第12話 さてと、お呼び出しがかかりましたか。



 魔導具も無事完成して、ここ離れ小屋でも風呂を堪能出来るようになってからしばらく経ち、トリニトも以前に比べてかなり良い状態になった。見回っていると住民達に笑顔があふれている。冒険者ギルドも羽振りがよくなったおかげで、今までは良くてもEクラス程度の冒険者しかいなかったのだが、最近はDクラスやCクラスの冒険者も来るようになった。そのおかげで、私達がいなくても素材や肉が出回るようになっていた。一方で商業ギルドにはモノが出回らなくなったので、商業ギルドのトリニト支部がいつの間にかなくなっていた。



 そんな状態に満足しながら、私達はいつも通りの生活を送っていたが、ある日父上から呼び出しがあったので屋敷に出向いた。



「父上、お呼び出しにより参上致しました。今日はどういった用件で?」



「おお、アイスか。いきなりで済まんが、王都に行ってもらいたい。」



「はい? 王都に? 私が?」



「そうだ、お前がだ。」



「うーん、理由がわかりませんね。お断りして良いですか?」



「流石にそれはやめてくれ。で、理由なのだがな、ここトリニトではアイスのおかげで半年も経っていないにもかかわらず税収が10倍になったのだ。しかも住民に笑顔が満ちあふれていた。それが評判になって皇帝陛下の耳に入ったらしく、皇帝陛下直々のお呼び出しなのだ。」



「何ですかそれ?」



「まあ、そういうことだから、頼むぞ。これが招待状だ。」



 渋々招待状を受け取り、部屋を出ようとすると、いきなり部屋に入ってきた人物がいた。もちろん、弟のアッシュと母親の伯爵夫人だ。



「お待ち下さい、父上! なぜこんな落ちこぼれが皇帝陛下に招待されているのですか? もし招待されるのであれば、次期当主である私ではないのですか?」



「そうです。旦那様、これは何かの間違いではないのですか?」



 うわあ、面倒くせえのが来たよ、、、。まーた時間がかかりそうだなあ。いい加減勘弁してくれ。



「いや、間違いなくアイス宛てに来ておる。」



「な、何故です? 何故私にではなく兄上に?」



「アッシュよ、そんなにお前が行きたいのならお前が行ってもいいぞ。私は正直行きたくないからな。」



「アイスよ、それは止めてくれ。皇帝陛下直々にお前を指名しておるのだ。これでアッシュが行ってしまえば皇帝陛下の命に逆らったことになり我がフレイム家は反逆罪で領地を失ってしまう。」



「別にいいんじゃないんですか? トリニトの住民のために何もしていないにもかかわらず、相変わらず私を落ちこぼれ呼ばわりしているのですから。それほど自分に自信があるのなら王都へ行ってもどうにかするんじゃないんですか? 私は本当に面倒だから行きたくないんですよね。」



「アッシュ達に言っておく。今回の皇帝陛下のお招きはアイスに対してのものだ。これは勅命であるから、お前達がその勅命を無視してアイスを差し置いて帝都へ行ったり、アイスが帝都へ行くのを邪魔したりすれば、どうなるかわかっておるな? そうでなくても、最近のお前達の行動には疑問を抱かざるを得ない。」



「父上! お聞かせ下さい!! 何故皇帝陛下は私にではなく、落ちこぼれの兄上をお呼びになったのか!」



「そうです、あなた!! 優秀なアッシュではなく、何故アイスを陛下はお呼びなさったのですか!!」



 うわぁ、ダメだこいつら何とかしないと、ってか手遅れか。



「いいだろう、アイスが皇帝陛下にお招きあそばされたのは、極貧だったこのトリニトの町を豊かにし、なおかつ治安も飛躍的に向上させたものによるものだ。」



「それは、ここの商業ギルドが頑張ったおかげで、兄上の功績ではないでしょう!」



「ふう、お前達は一体何をしていたのだ? 商業ギルドなら、もう1月以上前に無くなっておるわ!!」



「!!」



 アッシュ母子は知らなかったらしく言葉を失っていた。



「いいか、お前達。最近食事が豪華になったのも、高価なものが買えるようになったのも、アイスがここの商業ギルドを追い出したおかげだ。私は納税額が半年足らずで今までの5倍近くまで多くなったことで自分の不明に気付いた。いいか、半年で5倍だぞ!! 半年くらい前にアイスが商業ギルドがこのトリニトの町の発展の足を引っ張っていると言ったので、2年間で商業ギルドから受け取っている1年分の金額の2倍以上に増やせと命じた。先程言ったように、アイスは半年足らずで既に5倍以上の税収を得られるようにした。しかもトリニトは日に日に豊かになっているから更に半年後の税収はもっと多くなるだろう。それなのに、お前達はただ、領主の妻や跡取りだからといって威張りくさっているだけで実際何もしなかった。まだ、それでも修行に励んでおるのならそれでもよかったが、アッシュよ、今のお前を見ても半年前から全く成長しているようには見えない。妻よ、それについてはどう考えているのだ? 場合によってはアッシュの次期当主はどうなるかわかるな?」



 2人は驚きと自分たちの置かれた状況にただ顔を青くしていた。



「アイスよ、みっともないところを見せてしまったな。まあ、そういうことだからお前は帝都に行って欲しい。」



「承知しました。」



 父上の元を辞し、離れ小屋に戻ると、マーブル達がお帰り、と言わんばかりに飛びついてきた。やはりこういう歓迎は嬉しいものだ。うーん、モフモフ天国。



「ただいま、マーブル、ジェミニ、ライム。」



 ウルヴ達も出迎えてくれる。



「アイス様、お帰りなさいませ。ご領主からのお呼び出しの用件は何だったのですか?」



「うん、何か皇帝陛下から招待状をもらった。」



「アイス様が皇帝から招待状をもらったのですか?」



「そう。何か1ヶ月後に王都に来て欲しいそうだよ。」



「なるほど。そういうことですか。私達はどうすればよろしいですか?」



「君達はどうしたい? 一緒に帝都に行きたいなら一緒に行くよ。」



「俺はアイス様についていく。ここにいても退屈なだけだしな。」



「俺も一緒に行くよ。木騎馬を使うんでしょ? メンテは任せてよ。」



「私もついていきます。配下というか護衛がいないと示しがつかないでしょう。強いかどうかはさておき。」



「わかった、一緒に行くとしますか。マーブル達はもちろん一緒に来てくれるよね?」



「ミャッ!」



「キュー(ワタシ達が一緒に行かなくて誰が一緒に行くですか!)!」



「ピー!」



 ウルヴ達はもちろん、マーブル達も一緒に来てくれるみたいだ。ってかマーブル達が嫌がったら行かないつもりだったけどね。



 帝都へ行くには普通は街道を使って移動するが、途中でいくつか貴族の領土を通らないとならないので、それは面倒で嫌だから街道を使わないルートをとることにする。特に邪魔が入らなければ、トリニトから帝都トリトンまでは一週間かかる。普通に行けばね。しかし、ラヒラスが作ってくれた木騎馬が我々にはある。それに乗っていけば2日もあれば余裕だ。野営もマーブルの転送魔法でねぐらに行けばいいだけの話だから問題ない。ということで、3週間後にここを出発することにして、それまではいつも通りの行動を取ることにするつもりだ。



 夕食も終わって、みんなでまったりとしていたときに、意外な来客があった。アッシュだ。いつもなら取り巻きを連れて偉そうに「落ちこぼれ」とか言ってくるのだが、今はたった1人だけで来たのには驚いた。



「アッシュか、どうした、こんな時間に?」



 1人だけで来た理由をつかみかねていたので、探るように聞いてみた。



「兄上、お願いがあるんだ。」



「お願い? 珍しいな。内容にもよるが、とりあえず話して見ろ。」



「うん、私を強くして欲しいんだ。」



「どうした? いつもと違うな。」



「ああ、兄上が去った後、父上にいろいろ言われたんだ。」



「ほう、あの父上がお前に? それは珍しいな。」



 アッシュが言うには、アッシュは火魔法が使えるだけで他は全く役に立たないこと、その使える火魔術も周りから見ればちょっとだけ優れているに過ぎず、珍しくとも何ともないこと。アイスについては、火魔術こそ使えないが、オークの上位種を平然と倒せる強さがあるのに対し、アッシュはゴブリンすらまともに倒せないだろうということ、また、アイスはトリニトの住民のために魔物を倒すだけでなく素材も安価で提供しているので、住民からの支持が厚いことなどを言われ、火魔術を持っているから跡継ぎに据えたが、このままでは住民に愛想を尽かされることは目に見えているから、跡継ぎになりたければ強くならないといけない等を言われたらしい。お忍びで町を見たが、以前とは比べものにならないくらい発展しており、自分たちがいかに愚かだったか身をもって知ったそうだ。だから、帝都に行く前に少しでも強くしてもらいたいと思って尋ねてきたそうだ。



「なるほど、お前の言いたいことはわかったが、本気なんだな?」



「うん、お情けではなく私が後を継いで当然といわれる位になりたい。」



「わかった。そこまで言うのならお前を鍛えよう。でだ、普通に修行でもいいのだが、何より時間がないから明日から狩りに行くぞ。お前の実践的な強さと潜在的な強さをまずは確認しておきたいからな。」



「狩り? わかった。頑張るよ!!」



「まあ、そこまで気負う必要は無い。とりあえずどこまで戦えるかを確認するだけだからな。ただ、改善できる部分は遠慮なく指摘していくからな、精神的な覚悟はしておくように。」



「ありがとう、兄上。私は必ず強くなってみせるよ!」



 そう言って、アッシュは屋敷に戻っていった。先程の表情を見ていると、恐らく本気だ。父上に言われたことがよほど堪えたようだ。とはいえ、父上に対しても今更感が強いな。まあ、心持ちが良くなってくれれば、住民の生活も良いものになっていくだろう。それを期待しますか。



 明日以降の予定として、王都に向かうまでの3週間、アッシュを鍛えるということを3人に告げ、それまでに必要なものを各自で集めてもらうように指示した。アッシュを鍛えるのは私とマーブル達で十分だ。ウルヴとアインとラヒラスの3人は私の秘密兵器ともいえる存在だから、彼らのことは秘匿しておきたいという理由もある。知られてしまうと今後面倒だからな。3人は事情を察してくれたのか了解してくれた。



 さて、徹底的に鍛えてやりますか。その前にあいつ戦闘できるのかねえ。

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