第3話
入学式。雄一は一人、水泳用のキャップとゴーグルを装着して式に出た。目から火が出るほど恥ずかしかった。何の罰ゲームだと頭の中で考えていた。それでも「これ」をやる必要があった。
(ひそひそ)
挨拶代わりの寒い掴み。そしてすぐに雄一は伸基と出会った。
「お前、オモロイことしてたなあ。俺も何かやればよかったなあ」
野球部で坊主頭の怖い顔をした男。新名伸基。この学校で坊主頭は全員野球部だ。
「ん、誰?」
「俺は南中から来た新名伸基」
「頻尿?」
「そうそう、夜何回もトイレに起きてな、ってなんでやねん!」
ノリツッコミ。
「お前は西山ってんだろ」
「そうだよ」
「…。くそ!ボケが思いつかん!」
「雄一でいいよ。残尿くん」
「それはやめろ!殺すぞ!」
「えー。おいしいやん」
「雄一か。お前はオモロイ奴なんか?」
「お前は?」
「誰に口きいてる?」
雄一と伸基との初めての会話。
「三組に本木って奴がおるから。そいつに会いに行ってみろ」
伸基がそう言った。
「本木?」
「そう。言うとくけどそいつはおもんないぞ」
「おもんないんか?そんな奴に何で会わないかんの?」
「俺は三人組でやりたいんや。本木が乗らないなら俺はやらんぞ」
次の休み時間に三組の本木に会いに行く。三組の生徒に本木って誰?と訊ねて一人の男に出会う。田舎者丸出しのニコニコした笑顔の男。これが本木?
「やあやあ、本木君。はじめまして」
「あ、入学式でボケてた人やね。えーと」
「雄一でいいよ」
「西山くんやね!西山雄一くん!ちょっとした有名人やで」
「新名くんから聞いてね」
「あいつが?」
「そう。あいつと本木君はどういう関係なの?」
「中学で一緒にコンビでやってた」
「へー。コンビ名は?」
「本木新名って名前でやってた」
「ネタはどっちが作ってたの?」
「ネタもクソもないよ。あいつに無理やりコンビ組まされて、あいつ一人が全部作ってたよ。俺は横で立ってるだけやった。俺、あんまりそういうの得意でないもん。人前でもあがるし」
「よし。採用」
「え?採用って何?」
「君と僕とあいつの三人でトリオを組む」
雄一は思っていた。
「とりあえず誰かと組んでみよう。ダメなら次を探せばいい」と。
「えーーー。俺、もう陸上部に入ってるし」
「ん?カールくんに勝ちたいの?」
「カールくんって!」
「うわあ、それがツッコミ?」
「だから無理やって。俺、そんなんできへんもん」
「まあまあ、尿漏れくんから聞いたで。君、自給自足の生活してるらしいやん。主食鼻くそやって?」
「どんな自給自足やねん!」
「今のツッコミ?君はお笑い好きやねえ」
「ツッコミでもなんでもないわ!」
「まあいいよ。次は三人で会おうか」
そう言って雄一は背を向ける。
とりあえずトリオだが相方が出来た。人生初めての相方。ネタはいくらでもある。この二人を鍛えて、とりあえずこの学校をとる。雄一はものすごい人見知りだ。勇気を振り絞って入学式でやった雄一の精一杯の「ラブレター」が二人の男に届いた。新名、本木と話をしている間もかなり緊張はしていた。それでも「ボケる」ことが出来た。
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