第10話 さてと、たまにはまったりとしますか。

 ラヒラスが作った木騎馬の性能を試したが結果は上々、安心して量産化できるというもの。というわけで、ラヒラスにとりあえず50騎ばかりを増産してもらう。いやー、魔樹様々ですな。



 それにしてもウルヴが騎乗特性持ちだったけど、あそこまでとは。あんなスピードですれ違いざま横から突きをかましてるんだぜ。しかもこれがほぼ初戦闘と来た日には、どれだけ強くなるんだか。



 それ以上に私の攻撃手段の弱さが露呈した。まあ、流石に氷のつぶてだけでは厳しいよね。前世では一角ウサギの角でバンカーの基を用意して、それを水術で氷を作ってぶっ放したりしてたけど、あれは殺傷能力が高かったから大丈夫だったけど、今の状態では殺傷能力は低い。前世と同様にすればよかったけど、生憎一角ウサギのようなまっすぐで鋭い角を持った魔物には出会えていない。いや、いるにはいるんだけど、通常の角だとあそこまでの威力は出ない。いや、アマさんは前回と同様にするつもりだったみたいだけど、私がゴネて飛び道具を使いこなしたい、ということで投擲術や弓術のスキルをもらったんだっけ。ん? 弓術? それだ!



「というわけで、ラヒラスには私用の弓を作ってもらいたいと思います。」



「はい? 何が、『というわけで』なの? 全く意味わからないんだけど?」



「いや、あの、ラヒラスに弓を作ってもらいたいなぁと思ってね。」



「はぁ、、、。まあ、作るのは構いませんよ? ただ、俺が作れるのは魔導具だからね? アイス様、魔力ないでしょ?」



「あ。」



「あ、じゃないでしょ、まったく。だったらご自分で作ってみてはどうですか?」



「いや、作り方知らないし、、、。」



「そんなもん、知りませんがな。魔樹のおかげでいい素材があるんだから、それで作ってみたらどうですか? まだたくさん残っているでしょうに。あるいは、ここトリニトで作れる職人いるかもしれないよ? 建築スキルだけはヤバイ人達がこの屋敷を拡張してるんだから、もの凄い弓を作れる人もいるかもよ?」



「なるほど、確かに。」



 離れ小屋に戻ってからラヒラスがいたので、弓作りを頼もうと思ったが、ダメでした。というか、魔力ないくせに、魔導具職人に自分用の道具頼んでも意味なかったよね。しばらくはアルスリで頑張るとしましょうかね。



 外では大工達が工事を頑張ってくれている。アインは何をしているかというと、木材をあちこちに運んでいた。何が凄いかって、大工達ですら2、3人くらいでようやく1本運んでいる木材を彼は1人で3本くらい運んでいたことだ。しかも1回だけではなく何度もそれを往復しており、大工達ですら息上がりまくりの状態で彼1人だけ平然としていたのだ。どれだけ腕力あるんだよ、、、。



 私は一足先に離れ小屋に戻ったが、ウルヴは冒険者ギルドにいた。先程狩ったブルホーンの素材をギルドに卸してもらっていた。というのも私は生憎ギルド登録していない、というか前世の足がついてしまう恐れがあるので登録するにもできない。まあ、マーブル達が一緒なのでバレるときはバレるかもしれないけど、その時はその時と考えている。ウルヴは騎乗時こそ戦闘力は高いが、騎乗していないときはそれほど強くはないので、護衛としてジェミニとライムをウルヴに付けていた。マーブルは離れ小屋で走り回っている状態だ。見ているだけで癒やされる。何せ生後5ヶ月の虎猫模様のマンチカンの姿で部屋中を走り回っているのだ。よほどの猫嫌いでない限りはその姿に悶絶すること間違いない。



 あ、肉は一部は自分たちで確保してあるけど、残りは屋台のおじさんや各食堂に安く提供した。いや、お裾分けで無料で渡そうとしたんだけど、店側が断ってきたので安い値段にすることで受け取ってもらった。買わせてくれないと受け取らないとか言われると、彼らのために用意したようなものなのに意味ないじゃん。モツなどの内蔵については、扱ったことがなかったそうなので、今回は全てこちらで回収した。後日調理法を説明する予定だ。とはいえ、モツ料理とか時間かかるから、燃料に余裕のない現在では無理そうかな。そこら辺はラヒラスに話して魔導具を作ってもらいますか。彼なら喜んで作ってくれるでしょう。あ、もちろん商業ギルドには一切卸してないことも伝えておく。



 ウルヴがこちらに戻ってきて報告を受けていた。ちなみに卸したのはブルホーン10体分の角と皮だ。5体についてはこちらで確保しておいた。何かに使うかもしれないしね。内訳は一体につき、皮が金貨10枚で角が金貨1枚だそうだ。本来は皮については金貨7枚と銀貨5枚ということだが、傷がほとんどない綺麗な状態だったのでその値段になったそうだ。ということで合計で金貨110枚を受け取った。



 最近はこまめに素材を卸しており、その素材の売れ行きももの凄くいいらしく、金貨110枚もあっさりと支払われている。それどころかトリニトの冒険者ギルドから依頼を出して冒険者の生活を助けられる状態になりつつあるそうだ。また、それのおかげでトリニトの冒険者も気軽に屋台やら食堂で食事を食べられるようになってきたとか。その影響で、野菜を作っている農家にもお金が回り出してきたらしく、そのおかげで畑にも肥料を使えるようになってきたとか。本当ならとっくに土地の開発や改良を行っていかなければならないけど、生憎そんな体力はこのトリニトにはない。頑張ってお金を回せるようにしていくので、もうしばらくは踏ん張って欲しい。



 また、冒険者の生活をある程度助けることができるようになったおかげで、治安も少しは良くなってきているらしい。冒険者ギルドが出す依頼は冒険者に対してだけでなく、冒険者以外の人達にも少しずつ依頼を出せるようになってきているらしい。まさに、衣食足りて礼節を知る、は真理だと思う。本来なら、領主側からこういった依頼は出していかないとならないし、経済については商業ギルドが補助をしなければならないのに、あいつらときたら、、、。とりあえず、役に立たない連中は放っておいて、邪魔の入らないうちにこちらでできることはやっていかないとね。



 一通り報告を受けたところで、大工達が休憩に入ったので、折角だから差し入れを持っていく。ウルヴが入れてくれたお茶と、内蔵の串焼きを持っていった。甘いものなんて用意できないし、がっつりの肉も何か違う。あとはモツ煮なんて時間が掛かるものは不可能だから、こうなった。組み合わせがよろしく無さそうな感じはするが、ウルヴは内臓の串焼きに合った茶を用意してくれた。反応は上々だったが、一部から酒をよこせと文句を言われたが、もちろん無視だ。それよりもしっかり仕事をして欲しい。もちろん、自分たち用にも用意しておいたので食べることにした。タレなんてものは今は用意できないので、塩味だ。こちらでも反応は上々だった。もちろん、マーブル達もご満悦だ。



 折角だから、後日にしようと思っていた内臓料理の一つであるモツの串焼きを屋台のおじさんと各食堂にこれらを持っていって、内臓のおいしさを伝えに行くとしましょうか。まず最初は屋台のおじさんだ。



「お、アイス様、さっきはありがとうな、安く譲ってくれて。」



「いや、別に無料でもよかったのだけどね。」



「こんなにいい素材、あの値段でも申し訳ないくらいだ。ただでなんてもらえないぜ。それよりも、この時間に肉を食いに来たのか? 時間的にはそういう時間ではないと思うが。」



「もちろん、肉を食べに来たわけではないよ。おじさんにこれを食べてもらおうと思ってね。」



「ほう、これは内臓か? あまりにも臭いからほとんど食べたことないけど、これを食べろと?」



「食べてみればわかるよ、何も言わずに食べてみて。」



「アイス様がそこまで言うんなら仕方ねぇな。」



 おじさんは躊躇いながら一番上の一つを食べる。最初は嫌そうな感じで口にいれたが、口の中で咀嚼するたびに顔の表情が変わっていく。



「ん? んん? 臭くない、それどころか旨味がどんどん出てくる。アイス様、これ、本当に内臓か?」



「うん、間違いなく内臓だよ。さっき買ってもらったブルホーンのね。」



「な、何だと? あの、ブルホーンの内臓か? これは美味いな。」



「そう、内臓は美味いんだよね。ただ、おじさんも言っていたように確かに内臓は臭い。けど、新鮮な状態で下処理をしっかりすれば、内臓はこんなにも美味しいんだよね。」



「おお、そうなのか。こいつは欲しい所だが、ただな、多少は懐が温かくなったが、まだこいつを処理する余裕はうちにはないんだ。」



「そこはあまり心配しないで。内臓は肉よりも大量に取れるし、しばらくはこちらで卸すから。肉よりも安くするから、色々と試してみて欲しいな。あと、内臓って煮込むとさらに美味いよ。」



「アイス様がそこまで言うんだからそうなんだろうな。よし、わかった。アイス様が卸してくれるんであれば今後は内臓も買わせてもらおう。ただ、そんなにたくさんは買えないけどな。」



「そこは気にしないで、大丈夫な分だけ買ってくれればいいよ。もちろん、肉より安く提供するから。何だったらただであげるよ。」



「いや、それはやめておくぜ。しっかりと買わせてもらうからな。しかし、内臓もしっかり処理すれば美味いということがわかったのは大きいな。アイス様、ありがとうな。」



 よし、とりあえず最初のつかみは大丈夫だな。では、他の屋台や食堂を回っていきますか。



 他の屋台や食堂でも、おじさんと同じように串焼きを食べさせてみた。どこもほとんど同じような反応をしたが、いくつかはさらに拒否反応を示したりしたので、あまり使いたくなかったが、貴族命令で無理矢理食べさせた。実際食べさせてみるとどこも高評価を得ることができて嬉しかった。焼いても美味しいが、煮込むとさらに美味しくなることを伝えると、さらに喜んでくれた。彼らにも手に入ったら肉よりも安い値段で卸すことを伝えたところ、了承してくれた。おじさんと同じように内臓はただで提供すると言ったのに誰もそれには同意してくれなかった。まあ、モツなどの内臓のおいしさを伝えられたのはよかった。各屋台や店でどんな味になるのかが楽しみになった。



 今日の工事が終了して、大工達が挨拶してきたときに、モツの塩焼きについてまた食べたいと言ってきたので、時間が合えば出すことを伝え、さらに今後屋台や食堂で提供することになったからそっちで食べられることを伝えたところ、何か歓声が上がっていたのが笑えた。



 ちなみに工事は風呂場の作業に取りかかっていて、あと数日で終わるそうだ。完成が待ち遠しいな。



 今日の夕食はモツ煮にした。味噌はないが、ブルホーンの骨から牛骨のダシをとり、スガープラントの葉と茎を乾燥させた塩、胡椒もどき(前世同様、これを以後スガーと命名する!)で味付けしたもので、味は美味く出来たと思う。みんなも満足してくれたようだ。



 夕食も終わって、明日の打ち合わせを行い、ねぐらへ転送して風呂と洗濯を済ませてから戻って寝る、といういつものパターンで今日も終了した。



 マーブル達と一緒に生活していたときも幸せで楽しかったが、信頼できる者たちとこうして過ごすのもいいものだと感じながら床に就いた。

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