目覚め?覚醒?

あたし、どうなっちゃうの?


 大好きな光太お兄ちゃんに膝枕されて、頭を撫で撫でされて、喉をゴロゴロさせている。そんな御満悦なあたし。


『もっと甘えた~い

 お兄ちゃん、あたしを胸に抱っこして

 色白イケメンな頬に頭スリスリさせてぇ!』


 大きく開いた窓から入り込む、秋の夜風の肌に当たる心地好い涼やかさも、早朝になると冷えて来て、光太お兄ちゃんの肌かけ布団に潜り込んで、そんな幸せなる夢の中のあたし。

 でも光太お兄ちゃんが寝返りうったのか、その布団を不意に剥がされ、肌寒さゆえの尿意とクシャミで目覚めたあたしは、寝起きのいつもの習慣のように猫トイレにしゃがみこむ。


 恥ずかしいオシッコのにおいがお部屋に漂わないようにと、砂を前足でかけるあたしの目が、ふとしたタイミングで、猫トイレ前にある光太お兄ちゃんの姿見の鏡にうつる。


『あれ?

 この丸裸な女の子は誰なの?


 ご主人さま愛ちゃんのお客様?

 でも中学生の愛ちゃんには小学生のお友達はいないはず


 あ、愛ちゃんの小学生時代の後輩なのかな?』


 まだ頭が寝ぼけていたのか、最初は気にも止めなかったあたし。でもお皿のお水をペロペロしてると、次第に頭が冴えてくる。

 ママに何度叱られても、灯り付けっ放しで寝る癖のある光太お兄ちゃん。おかげで猫皿の水面には、はっきりくっきりと、あたしの顔が映る。

 その顔は・・・人間の小ちゃい女の子の顔だ。それだけじゃなく、猫皿のお水をペロペロしてると、前足もお胸も視界に入る。


『あれ?

 あたしの前足、こんなにツルツルだったっけ?

 あたしのお胸、こんなにツルツルだったっけ?


 ・・・


 あたしの御自慢の

 ビロードのようにツヤツヤな漆黒のお毛々

 どこに消えちゃったの?


 え?


 ええ?


 えええー?!


 もしかして、もしかして


 あ、あたし、人間になっちゃったの!?


 な、何でよー!!!』


 思わず大声で叫びそうになっちゃったわよ。いや、大声で叫んでしまったのかも知れない。光太お兄ちゃんの、「誰だよ?うるせえぞ!」な寝言が聞こえていたから。


 『や、やばい!』


 慌てて、光太お兄ちゃんの隣の、あたしのご主人さまの愛ちゃんのお部屋に駆け込むあたし。愛ちゃんが床に脱ぎ散らかした服を広い集めてると、愛ちゃんまでが目覚める気配を漂わせる。


 窓から飛び降りたあたし、愛ちゃんの服を抱えてひたすら駆ける。目指すは百メートルほど先の交差点に接する公園だ。


『あそこのトイレで服を着なきゃ!。


 だって、あたしは今、まるはだかだもん。


 たしか、人間のオスにはロリコンなる種族がいて


 まだ小ちゃい女の子を襲うとか・・・


 こ、怖いよぉ』




 さいわいに公園のトイレ前までは、襲われることもなく無事にたどり着いたものの・・・。そこであたしに災難が襲うってのは大袈裟だけど、気付いてしまった大問題。


『あたし、服の着方を知らないんだった・・・


 うわぁーん!体毛無くて寒いよぉ!


 それに陽も昇らぬ早朝にまるはだかで怖いよぉ!


 あたし、これからどうなっちゃうの?』


途方にくれてしまうあたし






・・・つづく


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

あたしは人である。名前は未定・・・ 小愛的故事(小さな恋の物語) あおきあかね (江戸蘭世) @aokiakane

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ