第11話 さてと、とりあえずは風呂ですな。



 3人の部屋とトイレが完成してから数日後、ついに拡張工事の全行程が終了した。長かったような短かったような、そんな気分だ。ぶっちゃけかなりいい材料で建築したので改築部分と元々あった部分の差が激しかった、見た目だけは。材木が余ったらしいので、ついでに台所と私の部屋を改装してもらった。さらに食堂で使っているテーブルや私のベッドも作ってもらった。あまりに嬉しかったので金貨1枚ずつお礼として渡した。大工達は最初は恐縮していたが、予定になかったことなのでと受け取らせた。



 改築祝いとしてパーティでもしたい気分だが、ここは離れ、しかも私は長男とはいえ落ちこぼれ扱いなので大っぴらに開くことができなかったので、食堂で大工達を呼んで宴会をすることになった。宴会は大盛り上がりだったが、アインは酒が飲めなかったことを残念に思っていた。ちなみにアインは17歳で、ウルヴとラヒラスは私と同じ15歳だそうだ。最初に聞いたときは耳を疑った。何? ウルヴは15だと? 正直アインより上だと思っていたので再び聞いてしまったほどだ。何が言いたいのかというと、この国では酒は18歳にならないと飲めないそうだ。ちなみに私は元から酒が苦手なので飲めないことに不満は全く無かった。



 その次の日、改築も終わり、ねぐらに転移することなく風呂には入れるようになる予定だったが、思わぬところで問題点が出てきた。ラヒラスが言うには、水が出せないとのこと。水を温める部分は火魔法の術式で問題なく稼働するそうだが、水自体を発生させることができなかったそうだ。いや、水自体は出せるそうだが、水魔法の術式では、飲むことはおろか、風呂にも適さないほど質が悪い水しか出せないようだ。



「アイス様、申し訳ないけど、水術で水をだしてもらえるかな?」



「それは構わないけど、私のスキルは水術で水魔術ではないよ?」



「それは、わかっているんだけど、実際に確認してみたいのが大きいかな。」



「では、水を出すけど、どのくらい出せばいいのかな?」



「とりあえず風呂桶半分くらいで。」



 そう言われたので、水術で水を貯める。その一部始終を見ていたラヒラスは、それを見てしきりに首をひねっていた。



「本当に、水魔術じゃなくて水術なんだね。こりゃ無理だ。」



「ありゃ、やっぱり水魔法ではなかったのか。水魔法であって欲しいという願望はあったけど、違ったか。」



「うん、一応確認してみたけど、魔法じゃないね、アイス様、どれだけメチャクチャなんだよ。」



「いや、そう言われてもねぇ。」




 しばらく沈黙が続いたが、アインが何か思いついたように話してきた。



「ラヒラス、ねぐらの湧き水を参考にするのはどうだ? あの水って魔力が含まれているだろう? あの水に含まれている魔力を分析してみるのも一つの手じゃないか?」



「やってみないとわからないけど、やってみる価値はありそうだね。どうせこれ以上考えても案なんて出てこないだろうし。アイス様、申し訳ないけど、今日はねぐらで分析させてくれませんかね?」



「それは構わないけど、一応注意しておくけど、ねぐらの真ん中の部屋って封印されているよね? あの封印だけは分析したりするのは禁止ね。マジでシャレにならないから。」



「了解だよ。そっちは興味ないから大丈夫だと思う。」



 一応ラヒラスに念を押して、私達はねぐらに向かった。ねぐらに到着すると、ラヒラスは自分で用意してきた器に湧き水を汲んで、これまた自分で用意してきた道具を使って何かをし始める。



「ラヒラス、その怪しげな道具は何かな?」



「妖しげな道具、言うな。これは、魔力などを分析できる魔導具さ。込める魔力が強いほど詳しく分析出来る、といっても魔石があれば、代わりに魔力を込めてくれるから、実際にはそれほど魔力を必要とせずに分析できるよ。といっても魔石がショボいと分析力もショボくなるけどね。」



「じゃあ、いくつか魔石を渡しておくよ。魔樹達のやつで申し訳ないけど。」



「いや、魔樹の魔石ってかなり高性能だからね。この魔石1つで最低1月は休みなく全開で分析できるほどさ。とはいえ、この水の分析には時間がかかりそうだから、ただ待っているのも退屈だろうから周辺を適当に探索してくれてかまわないよ。」



 ラヒラスの言葉に甘えて、私達は周辺の探索に向かった。折角だから木騎馬に乗って探索しようと思う。私単独だと不可能だが、私にはマーブル達がいる! というわけで、私はマーブル達に一緒に乗ってもらい、ウルヴとアインはそれぞれ1人で乗ってもらうことにした。



 乗り心地はというと、これは結構いいものだ。最初こそ上手く動かせなかったが、少しずつ慣れてきた。初めて乗ったときはかなり力んでしまったが、それが良くなかったらしい。少し気楽にすると、思い通りに動かすことができた、って、ここ平原じゃないぞ。山道でも難なく進めるこいつの性能に呆れつつも進んでいく。ウルヴは流石だった。場所が変わっても問題なく進んでいる。アインも最初こそ上手く乗れていなかったが、ウルヴに何度かアドバイスをもらって普通に乗れるようになっていた。とはいえ、私もアインも戦闘時には降りた方が良さそうだ。こんなん乗って戦えるかい!!



 ウルヴが言うには、慣れてくるとマップ機能みたいなものが使えるようになるらしく、この周辺の地図も少しずつ埋まってきているそうだ。とはいえ、ここがどこであるのかはわからないらしい。まあ、私だってゴブリンの集落に行けたのは偶然だったし、わからないのは私も同じだ。ちなみにマーブルもわからないらしい。マーブルでもわからないとなれば、私達がわかるはずがない。どうせ転送魔法で移動できるから特に問題はない。



 いろいろ進んでいくと、ウルヴが嬉しそうに話しかけてきた。



「アイス様、ここは凄いところですね。いろんな香りのする葉っぱがたくさんあります。ぶっちゃけ宝の山です! この周辺を1人で探し回りたいのですが、よろしいでしょうか?」



「かまわないよ、好きなだけ採集してくるといいさ。じゃあ、これを渡しておくからたくさん採集してくれ。」



 そう言って、袋を渡す。ちなみにこの袋は、マーブルが闇魔法で空間を広げてある状態のものだ。小説でいうところのマジックバッグといったところかな。量的には20メートル四方までしか入らないけど、かなりの量を集められるんじゃないかな。



「アイス様、、、、。ありがとうございます!! これでも入りきらないくらいたくさん集めてきますので期待していて下さい。では、御免!!」



 そう言ってウルヴはもの凄い勢いでこの場を離れていった。さてと、私達はどうしようかな。アインもいることだし、少し狩りをしましょうかね。



 結果と言えば、一角ウサギ5体とオーク5体だった。一角ウサギを見たときには、バーニィきたー!! と思って張り切って倒したが、残念ながらバンカーの衝撃に耐えられるほどのものではなかった。私が最初に倒した一角ウサギってかなりレアな個体種だったのかもしれない。世の中甘くはないねえ。とはいえ、今回はライムもジェミニもいるので、解体や掃除は問題なくできるので、内蔵も美味しく頂けると思う。ちなみに一角ウサギの内臓を鑑定してみると、アマさんがいくらいい状態でもこれは食べられないからあきらめろ、と出ていたのでその忠告に従うことにして肉と毛皮と角だけ頂いて、のこりは穴を掘って埋めた。オークについてはしっかりと内蔵も頂く。



 帰りに食べられそうな木の実や葉などを採取してねぐらに戻った。ラヒラスはやつれていたがその表情は生き生きしていた。何かいい結果が出たのかもしれない。ちなみにウルヴはまだ戻ってきていない。私達が戻ってきたのに気付いたラヒラスは嬉しそうに話しかけてきた。



「アイス様、お帰り。この湧き水凄い魔力が含まれていたよ。これなら魔導具に術式を施せるよ、ってもう施した後だけどね。おかげで良い魔導具が完成したよ。」



「おう、そうか。では、風呂用の穴で試してみてくれ。その間に昼食の準備でもしておくから。」



 昼食の準備をしていたが、巨大なピスタチオみたいなどうしても割れない木の実があったが、アインはそれをモノともせず真っ二つに割ってしまった。どんだけパワーがあるんだよ、、、。ま、まあ、それは置いといて、準備だ準備。さっきの硬い木の実は中をくりぬいて何かの器として使用することにした。巨大なピスタチオだから器として見た目といい硬さといい十分じゃないかな。



 準備が終わりそうになる頃にウルヴが戻ってきた。



「アイス様、只今戻りました! 貴重な茶葉がたくさん手に入りましたよ!! 後で飲みましょう!!」



「あ、うん、楽しみにしてるよ。」



 興奮して話すウルヴに若干ヒキはしたものの、何とか返事はできた。直後のお茶が楽しみなのは間違いないから、、、。



 昼食を食べ終えて、ウルヴが入れてくれたお茶をもらって一息ついた後、ラヒラスに分析結果と魔導具の完成品について聞いてみた。



「ところでラヒラス、ここの湧き水の分析はどうなったかな?」



「アイス様、ここの湧き水もの凄いよ。水の綺麗さはもちろんなんだけど、水に弱ではあるけど、体力と魔力の回復効果が、更にこれも弱ではあるけど、クリーンの効果が確認できたよ。」



「おお、そんなにたくさん効果があるんだ。」



「うん、世界中どこを探しても自然に湧き出る水でこんなに凄い効果のある水ってないからね。」



「なるほど、で、魔導具はどうかな?」



「そうそう、魔導具なんだけど、水魔法とこれらの魔法とをつなげることによってこの湧き水ほどではないにせよ、近い効果の水を出せるようになったよ。とはいえ、魔樹の魔石がないと無理みたいだけどね。これらの魔導具と魔樹の魔石の相性がかなり良くて完成にこぎつけることができたよ。」



「おお、それはお見事。じゃあ、離れ小屋に戻って確認だね。」



「そうだね。早速戻るかい?」



「そうしよう。ここはあくまでも一時しのぎという考えでいて欲しい。」



「わかったよ。本心はこまめにここに来たいところだけど、それはあきらめることにするよ。」



「そうだな。ここに頼り切るのは良くない。どこにあるかわからんのだし。」



「そうなんだよな。木騎馬の地図でも移動した範囲は確認できても、ここがどこか検索不能って出てるし。」



「では、戻ってトリニトでの初入浴と参りましょうか。」



「「「了解!!」」」



「ニャッ!」



「キュウ(初入浴です!)!」



「ピー!」



 ねぐらからマーブルの転送魔法で離れ小屋に戻って魔導具を試したところ、問題なく綺麗な水が出てきたのでみんなで喜んだ。湧き水の効果も一緒だとよかったが、それは贅沢というモノだろう。問題なく飲むこともできたので、後で更にいくつかラヒラスに作ってもらうことにしよう。



 これでここの離れ小屋もかなり住み心地がよくなった。いやあ、本宅ではなく別宅で本当によかった。

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