにします。」



「ニャー!」



「了解です! いろいろ作りましょう!!」



「ボク、がんばってきれいにするー!」



 マーブル達も賛成してくれているな、うん。



「しかし、今日はこの場所を確保したら合流地点まで戻りましょうかね。というわけで、マーブル、よろしく。」



「ニャッ!!」



 マーブルはここに転送ポイントを設置した。これでいつでもここに来られるな。あとは、念のために山側からここを占拠されないように結界を張っておきましょうかね。



 先程の合流地点まで戻るつもりだが、来た道をそのまま戻っても意味がないので今度は直進で合流地点まで戻るつもりだ。



 合流地点まで戻ったが、道中に先程の湖の支流と思われる小川こそあれども、これといったものは見つからなかった。集落すらなかったことにこの領域がどれだけ不毛なのかが伺い知れた。私達が一番乗りで、他の3人はまだ戻ってきていなかった。では、のんびりと待ちながら昼食にしましょうかね。



 昼食を摂った後、マーブル達とモフモフタイムを堪能しながらしばらく待っていると、ラヒラスが戻ってきたので報告を聞こうと思ったが、全員が揃ってからの方が面倒が少ないので、揃ってから報告してもらうということにして一緒に待つことにした。



 しばらく待ってからウルヴが戻ってきて、最後にアインが戻ってきた。全員が揃ったところで少し休んでから報告を聞くことに。



「みんな、お疲れ様。さて、一応一通り確認してもらったけど、報告を聞きましょうか。最初は私からかな。ここから遠すぎて領都としては厳しいけど、拠点としてはかなりいい場所を見つけたけど、これは第2のねぐらとしてしばらくは使う予定だから、除外で。じゃあ、次はラヒラス頼むよ。」



「うん、一応俺が向かったところは、集落が3つほど見つかったけど、残念ながらどれも拠点にするには厳しいと思うね。小さい川はいくつか見つかったけど、拠点とするには物足りないかな。」



「なるほど、ラヒラスありがとう。では、次はウルヴかな。」



「私の方ではそこそこ大きい河こそありましたが、生憎フレイム領にかなり近い場所となりますので、そこを拠点にする意味はないと思われます。東端の山ですが、木騎馬が何かしらの反応を示しましたので、何かありそうな様子ではありますが、具体的にはしっかり調べてみないとわかりません。」



「ほう、東端の山ね、機会があったら行って確認してみよう、ウルヴ、東端でもどこら辺にあるのか地図に印を付けてくれた?」



「はっ、そこは抜かりなく。」



「うん、ありがとう。では、最後にアインよろしく。」



「俺の方でも東端の山まで確認したが、東端の山には何も感じられなかったから特に何もなさそうだった。ただ、みんなとは逆に、拠点となりそうな地点は確認できた。」



「おお、良さそうな場所かな?」



「よくなるかどうかはこれからだと思う。ただ、4つくらいの川が合流している部分があったので、その近くに拠点を築くのもいいかもと思った。」



「おお、そうか、それはありがたいな。それで、アイン、その場所はここからどの位離れている?」



「そうだな、ここから歩いて2時間くらいの距離かな。川の合流地点はもう少し先になるけど、拠点とするにはよさげな場所はそこだな。」



「なるほど、では、そこに向かうとしますか。合流しちゃったし、このライムの像はそこに持っていきましょうかね。」



 アインの見つけた地点に改めて置こうと、ライムの像を回収してアインを先頭にその地点へと向かう。やはり、途中何もなく、同じような風景が続いて多少うんざりしつつ進むこと15分くらいでその地点は見つかった。



「この辺りかな。」



「なるほど、確かにそこそこいい場所じゃないかな。ウルヴ、ラヒラス、どうかな?」



「うん、いい場所だと思う。」



「私もここでいいと思います。」



「では、ここをフロスト領の領都とします。とはいえ、何もない場所だから、これからいろいろやらないといけないかな。」



「ですね、とはいえ、何とか1日目でいい場所が見つかりましたね。」



「そうだね、しばらくはこのメンバーだけなんだから、のんびりと開発していきましょうかね。」



「しかし、とにかく寝床の確保は重要ではないのか?」



「それは最悪ねぐらで寝泊まりすればよし、風呂洗濯は必要だから、どちらにしろねぐらには戻る必要はあると思う。」



「とりあえずこれからはどうすればいいのかな?」



「そうだね、最初は狩りと採集かな。木材はあるから、食べられる魔物の退治と植物の採集は必要だと思う。それを3人で行って欲しい。ラヒラスも今のところ作って欲しい魔導具はないから、フレキシブルアローの熟達もかねて狩りに参加して欲しい。」



「了解した、アイス様はどうするのだ?」



「私達はこの場所から街道へ道をつなげる作業をするつもり。しばらくはそれで手一杯かな。それで、次の日から朝食を食べたら、作業開始、夕食前に終了ということでいいかな?」



「「「了解!!」」」



「ミャッ!」



「キュウ!」



「ピー!」



 みんな揃って敬礼を行ったので、こちらも敬礼で返した。とりあえず領都になりそうな土地は確保できた。あとはどう作っていくかかな、それと、領民となる人は来てくれるのだろうか。まあ、来なきゃ来ないで別にいいか。これからフロスト領を豊かにするのも大事だが、それ以上にマーブル達と一緒に楽しく過ごすことの方が大事だからね。

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