第28話 さてと、まずは足下を固めないとね。

 フロスト領の領都として場所を決めたのはいいが、いかんせん何もない。目印としてライムの像は置いてあるけど他には本当に何もない。周りにかろうじて草が多少生えている程度、つまり0からの出発だ。とはいえ私達が暮らしていく分は全く問題ないからのんびりまったりと開発していこうではないか。



 とりあえず開発初日、ウルヴ達は西の森へ狩りに出かけた。私達は街道と道をつなげる作業だ。とりあえず道はまっすぐに引けばいいかな。最初とはいえ好き勝手にできるので道はかなり広めに設定していく。周りはやや乾燥していて水分があまりなさそうにもかかわらず水術は問題なく使用できた。具体的には私が水術で道となる部分に線みたいなものを引いて、その部分をジェミニの土魔法で掘り起こして、その掘り起こした部分をライムが跳びはねて固める、といった感じで進めていった。マーブルはというと、ジェミニが魔力切れを起こさないように少しずつ魔力を提供しているようだった。



 マーブル達のチームワークがよかったおかげか、道自体はたった1日でつながってしまった。まさかここまで早く出来上がるとは思わなかったのでビックリだ。とはいえ、マーブル達はかなり消耗していたらしく終わった頃はかなり疲れている様子だった。



「いい感じで完成したね。みんなお疲れ様。」



「ミャア!!」



「お疲れ様でした!! といっても、アイスさん、実際に疲れたわけではないです。」



「え? 疲労困憊のような感じだけど違うの?」



「はい、これは疲れではなくただ飽きてしまっただけです。」



「そうなんだ、これだけ大変な作業だったにもかかわらず疲れたじゃなくて飽きただけなのか、、、。」



「ボクは大丈夫-!!」



「そうか、何にせよ、みんなありがとうね。じゃあ、一旦フロストに戻ろうか。みんなが作ってくれた道を通ってゆっくり戻ろうか。」



 そう言うと、マーブル達は私の定位置に飛び乗る。



「ん? 作った道を歩かなくてもいいの?」



「ミャア!」



「問題ないです。まずはアイスさんが通って確かめるです!」



「ボクはもう通っているからあるじに連れて行ってもらう-!」



「なるほど。じゃあ、このままゆっくり進むよ。」



 マーブル達を乗せて出来上がった道を歩いて行く。掘り起こしてから固めた道だからもう少し柔らかいと思っていたがライムのスタンプがここまで凄いとは思わなかった。その場で跳んでも踏みつけてもびくともしなかった。恐らく木騎馬で走っても問題無さそうだ。ただ、今のままでは周りより低い状態なので改良が必要だ。最終的には石畳クラスにしておきたいが、それはまだ当分先の話かな。それでも道の部分は周りより少し高くしておきたい。そのことをマーブル達に伝えるとジェミニとライムはその気だったらしくやる気十分だった。とはいえ今日はこれで十分なので明日以降作っていくとしますか。



 領都に戻ってライムの像の辺りで食事を摂ったりしてまったりしていると、アインが戻り、その後しばらくしてからラヒラスが、最後にウルヴが戻ってきた。アインはワイルドボアを数体、ラヒラスは一角ウサギなどの小さい魔物を、ウルヴは木の実や茶葉などをそれぞれ手に入れてきた。



「おお、みんなそれぞれ大漁だったみたいだね。」



「いや、本当はもっとたくさん取ってくるつもりだったのだが、生憎持ちきれなくてな。一応全部血抜きは済んでいるから問題なく食べられると思う。ただ、入れ物などがなかったから木騎馬に乗せて引いて戻ってきた感じだな。」



 あ、しまった。そうか、木騎馬以外は基本的に手ぶらじゃん。結構大漁だと思っていたけど、入れ物などしっかり用意できていればもっとたくさん持ってくることが出来たはず。すっかり忘れていたなあ。



 話しを聞いてみると、ラヒラスもウルヴも同じ意見だった。まあ、この問題については簡単に解決できる。さてと、袋は、と、よし、人数分あるな。あとはマーブルの残存魔力次第だけどね。



「いや、ゴメン、そっちはすっかり忘れてたよ。では、その問題についてだけど、マーブル、袋を闇魔法で簡単なマジックバッグにできたよね? とりあえず最低3つ欲しいけど、今すぐできる?」



「ミャア!!」



 マーブルに聞いてみるとできるようだ、しかも、このくらい余裕と言わんばかりだった。さっきジェミニにさんざん魔力譲渡していたのに、まだ余裕があったのか。凄いな。



「じゃあ、この袋に闇魔法を付与してくれないかな。」



「ミャッ!」



 私が袋を用意すると、マーブルはそれぞれの袋に魔法を施していく。付与した袋を調べてみると、一辺10メートル分、つまり1000立方メートル分の収納が可能となっていた。その出来上がった袋を3人にそれぞれ渡す。



「こ、これがマジックバッグ、こんなにあっさりと、、、。」



「流石はマーブル君だ。俺ではここまでの容量をもつ袋はまだ作れないな。仮に作れたとしても、こんな短期間にはできない。それにしてもどういった構造でできているんだ、これ。」



「おお、これがマジックバッグか、こいつがあればワイルドボアも毛皮を傷めることなく収納できるな。明日からが楽しみだな。」



 3人は驚きながらもマーブルにお礼を言い、マーブルは少し得意げに「ミャー!」と鳴いた。ああ、この可愛い鳴き声が癒やされるんじゃ-。



 ラヒラスはマジックバッグをいろいろ確認しつつ、アインはまだまだたくさん狩りたいらしく、それぞれ袋の追加を要望していた。マーブルに確認すると問題なさそうだったので、その場で2つ追加して作ってもらいそれぞれ渡した。



「ところで、アインはわかるけど、ラヒラスは何で追加が欲しかったんだ?」



「ああ、それね。俺も作ってみたいんだよ、マジックバッグ。いや、ここまでの容量でなければ一応作れるけど、必要な素材とか魔石とかがこれとはかなり違っていて、いろいろと興味があるんだよね。」



「なるほどね。ただ、この袋はマーブルが闇魔法を付与しているだけだから参考になるのかわからなそうだけど、、、。」



「もちろん、その点は理解しているよ。そもそも闇魔法って、術式が全く判明されていないんだよね。だからどうやって付与しているのかもわからないから今後の研究として楽しみにしている部分もあるんだ。それ以上に普通に売っている袋にこんな凄い魔法付与出来る時点でいろいろとおかしいんだけど、その分研究のしがいがあるというか何というか。」



「まあ、頑張ってくれ。でも、しばらくは研究する余裕なんてないぞ。」



「不本意だけど、それはわかっているよ。研究する時間がないのは残念だけど、これはこれで楽しんでいるから別に不満はないしね。」



 とりあえず今日はこのくらいかな。本当は今いるメンバーの寝床を準備するところから始めるべきなんだろうけど、私達はねぐらがあるので、それは基本後回しでもかまわない。とはいえ、いつ何時誰がここに来るかもしれない、というより、住民を増やす意味でもできるだけ早くここの存在に気付いて欲しいのも少なからずはあるわけで、しなきゃいけないことはたくさん存在する。それらを踏まえていろいろ準備していかなければならない。とはいえ、もう少しここの存在は隠しておきたいので水術で結界を張って転送ポイントを隠しつつねぐらへと移動する。



 ねぐらへと移動した後はみんなで夕食を摂って、その後風呂と洗濯を済ませた。



「さて、今後の予定だけど、その前に新しく作った道はどうだった?」



「俺は木騎馬を引いて徒歩で戻ってきたが、かなり歩きやすかったな。でも、周りより低くなっているということは今後この道は改良していくんだよな?」



「うん、もちろんそのつもりだ。」



「俺は木騎馬で移動したけど、見た目とは違って蹄の跡も出来なかったくらいしっかりしてたね。かなり走りやすかったよ。」



「私も通りましたが、あの道はよかったですね。しかも広いので今後にも期待できます。しかし、あれだけ固めるのは骨が折れたでしょう。どうやったのですか?」



「ああ、あれね、あれはライムが固めてくれたんだ。」



 そういうと、3人は驚いてライムの方を見る。ライムは嬉しそうにその場を跳ねていた。それを見て私もそうだが、3人もほっこりしていた。



「で、話しは戻るけど、明日以降もしばらくは3人は狩りや採集を頼むね。私達は領都の範囲を広げつつ拠点や倉庫を作っていくからそのつもりで。道についてだけど、いずれは改良するけど、ここは雨もそれほど降らなそうだし、しばらくはこのままにする予定、というか、どうしても他にしなきゃならないことがあるから後回しかな。」



「「「了解!!」」」



 次の日になり、私達は領都に戻り、3人はそれぞれ狩り採集に出かけていった。私達は領都の領域を広げつつ本拠の部分を作っていた。本拠はとりあえず私達の部屋が4つ、食堂、風呂、トイレ、ラヒラスの研究室、倉庫を温度別に3つ、あとは会議室みたいなものが1つ、あ、転送部屋も設置しておかないとな。



 そんなことを考えつつ、昨日と同じように掘り作業を進めていたが、いい加減面倒臭くなってきたので気分転換に別の方法を取り入れたのだが、意外な物が出来上がった。ここの土地は粘土が含まれていたらしく、ジェミニが掘り起こしてくれた土を水術で湿らせた後、その土の水分を水術で乾燥させると、その土が先程以上に硬くなった。いわゆる日干しレンガというやつが完成したのだ。この辺りは燃料が確保できないので通常であればこの日干しレンガを有効活用するべきなのだろうが、ここは魔法の世界である。火魔法などを駆使すれば焼きレンガを作ることが可能だ。本当は石灰が見つかればコンクリートなどを作れるが、生憎まだ見つかっていないのでそこまでは無理。



 ということで、予定を変更することにした。領域を広げるべく土を掘りまくったのは同じだが、とりあえず焼きレンガの作成を優先させることにした。この日はとにかく土を集めまくって日干しレンガをひたすら作っていった。どれだけ作ってもこちらには空間収納があるし、私も何だかんだと戦闘を重ねている上、職業はポーターという特殊な底辺の職のためレベルもかなり上がっており、それに比例して空間収納レベルも上がっているため容量もかなり収納できるほどだった。



 予定を変更した後、昼食をはさみながら、3人が戻ってくるまで日干しレンガを作成しまくった結果、空間収納には200メートル立方分の日干しレンガが出来上がった。作っていたときは量を気にせず作りまくっていたが、切り上げたときにはあまりの量に自分でもビックリだった。その分だけ掘るのを頑張っていたマーブル達はさぞ疲労困憊だと思ったらそんなことはなく元気いっぱいだった。聞くと、昨日とは違って日干しレンガが出来上がるのを見て楽しくなっていたそうだ。君達も楽しんでくれたのなら私としても満足だ。



 領域もかなり確保できたし、3人もマジックバッグのおかげか、昨日とは比べものにならないほどの収穫量だった。アインとラヒラスの狩ってきた獲物を見たマーブル達は解体したくてうずうずしていた。さっきあれほど動いていたのにまだそんなに元気が余っていたのね、、、。やる気に水を差すのも申し訳ないからマーブル達に解体をお願いすると、2人の狩ってきた獲物を次々に素材に分けていく。アインもラヒラスもマジックバッグのおかげで、倒したその場で収納していたようで、かなりいい状態でこちらに持ち込んでくれたので、特にワイルドボアなんかは内蔵も食べられる状態だった。



 全員が揃ったので、ねぐらに移動して夕食および風呂と洗濯を済ませてから、予定の変更について話しをした。3人も予想以上に掘られていた範囲を見て予定の変更がありそうな気がしていたそうで、特に反対意見はなかった、というか大漁過ぎてしばらく食料に困らないどころか、消費しきるのにどれだけかかるかわからないので、むしろ3人から予定の変更を言おうとしていたそうだ。



 ちなみに変更内容は、ラヒラスは範囲と領域周辺の地形を確認して現時点での領都防衛の策定、アインはその計画に沿って簡易的に柵などを構築していく。ウルヴは領域周辺の現地調査を行ってもらう。私達は日干しレンガを焼きレンガにしていく予定だ。という感じで話し合いが終わりその日は終了。



 次の日になり、日干しレンガを出しては、マーブルが火魔法と風魔法で焼きレンガに変えていく。もちろん最初はどの加減で一番上手くいくかを試しまくって現時点で最適と思われる割合で作りまくっていく。この日に関してはジェミニとライムの出番がないので、ジェミニ達に袋を渡して狩りや採集に行ってもらった。



 さらに次の日には、完成した焼きレンガを使って拠点を作りたかったが、落ち着いて考えたら接着面の固定が必要だったのを忘れていた。幸いにも粘土の割合が多い部分があったので、そこをジェミニに掘ってもらったり、ラヒラスが合間を縫って土掘りの魔導具を作ってくれていたのでそれを利用してアインやウルヴがそれを手伝ってくれたので、何とか解決した。レンガを使ったとはいえ、今後建て直しなども考えているため最低限ある程度固定できていれば問題なかった。ジェミニ達が掘ってくれた土を水術でゆるくしてからレンガを置いて試したところ、いい感じで固定できたので、これで拠点を完成させるつもりだ。

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