第22話
夏休みになる。
夜型の生活の雄一。いつも朝は寝ている。眠っている雄一の枕元でいきなり爆発音がする。
パン!パン!パン!パン!
目を細めた状態で状況が分からず、ただ必死に身を守ろうとする雄一。爆竹だ。音が鳴り終わって目を音のあった方に向けると伸基の姿が。手には「寝起きドッキリ」と書かれた画用紙。
「大・成・功」
「…お前、部屋で爆竹って…」
「おう!起きろ!パチ行くで!パチ!」
「ええ、パチ?今から?」
「当り前じゃ。俺、ホンマに五百円しか持ってきてないからな」
「分かった。五分だけ寝させて…」
「寝起きフライイングボディアタックいこか?」
「…。分かった。起きるから」
寝ぐせのついた髪型のまま着替える雄一。
「五百円って言うたけど、六百円かかる時もあるで」
「なにい!言うぞ!言うぞ!言うぞ!」
「何?」
「聞いてないよ~」
「目が完全に覚めたわ」
「お前、五百円で当たる言うたやん」
「ほやから、大体五百円以内で当たるって言うたやろ」
「これはギリギリやのう」
「ギリギリかなあ」
「ギリギリや。よし。ギリギリボーイズでいこう」
「なんやそれ。ええなあ!モッキーは?」
「あいつは総体前やからまだ練習しよるし、真面目やからパチとかいかへんわ」
「じゃあバスガス爆発とは別ユニットでギリギリボーイズいっとくか」
「ギリギリ!」
「ギリギリ!」
騒ぎながら二人でチャリンコに乗り、パチ屋へ向かう。床が木造で客がほとんどいないパチ屋「ホームラン」。
「(HOMERUN)ホメルンすごいやろ。誰もおらんやろ」
「俺も中学の時は打ってたけど、こんな店あったんや」
軍艦マーチが流れる。
チャーチャーチャッチャラチャッチャ、チャチャチャチャチャ。
「軍艦マーチとドカベンのオープニングの曲ってごっちゃにならへん?」
「チャーチャーチャー、ホンマやな」
「あー青春のストライキ♪」
「え!なんて?」
「蝶々サンバ、蝶々サンバ、ジグザグサンバ、ジグザグサンバ、あいつの噂でチャンバもはーしーるー、それにつけてもおやつはカール♪」
「え?!なになに?」
「いや、なんでもない」
そんなやり取りをしながら羽根ものコーナーの一番角の台に向かう。盤面をじっと見つめる雄一。
「うん。釘は変わってない。打ってみ」
「よっしゃ。ほないくぞ!ギリギリ!」
百円玉をスタンドに入れる伸基。そのまま返却口にストンと落ちてくる百円玉。
「何してんねん。いきなり大ボケかますなや」
百円玉を返却口から取り出し、指で擦る伸基。そして指で勢いをつけるように百円玉を再度投入。球が出てくる。球を打ち出すとすぐにチャッカーに球が入り、羽根が開き球を拾う。そしていきなりV入賞。
「ギリギリ!見たか!ギリギリ!」
ガッツポーズ。
「なんやこれ!球、めっちゃ拾うやん!」
「やろ。ほな箱持ってきたるわ」
台に箱が置いていないホメルン。箱を持ってくる店員もいない。セルフだ。
「しかもチャッカーにも入りまくりやん」
伸基に箱を渡す雄一。自分の箱も持ってくる。
「やろ。ほな、俺はクルリンポイ打ってくるわ」
「おう!ギリギリでいけよ」
「もちろんギリギリでいくわ」
二人で煙草を咥えながらパチンコに熱中する。伸基があっという間に打ち止めになる。
「おい、球が出んようになったわ」
「ああ、打ち止めや。台に煙草置いて球流してこいや」
「換金所はどこにあるん?」
「あとでまとめて行くから。流して、もう一回だけ打て」
「分かったわ。ギリギリ!」
そう言って雄一は自分の台に集中する。球を流した伸基が雄一の台の後ろに来た。
「お前の台も出まくるん?」
「いや、この台は止め打ちで攻略出来るんや。時間はかかるけど」
「ええ穴場やなあ」
「他にも常連のおっさんとかおるけどパンドラばっかり打っちょんや。パンジュラーって俺は呼んでるんやけど」
雄一はこのホメルンの常連の人たちと仲が良かった。昼間から若い女連れでパチンコばかり打っていたパンチパーマのおっちゃんや杖を突きながら歩くおじいさん。ずっとスタンドに五百円玉を投入し続けるおじいさんを見かねて、角台の熱血ジュードー部を譲ってあげたりもした。カウンターのおばちゃんも「煙草はだめやでー。学校いきやー」と言いながらキャスターを差し出してくれた。
二人とも二時間ほどで二回打ち止めさせて、一万円を手にした。換金所で一万円を受け取った伸基が雄たけびを上げる。
「ギリギリじゃあ!」
「あんまり出し過ぎてもあかんからな。間を空けて行くんやで」
「夏休み、毎日行ったら八十万かあ」
「あかんあかん。釘が変わったらどうすんや。俺は二年間、うまいことやってきたんやで。モッキー待ちまでまだ時間あるから次はファミコンショップいこで。買取表は持っとるから」
「おう、いこで」
ファミコンソフトを安く買って、高く買ってくれる店へチャリンコを走らせる。儲けは伸基と折半。今日の収穫は一人二万四千八百円とキャスターとセブンスター三箱ずつ。
「これはバイトせんでも金には困らんなあ」
「せやろ」
「お前、今までいくら稼いだんや」
「え、部屋には五十万くらいあるで」
「マジかあ!」
「だってひと月で二万貯金したらそんぐらいになるやろ」
「五十万って…」
「自分で稼いだ金やからな。悪いことしてへんし」
「お前はギリギリボーイズちゃうぞ」
「いや、心は常にギリギリや」
「しゃあないなあ。ほな、そろそろお前んちいこか。その前にCD屋によってええか」
「なんか買うん?」
「とりあえずギリギリボーイズ結成記念に『今夜はブギーパック』を買う」
三年の夏休み初日。ギリギリボーイズが結成された。
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